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アレッサンドロ・ミケーレの「ヴァレンティノ」ランウェイデビューを考察 "非実用的"な装飾主義はモードの風向きを変えるか?

ヴァレンティノ 2025年春夏コレクション

ヴァレンティノ 2025年春夏コレクション

Image by: VALENTINO

ヴァレンティノ 2025年春夏コレクション

ヴァレンティノ 2025年春夏コレクション

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アレッサンドロ・ミケーレの「ヴァレンティノ」ランウェイデビューを考察 "非実用的"な装飾主義はモードの風向きを変えるか?

ヴァレンティノ 2025年春夏コレクション

ヴァレンティノ 2025年春夏コレクション

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 今年4月、アレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)が「ヴァレンティノ(VALENTINO)」のクリエイティブ・ディレクターに就任するというサプライズなアナウンスが、業界に衝撃を与えたのは記憶に新しい。ランウェイデビューに先立ち、6月にはルックブック形式で2025年リゾートコレクションを発表していたが、なんとメンズとウィメンズを合わせて171ルックというボリューム。それらは"ミケーレ流のヴァレンティノ"というよりも、"ヴァレンティノ風のミケーレ"と受け取れる内容だった。

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VALENTINO 2025年リゾートコレクション

2025 PRE-SPRING-SUMMER COLLECTIONルックブック

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 前職の「グッチ(GUCCI)」時代に見られた“ミケーレらしさ”が存分に発揮されたリゾートコレクションに続く、初めてのランウェイショーとなれば、さらに華美で豪奢なルックを期待するのが妥当だろう。9月29日に発表された注目の2025年春夏コレクションは「Pavillon des Folies(狂気のパビリオン)」と名付けられ、ゲストはパリ14区のパリの外周を走る環状高速道路近くにあるアリーナへと導かれた。薄暗い会場内には、白いガーゼで覆われたヴィンテージの椅子やランプ、ワードローブ、楽器、鳥かごなどが所狭しと置かれ、床はひび割れた鏡。長年ほったらかしで埃の積もった物置小屋のようであった。

 おどろおどろしい雰囲気の中、大胆にアレンジされた楽曲「PASSACAGLIA DELLA VITA」が鳴り響くと(この曲はショーの間中ずっと流れていた)、最初のモデルがランウェイに登場した。ドレスの前身頃はハート型に切り替えられ、3つのリボンがつき、黒のレースの手袋と赤のレースのタイツが合わせられた。

 2025年春夏コレクションのファーストルック

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 プリーツやフリルをあしらったドレス、フォークロア調のルック、そしてメンズのポルカドットのタキシードが続く。装飾主義的なスタイルはミケーレらしいが、どこかグッチの時のミケーレとは異なる。控えめで、キッチュさがないのだ。モダンという表現も異なり、まるでミケーレらしいやり方で、古着をスタイリングしたようにも見える。

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 計85体のルックは、ある種のトーンセッティングの儀式だったようにも思える。その目的は、前任のクリエイティブ・ディレクター、ピエールパオロ・ピッチョーリ(Pierpaolo Piccioli)が作り上げたブランドイメージを刷新し、ミケーレのヴァレンティノを始めるためのものだ。そのためにはまず、ブランドのルーツである創業者ヴァレンティノ・ガラヴァーニ(Valentino Garavani)が生み出したデザインコードを再確認する必要があった。フリル、ラッフル、ポルカドット、リボン、シノワズリ、トルコパンツ、オリエンタリズム、そしてロマンチシズム……そのリファレンスを辿れば枚挙にいとまがない。ロゴの使用も、ヴァレンティノ・ガラヴァーニの初期から使われている“Vロゴ”だけにとどまった。

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VALENTINO 2025年春夏

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VALENTINO 2025年春夏コレクション

2025 SPRING SUMMERファッションショー

ショーの後にミケーレが語った「人生」について

 ショーの後には記者会見が行われ、ミケーレは40分間にわたってジャーナリストたちの質問に答え、自身のクリエイションについて語った。彼は、就任初日からヴァレンティノのアーカイヴルームを訪れ、"探偵のように"隈なくアーカイヴを探り、今回は特に1960年代から80年代までを参照したと明かした。中でも、4つの異なる色合いの白を使った1968年のオールホワイトコレクションや、イタリアの風習を変えるほどの影響力を持った1970年代の黄金時代が、大きなインスピレーション源になったという。

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 会見でミケーレが繰り返し口にしたのは、「人生」という言葉だった。ミケーレは、「(ヴァレンティノ・ガラヴァーニは)ファッション界のゲイとして、自分の人生をエレガントに、そして自信を持って表現した最初の一人でした」と説明した。そして、「アーカイヴには、彼自身の人生に由来しないものは何一つなかった」とし、「(ヴァレンティノにおいて)彼は"働いている"という感覚ではなく、ただ自分の人生を生きているだけだったのでは」と考察。ヴァレンティノは、創設者の人生が服に密接しているブランドであり、その強烈な感覚を再び生み出すためには、ミケーレ自身もまた、ありのままに自身の人生を反映させる必要がある。

 装飾主義のマキシマリストとして、ミケーレが提示する非実用性の価値は、今日のファッションの風向きを変えるだろうか? ファッションとしての新しさの提案ではなく、懐古的ともいえるミケーレのコレクションはゲームチェンジャーとは言い難いが、静かに波紋を広げることにはなりそうだ。

 ラグジュアリーファッション全体の成長も考慮する必要はあるが、グッチ在籍時にミケーレは売上を3倍も伸ばしたという。そして現在のヴァレンティノは、グッチの9分の1ほどの売上高と言われている。ミケーレが「グッチ」を離れたのは、業績の停滞が理由のようだが、実際、ミケーレのファンは多くいるはず。グッチとヴァレンティノの経済規模の大きな差を踏まえると、今回の大胆な路線変更が既存のヴァレンティノの顧客を離れさせてしまったとしても、ブランドとしては大幅な業績アップが見込めるのではないか。

 派手ではあるもののショッキングなアイデアはなく、「ミケーレは大人しくなったのか?」と言われると、それはわからない。ミケーレが事実上のクリエイティブ・ディレクターとしてデビューしたグッチ2015年秋冬コレクションを振り返ると、ミケーレのエッセンスは感じられながらも、そのデザインは比較的シンプルなものだった。なので今はまだ、彼が方向性を定めている、トーンセットを行なっている段階なのではないかとも予想できる。

 そして、今回欠けていたエッセンスといえば、メンズウェアのデザインコードが挙げられる。おそらく、ミケーレが今回参照した1960年代から1980年代にかけてのヴァレンティノに、十分なメンズウェアのリファレンスがなかったことに起因し、ここにはミケーレの息吹を吹き込む余地が大いにある。そして、ヴァレンティノ・ガラヴァーニの時代にあった"贅"の感覚と、ヴァレンティノに漂う"ある種の軽薄さ"は、来年1月に控えた彼の初のクチュールショーで見られるのかもしれない。

エディター / ライター / プロデューサー

上岡 巧

KO UEOKA

1993年生まれ、東京出身。早稲田大学社会科学部卒業。メンズファッション誌『Them magazine』編集部を経て、2022年に独立。ロンドン生活の後、現在はパリに拠点を移し、フリーランスとして活動する。

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