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お前も鬼にならないか?「ヴェトモン」2021-22年秋冬コレクション

VETEMENTS 2021-22年秋冬コレクション

「Gvasalia FOR VETEMENTS」VETEMENTS 2021-22年秋冬コレクション

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VETEMENTS 2021-22年秋冬コレクション

「Gvasalia FOR VETEMENTS」VETEMENTS 2021-22年秋冬コレクション

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お前も鬼にならないか?「ヴェトモン」2021-22年秋冬コレクション

VETEMENTS 2021-22年秋冬コレクション

「Gvasalia FOR VETEMENTS」VETEMENTS 2021-22年秋冬コレクション

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Gvasalia FOR VETEMENTS

 よもやよもやだ。弟のことを指しているわけではあるまい。有耶無耶だった2021年春夏コレクションをとりあえずはスルーして、「ヴェトモン(VETEMENTS)」2021-22年秋冬パリコレクションが、165ルックの大ボリュームでデジタル発表された。2021年春夏向けの軽衣料も含まれるが、どうぞご勝手にという具合だ。今秋冬の象徴は、通常よりも多すぎるメッセージプリント。自社製品を深読みすると、2019年9月にブランドを去った「ヴェトモン」創業デザイナーであるデムナ・ヴァザリア(Demna Gvasalia)の復帰待望論が滲み出てくるのだ。

VETEMENTS 2021年秋冬

VETEMENTS 2021-22年秋冬コレクション

VETEMENTS

2021 AUTUMN WINTERルックブック

RESTRICTED

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VETEMENTS 2021-22年秋冬コレクション
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「RESTRICTED」VETEMENTS 2021-22年秋冬コレクション

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 まったくのゼロからのクリエイションではない。制限があればこそ、そのオルタナとして機能する価値転換。それが「ヴェトモン」の偉業かつ異形な《デザイン》の本質だ。綿密な学際的アプローチによって導き出される価値転換を、それを受け入れる着る側の度量に寄り添って成り立っている。いわば、ファッション専門学校で第一義に教えるであろう、消費者との対話が根底にあるのだ。

 至極カンタンに「ヴェトモン」の2021-22年秋冬を解説するならば、服地に載せられたメッセージプリントを読めばよいのだ。知恵の輪デザインの由来を、コトバでわかりやすく示してくれているのだから実にツマラナイ。おまけに、2017年には17ものブランドが参加したコラボが見当たらず、さらにツマラナイ。

 価値転換の制限の1つは「ヴェトモン」の真骨頂であるフォルムからの解放を意味する。がしかし、お家芸の膨張も、膨張があるからこそ引き立つ逆方向の収縮もすでに限界。新鮮味のある躍動をもたらすことはない。それは、巨大な胎児に変貌した鬼舞辻無惨の断末魔のようであり、ミニサイズに収縮し逃げ回った上弦の肆・半天狗の最期のようにも見て取れた。本件と無関係だが、たったの205話・23巻・約4年と3ヵ月、人気絶頂で完結した「鬼滅の刃」は面白い。

HAUTE COUTURE

VETEMENTS 2021-22年秋冬コレクション
VETEMENTS 2021-22年秋冬コレクション

「HAUTE COUTURE」VETEMENTS 2021-22年秋冬コレクション

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 制限=フォルムからの解放ともう1つ、別次元の価値転換はゲテモンなスタイリングにも露見する。崇高な美の担い手であるはずのクチュリエは、旧態依然ゆえに至高のモードのコードには決して乗せてもらえない。単体の柱では無価値だが、団体戦では勝利を収めるのだ。

 パワーショルダーのジャケット、似つかわしくないビジネスシャツ、土産屋で薄利多売されてそうなキャップ、いつのトレンドなのかも不明なウオッシュドデニム、パリの蚤の市に眠ってそうなブーツなど。

 個々のアイテムは完璧に仕立てられ、商業的な単品採算では悲劇的な結末を迎えるはずであるのだが、マイナス極のファッションがパズルのように重ねられると稀にプラスに転ずる。その奥義は、掛け算が1つズレるとマイナスに逆戻りの危険な綱渡りでもあった。

 洋服は頭で着るもの。その金言はデムナが言い出しっぺで構わないが、このケミストリーは、こぞって世界中のデザイナーが模倣しまくり今に至ってもなお業界の隅々にまで波及しているのだ。

I LIKE LONG WALKS and sex before marriage

VETEMENTS 2021-22年秋冬コレクション

「I LIKE LONG WALKS and sex before marriage」VETEMENTS 2021-22年秋冬コレクション

Image by: VETEMENTS

 果たして、濃厚接触は婚前交渉どまり。時事ネタを安易にファッションと結びつける手法は嫌いだが、コロナ禍を愉快痛快に皮肉るコレクションブランドはゲテモンしかなかったはずなのだ。

 かつてゲテモンと呼ばれたアーティストの代わりにあえて言おう。およそ12年も現地出張取材できていないパリ・メンズコレの執筆依頼が、業界の誰も行けてないという理由だけで、長い道のりを経て巡り巡ってくるもんだから人生何が起きるかわからない。

 デビュー間もない2016年春夏に登場し、その解釈よりも歪んだ体感が新鮮味として支持されたフットボールショルダーのTシャツは、もはや定番デザインになっている。当時のままに肩パットは取り外しが可能なのだろう。スウェットやカットソーのスーチングで闊歩するコレクションランウェイはもはや誰も驚かないが、そのキャズム超えの功労者が「ヴェトモン」であるという事実は認めねばなるまい。うまい!

I LIKE FAIRYTALES and financial stability

VETEMENTS 2021-22年秋冬コレクション

「I LIKE FAIRYTALES and financial stability」VETEMENTS 2021-22年秋冬コレクション

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 業績は安定。嫉妬のもつれかBuzz狙いか、「2 YEARS AFTER THEY BROKE THE INTERNET, IT LOOKS LIKE NOBODY IS BUYING VETEMENTS」の衝撃的なタイトルで、ベルリンのメンズメディア「Highsnobiety」が大方言をぶっ放したタイミングは2018年3月だった。黙って見過ごせるわけもない「NOBODY IS BUYING VETEMENTS」のインパクトを鑑みて、すぐさまグラム・ヴァザリアCEOは売り上げが前年(2017年)に対して50%増のペースで成長し続けていると発表した経緯がある。

 2021年1月25日のコレクションルック発表日に公式サイトをクリックすると、かつては意味深なヴィジュアルと主要取引先の羅列のみで情報乞食たちのマゾヒズムが加速していた荒野サイトが、なんといつの間にか通販サイトになっていた。

 ネット消費社会へのアンチテーゼでもなんでもなく、大真面目であることは明らか。VETEMENTSの「V」のワンポイントロゴまで態々クリエイションされている。無論、先代のデムナ時代にはあり得なかった事態だ。

POWER

VETEMENTS 2021-22年秋冬コレクション
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「POWER」VETEMENTS 2021-22年秋冬コレクション

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 そう、「ヴェトモン」は強くなり過ぎた。既存の価値概念のオルタナやカウンターであったはずの万に1つ億に1つのバグが、いつしか普遍性を帯びてしまった。アントワープで修士号を取得するほどに明晰な頭脳でひねり出された譜面によって、要は自身がクリエイションした新たな価値基準=コードの一般化によって、新しいデザインが枯渇するに至っているのだ。

 通販し易いスウェットやカットソーは、デザインチームが手掛けたと一見してわかるほどに慣れ親しんだデザイン。モーターサイクルモチーフやネオンカラーは、デムナにとって近代文明の象徴なのかもしれなかったエッセンスだが、ついぞ判明することなくラグジュアリーの奥地に隠居してしまっている。

 2021-22年秋冬が売り出される時期は夏。転売ヤーの要であるデニムが苦戦するとなれば、いよいよ朝陽が近い。炎柱のごとく、黎明に散るのか。

If you were Waiting for A sign THIS IS IT

VETEMENTS 2021-22年秋冬コレクション

「If you were Waiting for A sign THIS IS IT」VETEMENTS 2021-22年秋冬コレクション

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 拝啓、デムナ・ヴァザリア兄貴。サインを待っているのであれば、これが答えです。

 あれは90年代の中頃。UFO研究家の矢追純一とプラズマ研究家の大槻義彦の2人を西早稲田界隈の小料理屋「志乃ぶ」で目撃。さぞや互いの持論の限りを尽くしてバトっているかと思いコの字席を見やると、まるで戦友のように熱く酌み交わしていたのだった。

 当時のショックは、大人になった今は理解できる。昨年9月に「ヴェトモン」の公式インスタグラムで「バレンシアガ」のTシャツデザインに関して比較画像を投稿し物議を醸したが、あれは喧嘩するほどなんとやらのじゃれ合いだったのだ。

VETEMENTS 2021-22年秋冬コレクション
VETEMENTS 2021-22年秋冬コレクション

VETEMENTS 2021-22年秋冬コレクション

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 エピローグは、さすがに考察飛躍に過ぎるかもしれないが、傭兵デザイナーを採用するという妙手もある。同じくラグジュアリーのドレスコードを価値転換・無為転変する担い手としては、元「ランバン」デザイナーのルカ・オッセンドライバー(Lucas Ossendrijver)の名前が真っ先に挙がるだろう。確実に言えることは、手を変え品を変えての引き延ばし編集は茨の道であるということだ。「バレンシアガ」との契約上の制約があるにしても、近い未来、2021-22年秋冬が分水嶺であったことを我々もデムナも知ることになる。

 メッセージの代わりに鎮座したキューピッドの矢は、誰を射るべきか。

 デムナ・ヴァザリアよ、お前も鬼にならないか?

(文:北條貴文)

最終更新日:

北條貴文
大橋巨泉に憧れ早大政経学部で新聞学とジャーナリズム論を学ぶ。コム デ ギャルソンに新卒入社し、販売と本社営業部勤務。退社し、WWDジャパンで海外メンズコレクションと裏表紙とメモ担当。その後、メンズノンノ編集部web担当を経て、現在はUOMO編集部web担当。

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