2025年、百貨店業界は前年のインバウンド活況の反動という試練に直面した。髙島屋もその影響を受け、2026年2月期の総額営業収益は前期比1.7%減を見込むが、秋口からは国内消費に回復の兆しが見え始めたという。2026年は地方店2店の閉店を予定するなど、環境が大きく揺れ動くなかで、同社が次の成長軸として見据えるのがアジアでの商業開発だ。2026年度を最終年度とする中期経営計画では約510億円の投資額を掲げ、ベトナムでは2027年に新たな複合施設の竣工を控える。日中関係の先行きが不透明さを増す中、髙島屋はいかに次の成長局面を描いているのか。
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村田善郎/髙島屋社長

(むらた よしお)1961年生まれ、東京都出身。1985年に慶應義塾大学法学部卒業、同年に髙島屋に入社。髙島屋柏店店長などを経て、2013年に執行役員に着任。2015年に常務に昇格。タイなど海外店舗の立ち上げにも携わった。2019年3月から現職。64歳。
◾️髙島屋とは
髙島屋は1831年、飯田新七が京都で創業した古着木綿商を前身とし、1919年に株式会社化。戦後の1949年に上場。百貨店業を中核に全国主要都市に広げ、日本を代表する百貨店グループに成長した。現在は百貨店事業に加え、商業施設開発や海外事業など多角化を進めている。2025年2月期連結業績は総額営業収益が前期比8.5%増の1兆327億円、営業利益が同25.2%増の575億円、純利益が同25.0%増の395億円。

目次
インバウンド活況の裏年 苦戦も国内富裕層の消費は回復
⎯⎯前年、インバウンドが非常に活況でその裏年となった2025年ですが、どのような一年でしたか。
上期(2025年3月〜8月)はインバウンド活況の反動によるマイナスの影響がかなりありました。髙島屋全体の売上の1割強、店舗によっては2割近くをインバウンドが占めるため、その影響は非常に大きかったですね。
上期の後半、特に7〜8月頃からはかなり盛り返しまして、10月後半に高市政権が発足したあたりからは外商に象徴される富裕層の売上が伸び始め、日経平均株価が5万円を突破したことも追い風になりました。
⎯⎯インバウンドはラグジュアリー消費と強く結びついている印象です。上期はそのマイナスが目立ちました。
ラグジュアリーに関しては、円安の影響で価格が高くなりすぎている側面があり、日本の消費者が通常購入する金額を少し飛び抜けてしまっている状況です。例えば、トップレベルのハイエンドな富裕層が購入されるブランドは価格に関わらず売れますが、その下の価格帯になると、若い人たちが手が届かなくなりつつあり、少し影響が出ているかなと思います。
⎯⎯トップレベルの富裕層が消費を下支えしている?
それもありますが、パワーカップルやベンチャーで起業された方など、いわゆる「次世代富裕層」の方たちの消費も非常に伸びています。そういった方々は、ラグジュアリーブランドもそうですが、時計や現代アートといった分野にも関心を示し、消費が動き出しています。
中国が半分を占める免税売上 ASEAN店舗との連携で維持へ
⎯⎯2024年に遡ると、中国、台湾、香港からのインバウンド売上が好調でした。
全体の傾向として、中国からのお客様がインバウンド売上の約半分を占めています。ここに来て、いくつかの問題から今後の影響が懸念される状況になりつつあり、売上シェアは数ポイント下がっているレベルではありますが、注視しています。特に春節には影響が出てくるだろうと見ています。
⎯⎯中国からの訪日客が減るリスクに対しどのような対策を考えていますか。
コロナ禍以降、中国のお客様の中でも団体客はそれほど多くなく、富裕層の方たちが中心になっています。それ以外にも、海外店舗があるシンガポール、ベトナム、タイといった地域からの富裕層のお客様が多いのが髙島屋の特徴です。これらの海外店舗と連携し、トップレベルのお客様にターゲットを絞ったアプローチを強化していくことで、インバウンド売上を維持していきたいと考えています。
例えば、2024年12月からシンガポールの上位のお客様を対象に、日本橋、大阪、京都のお店にご来店の際にお買物をアテンドするサービスや免税カウンターで並ばず手続きができるサービスを始めました。これにより、一人当たりの購買単価は、2~3倍になるなど施策が奏功しています。今年はさらにシンガポールの対象顧客を増やし、タイとベトナムの店舗の上位のお客様も加えることで、約9000人を対象にしていきます。髙島屋グループの立地網をいかし、顔の見えるお客様を送客することで、量が見込めない部分を質的な部分でカバーし、リピートにつなげていきます。
⎯⎯足元の政治状況を受け、上海の店舗に変化はありますか。
日中関係の影響については、やはり懸念があります。実際、上海ではイベントの中止にもなるなど、影響が出始めています。障害のある方による絵画展についても、もともとは上海店がある長寧区の行政から「ぜひ実施してほしい」と支援を受けて進めていた企画でした。しかし、昨今の状況の中、急遽中止となりました。このような点は非常に懸念しているところです。
もっとも、過去の尖閣諸島問題の際のように、日本企業が直接的な被害を受ける状況にまで至っているわけではありません。ただし、状況が不安定であることに変わりはなく、今後については引き続き注意深く見ていく必要があると考えています。

⎯⎯今上期におけるインバウンドの売上シェアではラグジュアリーが10%低下した一方、コスメのシェアは5%上昇しました。
感覚的なところで言うと、中国ではネットが発達し、日本のコスメが買いやすくなりましたが、実際に日本に来られた際には「日本で買うことの“確かさ”」があり、売り上げは少しずつ上がってきている気がします。
コスメの中でも特に伸びているのが、フレグランスです。2019年のコロナ禍前は、いわゆる「爆買い」がすごかったですが、今はもっとパーソナルなものへ消費が移行しています。ジェンダーレス化も進んでおり、女性だけでなく、ASEANや中国の男性がフレグランスを求める動きも強まっていますから、爆買いとは異なりますが、確実に需要が伸びている分野なので強化を進めていきます。
⎯⎯大阪・関西万博がありましたが、関西の店舗ではインバウンド売上は好調でしたか。
入店客数は増えましたが、インバウンドの売上自体は入店客数ほどは増えていません。万博グッズは売れますが、店舗売上高は前年比で減っているのが事実で、特に大阪店のインバウンド売上は上期、かなり厳しい状況でした。
それでも、インバウンドは重要な客層であることに変わりはありません。顔の見える固定客を増やし、単価を上げていくアプローチが重要になります。特に日本橋店では、シンガポールやその周辺国から来られる富裕層の方がまとめて購入されるケースが多いため、海外店舗の外商部門との連携を強化しています。
| 店名 | 売上高 | 前年増減率 | 入店客数前年増減率 |
|---|---|---|---|
| 大阪店 | 837億円 | 7.0%減 | 7.4%増 |
| 堺店 | 46億円 | 4.5%減 | 2.8%減 |
| 京都店 | 507億円 | 6.8%減 | 1.7%増 |
| 泉北店 | 69億円 | 2.9%減 | 2.4%減 |
外商の新規入会が好調 地方にも活路
⎯⎯今上期(3〜8月期)における外商の新規入会は前年同期比20%増と非常に好調です。
ウェブでの入会手続きが可能になり、お客様にとって入会しやすい環境が整ったことが一つです。それに加え、先ほどお話しした次世代の外商顧客となりうる方々が増えていることもあります。これまで我々が十分にアプローチしきれていなかったお客様、つまり外商サービスをご利用いただける購買力がありながら、ご案内が届いていなかった方々を改めてリストアップし、アプローチを強化しました。
⎯⎯人口減の中でも、国内はまだポテンシャルがあるとお考えですか。
まだまだあります。地方の百貨店は厳しい状況ですが、地方にも優良なお客様はいらっしゃいます。例えば、米子髙島屋のお客様で、米子の品揃えでは満足されない方が、飛行機で日本橋店まで来てお買い物されるケースもあります。
また、当社の店舗がない九州や東北でも、提携している百貨店グループのお客様を日本橋店や大阪店に送客するといった取り組みを始めています。地方ではラグジュアリーブランドの撤退が進み、大都市圏でしか買えない状況が生まれているため、こうした送客の仕組みは今後さらに重要になるでしょう。

⎯⎯地方店に目を向けると、2026年は堺店と洛西店の閉店を予定しています。
我々としては、できるだけ髙島屋の看板を残したいという思いがあります。撤退はあくまで最終手段です。例えば米子店のように、現地の資本に事業を移し、我々は商標使用権を供与する形や、立川店のように百貨店のないSCへ業態転換するなど、様々な形で存続を模索します。それでも収支が合わない場合に、撤退という判断をせざるを得なくなります。
堺店と洛西店の閉店は、それぞれ個別の事情によるものです。外国人のお買物の恩恵を受けないという共通の背景もありますが、例えば岐阜店(2024年閉店)は建物の老朽化を巡る家主との問題、洛西店は再開発計画が困難になったことなどが理由です。
⎯⎯閉店する店舗が、地域で果たしてきた役割をどのように振り返りますか。
もちろん、地域のインフラとしての役割があったと思います。毎日のように来てくださる方もたくさんいらっしゃいました。我々が2031年に目指す「ステークホルダーの期待に応えるプラットフォーム」として、一定の役割は果たしてきたのだろうと思います。
そして、百貨店は人々の記憶に残る場所です。七五三や結婚など、ライフタイムの節目節目で、お客様の記憶に残る存在であったこと。それもまた、我々が果たしてきた役割の一つではないかと考えています。
アプリ刷新でデジタルに本腰 スゴ積みとの連携や海外展開も視野に
⎯⎯リアル店舗での取り組みと同時に、「タカシマヤアプリ」をリニューアルし、デジタル戦略を強化しています。
6月のリニューアル以降、会員数は概ね目標通りに推移しています。これまではグループ内で別々だったお客様情報をアプリで一元的に管理できるようになったのが大きな変化です。
また、このアプリを基盤として、様々なコンテンツを組み合わせることで会員数が増えるという手応えを感じています。直近ではヒグチユウコさんとのコラボレーション企画で販売したバッグが即完売するなど奏功しました。



「HIGUCHI YUKO × Takashimaya」限定トートバッグ(6270円)。数量限定で販売し、即完売だったという。
Image by: 髙島屋
⎯⎯このアプリは、今後どのような役割を担っていくのでしょうか。
我々は今、2031年に向けた「シームレス化」のロードマップを作成しています。これは、百貨店だけでなく、専門店など髙島屋グループが提供するあらゆるサービスを、お客様が切れ目なく利用できるようにする構想です。
その中でアプリは、すべての顧客情報を一元管理する「要」と位置付けており、将来的にはこのアプリ一つで駐車場の満空情報の確認からレストランの予約、接客の予約、そして決済まで、すべてが完結する世界を目指しています。タカシマヤ友の会の積立金「スゴ積み」なども、このアプリ内でシームレスに使えるようにしていきたいと考えています。
⎯⎯アプリは海外向けの展開も考えていますか。
いずれはそうしていきたいと考えています。今はまだ着手していませんが、グローバル戦略を強化していく上で、アプリは必要不可欠になるでしょう。
現在は、まずシンガポールの上位顧客など、顔の見えるお客様を特定し、囲い込むアプローチを優先しています。今は郵送などアナログな方法で日本への来店を促していますが、将来的にはアプリを通じてイベントのご案内などをプッシュ通知できれば、より効果的になると期待しています。
⎯⎯海外にも日本の百貨店競合他社は進出しています。
海外店舗がある地域では、髙島屋の熱心なファンが多い傾向が強いです。例えばシンガポール髙島屋の上位顧客は、マレーシアやインドネシアなど周辺国の方も多いのですが、彼らにとっては髙島屋がシンガポールの会社だと思っているくらい、深く浸透しています。ですから、日本に来た時には、現地の髙島屋の「本店」に行くような感覚で、我々の店舗を選んでくださる。そこで優先的なおもてなしを受けられるのであれば、自然な流れで利用していただけると考えています。タイの事業パートナーは、小さい頃に日本橋髙島屋を訪れた経験から「あの髙島屋がタイにも欲しい」と熱望し、出店が実現したというエピソードもあります。富裕層の方々の中には、それほどの愛着を持ってくださる方がいるのです。
ベトナムを第二のASEANの拠点に アジアでの成長加速
⎯⎯今後の成長ドライバーである海外事業について。2027年2月期に向けた計画では、約1500億円の成長投資のうち510億円を海外商業に充て、中でもシンガポールに次ぐ第二のASEANの拠点としてベトナムへの投資を強化しています。ベトナム市場のポテンシャルをどのようにお考えですか。
ベトナムは参入障壁が比較的低く、人々は勤勉で親日的、そして若年層が多いという非常に恵まれた条件が整っていました。加えて、シンガポールでの事業パートナーであったケッペルランド(Keppel Land)との連携により、スムーズな出店が実現しました。GDPも確実に成長しており、我々としては集中的に投資する方が資本効率が高いと判断し、まずはホーチミンで開発を行い、2016年にホーチミン髙島屋を開業しました。そこで築いたネットワークを活かし、今度は髙島屋とグループの東神開発とでハノイで新たなプロジェクトを進めています。2027年の竣工を目指し、商業施設とオフィスからなる複合施設を建設中です。

Westlake Square Hanoi 第Ⅰ期イメージ
Image by: 東神開発
⎯⎯ハノイの新施設は何が強みになるのでしょうか。
ハノイにはすでに巨大なショッピングモールが存在するため、規模で対抗するつもりはありません。我々がホーチミンで培ってきた、ベトナムのお客様に響くMD(商品政策)のノウハウを活かし、百貨店と専門店の複合施設として、質で勝負します。特に人気のあるコスメやベビー・子供服といった分野に絞り込み、中身の濃い、魅力的な施設にしていきたいと考えています。
⎯⎯ウィメンズファッションは主力になり得ませんか?
ベトナムでは厳しい側面が強いですね。まずはポテンシャルが高いカテゴリーとして、質の高い接客にニーズがあるコスメと、教育熱心な国なのでベビー・子ども服などを展開していく計画です。
ただ、海外は別として国内の店舗のファッションについては、我々も力を入れています。自主編集売場の強化を一貫して続けてきており、売り上げも(前年比で)数ポイントですが上がってきています。また、高崎店で始めた、地域のクリエイターの商品を集めた編集ショップ「メゾンドエフ(maison de F)」が好評で、他の店舗にも展開を広げています。
本来、我々は海外のラグジュアリーブランドだけではなく、日本のものづくり、いわゆる「新特選」と呼ばれるような地方の職人さんたちに光を当てるブランドを立ち上げるべきだったと反省しています。名古屋の有松絞りのブランド「スズサン(Suzusan)」が世界で注目されているように、日本の素晴らしい品質や商品を、我々がもっと発信していかなければなりません。
日本の五街道の起点である日本橋から、日本の伝統工芸や手仕事の魅力を世界に発信していく。そうした動きが、日本のファッション全体を盛り上げていくきっかけになるのではないかと考えています。
「これからこそ百貨店の時代」
⎯⎯働き方という面では、2025年の年始に23年ぶりとなる1月2日の休業を実施。2026年の年始も元日と2日は休業日としました。
はじめて実施した際は非常に大きな反響がありました。従業員はもちろん、お取引先様店頭スタッフからも「久しぶりに家族で実家に帰った」「お正月らしい年始を過ごせた」といった好意的な声をいただきました。前年に関しては1月3日からの1週間の売上は、前年の2日から営業した1週間とほとんど変わりませんでしたし、今年も1月3、4日の初商では概ね前年並みの売上で、特に初日の3日は、開店前の待ち列が大型店を中心に前年を超えるなど盛況でした。業界全体で、2日まで休むという流れができてくれるとありがたいですね。
⎯⎯2026年はどのような年になると予測しますか。
不安要素はたくさんありますが、全体的には、2025年の秋口から消費に盛り上がりの兆しを感じています。これまではインバウンド頼みでしたが、その落ち込みを日本の国内消費が下支えしているようなイメージです。今年は、この国内消費がもう少し盛り上がってくるのではないかと期待しています。
ちょうど高市政権になって拡大経済路線でいってますから、そこがうまくかみ合えば消費の方も良くなってくるし、年間でさまざまな政策が進められる中でそれらが効果を示してくれば、中間層からアッパーミドル層の消費にも良い影響が出てくる気がしています。
⎯⎯国内の消費を盛り上げるために、どんな施策を考えていますか。
我々が「次世代SC」と呼んでいる、新しいSCづくりを進めていきます。例えば二子玉川や柏、日本橋、京都が目指しているのですが、要素は3つです。1つは、新しい来店動機やコンテンツを持つこと。2つ目は、地域の住民の方たちが参加して一緒になって作っていくSCであること。そして3つ目は、百貨店を核に、その良さとSCの相乗効果を生かしていくこと。この3つで、国内に面白いSCを作っていこうとしています。

⎯⎯「百貨店」という業態については、さまざまな意見が聞こえてきています。
百貨店については、さまざまな意見や評価があることは承知しています。しかし私は、その価値が時代とともに色褪せるものだとは考えていません。むしろ、言い方を選べばですが、これからこそ百貨店の時代だと感じています。
百貨店には、まだまだ新しい価値を生み出せる余地がありますし、面白い挑戦も数多く残されています。業界全体では各社が異なる戦略を打ち出していますが、髙島屋グループはあくまで百貨店を中核に据えた成長を志向しています。
百貨店を軸に、投資開発を担う専門店事業、第三の柱である金融事業など、グループ各社が持つ強みを有機的につなげていく。これまで百貨店でしか利用できなかった外商サービスを専門店でも使えるようにし、友の会についてもグループ横断で活用できる仕組みへと進化させるなど、グループのシナジーを創出していきます。
こうした取り組みを一気通貫で進めていくことが、当社の考える「シームレス化」です。一つひとつを着実に実行することで、他社にはない髙島屋グループならではの価値を、これからの時代にしっかりと示し、2031年にめざす姿「グランドデザイン」を実現していきたいと考えています。
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