作業服専門店から、高機能・低価格アクティブウェアやカジュアルウェアへと領域を広げ、日本のアパレル市場で存在感を高めてきたワークマンが、大きなターニングポイントを迎えている。今年3月には同社初となる5ヶ年の中期経営計画を発表。グローバル展開をはじめとした今後の成長戦略を打ち出した。
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今回は、これからのワークマンの動向を占ううえで重要なポイントとなる「トレンドファッション戦略」と「オンライン戦略」について、キーマンふたりにインタビューを敢行。この2つのテーマをもとに特集記事をお届けする。トレンドファッションにフォーカスした第1回に続く第2回は、9月1日からサービスを開始した公式スマートフォンアプリを軸としたオンライン戦略について、EC事業部Eコマースグループ 新居大地 マネジャーに話を聞いた。
現在のEC化率は2%未満
⎯⎯ワークマンは競合他社と比較してオンラインが弱点という指摘があります。
オンラインが「弱点」だというご指摘については、2つの側面があると考えています。1つは、通販事業そのものにもっと力を入れた方がいいのではないかというスタンスの部分。もう1つは、サイトそのものの使いづらさという操作性の部分です。
まず前者についてですが、ワークマンはこれまで通販事業にあまり注力してきませんでした。現場で働く職人さんが、仕事の前後に店舗に寄って買い物をしていただくというご利用方法が主だったからです。ですので、ワークマンのEC化率は2%に満たないのが現状です。これは弱点ではあるのですが、私たちが力を入れるべきポイントはそこではないと考えていますので、通販事業が弱いというご指摘に対しては「弱点のまま受け入れる」というスタンスになるかと思います。
一方で、後者の「操作性」という意味での弱点は、確かにご指摘通りだと認識しています。サイトのつくりが理屈っぽかったり、感覚的に触りづらかったりと、一昔前のECサイトのような印象であるのは事実です。このあたりは、アプリを活用しながらより使いやすいものへと改善していきたいと考えています。
⎯⎯オンラインストアの操作性に対して、具体的にどのような声があったのでしょうか。
特によくいただいていたのが、「カテゴリーがわかりづらいので、商品を探しにくい」というご意見です。現在の取扱商品をざっくりと分けると、昔から展開していた職人さん向けのワークウェアと、近年増加している一般向けのカジュアルウェアのふたつになりますが、これまでのオンラインストアではそれぞれのカテゴリーが混在しており、作業服を探しているのにカジュアルウェアが出てきてしまう、といったことが頻繁に起きていました。そこで今回リリースしたアプリでは、商品の入り口を「作業服」と「それ以外のカジュアルアイテム」で明確に分けました。また、ワークマンでは「ユニセックス」という表現を多用する傾向があったのですが、それがかえって探しづらさに繋がっていた面もあるため、メンズ・ウィメンズもはっきりと分けるように改善しています。


ワークマン公式アプリ(スクリーンショット)
Image by: ワークマン
EC・アプリは会社全体の課題を解決するツール
⎯⎯現在のEC事業の課題について、そしてアプリ導入がその解決にどう寄与するのでしょうか。
我々は、EC単体の課題を解決するというより、「会社全体の課題に対してECをツールとしてどのように使うのか」という考え方をしています。会社全体の課題のひとつが、サービスの平等性です。ワークマンはフランチャイズ業態の店舗が多いので、すべてのお客様に画一的なサービスを提供することが難しいという現状があります。ですので、できるだけ多くのお客様に対して平等なサービスや情報を提供するために、ECやアプリを活用していきたいですね。また、「商品は良いと分かったけれど、どこでいつ買えるのか」という情報の不透明性も大きな課題です。我々はECやアプリをこのような課題を解消するツールにしていきたいと考えています。
⎯⎯具体的に、ECやアプリでどのような情報提供を考えていますか?
アプリはリアルタイムの情報発信に強みがあるので、将来的には店舗ごとの入荷通知ができたらと考えています。オンラインストアに在庫がなくても、お客様の最寄りの店舗に商品が入荷したら「近くのお店で買えるようになりました」という形でお知らせする。また、アプリはブラウザよりもクローズドな空間なので、ワークマンファンの方に向けたコンテンツを提供していく拠点にもなると考えています。例えば、店舗でのイベントや展示会の様子を、会場に来られないアプリ会員様限定で配信し、オンラインで参加しているような体験を提供するなど、SNSとも連携させながらファンづくりの起点にしていきたいです。

ワークマン2025年秋冬新製品発表会でのプレゼンテーション
Image by: FASHIONSNAP
戦略の核は店舗取り置きサービス
⎯⎯今後のワークマンのオンライン戦略の柱として、特に注力していくポイントはありますか?
オンラインストアで店舗の在庫を確認してウェブから取り置きの申し込みができる「店舗取り置きサービス」には、今後はさらに注力していきたいと考えています。お客様が店舗へ足を運んでいただくための仕組みとして、オンラインストアをもっと強化したい。そう考えると、ワークマンのサイトは「オンラインストア」という名称は相応しくないのかもしれません。あくまで全国の店舗がワークマンのビジネスの軸である、という考え方は揺るぎません。
店舗取り置きサービスは2022年のサイトリニューアル時から開始したのですが、当初の対象商品は5アイテムほどでした。それが今では約1500アイテムまで拡大しています。現在、オンラインで店舗の在庫を確認してくださる方は、年間で1000万人ほどいらっしゃいます。この方々が実際にどれだけ店舗に来てくださっているか、まだ正確なデータは追えていないのですが、これだけ多くの方に利用いただいているという事実は、私たちの大きな強みだと考えています。
⎯⎯ECやアプリを通じて、多くの顧客データや購買データが得られるのではないでしょうか。
我々はこれまで商品中心のビジネスを行ってきたので、顧客の行動や特性などのデータを運用するのが非常に苦手なんです。現状ではそういったデータをほとんど活かせていないので、今後は良い方法を検討していきたいですね。
⎯⎯今後のEC事業で、他に計画されている施策はありますか?
店舗をうまく活用するという点では、お店の在庫をどう動かすか、お客様にどうやってお店に来ていただくか、ということに加えて、お客様から店舗に寄せられる問い合わせ対応の一部をオンラインで担うことも考えています。「いつどこで販売されるのか」といった問い合わせは非常に多いので、そこをアプリやECが担うことで、店舗の負担を軽減し、お客様の利便性を高めたいです。
アプリは2年間で500万ダウンロードが目標、EC化率向上は目指さない
⎯⎯今後アプリでどんな新機能が追加されるのか、楽しみです。
まだ構想段階ですが、いくつかやりたいことがあります。ひとつは、スタッフコーディネート紹介のようなコンテンツです。特にショッピングモールに入っている店舗には、おしゃれなスタッフがたくさんいるので、彼らの着こなしを発信していきたいです。また、お客様の位置情報データを活用し、「お客様が今いる地域の今日の気候だと、この商品がおすすめです。お持ちでなければ、こちらの店舗で買えますよ」といった、スマートフォンならではの機能を活かしたレコメンド機能も実現させたいですね。この機能はアプリとの相性が非常に良いと考えています。そして、商品ページの充実も課題です。ワークマンのアイテムは似たような機能を持っているものが多く、「これとこれは何が違うのか」「自分はどちらを買うべきか」ということが分かりにくいというご意見もいただきます。レインウェアは特に違いが分かりにくいので、それぞれの商品の特性や、どんな方に最適なのかを、もっと分かりやすく表現したいですね。
⎯⎯アプリの導入にあたり、ダウンロード数などの目標はありますか?
2年間で500万ダウンロードという目標を掲げています。非常に高いハードルではありますが、公式リリースされた9月1日時点で約2万ダウンロードと、手応えを感じています。もちろん、ただダウンロードしていただくだけでなく、継続して使っていただかなければ意味がありません。そのためには、便利な機能や魅力的なコンテンツを提供し続ける必要があります。
⎯⎯今後のEC化率向上についてはどうお考えでしょうか?
いわゆるアパレル系のECサイトは、EC化率が20%を超えているところが多いかと思います。ですが、これまで申し上げたように、ワークマンにとってECはツールのひとつですので、今後もEC化率の数字を直接的な目標に掲げることは考えていません。あくまでも店舗を軸に、お客様の体験を向上させるためのアップデートを続けていきたいですね。

ワークマン EC事業部Eコマースグループ 新居大地 マネジャー
Image by: FASHIONSNAP
1980年神戸市生まれ。関西学院大学社会学部、エスモードインターナショナルパリ校卒。ファッション企画会社、ファッション系ITベンチャーを経て、フリーランスとして活動した後、FASHIONSNAPに参加。ファッションを歴史、文化、政治、経済などの視点から分析し、知的好奇心を刺激する記事を執筆することが目標。
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