エルメネジルド ゼニア XXX 2021年ウィンターコレクション。
Image by: Ermenegildo Zegna
2021-22年秋冬シーズンのミラノ・メンズ・ファッションウィークが幕を開けた。トップバッターを飾ったのは「エルメネジルド ゼニア(Ermenegildo Zegna)」。コロナ禍における人々のライフスタイルの変化を投影したクチュールコレクション「XXX」の新作は、場外超えの先頭打者ホームランだった。
(文:ファッションジャーナリスト 増田海治郎)
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うーん、凄い。凄すぎる。初のデジタル開催となった2021年春夏は、個人的にはゼニアがミラノのナンバーワンだったが、デジタルでの見せ方という点で前回を遥かに凌駕している。
正面、俯瞰、ローアングルと様々な角度から複数のカメラがモデルを追い、頻繁にスローモーションを差し込む。このスローモーションの効果が抜群で、細かなディテールや人が着て歩くことで生まれる服の揺らぎを明確に確認できる。服のディテールやシルエットが見えるようで見えないのは、前シーズンの初のデジタル開催で指摘されたデジタルの欠点だが、この課題を軽やかにクリアしている。単にランウェイショーを記録したものではなく、流れるように場面が切り替わるダイナミックな構成も、上質な映画の域に達している。
コレクションのテーマは「THE (RE)SET」。コロナ禍で人々のライフスタイルが劇的に変化し、生活と仕事の場がシームレスになった世界に相応しいテーラリングを(再)解釈した、というわけだ。
その主役となるのが、部屋着のローブとテーラードを融合させた"ローブスーツ"。ショールカラー&ベルト付きのローブジャケットは、本来なら家のソファでくつろぐための服だが、ショート丈にして軽やかなテーラード仕立てにすることで"内外共用"のシームレスな服に仕上げている。同様にサルトリア仕立てのパジャマスーツも、ウィズコロナ時代の新しいテーラードとして満点の出来だ。
千鳥格子と斜めストライプのウールを除けば、ほぼ無地でコレクションが構成されているのも特徴のひとつ。身頃と袖がシームレスに繋がったジャケットやヘムにギャザーを寄せたブルゾンなど、ディテールを極限まで削いだミニマルなピースが目立つが、無地でこれだけ個性と新しさを作れるのは流石というほかない。同型の素材、色違いの提案が多いのは、コロナ禍のビジネス的な対策のひとつとも解釈できるが、より1型ごとの完成度を高めようとした結果だと個人的には解釈している。
アウターに合わせるインナーは、首元を締め付けないタートルやニットで、堅苦しい印象を与えるシャツやタイは皆無。カラーパレットはベージュ 、ブラウン、グリーン、グレーなどの柔らかい色味、素材はジャージー、上質なフェルトカシミヤ、ムートンなどが中心となる。
ショートフィルムの演出に話を戻す。中盤の小さな部屋を行き来する演出は、コロナ禍の人々のライフスタイルの変化を表現している。寛ぐためのリビング、寝室、ミュージックバー、撮影スタジオなどが部屋ごとに区切られていて、モデルはシームレスに往来する。それらは全て隣り合わせで、それらを同じ服で行き来する時代が今、ということなのだろう。
最後は「THE (RE)SET」と書かれたタブロイド紙をモデル全員が広げてフィニッシュ。内と外が明確に分かれていた時代、プライベートと仕事が明確に分かれていた時代の終焉と、新しい時代の到来……。その人類にとって決して小さくない変化を、アレッサンドロ・サルトリは映像と服で分かりやすく表現したのだ。
文・増田海治郎
雑誌編集者、繊維業界紙の記者を経て、フリーランスのファッションジャーナリスト/クリエイティブディレクターとして独立。自他ともに認める"デフィレ中毒"で、年間のファッションショーの取材本数は約250本。初の書籍「渋カジが、わたしを作った。」(講談社)が好評発売中。>>増田海治郎の記事一覧
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