
Image by: 台北ファッションウィーク
台湾の文化部が主催した「台北ファッションウィーク 25AW」が、3月27日から30日まで開催された。
台北でファッションウィークが始まり今年で7年目。若手デザイナーがショーを開催する費用を政府が一部負担したり、国外のバイヤーやメディアを積極的に招待することで、国内産業を盛り上げ、世界に台湾ファッションを発信することを試みている。公式会場の台北・松山文創園区には業界関係者だけでなくファッション好きの若者が集まり、地元のKOLの来場を目掛けてパパラッチも集結した。
台湾といえば「デジタル大国」。半導体の受託製造の世界シェアは6割以上を占め、政府も積極的に半導体事業へ投資する。そして、そうした高い技術は台湾の繊維・ファッション産業を独自性にも繋がっている。文化部のスー・ワン(王時思)副大臣へのインタビューをもとに、業界の現在地を紐解く。

台湾文化部のスー・ワン(王時思)副大臣
Image by: 台北ファッションウィーク
今季のファッションウィークのテーマは「循環」。世界的に需要が高まる「サステナビリティ」が、台湾のファッション産業全体の強みでもあることを打ち出した。
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2024年8月の台湾繊維連盟の発表によると、2023年時点の台湾の繊維・アパレル関連事業者数は約4469社、従業員数は約14万人。原料の多くは輸入に頼っているものの生地を中心とした上流商材の輸出が盛んで、同年の繊維産業の貿易黒字は約4365億1919万円(輸出:約9603億円、輸入:約5383億円)と、台湾第4位の外貨獲得産業だ。しかし、近年の不安定な世界経済や地政学的なリスクにより輸出量は大幅に減少している。そこで台湾では、外国の経済情勢に繊維・アパレル業界の競争力の維持・強化を目指して、生地自体の高付加価値化および、産業の下流(アパレル製品)のデザイン・ブランド価値向上を図っている。

今季のポスター
Image by: 台北ファッションウィーク
テキスタイルの高付加価値化において特に力を入れるのが機能性とサステナビリティを兼ね備えた素材の開発だ。台湾では、名産品であるバナナやパイナップルの廃棄された皮から作られた衣料用テキスタイルや、古着を「100%回収」する技術の商用化など、さまざまな最新サステナブル素材の開発が進んでいる。台湾繊維捺染染色仕上げ工業協会の発表によると、台湾の繊維メーカーはワールドカップやオリンピックのユニフォームにも採用されているほか、多くの世界的衣料メーカーをクライアントに持ち、「機能性生地市場」に限定すればその約70%のシェアを占めるという。スマートテキスタイルや医療用繊維、環境配慮型素材の需要増により同市場は2022年に20兆3845億円とされ、2031年までに39兆7360億円まで成長することが予測されており、台湾の機能性素材の売り上げが産業を底上げすることが期待されている。

和明紡織株式会社のバナナテキスタイルの説明図
Image by: FASHIONSNAP
これを受け、今シーズンのオープニングショーでは、台湾発の若手デザイナーが手掛ける「クラウディア ワン(Claudia Wang)」「ディワイシーチーム(DYCTEAM)」「ジョイア パン(GIOIA PAN)」「オクリク(oqLiq)」「ユーユーアイエヌ(UUIN)」「ウェアヴィズム(WEAVISM織本主義)」の6ブランドが、台湾のサステナブル素材メーカー6社の環境配慮型素材を使用したコレクションを発表した。台湾の高いデジタル技術の活用方針としては、機能性素材だけでなくデジタルパターンメイキングによるパーソナライゼーションやバーチャル試着サービスといったテクノロジーの導入も可能性があるという考えから、6ブランドのコラボコレクションのデザインにはデジタルパターン技術やAIが活用され、3Dバーチャルモデルがショーに登場。台湾の先進的なサステナビリティへの意識や高い技術力、勢いのある若手デザイナーたちの存在をアピールした。

















Claudia Wang × 力鵬企業株式会社:「ゼロ廃棄・完全循環物理リサイクルシステム(Closed Loop Recycling Zero Waste System)」で製造されたリサイクルポリエステルを使用。異素材をミックスしたデザインに。
Image by: 台北ファッションウィーク
台湾は、北部は亜熱帯、南部は熱帯に位置し、1年間を通して温暖な気候が特徴。今季は秋冬シーズンでありながら、「循環」のテーマのもと、サステナ素材の使用が促進されたシーズンということも後押しし、テック素材の軽やかな生地を使用した涼やかなアイテムを発表するブランドが多かった点も印象的だった。日本をはじめ世界的に猛暑が加速する中で、ファッション性に吸水・速乾やウォッシャブル機能など快適性や機能性を兼ね備えた服への需要も増加している。独自の高機能素材を活用した暖かい気候にマッチするデザインの「台湾ファッション」というジャンルが世界的なファッショントレンドの波にインパクトを与えることに期待したい。
【編集部員がピックアップ】 3つの注目の若手ブランド
パリでコレクションを発表している「ネイムセイク(Namesake)」や2024年度「LVMHプライズ」のセミファイナリストに選出された「チャンホン スー(CHIAHUNG SU)」など、世界で勝負するデザイナーを輩出している台湾。今季も、さまざまなアイデアが光るインパクト大なショーが開催された。編集部員が独断と偏見で注目ブランドをピックアップする。
台湾のバーチャルファッションをけん引「Claudia Wang」
2020年にデザイナーのクラウディア・ワン(Claudia Wan)が立ち上げたブランド。エネルギッシュで鮮やかな色彩と、バーチャルテクノロジーに着想したデザインが特徴。メタバースやバーチャルファッションを積極的に取り入れたファッションショーのほか、制作プロセスにもさまざまな最新技術を活用している。2022年にはロンドンファッションウィークの公式スケジュールに選出。 2023年には台湾外交部とともにニューヨークでファッションショーを開催し、オードリー・タン大臣のためにバーチャル衣装をデザインした。今年4月には日本でも初のポップアップを開催した。

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チャイナドレスの装いを再解釈「HANSEN ATELIER」
チャイナドレスや満州の伝統衣装「馬褂(マグア)」、スーツ、和装といったフォーマルな伝統衣装に着想したデザインが特徴。今シーズンは、李安(アン・リー)監督の「グリーン・デスティニー(臥虎蔵龍)」「ラスト・コーション(色・戒)」、そして王家衛(ウォン・カーウァイ)監督の「花様年華」「2046」といった映画作品からインスピレーションを得て、1940〜60年代のムードを表現した。 デザイナーの郭恆生(Hansen Kuo)は、東洋文化における「情欲」への渇望と、「内に秘める」感情表現に注目。布の質感や裁断のラインを通して、登場人物の抑圧や葛藤を表しているという。ローカルの伝統的な美意識や価値観に立ち返り、現代的な佇まいやディテールで崩していく服作りは東京のファッションシーンとも親和性が感じられた。

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中央の麻雀卓で麻雀を打つ女性はデザイナーの母親だという。 Video by FASHIONSNAP
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