Image by: FASHIONSNAP
"大人だけど魔法少女になれるネイルサロン"を謳うのは高円寺にある「チャーレムネイル(charlem nail)」。そこで2020年1月からキャリアを積み始めたネイリストゆずは、2021年12月まで「コム デ ギャルソン(COMME des GARÇONS)」でパタンナーとして勤務していたという。パタンナーとして13年間にわたって業界に従事していた人物がなぜ、ネイリストに転身したのか。本人に話を聞いた。
ゆず
パタンナー歴13年のネイリスト。2021年12月にコム デ ギャルソンを退社。その後、2022年1月より高円寺のネイルサロンに勤務。5月からは高円寺にある「チャーレムネイル」と「念ネイル」を交互に勤務する予定。
公式インスタグラム
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ーゆずさんはコム デ ギャルソン(以下、ギャルソン)のパタンナーとしてファッション業界に従事していたと聞きました。小さい頃からパタンナーを志していたんですか?
そうですね。小さい頃からビーズで何かを作ったりすることが好きで、中学生くらいから家にあるデニムを解体したり、洋裁本を買ってきて実際に作ったりしていました。自然と「パタンナーは私に向いているだろうな」と思えたし、高校生になる頃にははっきりと「パタンナーになる」と決めていました。
ーでは高校卒業後の進路も明確に決まっていた?
専門学校に行きたかったんですけど、父に「大学だけは出てくれ」と言われて。普通の四年制大学に進学しました。
ー学部は?
法学部です、全然洋服関係ないですよね(笑)。大学卒業後にエスモードジャポンに進学しました。
ーなぜ進学先にエスモードジャポンを選んだんでしょうか?
当時はエスモードジャポンの全盛期というか、どの知り合いに進学先を相談しても「エスモードは即戦力になれるからおすすめだよ」と言われたんです。文化服装学院の説明会にも参加したんですけど、展示されている服を実際にみた時に、デザインは派手だけどパターンにあまり魅力を感じられず……。「ここは私には向いていないかもな」と思ってエスモードジャポンに進学しました。
ーギャルソンには新卒で入社?
いいえ、三陽商会にパタンナーとして新卒入社しました。
ー新卒ではギャルソンの入社試験を受けなかったということですか?
パタンナーを志した頃から「ギャルソンの服がどのように作られているのかを知るまでは死ねない」と思っていたくらいなので、もちろん受けました。
ーギャルソンの入社試験の結果は?
社長面接までしました。でも当時、私は三陽商会からも内定が出ていたのでどちらに入社するべきかを迷っていて。
ーギャルソンへの強い情熱がありながら、入社を迷っていた理由は?
「いきなりコム デ ギャルソンに入社してしまうと、パターンの応用編をやることになる」というのは専門学生の時から聞いていて。「他でパターンの勉強をしてからの方が私はギャルソンで役に立てるんじゃないか」と。そんな時、社長面接で川久保さんに「あなた、どう生きたいの?」と言われたんです。
ーなんと答えたんですか?
パタンナーとしてどうなっていきたいか、ということを話したら「そうじゃなくて、人間としてどう生きたいのよ」と言われて。もうその時には、パタンナーになることしか考えていなかったから「え?」みたいな(笑)。社長面接を受けている時は、既に三陽商会から内定を頂いていたので「三陽商会で勉強してからギャルソンに来た方がいいですか?」と川久保さんに聞いたら「私はあなたのコンサルタントじゃないのよ」と言われて、「あ、ダメだ。今行っても多分何もできない」「人間としてどうなりたいのか、という問いの答えがみつかるまではギャルソンには入れないな」と思いました。
一次面接をしていただいた渡辺淳弥さんたちにも「提案する人と作る人、ギャルソンには2種類いるけど両方できたらいいよね」みたいなことを言われて。そしたら私はその両方ができる人になりたいな、と。三陽商会には「パターンの三陽」というイメージはあったので、しっかりパタンナーとしての基礎を実践的に経験してから、ギャルソンで基礎を崩すという方が自分の中で納得がいく気がしたんです。
ー三陽商会には何年在籍していたんですか?
4年目に入った時に辞めました。入社した時から「3年経ったらギャルソンに行く」と周りにも言っていました。言わないと実現しないし、と。生意気ですよね(笑)。なので、休みの日も会社に行ってパターンを自分で研究するなど、三陽商会にいた3年間はずっとパターンの勉強しかしていなかったです。普通の服ばかりを作っていたら今度はクリエイションができなくなってしまうので、家ではもう少し自由なものづくりをするようにしていました。
ーそもそもどうしてそんなにギャルソンにこだわっていたんですか?
私がパタンナーとしてやりたかったことというのが、ギャルソンのものづくりに似ている気がしたからです。パタンナーは、デザイン画で描いたものを忠実に具現化していく製作方法が一般的ですが、私はパターン研究の先にあるものづくりがしたかった。なぜなら、描けるものを作っても新しいものは何も生み出せないんじゃないかと考えていたからで。例えば、正方形の布からどう作るかというアプローチから入って、その制限の中でできたもののほうが個人的には魅力的に感じるんです。そういう「最初から完成形を目指さずに、自由に手を動かしていたらできたもの」という服作りをしているのが、私にとっては「コム デ ギャルソン」というブランドだったんです。
ーギャルソンに入社した経緯を聞いて「すごい計画性だな」と思いました。ネイリストになることも計画的だったんでしょうか?
いや、全く(笑)。爪もすぐ噛んでしまうので深爪だったくらいで。爪が短くないと指先で触る生地の感覚がわからないし、爪が短いことは自分のアイデンティティだと思っていました。
ーではどうしてネイリストの道が開けたのでしょうか。
爪を噛みすぎて歯並びが悪くなってきたんですよ。なのでギャルソンに入社して、お金が溜まった頃に1年間かけて歯を矯正したんです。でも、どうしても噛むことが止められなくて。そしたら、友達に「ジェルネイルは硬いから多分噛めないよ」と教えてもらったんです。
最初はこんなに小さい爪でネイルサロンに行ってもいいのかな、と思っていたんですけど、施術してもらったら狙い通り爪は噛めないし、何よりも気分がアガることに気がつきました。ギャルソンですごい忙しい時も、爪を綺麗にしているだけで結構頑張れたりもした。そうこうしていたら、やりたいネイルのデザインが段々と無くなってきて。「もっとこういうのがあればいいのに」と考えるようになってきたのでネイルの勉強をしてみようかな、と。でも、自分で自分の爪を塗るために極めようと思っただけで、ネイリストになるとは夢にも思っていなかったです。
ーそれが今ではネイリストに。
ギャルソンでは、1ヶ月アイデアを出し続けても形にならない、なんてことはしょっちゅうあって。本当に「何やってんだろう、私」と思っていました。だからこそ、着実に前に進んでいる実感が自分自身で持てるものに憧れたのかもしれません。ネイルは勉強すればした分だけ、着実に目に見えるスキルアップができるものだと思うので。
ー転職を考えた時、自分のブランドを立ち上げようとは思わなかった?
考えもしませんでした。服をやるんだったらギャルソンからは離れないし、ギャルソンから離れるんだったらもう服はやらないと思っていたので。やっぱりギャルソンのものづくりって楽しいし、それ以上のものはないなって。
ー断言できるんですね。
アパレルメーカーも経験しているから断言できるのかもしれないですね。「ギャルソンに残るか、服を作ることを止めるか」。これはずっとはっきりしていました。
でも、ギャルソンのものづくりとネイルには近いものがあると感じています。いま私が在籍している「チャーレムネイル」のオーナー いおりさんという人は特殊で、「イメージネイル」というのを売りにしている方なんですが特に似ているな、と。
ーイメージネイルというのは?
例えば、通常のネイルサロンだとサンプルとなるチップが並んでいて、そこから好みのものを選んで施術してもらうと思うんですけど、いおりさんの場合は口頭でイメージを伝えると、その場で考えて爪を塗ってくれるんです。一度、お気に入りのコレクション写真をイメージで持っていって施術してもらったことがあるんですけど、その時もその場でパーツをレジンで作り上げてくれたんです。その場で考え、提案し、今までの知識や経験を総動員して創作するということは、ギャルソンでパタンナーとしてやってきたことと同じなんですよね。だから、ネイリストになるならチャーレムネイルで働きたいなと思ったし、入ることができないんだったらネイリストにはならないと決めていました。
ーその場でイメージを作り上げるという制約は、先程の「正方形の布という制限の中でどうクリエイションをしていくのか」という話にも似ていますね。
そうですね。いおりさんの仕事を見て「服って私には大きすぎたのかな」と思ったんです。爪という小さい中に私の世界観を詰め込む方が性に合っているのかもしれないな、と。それに、自分が作ったギャルソンの服を着ている人を見かけたら嬉しいけど、やっぱり成果物は会社のものだから。厳密には自分だけで作り上げたものではないし、ただやった気になっていただけなのでは?という疑問が浮かんだんです。その点、ネイルは喜んでくださる人が目の前にいるし、お客様の反応が鈍かったとしても直接自分に伝わる。自分だけでどれくらいできるか、勝負してみたくなったのかもしれませんね。だったら個人として0から挑戦してみよう、と。
ーネイリストになるためには資格が必要ですよね?どれくらいの期間をかけてどれくらいで取得したんですか?
1年くらいですね。せっかくなら極めたいと思って、プロコースみたいなものに通っていました。
ーギャルソンでパタンナーとして働きながら取得した?
そうですね。平日は働いて、土日で学校に通いました。
ー「何事もやるなら極めたい」と思うのは幼少期からですか?
そうですね。なんでも「0か100か」で考えちゃうのは小さい頃からで、性格だと思います。一番私の性格を体現しているのは、FF※をプレイする時はカンスト※するまでやりこんじゃうことかな(笑)。自分で見つけたやりたいことは全部やりたいと考えているんですけど、やりたいことが色々ありすぎて大変です。
※FF:ロールプレイングゲーム「ファイナルファンタジー」シリーズの略称。
※カンスト:ゲーム内でそれ以上の計測が不可能な状態になること。「カウンターストップ」の略称。
ーゆずさんはクリエイティブな仕事という大きい枠組みの中で、他業種転職されています。実際に今、他業種転職に悩んでいる人がいたらなんと声を掛けますか?
みんなあと一歩をどう踏み出そうか迷っていますよね。もがいて、迷っていたとしても「これから何でもできるじゃん!」と背中を押してあげたいかな。その気になれば本当に何でもできるし、悩むこと無いよ、と。私自身の話でいえば、私もまだまだやりたいことがあるし、何でもできると思っています。
(聞き手:古堅明日香)
■チャーレムネイル
住所:東京都杉並区高円寺南4-24-9 高円寺南中央ビル305
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