
舞台は「ヴァレンティノ(VALENTINO)」創業の地、イタリア・ローマ。中心部に位置するパラッツォ・バルベリーニ(バルベリーニ宮殿)の壮麗な広間で、3月12日に2026年秋冬コレクションのショーが開催された。アレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)がクリエイティブディレクターに就任して4シーズン目。そして、"ミスター・ヴァレンティノ"こと創設者ヴァレンティノ・ガラヴァーニ(Valentino Garavani)が今年1月に死去後、初めて発表されるプレタポルテコレクションでもある。ミスターとミケーレ、時代を隔てた二つの創造性がローマの地で交差した今季、テーマに掲げられたのは「インテルフェレンツェ(INTERFERENZE=干渉)」だった。
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2人の創造性が響き合う
テーマの「干渉」は、二つの異なる波が重なり合い、互いを強めたり弱めたりする現象を指す。ミケーレがヴァレンティノで最初に発表したコレクションから、絶えず根底にあり、クリエイションに影響を与えているのがミスターの存在だろう。彼が作り上げたメゾンのコード——Vロゴ、フリル、ラッフル、ポルカドット、リボン、シノワズリ、オリエンタリズム、ロマンチシズムなど、ミケーレは意匠の一つひとつを受け止め、丹念に再解釈しながら自身の創作へとつなげてきた。そうした姿勢は、これまでのコレクションを振り返れば明らかだ。
17世紀バロック建築を代表する今回の会場、パラッツォ・バルベリーニは、今のメゾンを映し出すメタファーのようだ。この美しい宮殿には、向かって左側にジャン・ロレンツォ・ベルニーニが手掛けた直線的な階段、右側にフランチェスコ・ボッロミーニが手掛けた楕円形の螺旋階段がある。二人の芸術家の協働により、異なる二つの構造が共鳴するこの場所そのものが、“INTERFERENZE”を体現していると言える。







メインのランウェイは、壮大なピエトロ・ダ・コルトーナのフレスコ画が天井に描かれている2階の大広間。床には芝生と落ち葉が敷かれ、約700名の招待客が、絵画と自然、歴史と幻想が溶け合う異空間へと誘われた。

構造と揺らぎ、相反する共存
この“INTERFERENZE”コレクションは、規範と逸脱、軽やかさと重厚さ、規則と豊かさ、透明性と不透明性、適合性と逸脱性といったものの衝突するさまを浮き彫りにします。そこから生まれたのは、秩序を讃えると同時にその構造的な脆さを露わにし、自らを超えていく可能性へと開かれたコレクションです。──アレッサンドロ・ミケーレ

ショーの冒頭を飾ったのは、エレガントでありながら野生味を宿すファーのロングコート。デコルテは深くV字に開き、小さなバタフライのペンダントが揺れている。






続くルックでは、精密なテーラリングやドレスに、動きのあるドレープやフリル、光沢が重ねられていく。ボリュームのあるカシミヤファーコートの下にレースのボディスーツをのぞかせ、レザーブルゾンにはオーガンジーのスカートを合わせる。構造と揺らぎ、抑制と解放、秩序と逸脱。フォーマルウェアを土台にしながら、そこにミケーレらしい装飾性を加える手法はこれまでも見られたが、今季は決して過剰ではない。まるでヴァレンティノのヘリテージ施設に眠るアーカイヴを呼び覚ましたかのようでありながら、その表情は確かに新しい。









重量感と軽さ、保護と露出、厳格さと官能性といった相反する要素が、一体のルックに同居する。シルバークリスタルのフリンジイヤリングはクラシカルなシャンデリアを思わせ、豊かなドレープやプリーツは古代彫刻のようだ。一方でスタッズ付きのサングラスやスニーカーは、モダンなエッセンスを添えた。時代や価値観に左右されず、イメージが固定することなく、着る人が主体となるフルイド(流動的)なスタイルと言える。







「美しさと豊かさ」を継承するヴァレンティノレッド
ミケーレはショーの後のバックステージで、ヴァレンティノというメゾンを通して「美しさと豊かさを伝えたかった」と語っている。その象徴と言えるのが、ラストルックのマキシドレス。ファーストルックとは真逆に背中がV字に開き、そこにバタフライのペンダントが揺れる。鮮烈な“ヴァレンティノレッド”は、このコレクションの余韻を決定づける色。ミスターのエレガンスを継承しながら、新たな時代のヴァレンティノを引き受けようとするミケーレの覚悟と情熱が宿っていた。



ショーが終わり、雨が上がる
ショーにフィナーレが訪れ、歴史が刻まれた建築の中をパレードする美しいドレスの数々を見ながら、招待状のジュエリーケースに記されていた「永遠の喜びとは何でしょう」という言葉が浮かんだ。ローマは“永遠の都”とも呼ばれている。この地でコレクションを発表した意味を感じ取る瞬間だった。

窓の外に目をやると、ショーの前は土砂降りだった雨が、いつの間にか止んでいる。ミケーレは大事な日に雨に見舞われることが多いそうだが、この日は空までも、対比と干渉のテーマに呼応しているようだった。メゾンが受け継いできた美意識と、ミスターが亡き今もなお更新され続ける創造性の豊かさ。その両方を、鮮やかに印象づける夜となった。
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