;

ファッションジャーナリスト

モードノオト16.10.19

モードノオト16.10.19の画像

長い一日だった。いや、正直なところ、長い酒浸りの一日だった。もう酔えなくなったら己の魂は腐ってしまったも同然、と云う洒落た文句が、ある小説に登場するのだが、長年私の心の重荷のひとつになっている事実でもある。「朝は夕方より賢い」とは、ロシアの諺(ことわざ)だ。その通り。しかし私には、朝はまだ遠きにあり、酩酊しながらも、この稿を起こしている。(数時間がとこ眼をつむって、その後に読み返してみたが、誤字脱字を改めただけで、敢えて勢いはそのまましておいた)。酒に酔っているだけではない。「ミントデザインズ(mintdesigns)」に酔い痴れてしまったのだ。否、やられた。クールなショーだった。貫禄、実力、否、余裕?素晴らしい。三人体制でデザインしていたデビュー以来追いかけてきたが、ここまでクールなイメージは、正直、持ち得なかったと思う。何が変わったのか?ショー終了後の舞台裏で勝井北斗に訊いたが、巧くかわされてしまった。発表の場を海外(パリだろうか?)に移す時期も、そう遠くはないのだろう。

mintdesigns-2017ss-20161019_017.jpg

ハッピーな星柄。フリルを押さえつける黒のグログランテープ。傷痕のような靴紐のレースアップ、地下道の壁に刻まれた落書き...。今様なビッグシルエットを引用せずとも、確(しか)と「いま」を描出している。そして、あの無垢、あの童心と云ったらない。ここでは、ショーの内容をクドクド記すつもりは微塵もない。それは、他の報告記事を参照されたい(こう云う生意気なことを云うから疎まれるのだが、それは端より承知している)。物事の顛末を詳(つまび)らかに語ってもらうよりも、暗示される方が私は好きである。何もかも説明されると、心は満足して、想像力がその翼を使おうと云う欲求をなくしてしまうからだ(利いた風なことをぬかすなボケ、とお叱りが聞こえてきそうである)。アンダーグラウンドだが、ジトっとしたダルな雰囲気はない。現実に密着しながら、日本的湿潤の風土から断絶して、あたかも乾いた空中を自由に滑走する、そんなムードに満ちていた。

地下の穴蔵(実際は恵比寿のリキッドルーム)に響くアシッドなフォービート。臓腑を抉(えぐ)る重低音。アンダーグラウンドな匂い。色柄のブルース。ストリート?そう、ストリート。しかし、交流電流を直流電流に変換するかの如き、mintdesignsの変圧器を通した、mintdesigns流儀のストリートの重ね着は、ラジカルなスピードを纏っていた。一着の服で問うのではなく、飽く迄もスタイリングが今回の勘所である。ブランドのお値打ちである色柄のセンス(愛らしく、ときに弾けるような魅力)に比して、スタイリングが弱いと云う憾みがあった。ややもすれば、野暮ったく見えるスタイルを、グラフィックの意匠が救うシーズンもあった。しかし今回は、どうだろうか(詠嘆が続くが辛抱して欲しい)。いつも口にするのだが、プレタポルテの基盤は「速度」即ち、つねに「新しさ」であり、一過性であり、その速度(鮮度と換言出来るだろう)を、いかにクールな価値に転換するかが勝敗の分かれ目である。極論するならば、一着のドレスではなく、ラジカルな「スピード」を着てもらいたい、と云う作り手の思いがひしと感じられたのである(間違った鍵盤を叩いているようなら勘弁願いたい)。「鍛える」と云うことは、本来、熱した鉄を打ち、水を以て冷却するを繰り返し、鉄を上質な鋼にすることを云う。言葉も鉄と同じで、鍛えようと思えばいくらでも鍛えることが可能で、鍛えられた言葉は堅固にして鋭利、しかも柔軟性に富んでいて、歳月に堪えてびくともせず、なまくらな言葉には望み得ないような、思想の導体としての役割を果たす。服のデザインも然り、と私は思っている。

>>mintdesigns 2017年春夏コレクション

nocturne-2017SS-20161019_002-thumb-660xauto-609224.jpg

久方ぶりに懐かしいひとに会った。鈴木道子である。「Y's Red Label」のチーフデザイナーを務めていた彼女がヨウジヤマモトを退社後、オリジナルブランド「ノクターン#22 イン シー シャープ マイナー オプト ポッス(Nocturne #22 In C Sharp Minor, Op. Posth.)」を立ち上げてから、早いもので七年目を迎える。その彼女が、自社スペース(普段はカフェとして営業しているらしい)でショーを発表した。代表取締役の山本雄司をはじめ、当日のショー演出を手伝っていた永野孝司らとも旧知の間柄である。メンズ二体を含め合計三十八体は、手の仕事を感じさせるものだった。肩で着るロングシルエット、着物合わせの仕立て、切り裂いたままの仕様、紳士服仕立てのテーラード、作業着のようなサロペット、テロっとしたレーヨンの生地の流れ、モノクロームと鮮やかな色彩の戯れ、朧月夜を描出した絞り染め、オリエンタルな更紗のパッチワーク(インドネシアのバチックを接ぎ合わせた)...。いったん身体に沁み着いた作法(さくほう)は、そう簡単には拭い去ることは出来ず、服と向き合う心構えは、当時のまま変わらない。節を曲げずに奮闘している姿は大いに買う。ただ、よしんば、この道を今後も歩むのであれば、シリアスさを抑え、その代わりにシニックな表現(扱う対象を揶揄する余裕)が加わると素敵に見えるのではないだろうか。云うは易(やす)しではあるけれども。模倣や回顧ではない過去との対峙の仕方を体得するには、いまだ時間が必要なようである。(文責/麥田俊一)

>>Nocturne #22 In C Sharp Minor, Op. Posth. 2017年春夏コレクション

【ファッションジャーナリスト麥田俊一のモードノオト】
モードノオト16.10.17
モードノオト16.10.18

麥田俊一