「革製品」といえば、動物性の本革やフェイクレザーが思い浮かぶ。2021年8月に誕生した、グリーンテック&イノベーションチーム『PEEL Lab(ピールラボ)』は、農業廃棄物や残渣から調達した植物や果物をベースとしたレザーを開発し、注目されている会社だ。植物由来レザーに行き着いた経緯や、SDGs、マーケットへの想いを、代表のジム・ファン氏に伺った。
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ジム・ファン(Jim Huang)さん / ピールラボ ファウンダー
アメリカ国籍。大学卒業後、金融業界で15年間コンサルタントとして活躍。アメリカのスタートアップシーンに憧れ、自身で起業を志すようになる。以降、連続起業家として複数企業の立ち上げに携わる中で、次第にサステナビリティ関連ビジネスに高い関心と情熱を向けるようになり、現在は植物由来レザーの開発・製造・販売・プロダクト化を行うグリーンテック企業「ピールラボ」の代表取締役を務める。
スタートアップに憧れた会社員時代
― ジムさんは、もともと金融系のお仕事をされていたと伺いました。
もともと数字を扱うことが好きだったので、金融系の会社に入り、アメリカの金融業界で15年間ほど仕事をしてキャリアの基盤を築いてきました。アメリカは業界問わずスタートアップが盛んな国なので、私もスタートアップ企業に憧れ、いつかは起業したいと思っていたんです。
― ピールラボもスタートアップのひとつですが、ピールラボを始める前にも起業はされていたのですか。
ええ、ピールラボにたどり着く前に、いくつかスタートアップビジネスを立ち上げました。最初に立ち上げたのは、金融系の知識を活かした事業です。2010年代はじめにビットコインが注目され始めていたので、ビットコインのような新しい金融ビジネスがやってみたいと思い立ち、これをきっかけに、さまざまなビジネスを立ち上げるようになりました。その後、金融系から環境課題のソリューションを事業とすることに興味を持つようになり、ホテルやレストランで廃棄されてしまうパンをアップサイクルして、ビールを作るビジネスを日本で立ち上げました。
― なぜ日本だったのでしょう。
日本のコンビニに行くと、色とりどりでおいしそうなサンドイッチがたくさん並んでいます。が、どれもパンの耳がカットされているでしょう?袋入りのピーナツバターサンドなども、耳がなく白い部分だけですよね。そのために、パンの耳が捨てられてしまうのはもったいないし、何とかアップサイクルに結びつけることができないかと思案していたときに出会ったのが、パン酵母を原料とするビールでした。
― 実際にビールづくりもされたのですか。
大手製パンメーカーも私たちのアイディアを歓迎してくれたので、材料となる廃棄されてしまうパンの原料調達はでき、クラフトビールづくりにも成功しました。ただ、どうしても値段が高くなってしまうという課題がありました。日本ではビールが200円前後で買えますし、新ジャンルならもっと安い。ところが私たちのビールは製造に手間がかかるので、1本600~700円という価格設定になってしまいました。
SDGsなどに興味がある方が商品をお試ししてくださったりはするのですが、価格が高いとやはり購買意欲の継続にはつながりません。その葛藤をかかえながら私はこのビジネスから離れ、新しいチームにこのサステナブルビール会社を引きついでいくことにしました。
― ある程度まで立ち上げたら別の人に経営を譲るのもジムさんのビジネスの特徴なのですか。
アドバイザーとして残っている会社もあります。ただ、ビジネスシードを世の中に生み出し自分よりそのジャンルの経営に長けた人が出てきたらどんどん任せ、権限を委譲していくというのも私の方針でしょうか。
― 最初はまったくジャンルが異なる金融系の仕事からキャリアをスタートして、だんだんと環境問題やSDGsに興味を持たれるようになって。
環境問題は、掘り下げて考えれば考えるほどさまざまな課題が浮かび上がってきます。きっかけはビールの原料となった廃棄されるパンだったのですが、飽食の日本には人知れず捨てられている食物がほかにもたくさんあります。むしろ、すべての食物が捨てられている現状があると言えるかも知れません。そうしたフードロス問題を少しでも何とかしたい。それをビジネスにできないかと考えたときに思い浮かんだのが「革」だったのです。
環境にやさしい「レザー」とは
― なぜ「革」だったのでしょう。
レザーは、数あるファッション素材のなかでも環境への負荷がもっとも高い素材のひとつとして知られています。たとえば、動物から剥ぎ取られたものの、使われない皮はそのまま廃棄されますし、革製品の加工には大量の水が使われています。しかもその水は非処理のまま捨てられることも少なくありません。私たちが「革」に着目したのは、こうした産業的な課題にハイライトし、それらの問題を何とかクリアしたかったからです。
もうひとつは、新しい素材によって素材の選択肢を増やす目的もありました。日本の革市場は、動物の皮を使ったレザーと、プラスチックを使用したフェイクレザー(合成皮革や人工皮革)がメインです。そこに、3つ目の選択肢として、植物由来レザーを加えて市場を創造したいと考えました。
原料はジュース工場で捨てられる果物の皮
― どのような植物を使うのですか。
農業廃棄物やジュース工場で廃棄されるパイナップルを使って、まったく新しい「革」を作りました。またココナッツからも「革」を作るべく研究開発に心血を注いでいます。
― 実際に商品化もされているのですね。
ええ、アップルレザーを使用したトートバッグ、コースターを過去に試作し、現在ではパイナップルレザーを使ったランドセルやテーブルマットなどを作っています。それから竹由来の素材を活用したヨガマットなども販売しています。
― ホームページに掲載されている商品を見ると、植物由来とは思えないほどリアルなレザーに仕上がっていますね。
発色もきれいでしょう。とても果物の果皮から作ったとは想像できませんよね。
― ピールラボでは、製品だけでなく素材そのものをビジネスにするルートも模索されていますね。
ものもとは素材の開発、調達、販売を目的としていたのですが、素材だけだとどうしても何に使えばいいのかイメージがつきにくい。だから、製品を作って「見える化」をしたのです。
価格設定の反省点を次につなげる
― 市場の反応はいかがでしょう。
興味を持ってくださる方はたくさんいますが、やはりどうしてもネックになるのが価格面です。パンからビールを作ったときに、価格の高さが売り上げを伸ばすのに難しさを感じていた経験を活かし、今回はできるだけ価格を抑えたいと考えています。SDGsをベースとした理念はもちろん大切ですが、ビジネスである以上、利益を上げなくてはならないというのは普遍的ですから。
まず手に取っていただける価格設定にして、環境にも配慮した製品であることに共感いただく。軌道に乗れば、知名度も売上も加速度的にカーブを描いて上昇していくと思うので、まずは製品を、そして素材を知っていただくことが大切だと考えています。
― 具体的な目標はありますか。
2030年までに、日本におけるレザー市場の1%を、植物由来の素材で占めることを目標としています。その先には、「食品ロスのアップサイクル」「動物虐待の防止」「地球温暖化の防止」といった大きな目的があることも、常に意識しています。
コラボの可能性は無限大
― ピールラボには素材を開発する技術があるので、さまざまなコラボも期待できそうですね。
植物素材を使ったヨガマットを軸に、ウェルネス市場への参入も始まっています。私たちの素材を活かしたい、魅力を知りたい、という人や企業とどんどんコラボレーションしていけたらと思っていますので、ご連絡をお待ちしています。またピールラボは、植物由来の「革」だけでなく、植物由来のフードの開発も行い、すでにパスタなどの販売も行っています。
私たちは日本発のグリーンテックベンチャーとして、まだ生まれたばかりの会社ですが、同じ志を共有する優秀なスタッフにも恵まれていますし、これからもチャレンジしたいことがたくさんあります。コラボレーションもそのひとつですね。
植物由来レザーは、まだ日本ではあまり知られていませんが、すでに欧米では開発や販売を行っている企業がいくつかあります。私たちはまず日本で高い品質の素材や製品を作り、ゆくゆくはアジア地域や全世界に展開していけたらと思っています。
取材:伊藤郁世
撮影:Takuma Funaba
Brand Information
PEEL Lab
PEEL Lab(ピールラボ)は、植物由来レザーを筆頭に
植物由来の素材を推進するビジネスプラットフォームであり、バイオテックベンチャーです。
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