FASHIONSNAPの新春恒例企画「トップに聞く 2024」が今年もスタート。本格的なアフターコロナを迎えた一方で、物価上昇や値上げラッシュが続き、以前にも増して企業の変革が求められている。本企画では2023年の経営戦略の進捗と、2024年のビジネス展望を聞くとともに、これまで以上に早いスピードで変化する社会の中で各企業が取り組んでいるイノベーション像を深掘りしていく。
1本目を飾るのは、「ゾゾタウン(ZOZOTOWN)」を展開するZOZOの澤田宏太郎代表取締役社長兼CEO。ファッションECとしては日本最大級の規模を誇る同社は近年、「売る」以外の施策にも力を入れている。2024年はゾゾタウン20周年の節目。EC企業からの進化を目指す同社の現在地は。
■澤田宏太郎(ZOZO代表取締役社長兼CEO)
1970年生まれ、神奈川県出身。早稲田大学理工学部を卒業後、NTTデータに入社。その後、コンサルティング会社2社を経て、2008年5月にスタートトゥデイコンサルティング(2013年8月にZOZOの旧社名スタートトゥデイに吸収合併)を設立し、代表取締役に就任。2013年6月にZOZO取締役に着任。2019年9月から現職。2022年8月からはZOZOの新規事業創出やテクノロジーの研究開発、プロダクト開発を担う完全子会社 ZOZO NEXTの代表取締役CEOも兼任している。
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完全無料の“超パーソナルスタイリングサービス”に手応え
―2023年はどんな一年になりましたか?
いろいろなものが花開き始めた一年かなと思います。我々は「服を買うならゾゾ」というところから「ファッションのことならゾゾ」に領域を広げるために「買う以外」の施策に注力しています。例えば、「ファーンズ(FAANS)※」という、ショップ店員さんによるコーディネート投稿やその成果確認、またゾゾタウン経由で入った実店舗在庫の取り置き依頼対応の際に使っていただける販売サポートツールもアカウント数が今年4月と比較して1.5倍になるなどひとつ盛り上がってきていますし、昨年から始めた「メイドバイゾゾ(Made by ZOZO)※」に関しても生産型数が2022年度の実績と比較して1.9倍に増えました。なので、売る以外のところも着実に伸ばせた一年だったかなと思います。
※FAANS:ショップスタッフの販売サポートツール。ZOZOTOWN経由で入った実店舗在庫取り置き依頼への対応に加え、WEARやZOZOTOWN、ブランド自社ECにコーディネートを投稿したり、コーディネート投稿経由のEC売上や送客数、閲覧数などの成果を確認することができる。
※Made by ZOZO:余剰在庫問題の解決を目的に立ち上がった生産支援プラットフォーム。ゾゾタウン(ZOZOTOWN)上で受注販売を行い、受注した後に生産工程に入るため、返品などの特別対応を除きブランド側は在庫を積まずに商品を生産することができる。
―初のリアル実店舗「niaulab by ZOZO(以下、似合うラボ)※」も昨年オープンし、話題を集めていました。その後の手応えについてはいかがですか?
この1年で得られた知見は大きいですね。実際にそこで得られた知見をどう展開するのかは、来春頃におそらく発表ができるとは思います。
※niaulab by ZOZO:表参道に昨年12月にオープン。完全無料で、ZOZO独自のAIとプロのスタイリストの知見を掛け合わせ、2時間以上をかけてマンツーマンで接客を行うという“超パーソナルスタイリングサービス”に特化した業態として話題を集めた。
―似合うラボは“超パーソナルスタイリングサービス”を打ち出しながら、現時点では完全無料で展開しています。その後のアップデートがあまり聞こえてこないので、進捗については純粋に気になっています。
一番お伝えしたいのは、ファッションの好みや似合うスタイルを可視化することに対するお客様のニーズはものすごく高いということです。体験されたお客様には最後にアンケートをとっているんですけども、「満足」と回答する人がほとんど。「いろいろなものに手を出してファッション迷子になっていたけれど、第三者の方にアドバイスしてもらうとすごくすっきりする」「これを着れば、毎日気持ち良く過ごせるんだというのがわかった」といった声も届いていて、サービスに対する価値を改めて感じましたね。応募枠は限られているので今も月単位で事前予約を受け付けているのですが、応募数は毎月あまり変化がありません。まあまあの倍率ですが皆さん諦めずに応募してくださっています。
―主な利用者層は?
8割ほどが女性で、想定よりも20代前半の若い方が多いです。おそらくですが、30代以上になると自分のスタイルが確立されてくるじゃないですか。なんとなく自分の好きなものや似合うものがわかってくる。そこに至るまでに迷子になっている方がその若い世代に一番多いと見ています。でもいろんなスタイリングを探るのがファッションの愉しさであり、ファッションを愉しんでいる層であるとも言えると思います。そういう方々に対してスタイリストの方がアドバイスをしたり、AIによる分析があったりというところがすごく価値のある体験になっていると捉えています。
―完全無料は今後も継続するのでしょうか。
そうですね。あくまでも実験店舗なので、その位置付けである限りは基本的にはお金をいただくことはないと思います。
―似合うラボでの体験を経て、実際に購入には繋がっているのでしょうか。
はい。似合うラボでは店頭で販売はしておらず、試着したアイテムのゾゾタウン上の販売ページをご案内するだけなのですが、「ゾゾを好きになっていただく」という効果はありそうだなと思っています。
―似合うラボの利用者はゾゾタウンの既存ユーザーが多いのでは? すでにゾゾタウンを好きな人が利用されているイメージがありました。
似合うラボ体験後のゾゾタウンにおける購買頻度も追いかけているんですが、購入頻度が上がる傾向があります。そういった意味で「よりゾゾを好きになっていただけている」のではないかと。そういった成果を事業としてどう活かせるのかは、これから形になっていくと思います。
ゾゾタウンのユーザーは“いい人”が多い
―今年も暖冬傾向ですが、商況はいかがでしょうか。
夏はとにかく暑い日が続いたので苦労しましたね。Tシャツしか売れません、みたいな。いま、ようやく寒くなってはきたんですが、予報としては気温がまだ高止まりだったりするので、週単位で気温と追いかけっこしています。それを基にMDやプロモーションを機動的に修正していくというやり方です。我々はEC企業なので、機動力をどれだけ活かせるかが勝負です。それこそさっきも打ち合わせしてきたんですけど、AIによる売上予測みたいなものもかなり充実してきているので、その辺の強みは活かせていると感じています。
―コスメ専門モール「ゾゾコスメ(ZOZOCOSME)」は今上期に2桁成長しています。
コスメはおかげさまでブランド数はすごく増えてきていて、それなりの売上も叩き出しています。「取扱高3桁億円」という目標に関しては今期中に届くと思うので、ここから次のステップですかね。
―「次のステップ」とは?
これまではアパレルを買っていただく方に対して、コスメも買っていただくプロモーションは実施してきましたが、これからはあわせ買いではなく「コスメを買うならゾゾタウン」というところまで持っていかないと、この成長の角度は保てない。コスメサイトとしての“キャラ立ち”みたいなところに注力する必要があると考えています。
―「キャラ立ち」とは具体的に?
今年11月にレビュー機能を導入しましたが、あれは我々としてはコスメ売り場における「最低限の条件」でした。アパレルはコーディネート画像1枚にしてもモデルの体型や着用シーンなど、情報量を多く得ることができるのに対し、コスメの画像は商品だけになってしまう。それが並んでいても情報量はすごく少ないんですよ。だからこそ、ユーザーからの口コミ情報が必要です。だいぶ丁寧に開発に取り組んだので時間はかかってしまったんですが、レビューが充実して初めて売り場としてのベースができあがるので、これから「商品を売る」ことと「レビュー」の掛け算でキャラ立ちができると考えています。
―レビュー機能導入から1ヶ月。積極的に投稿されているのが伺えました。
うちのユーザーさんは、“いい人”が多いんですよ。
―変なことは書かない?(笑)
そうです(笑)。昔、「ゾゾピープル(ZOZOPEOPLE)」というSNSがあったんですけど、その時も意外と荒れることがなかったんですよ。なので、その辺はちょっと期待しています。カスタマーサポートに入ってくる情報も応援コメントが多く寄せられていますし、すごくありがたいです。
―レビューは数と質が重要になってきます。
レビューを集めるための売り方も考えています。将来的にはアットコスメさんのような、人けがある形にしていきたいなと。
―アットコスメとの差異化も課題だと思います。
僕らは「ECでモノを売る」ことへの自信はすごくあるので、そこは問題ないと思っています。
―ブランド数では700以上を取り扱っていますが、将来的にはどの規模まで拡大を目指していますか?
具体的な数値はありませんが、まだ足りないですね。アパレルブランドは少ないところから、今では約 9000ブランドまで増やしました。「増やせば増やすほどいいことがあるね」というのはアパレルで育ててきた経験を踏まえても感じています。やっぱり、選ぶ楽しみはお買い物の楽しみなんですよね。3つの中から1つを選ぶのと、10の中から1つを選ぶのとでは、楽しみが違うと思うんですよ。 ただ、100から1つを選ぶとなると、今度は逆にストレスになる。そこはパーソナライズで検索結果の並び順の気持ち良さみたいなものが調整できます。なのでコスメもブランドは増やせるだけ増やしたいと考えています。
―最近は「カール・ハンセン&サン(Carl Hansen & Søn)」のポップアップを開催するなど、アパレル・コスメ以外のカテゴリーにも力を入れているように感じています。家具を新たなカテゴリーとして展開することは視野に入れていますか?
決まっていることはありません。ファニチャー系は昔から話にはよく出てくるんですが、やるなら大型家具を一緒に売らないとあまり意味がない。そうなると物流の仕組みも変わってくるので。
―カテゴリー展開への意欲はありますか?
もちろんありますし、ビジネスとしての可能性もあると思っています。「無印良品」さんのようにアパレルで成長した企業は、その先に必ず家具の領域に足を踏み入れているじゃないですか。我々としても、そこはやってみたいなという思いはあります。商材をいかにどう広げていくか、という取り組みに関しては、来年後半ごろにもしかしたらお伝えできることがあるかもしれません。
「ZOZO経済圏」で古着のZOZOUSEDが好調
―今年、デザイナーズブランドを取り扱う「ゾゾヴィラ(ZOZOVILLA)」を主に担当する「MORE FASHION部」というチームが新たに立ち上がったと聞きました。ファッション性の高いブランドにより力を入れていくということでしょうか?
あくまでもデザイナーズやハイブランドが埋もれず、フラットに見えるように引き上げるという狙いです。僕らとしては守備範囲を広げながら、ブランドやカテゴリーを分け隔てなく扱うようにしています。先ほど申し上げたように、パーソナライズをすれば、あるユーザーからすると好きなハイブランドが揃っているサイトに見えるし、別のユーザーからすると、手に取りやすい価格で可愛いものが揃っているように見える、という形で、ウェブならではのやり方で店構えはいくらでも変えられますから。
―客層の変化はありますか?
大きな変化はあまりありません。注力している世代としては、10代後半〜20代前半の若年層とママ世代ですね。ママ世代に関しては、キッズ服が埋もれてしまっていて認知されていないのが課題なので、購入につながるように安達祐実さんをキャスティングして動画広告などのプロモーションを仕掛けたりしているところです。若年層でいうと、古着ですね。もちろんラグジュアリーやハイブランドを買いたい人は一定数いますが、可処分所得は多くないので、古着とうまく組み合わせる形でマーケットを捉えるようにしています。
―ブランド古着を扱う「ゾゾユーズド(ZOZOUSED)」は今上期に取扱高で77.6億円(同14.2%増)を計上し、大きく伸長しています。昨今の古着ブームが後押ししているのでしょうか。
古着ブームって、実はマーケットが2つあるんですよね。ひとつは、希少価値があるアイテムのマーケットで、昔からありますが、その裾野がちょっとずつ広がって盛り上がってきている。それが昨今注目されている古着のマーケットですね。
そしてもうひとつの方ですが、希少価値はないけれども、新品と同じような品質でそれなりに安い値段で買えるというマーケット。我々はこちらの古着のマーケットに力を入れているんですが、実はそこを押さえられている会社は少ないんですよ。
そもそも中古販売時の上代価格が1万〜2万円ぐらいはないと、その後のクリーニングコストなどを考慮すると、原価があっという間に買い取り価格をオーバーしてしまうんです。ゾゾユーズドは5000円以下の商品も充実していますし、中には1000円以下で販売しているものもあります。それができているのは、国内では我々だけなのではないでしょうか。
―古着は安定した在庫確保が難しいと聞いたことがあります。収益性を含めて、なぜ成長させることができたのでしょうか。
我々は「買い替え割※」という下取りサービスを展開していますが、ずっと利用者が伸びているんです。たとえば、1年前に買ったシャツが1000円で下取りしてもらえて、その割引で新しいものが買える。その“気持ち良さ”って絶対あるんですよ。他社サービスに持ち込んで売るよりもやはり手数も楽なので。ユーズドを買う層と新品を買う層もずれていないんです。「ZOZO経済圏」の中で“古着が回る世界”が出来上がりつつある。それが僕らの強みですね。
※買い替え割:商品を購入する時、過去に「ゾゾタウン」で購入した商品の中から下取りに出したいアイテムを選択するとその場で下取り金額分が割引される。下取り金額が注文金額を上回った場合、支払い金額は0円となり、差額分はZOZOポイントで支給される。
戦略的に、ZOZOらしく
―ゾゾタウンが20周年を迎える2024年はどんな一年になりそうでしょうか。
今年はどちらかというと、サービスを組み立てる企画の部分における“内部的な進歩”はすごく感じているんですけど、対外的にお披露目できたケースは新たな物流拠点「ZOZOBASEつくば3」のみで、それほど多くはありませんでした。来年は世にお伝えできるものが多い年になるのかなと。
―今年は人事制度や手当、働き方をアップデートした「ZOZO WORKSTYLE」を発表。以前から副業は容認していますが、アパレル領域で活躍されている社員もいらっしゃいます。人材確保への考えを教えてください。
もちろん「人材流出してもいいよ」とは考えていませんが、リターンの方が大きいと思っています。例えば、残念な結果として副業が成功して会社を離れてしまったとしても、つながりが絶えるわけではないですし、そのリレーションから意見や知恵みたいなものをもらえることもあります。ZOZOではないところで何かを経験することというのは、長い目で見ると会社にとってはすごくいいことだと考えていますよ。
―今月、子会社のyutoriが上場しました。M&Aはいまも関心はあるのでしょうか。近年は生産支援としての動きもあるので、工場の買収なども可能性があるのではと思っているのですが。
可能性はあると思いますよ。ただ、M&Aに関してはもう少し戦略的に進めていきたいですね。yutoriに関しては、“ノリ”なところがあったので(笑)。
―“ノリ”ですか?
yutoriとのご縁はある意味で運命的でしたね。コロナに入ってからだったので、対面で会うことなしにM&Aが決まりました。
―それはノリですね(笑)。そのフットワークの軽さもある意味では“ZOZOらしさ”だったりするのかなと思いますが。
そうですね。その辺も含めて、あらゆることで右脳と左脳のバランスみたいなものは考えています。特に、社内の雰囲気や組織づくりの面では。僕自身は左脳派なので「数値・分析が大好き」みたいな感じなんですが、そればかりやっていると、どんどん企業がつまらなくなってくる。なので、右脳派の人間としっかり話をしたり、右脳派がやりたいということを後押ししたりみたいなのは、すごく意識をしています。
ビジネスの話題になると、右脳派は負けてしまうんですよ。なぜなら合理的に説明できないから。直感であったり感覚で物事を捉えるので、それだと人は納得できません。ですが、右脳派の人がいるからこそZOZOの良さが生まれました。なので、僕のような立場の人間が支援してあげないといけないと思っています。
―ZOZOとしての次の目標は取扱高8000億円、アクティブ会員1500万人を掲げています。これはいつまでに達成したいと考えていますか。
長い目で10年以内には達成したいと考えています。
(聞き手:福崎明子、伊藤真帆)
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