最近とあることに気づいた。UXデザイナーポジションへの応募が多いが、そのバックグラウンドがかなり多種多様なのである。
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元々Webデザイナーをしていた人もいるし、マーケター出身の人もいる。デザインとは関係のない学部や職種出身の人もいるし、前職がスタバのバリスタのケースもあった。
UXデザイナーの肩書きがインフレ気味
最近では多くのデザイナーがUXデザイナーになりたがっている。
どうしてそうなってしまったのだろうか?おそらく、その裏には我々デザイナーの悲しい存在価値がある。
企業におけるデザイナーの存在は、テクノロジーやマーケティングなど、「動くか動かないか」や「数字」で判断される分野とは異なり、デザインは常に数値化が困難な分野。その不透明さゆえに、ビジネスのフィールドにおいて我々の仕事はあまり真剣に捉えてくれない壁があった。
そこで出てきたのがデザインとビジネスを融合させ、結果に繋がるデザイン = 「UXデザイナー」という肩書き。その戦略が功を奏し、その重要性は爆上がり。その結果UXデザインのインフレを招いてしまっている。
UXデザイナーの役割多すぎ問題
加えて “UXデザイナー” のその役割と必要なスキルがあまりにも広く、そして曖昧なこともあり、非常にわかりにくいポジションになっている気がする。
仕事内容も、デザイナーと呼ぶにはかなり多くの非デザインスキルが求められる。正直いうと、そもそもこれってデザイナーの仕事なのか?と思うこともしばしばある。
そんなこともあり、そもそも一人のデザイナーがUXデザインに求められる全てをまかなうのは、非現実的なのではないかとも思ってきている。
そもそもUXって何?
このややこしさの根本原因は “UX” という言葉の意味が分かりにくく、人によって微妙にずれているからかもしれない。
なので、まずはUXがなんぞやっていうところからクリアにしていこう。
UXとはユーザー体験の英語訳である “User Experience” を短く、かっこよく表現したもの。その定義としては:
人々が製品に接するとき、そしてその接点から得られる経験そのもの。UXは、成功率、エラー率、離脱率、タスク完了までの時間、完了までのクリック数などの指標で測定される。
が適切だと思う。また、ユーザビリティーの父と呼ばれるヤコブ・ニールセン率いるNielsen Norman Groupによると、
UXは、エンドユーザーと企業、サービス、製品とのインタラクションのすべての側面を包含する
と定義されている。
お気付きになっただろうか?上記の定義のどちらにも “デザイン” という言葉が含まれていないことを。
そう。もうお分かりですね。ユーザー体験 (UX) には、ライター、リサーチャー、プログラマー、情報アーキテクト、マーケター、そしてデザイナーなど、多くの多様な部門や専門家が優れたユーザー体験を生み出す責任を負っている。そしてもちろん、最も重要なのが経営陣の役割だろう。
UXとCXは何が違うの
ここで少し余談になるが、日本語でよく言う「顧客体験」とユーザー体験は同じ意味なのだろうか? この議論をもう少し専門的な言葉で表現すると “UXとCXって何が違うの?” になる。
CXとは “Customer Experience” の省略形で、顧客体験と訳される。それぞれは密接に連動しているが、UXがエンドユーザー、つまり製品やサービスを使う人に焦点を当てているのに対し、CXは顧客に焦点を当てている。簡単に言うと、CX はUXを内包している形になる。
多くの場合、顧客も製品やサービスを使用しているが、場合によっては誰かに代わって製品やサービスを購入している可能性もある。
例えば、多くの「おもちゃ」のメインユーザーは子供である。その一方で、その製品を購入する顧客は親になる。この場合、おもちゃにおけるUXデザインのターゲットが子供になるのに対して、CXデザインは購入する親にも訴求する体験を設計する必要が出てくる。
したがって、顧客が必ずしもユーザーではないことも理解してデザインするのがCXデザインである。
UXデザイン
主にプロダクトにおけるユーザーの体験の質を上げる
CXデザイン
顧客と企業との全ての接点における体験の質を上げる
優れたUXとは?
ユーザー体験の価値を高めるのがUXデザイナーの仕事だとすれば、そもそも何を持って優れたUXと言うのだろうか?
優れたUXは、プロダクトの体験の総合値によってのみ実現される。例えば、Webサイトの読み込みが遅くてユーザーがイライラするような場合は、エンジニアがそれを改善する仕事になる。
コンテンツがユーザーの心に響かない、あるいは価値のある情報を提供できないなら、それはコンテンツライターの責任。また、ニュースレターの解約率が高いのであればマーケティング担当者が解決すべき問題になってくる。
このように、優れたUXを生み出すには、総合的なチームワークが求められる。自ずとUXデザイナーには、見た目の美しさや使いやすさだけではなく、それ以外の多くのポイントに触れる必要があり、自ずとその責任者も幅広い知識と経験が求められる。
なぜUXの改善はデザイナーの仕事になったのか
UXの品質改善には多種多様なタッチポイントの改善が必要なのに、なぜか全てデザイナーの責任とされている節がある。UXデザインのことがちゃんと理解できていない組織は特に。
なぜそうなっているのだろうか?
おそらく、プロダクトのUXを改善するというと、多くの人はまず見た目デザインの改善を思い浮かべる。また、UXとユーザーインターフェース(UI)デザインを混同している人も多い。
それぞれは優れたUXを生み出すための戦略の一部であるが、それだけでは不十分である。
もう一つややこしいのは、多くのデザイン関連の出版物やメディアで、デザインとUXをあたかも同じような分野であるかのように表現していること。実際、デザインとUXは大いに重なりあっている。
でも、ユーザー体験の品質が悪い場合、それはデザインに原因があることもあるし、それ以外の要素を改善しなければならないこともある。
UXデザイナーの力だけでUXのその全てを改善できる場合もあるし、多くの場合はカスタマーサポート、価格帯、営業の態度など、それ以外の要素が原因になってる。
従って、UXとデザインを混同してしまうのは正しい考え方ではない。
UXデザイナーだけで解決できない問題が多い
このように、UXは総合的な体験価値のそれぞれの要素で構成されているとするのであれば、デザイナー1人で解決できるわけがないだろう。
むしろ、組織のすべての部門がUXの理念を念頭に置いて協力しても、優れたリサーチやインタビュー、テストを採用しなければ、どんな製品も最高のユーザー体験を実現することはできない。
と言うことは、デザイナーだけで解決できる範囲は限られており、それ以外の専門家と一緒に物事を進めない限り、ユーザー体験の品質は改善されない。
なので、UXデザインはデザインだけでなく、それ以外の多くの役割の人たちの協力が求められる。
必要なのは総合的なUXチーム
その一方で、組織内の複数の部署に対して「UX改善しておいてね」とだけ言ってても何も始まらない。
そこで、UXリサーチャーをはじめとするUXのスペシャリスト達が活躍することになる。それぞれ少しずつ異なる役割で構成されるUXチームは、もちろんデザイナーもいるが、それ以外も多種多様な役割のメンバーで構成される。
そのUXチームに関する役割は、マーケティングチームの構成に近いのかもしれない。チーム全体で、文章を書き、インタビューし、調査し、記述的・予測的な分析を行う。そして、
私たちデザイナーは、データ、洞察、その他の情報、推奨事項に基づいて、処方的なソリューションを提案していく。
従って、UXデザイナーと呼ばれる人たちは、UXをデザインする仕事というよりも、総合的なUXチームのメンバーの一人となり、デザイナー的観点からUX改善を進める役割になってくると思われる。
UXデザイナーという謎の役職名
ここまで読めばわかると思うが、UXデザイナーの実態は周りのチームメンバーたちの構成によって大きく変化する。
なので、A社のUXデザイナーとB社のUXデザイナーでは、その仕事内容が大きく変わるし、エージェンシーと事業会社でもその立ち位置が全く異なることも少なくない。
UXの改善にはかなり総合的なチームが必要になってくるのに、なぜかUXデザイナーの人が全てそれを行うイメージがいまだに多く広がっている。そして、おそらく本人たちが一番困惑していると思う。
そもそもデザイナーの仕事って何?
ここで一度 “デザイナー” と呼ばれる人たちの仕事内容をおさらいしてみよう。
そもそもここ数年でデザイナーの重要性が高まりすぎて、猫も杓子もデザイナーのキーワードが乱用され、その実態が少しぼやけてきている気がする。
デザイナーというと、絵を描いて形だけを決める仕事だと勘違いしている人が多いのだが、実はそれらは最終アウトプットのごく一部であり、本来デザイナーの仕事というのは、与えられた制限の中で、求められる最大限の結果を生み出すプロセスのその全てに関わる職業である。
実はデザイナーの仕事のうち、3分の2はコミュニケーションであると言っても過言ではない。
デザイナーの仕事の最初の3分の1が、正しい人を探してその人から正しい情報を引き出す事で、次の3分の1が実際のデザイン作業。
そして最後の3分の1が出来たものの情報を正しい人に正しく伝える事。この行程を経て、はじめてきちんとしたデザインが作り上げられる。
つまり、最初と最後の3分の1ずつは、コミュニケーション能力にかかっている。”黙っていても良い物を作れば売れる”という時代は終わり、作ったものの見せ方や、伝え方と言ったマーケティング、プロモーション、プレゼンテーションの部分もデザイナーが考える必要がある。
その普遍的なデザインプロセスが、UXデザインにも密接に関わってきている。
「UXデザイナー > Webデザイナー」は誤り
冒頭で触れたように、元々Webデザイナーをしていた人が、UXデザイナーにスキルチェンジしようとするケースが増えてきている。これは、UXデザイナーの方が市場ニーズが高く、待遇も良いからだろう。
しかし、その安易な考えは危険。
WebデザイナーはUXデザイナーより価値が低いわけではないし、UXデザイナーはWebデザイナーの上位互換でもない。そもそも役割が全く違う。
でも、多くの組織では、WebデザイナーをUXデザイナーの下に配属し、ディレクションをもらってWebデザインをしたり、UXデザイナーを名乗る上司からジュースを買いに行かされたりしている。
そんな日々を続ければ「いつかはUXデザイナーに」って思ってしまうのも仕方ないだろう。
でも口先だけのUXデザイナーは結構多いし、UIデザインも、インタラクションも、ちょっとしたコーディングができるWebデザイナーも増えている。そうなってくると、下手な自称UXデザイナーよりも、手を動かせるWebデザイナーの方がよっぽど価値が高いように思われる。
Webデザイナーは昔からある仕事だから価値が低い。UXデザイナーは流行ってるから待遇が良い。っていう風潮には大きな疑問を感じる。
いつかUXデザイナーも淘汰されていく日が来る
このUXデザイナーインフレもいつかは収束していくだろう。現在の「UXデザイナー」という肩書きは、実質的な技術力よりも雰囲気に近い。
言うなれば、一昔前の「クリエイティブディレクター」的な響きがする。
なんか凄そうな感じはするが、その実態は人それぞれ。そもそも「UXデザイン」自体がかなり曖昧な概念であり、本当にそれはデザインなのか?と聞かれても、はっきり “Yes” と言える自信がない。
ただ一つ言えるのは、UXデザインのフィールドで活躍したいのであれば、専門的なスキルだけではなく、幅広いソフトスキルや非デザインスキルを身につける必要があるだろう。
もうしばらくはUXデザイナーのポジション募集が続くだろうから。
筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.
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