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黒澤明「蜘蛛巣城」が着想源 蜘蛛の巣のように観客を飲み込んだ「アンダーカバー」20年秋冬

2020-21年秋冬コレクション
2020-21年秋冬コレクション
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 2020-21年秋冬の「アンダーカバー(UNDERCOVER)」が、後世に語り継がれるであろう素晴らしいコレクションを披露した。キーワードは"和と洋の融合"。感動でショーが終わってもしばらく身震いが止まらなかった。

(文:ファッションジャーナリスト 増田海治郎)

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 日本人デザイナーにとって"和物"は難しい。ファッションデザイナーという人種は得てして、キャリアの中盤から後半に差し掛かると、自分のルーツである「和」と向き合おうとする。そこで和と洋の融合を試みるわけだが、大概は"残念感が拭えない"といった着地をすることが多い。日本人デザイナーにとって、実はとても高いこのハードルを、高橋盾はいとも簡単に軽々と飛び越えて見せた。

 今シーズンのインスピレーション源は、黒澤明の1957年に公開された「蜘蛛巣城」。2018-19年秋冬の「2001年宇宙の旅」、2019年春夏の「ウォリアーズ」、2020年秋冬の「時計仕掛けのオレンジ」の名画引用三部作は、アンダーカバーを次のステージに引き上げたが、1シーズンのインターバルを置いて、再び映画とファッションの融合を試みたというわけだ。

 会場は1852年にオープンしたサーカス場「Cirque D'Hiver Bouglione」。中も外も改装されていて綺麗だが、ワインレッドのベルベットのシートに座って、円形の劇場を眺めると、168年前にタイムスリップしたような錯覚を覚えた。この時点でショーが面白くないわけがないと確信した。

ショーの会場となったCirque D'Hiver Bouglione ©FASHIONSNAP.COM

 1時間近く遅れて会場がようやく暗転し、ショーは幕を開けた。やおら、何かに追われているような切羽詰まった表情の男が円形のランウェイに現れた。次に円形のランウェイの中央に設置された白い布で覆われた山のようなものが、奇妙に踊り始めた。映画の中で重要な役割を担う"蜘蛛手の森の老婆"だ。3人の女性が一体となって1人の奇妙な老婆を演じる様は、スクリーン上で感じる不気味さを上手に表現している。

 冒頭のシーンの後に登場したのは、馬で移動中の武士や飛脚を連想させるモデルたち。どちらかというと洋の要素が強い装いで、上半身は着物合わせのチェックのパーカ、下半身はワークパンツやニッカポッカが主役。どこか現代の日本の土木作業員や配送員を連想させる姿だ。靴はハンティングシューズや脚袢(きゃはん)と厚底の草履のコンビで、女性はヒールブーツを履いている。言い忘れたが、今シーズンはメンズだけではない男女合同ショー。映画のストーリーで女性も多く登場するゆえ、必然的にこの見せ方になったのだろう。

 続いて登場するのは、和服特有の"重ね"の楽しさを洋服で表現したルック。インナーのシャツが一番長く、上に重ねるにつれて短くなる4着のレイヤードからは、重ね着文化が世界一発展した現代の日本の侘び寂びを感じた。ナイロンのコーチジャケットには、ムカデが円形になったグラフィックやプリントやジャカードで表現された家紋があしらわれている。

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 ストライプの羽織を挟んで登場したのは、戦に向かう武士たち。鎧にあたるジャケットは、ブランドのシグネーチャーのひとつであるライダースジャケットと鎧のディテールを融合している。レザーとニット、そして中綿を挟み込んだキルティング、スタッズを駆使した凝りに凝った1着で、現代の鎧と呼ぶに相応しい素晴らしい出来栄えだ。

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 後半には、鷲津武時を演じる三船敏郎をはじめとした武士のグラフィックが登場。武士がプリントされたスウェットシャツやパーカ、ダウンジャケットは、凡百の和物を蹴散らす格好良さだ。女性陣も負けていない。ローゲージニットの着物コートや、オレンジの菊の花のシルクのドレスは、武士とは違うエレガンスにあふれている。

 最後は映画のラストシーンを完璧に再現。冒頭の男を狙って、天井から矢継ぎ早に弓矢が放たれる(落ちてくる)様は、演劇として見ても素晴らしいレベルの演出だった。長引くパリ市内のストの影響で、開演は1時間近く遅れ、ショー自体もファッションショーとしては長いものだった。それでも、中弛みしないばかりか、もっともっと見ていたいと思わせるほどの出来栄えだった。「ファッションショーの見せ方」という点では、アンダーカバーは確実に世界の最先端を走っている。

 蜘蛛巣城は、シェイクスピアの戯曲「マクベス」を日本の戦国時代に置き換えた作品だ。"世界のクロサワ"が1606年の名作を引用して名作を生み出し、それから63年後に"世界のタカハシ"が名作を引用した名作をさらに引用し、後世に語り継がれるであろう名作を生み出した。"文化の盗用"という言葉が最近のファッション界でよく言われるが、これは間違いなく"文化の継承と発展"である。鳴り止まない拍手と最上級の褒め言葉のこだまが、それを証明していた。

増田海治郎
雑誌編集者、繊維業界紙の記者を経て、フリーランスのファッションジャーナリスト/クリエイティブディレクターとして独立。自他ともに認める"デフィレ中毒"で、年間のファッションショーの取材本数は約250本。初の書籍「渋カジが、わたしを作った。」(講談社)が好評発売中。

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