私たちにとって身近で大切なファッションが、世界的に大きな環境負荷をかけてしまっているのはご存知の通り。説明するまでもないが、原材料の生産から製品の製造、流通、消費、廃棄までのすべての範囲で、アパレルメーカーやブランドは環境負荷を少しでも減らすべく様々な取り組みを行っている。皮革や製靴などの産業も含むファッション業界全体が危機感を持って「持続可能なファッション」を追い求めるなか、グループで30を超えるブランドを国内外で約1,400店舗展開するカジュアルファッション専門店チェーン株式会社アダストリアが、同社のサステナビリティ経営を加速させる役割として2020年に子会社のADOORLINK(アドアーリンク)を設立。ファッション業界におけるサーキュラーエコノミーの実現を目指すD2Cブランド「O0u(オー・ゼロ・ユー)」を立ち上げた。「扉を開ける」という社名のもと、約20名のメンバーが取り組む循環型ブランドビジネスの陣頭指揮を執るのが、ブランドディレクター兼メンズデザイナーの近藤満さんだ。渋谷にあるアダストリアのオフィスでインタビューを行った。
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近藤 満さん/ブランド「O0u(オー・ゼロ・ユー)」ブランドディレクター兼メンズデザイナー
大学卒業後、株式会社イッセイミヤケにデザイナーとして入社。グループ系列の株式会社エイ・ネット(A-net Inc.)で津村耕佑氏に師事する。その後、ファーストリテイリング、アダストリアなどを経て、ADOORLINK(アドアーリンク)設立メンバーとして現職。音楽が好きで、最近のトレンドを知る情報源は中学生の娘さん。
堀 弘人さん/H-7 HOUSE合同会社 CEO・ブランドコンサルタント
1979年生まれ。アディダス、リーバイス、ナイキ、LVMHなど世界的に業界をリードする数々の外資系ブランドでマーケターとして、マーケティングディレクターを含む要職で歴任したのちに、大手日系企業 楽天の国際部門にて戦略プロジェクトリーダーとして活躍。2021年、自身の経験を国内外企業の活性に役立てたいとブランドコンサルティング会社H-7HOUSEを設立。また、自身もグリーンテックベンチャー企業に参画し、環境課題に取り組んでいる。
デザイン・感性を重んじるか、数字・ロジックを突き詰めるかの両方を体験
―近藤さんの学生時代からのキャリア形成を教えてください。
大学では正直あまり目的を見いだせず、4年間アルバイトに明け暮れていました。スタイリストのアシスタントやレコード店でバイトをしたりもしていましたが、当時「フリーター」が流行語になるぐらい、夢を追いかけながらフリーターをしている人たちがたくさんいました。自分の周りにいたミュージシャンやDJ、劇団員を目指している人を見ていると、本気でやりたいことを見つけている人ってカッコイイなと思って。自分は興味があったファッションを目指して大学と専門学校にダブルスクールで通って同時に卒業し、イッセイミヤケにデザイナーとして就職しました。イッセイミヤケでは諸先輩がたにゼロから叩き込まれ、連日深夜まで働きましたが、そのおかげで今こうして仕事を続けられていると心から感謝しています。
イッセイ、エイネットに約10年いたのちに、縁あってファーストリテイリングに移りました。デザイナーのクリエーションに特化した会社から、論理的な思考と数値分析による商売先行の会社に移り、同社では7年間働きましたが、デザインを突き詰めていく事と、商売を突きつめていく事の両方を経験し、最終的には「お客様にとって何がメリットなのか」というユーザー目線である事は双方で共通していることに気づき、今でもこの部分は自分にとってとても良い経験だったと感謝しています。
次に、アダストリアの主力ブランド「GLOBAL WORK(グローバルワーク)」に、ファーストリテイリングから“チーム”で移ってきました。上司であるゼネラルディレクターの下、自分はメンズのディレクターとしてリブランディングに関わり、それまで割とラギット感の強いアメカジテイストのカジュアルから、その当時のトレンドに寄せて、ヨーロッパ系のきれいめカジュアルの割合を増やし、また商品の内製化によって商品完成度を追求ていきました。新生グローバルワークは、商品が明らかに変わったと評価され、売り上げも伸長しました。
―チーム単位で会社を移るというのは日本では珍しいですね。
自分はたまたま、関係の深い上司との関わり合いでこのような動きをして来ましたが、欧米のブランドではディレクターが変わるとチームごと移ったりします、日本のファッション業界では割と珍しいかもしれません。ただ、たとえば全く一人で新しい組織に乗り込んでいったときに、どうスピーディーに力を発揮できるかを考えたとき、結局、従来型のやり方に飲み込まれて、実力が発揮できないことも多々あります。そういう意味で、チームとして信頼関係のある組織で、成果を上げるというのも一つのスタイルであると思います。
「環境と多様な人々」に寄り添うブランドとして、環境にどれだけ配慮できるか
―「O0u(オー・ゼロ・ユー)」ブランドが生まれた背景を教えてください。
ブランド名の「O0u(オー・ゼロ・ユー)」は、異なる要素が交わる象徴で、循環する円弧O(オー)と0(ゼロ)が多様性と包括を、あなたを表すu(ユー)が一人ひとりに寄り添うブランドであることを表現しています。ブランドのテーマは「新しい普通」で、いろんな世代、考え方、ポジションを包み込むようなブランドにしていきたいという思いが込められています。
ブランドを運営するアドアーリンク初代代表(現別子会社代表)の杉田は、「今までやってきた過去のアパレルではなく、これから先のアパレルをどう作っていくか」というテーマを掲げていました。オー・ゼロ・ユーでは、サステナブルであることは標準スペックとして、ブランドとしてどうオリジナリティを出すかが私たちの挑戦です。たとえばデザイン面では、サイズ展開を減らして体型カバー率を増やすために、同じサイズで、少しふくよかな人が着ても、痩せている人が着ても、男性でも女性が着ても素敵なデザインで解決することを提案しています。しかし、再生繊維や自然に還る素材、オーガニックコットン、植物由来マテリアルなど、“身にまとうサステナブル”の素材は、まだまだ選択肢が少なく、価格も高く、モノ作りは大変です。
―近藤さんは、「サステナブルであることは標準」としてデザインワークに取り組んでいますが、何を一番大事にしていますか。
企業ミッションとして「Play Fashion!」を掲げる親会社であるアダストリアは、「ファッションのワクワクを、未来まで。」をCSRポリシーとして掲げ、事業の環境負荷を下げる様々な取り組みを展開しています。子会社であるアドアーリンクは、アダストリア全体の社会貢献のテーマである「未来までファッションを繋げていこう」というミッションを加速させるために設立された会社で、オー・ゼロ・ユーを立ち上げて2年間、自分もディレクターとして何を一番に考えるかはずっと課題としてきました。
オー・ゼロ・ユーは、まず素材の環境負荷をなくすことを第一に、アパレルの世界的な業界団体であるサステナブル・アパレル連合(SAC)が2012年に開発した環境・社会負荷の測定ツール「Higg Index(ヒグ・インデックス)」を指標としています。そして、「環境と多様な人々」に寄り添うブランドとして、環境にどれだけ配慮できるか、多様な人々にどれだけ寄り添えるかを追求しています。
オー・ゼロ・ユーはサステナブルブランドですが、やはり「商品が良い、欲しい、カッコイイ、可愛い」が先に来るべきで、ファッションが本来持つ楽しみ方はそのままに、環境負荷という課題を克服していきたい。自分が消費者という立場で考えると、気に入った商品と出合って、それを着て素敵に見えて、愛用し長く着続けること、が結局サステナブルに繋がります。作り手としては、オー・ゼロ・ユーのコンセプトを具現化しつつ、皆さんに愛用して頂けるデザインを世に送り出したいですね。
令和時代のブランド作りに必要なものと、20代・30代へのアドバイス
―現在、オー・ゼロ・ユーのブランドディレクターを務めていますが、今の時代のブランドに必要なものは何でしょうか。
アパレル業界は、グローバル企業としての仕組みを国際的に確立した大資本と、それ以外の2極化がさらに進むと思いますが、コロナを経て、「人と違うことや自分が好きなモノがファッションだ」と気づき、個性を見つめ直すときが来ていると思います。そこでしか買えないモノ、ローカライズしていく感覚であるとか。そういう時代には、ブランドディレクションも、個性や特徴をアピールできないと埋もれてしまうのかなと感じています。あとはやはり、自分だけ良ければ良いではなく、限りある資源やその生産方法、環境負荷などの課題に関して、業界全体で協力して改善出来ていくといいな、と思います。
―近藤さんご自身の経験を踏まえて、20代・30代にキャリア形成のメッセージをお願いします。
まず一つは、現状に甘えず、自分の仕事をもっと深掘りして、納得できる答えを見つけるまで、自分自身でとことん突き詰める時期があってもいいと思います。そうした中で自分の仕事のスタイルや強みを見つけ、磨いていくことが出来るように思います。
そしてもう一つは、疲れたら少し休めばいい。みんなファッションが好きだったはずなのに、仕事が辛くてファッション自体が嫌いになりそうなときは、思い切って休む選択をするのもありだと個人的には思います。そのバランスがうまく取れてくるのが理想で、リフレッシュの中に仕事のアイデアやヒントがあったり、最終的には仕事とプライベートの境界線はあってないような気もしています。好きなことを継続させるさじ加減があるように思います。
撮影:Takuma Funaba
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