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テルマの“カワイイ和洋折衷”──夜道から生まれた不気味なエレガンス

Image by: FASHIONSNAP(Ippei Saito)

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テルマの“カワイイ和洋折衷”──夜道から生まれた不気味なエレガンス

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 毎日訪れる“夜”に、あなたはどんな思い出があるだろうか。

 子ども時代の家族との団欒、寝る前に親にお気に入りの絵本を読んでもらった記憶。あるいは、友人たちと夜更かしして語り合った思い出、映画を見た刺激的な時間。

 大人になると、夜の静けさは静寂と孤独をもたらし、自分と向き合う貴重な時間にもなる。また夜の街を彷徨いながら感じる自由や解放感、特別な人との深い会話が心に刻まれる瞬間もある。

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 「テルマ(TELMA)」を手掛ける中島輝道は、仕事帰りに通った、静まり返った"クリーピー(不気味)"な真夜中の表参道の街並みから着想を広げ、多面的な夜の表情を独自の感性で切り取り、コレクションに落とし込んだ。

煌めく和洋折衷のジャケット

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 デザイナーの中島を語る上で避けて通れないのが、「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」でウィメンズのアシスタントデザイナーを務め、その後「イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)」で企画や素材開発を担当したという経歴だ。ヨーロッパと日本のメゾンで培った技術や美学を融合させた和洋折衷のデザインが、創作の核となっている。

 ファーストルックで登場した着物の構造をヒントにしたジャケットも、その和洋折衷デザインの一例だ。平置きで綺麗に畳める着物のようにフラットでありながらも、艶やかなシルクウールで品よく仕立てられたこのジャケットは、和服と洋服のいいとこ取り。ビジューをあしらったグローブを合わせ、夜の煌めきをプラスしている。

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 この着物ジャケットはさまざまなプリントを施したバリエーションで展開。キラキラとしたグラフィックは、着想源である夜の“不気味さ”や日本らしさを反映させるために、あえてアニメ「銀河鉄道999」に描かれるような、神秘的に瞬く夜空を意識したという。

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 驚くべきは、ジャケットの縫製途中でプリントを施し、裏地などを縫い付けるために再度、縫製工場に戻して完成させている点だ。プリントを途中で加えることで、インクが載らない部分が白く割れ、ユニークなデザインが生まれる。

独自素材とアール・ヌーボーの影響

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 テルマの強みは、使用する全ての生地が日本の産地と共同開発したオリジナル素材であること。中島が見つけた面白い技術を詰め込んだクラフツマンシップは、毎シーズンの見どころとなっている。

 今季はアール・ヌーボーにインスパイアされた柄が目を引く。フランス語で“新しい芸術”を意味するアール・ヌーボーは、19世紀末から20世紀初頭にかけてヨーロッパを中心に開花した美術運動で、都市化と工業化への反発を背景に、鉄やガラスといった新素材を使用し、植物などの有機的なモチーフが特徴だ。

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 透け感のある極薄のウール地のドレスには、滋賀県の染工場と共同で開発した発泡プリントで凹凸のあるアールヌーボーらしい曲線のモチーフが施され、その上から同時代に発見された鉄をイメージした玉虫色の箔が押されている。さらに、同じ技法を応用した鉄の飛沫をイメージしたドット柄もあり、西洋の美術思想と日本の精緻な技術が見事に溶け合い、新たな価値観を創り出している。

まんまと騙されたトロンプルイユ

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 本稿は、ショーを観た後、展示会でデザイナー本人から服の解説を受けてから執筆している。なぜなら、ショーだけでは理解できないディテールが多く、想像だけでは誤った情報を伝えてしまう恐れがあったからだ。

 そして実際、その選択は正しかったと実感している。トロンプルイユ(だまし絵)のデザインにうっかり騙されていたからだ。

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 ランウェイでムートンコートのように見えたジャケットは、裏毛のジャージー素材を使い、このコレクションのために開発された、熱を加えることで革のように見える新しい加工技術を用いて作られた。重厚感のあるムートンのような見た目なのに、スウェットのような軽さがあり、衝撃を受けたアイテムだ。

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 また、レザーに見えたシャツは薄手のポリエステル製で、ファーコートに見えたものは毛足の長いリサイクルポリエステル素材だった。テルマの服作りは、一見しただけでは理解できない深い奥行きを持っている。

日本的“かわいい”と西洋的“エレガンス”の融合

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 話を冒頭の"夜"のテーマに戻すと、今季のコレクションには中島が思い描くさまざまな夜の記憶が形となって表現されている。例えば、子どものパジャマパーティーにインスパイアされたパジャマスタイルや、ブランケットに包まった姿を昇華させたキルティングのイブニングドレスなどがある。

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 アクセサリーには、レザーのリボンをデフォルメして重ねたチョーカーや、パーティ装飾のメッキモールを使ったイヤリングなど、遊び心を感じさせるアイテムがある。中島は「日本の“かわいい文化”は、海外では少し“不気味”と思われているが、それをうまくエレガンスに翻訳したかった」と話す。

膨らむ期待と未来の可能性

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 テルマは「Rakuten Fashion Week TOKYO」を主催する日本ファッション・ウィーク推進機構が発足したサポートプログラム「JFW NEXT BRAND AWARD 2025」でのグランプリ受賞のサポートを受け、2度目のショーを開催。今回でその支援も終了する。

 設立からまだ3年目のブランドであり、中島の一人体制での運営の中でのショーは多くの苦労があったはずだが、この貴重な2回のチャンスを見事に活かし、業界に自身の実力をしっかりと示した。

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 今季からはパリで展示会を開催し、海外バイヤーへの本格的なアプローチも始まっている。

 アントワープ仕込みの優雅でシュールなセンスと、日本の卓越した技術を惜しみなく詰め込んだテルマは、業界がプッシュすべき逸材と言えるだろう。これからもショーなどの形で継続的にコレクションを発表し続けてほしいと、切に願っている。

ファッション リポーター

大杉真心

Mami Osugi

文化女子大学(現文化学園大学)とニューヨーク州立ファッション工科大学(FIT)でファッションデザインを学ぶ。「WWD JAPAN」で記者として、海外コレクション、デザイナーズブランド、バッグ&シューズの取材を担当する。2019年にフェムテック分野を開拓し、ブランドや起業家取材を行う。21年8月に独立し、ファッションとフェムテックを軸に執筆、編集、企画に携わる。22年4月から文化学園大学の非常勤講師を務める。

最終更新日:

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