新しい生活様式はもはや日常へと移行し、それに伴い企業の舵取りも大きく変化している。ビジネスの拡大を見据えつつも、サステナブルな社会に向けた経営戦略も必須だ。FASHIONSNAPは経営展望を聞く「トップに聞く 2022」を今年も敢行。今年から加わったビューティは、若い世代が関心を寄せる「サステナビリティ」をテーマに、トップ及びキーマンにインタビュー。第20回はコスメティックブランド「シロ(SHIRO)」を展開する今井浩恵シロ代表取締役会長兼ファウンダー・ブランドプロデューサー。昨年6月、創業地の北海道・砂川市の活性化を目的に、シロと地域の有志が参画する実行委員会「みんなのすながわプロジェクト」を発足した。同プロジェクト専念のため社長を退任し会長に就任。専務の福永敬弘氏が社長に着任する経営体制で新たなステージに立った。「利益の一部を、みんなのすながわプロジェクトに注ぐ」と語る今井会長が目指す、シロの形とはーー。
■今井浩恵(いまい ひろえ)
短大卒業後、食品や雑貨製造のローレルに入社。1989年に26歳でローレルの代表取締役に就任。2015年、自社ブランド「ローレル(LAUREL)」を「シロ(shiro)」に、10周年の2019年に社名をシロに変更し、「シロ(SHIRO)」へとリブランディングした。ロンドンをはじめ海外にも進出するなどブランドを大きく成長させた。2021年、代表取締役社長を退任し代表取締役会長に就任。「みんなのすながわプロジェクト」を始動した。
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ーまず最初にコロナ禍の2年、ライフスタイルが一変しビジネスも早急に方向性を考えなければいけなかったと思いますが、どうだったのでしょうか?
おかげさまで「シロ」はコロナ禍でも好調が続いており、2020年の売上でも前年を上回りましたし、2021年は前年比50%増で着地しました。
ーすごいですね。その要因は何だったのでしょう?
そもそも私たちは、“自分が欲しいものを作る”というのが基軸です。だからコロナが流行して、「これから外出が難しくなって、人と会いづらくなる。外に出ても消毒が必須になって…。そうなって私は何が欲しい?」と自分自身に問い直しました。そこで行き着いたのが、香りつきのハンドケアアイテム。コロナ前に予定していた製品の販売は一旦取り止め、2020年4月には、ハンドリフレッシングシリーズを発売しました。これは外出先でも手指を清潔に保ちながら、心地よい香りを楽しむことができるアイテムです。さらに消毒用エタノールの代替品として手指消毒できるハンドジェル、翌年にはマスクスプレーなどを新たに販売し、ニーズに対応したことで売上にもつながりました。
ー計画を破棄し、新しい製品を作るのは簡単ではないですよね?
迅速に対応できたのは、自社工場を持っているからで、製造ラインをハンドケアアイテムに切り替えることができたからだと思います。当時は市場にアルコール製品が不足しており、早くお客さまに届けたい一心で体制を整えました。その後もリップなどカラーアイテムではなく、アロマオイルなどフレグランス系の製造にシフトしました。
ーまた、製造スケジュールを壊すのも一般的には難しそうです。
通常は決まったスケジュールがあるため、このような方向転換はブランディングを壊すことにもなりブランドとしては避けたいところです。しかし、コロナが流行した時点で私自身が純粋にリップは欲しいと思えなかった。きっとお客さまも同様で、もし年間スケジュール通りに製造しても社会や世の中にとって“ゴミ”になっていたでしょう。ゴミを作ることは避けたいですし、状況にあわせて臨機応変に対応しなければいけないと思っています。自分がこの瞬間欲しいものを作るという姿勢は、今後も変わらずに続けていきます。
ーその意味は、マーケティングは行わないということでしょうか?
マーケティングや世の中のニーズを把握することはしていません。自分のニーズ、そして身近な人のニーズを大切にしていますね。近しい人の笑顔を作る製品じゃないと、その先の笑顔につながっていかないと思っています。社内で良い反応の製品は間違いなく売れます。だから製品を開発するためのマーケティングはしません。たまに出来上がった製品が良すぎて売りたくない、全部自分のものにしたいと思うこともありますよ(笑)。会社の売上指標はありますが、そのための製品開発やキャンペーンを打つなども一切ありません。売上や目標があるとどうしても会社都合になり、お客さま都合で製品開発ができなくなってしまいますからね。
ーコロナにより社員の意識にも変化はありましたか?
社員はマルチタスクになりましたね。これまでは店舗開発のみ、人事のみという分断された責務でした。しかしコロナにより店舗の一時閉店や、先ほども言いましたが製造スケジュールも大きく変更することになり、これまで同様に仕事をすることが難しくなりました。例えば店舗開発が人事にも関わるなど、横断した仕事をすることが増えたように思います。
ー店舗の一時閉店で美容部員も接客以外の仕事も行った?
店舗休業になったタイミングで美容部員は副業可能な就業規則に変更にしました。医療介護現場やスーパー、運送会社などでは人手不足が深刻化していたため、それらに少しでも貢献できるようにとの思いからです。生活に化粧品は“絶対に必要なもの”ではありません。どうしたらコスメティックブランドが社会に貢献できるのか、役に立つことができるのかを常に考えています。
シロは数字を追わず、世の中の役に立つことを遂行
ーマルチタスクになると、売上目標などの達成も難しいのはないでしょうか?
特に数字の目標設定はありません。数字は追わずに足りないところを強化し、世の中に役に立つことを遂行することで、おのずと結果がついてきたと思います。いまシロには約400人が在籍していますが、会社として社員の能力を引き出すのは当たり前のことです。当然、社長の福永は全社員を把握していて、私や社員がやりたいと思ったことを最短の道で調整し導くことに長けています。社会を良くするには、その人の本質を引き出してこそ。そのためには一人ひとり話し合うことが大事で、言い方には気を付けますが思ったことはしっかりと伝えるようにしています。社員に伝えたいのは、「自分の成長のために仕事をしてはいけない。ブランドのため、お客さまのため、社会のために成長をしてほしい」ということです。
ー今、世の中的にサステナブルな社会を目指す活動が増えていますが、シロは創業当初から、捨てられる素材を製品に活用するなど意識は高いと感じます。サステナブルなものづくりにこだわる理由は?
創業から、酒かすやがごめ昆布の切り捨てられる根元、ゆずの皮、タマヌの落ちた実などを活用していますが、実は「もったいない」「サステナブル観点」からものづくりをしているわけではありません。食としては使えずに捨てられるものだけど、栄養素が高く化粧品として有効価値があったから使っているわけです。素材にこだわるようになったのは、以前、エビデンスのない原料や何が使われているか不明瞭な素材を扱っていた原料メーカーへの不信感があったから。素材が分からないとお客さまにきちんと説明できないですし、消費者としても安心して使えないモノを購入することはできないでしょう。だからこそシロでは原料メーカーに依存するのではなく、自分の目で確かめた素材のみ自社工場で処理しています。
ーこれから取り組んでいきたいことは?
砂川の在来種の植物を増やし守っていく「たねワークショップ」など、緑豊かな環境を保つための活動を行っていますが、今後は林業にも挑戦したいと考えています。シロでは生産者から原料をいただき、そのいただいた原料分だけを製品に落とし込む、原料がなければそこで終了という無理のない循環をしています。その考えを林業にも生かし、「家を建てるためにこれだけの木が必要だから切りましょう」ではなく、「今年は間伐材がこれだけ出る予定です、それに合わせて家や家具を作りましょう」という発想に転換する。みんなの思考が変われば50年後の山の環境も変わると思います。
砂川の在来種の植物を増やし守っていく「たねワークショップ」を始動
Image by: シロ
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