ビジネス界のトップランナーのキャリアを「丸ハダカ」にする、新感覚対談「Career Naked」。今回ご登場いただくのは、OTBグループジャパンリージョンの草川暢之氏。ディーゼル、メゾン マルジェラ、マルニ、ジル・サンダーといった世界的人気ファッションブランドを取り扱う同グループで、従業員目線に立った人事施策を展開している。人事としてさまざまな経験を持つ草川氏に、これまでの仕事を振り返ってもらいながら、ご自身が考えるキャリアの育て方について、業界屈指のエグゼクティブ人材紹介実績を持つ北川氏が話を伺った。
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草川 暢之さん/OTBグループジャパンリージョン 人事ディレクター
大学卒業後、日系繊維メーカーに入社。人事労務の基盤を築いたあと、大手流通企業の店舗オペレーションに従事。その後、外資系通信会社、GE(ゼネラル・エレクトリック)、フェンディで再び人事としてのキャリアを積み重ねる。ディーゼルで人事の責任者を務めた後、現在はディーゼルのほかメゾン マルジェラ、マルニなどを擁するOTBグループの日本における人事責任者を務める。
北川 加奈さん/エーバルーンコンサルティング株式会社 ヴァイスプレジデント
大学卒業後イギリスへ留学。帰国後は地元の静岡にて塾講師として勤務。2008年にウォールストリートアソシエイツ(現エンワールド)入社のため上京。2017年にAllegis Group Japanに入社、ASTON CARTER プリンシパルコンサルタントとして勤務。2021年1月にエーバルーンコンサルティング入社。
人事の仕事を外から見たことによって「自分の使命は人事を続けること」と気づいた
― まず、草川さんのこれまでのキャリアについて教えていただけますか?
最初は繊維メーカーに就職して、顧客に近いところでの仕事を希望していたのですが、なぜか配属されたのが人事でした(笑)。7年くらい在籍し、最初の4、5年は工場を2か所回って工員の労務管理を担当し、その後本社に異動。人事制度や賃金を管理する部署で、2年ほど仕事をしていました。
業界的にも保守的な企業風土で変化に乏しかったこと、もともと希望していた職種ではなかった人事が本当に自分に向いているのか疑問だったこともあり、キャリアチェンジを考えました。大手流通企業に転職し、いわゆる店舗オペレーションというリテールの仕事について、1年半ほどお客さまと直接、接する仕事を経験しました。
― なぜ、お客さまに近い仕事を希望されたのでしょうか?
学生の頃にマーケティングを専攻していたので、消費者行動に興味がありました。企業活動の中で企業と顧客を結び付けるのがマーケティングなので、消費者に一番近いところで仕事をしてみたかったんです。
― 大手流通企業に1年半在籍された後、次の企業に行くことを決められたきっかけは何だったのでしょうか?
店舗オペレーションの仕事は非常に面白かったし、結果も出せていました。ただ、会社の人事の対応にいろいろと思うところがあって、「自分が人事をやった方がいい」と思うに至りました。そこで再び人事のフィールドに戻ることを決めたんです。それで知人の誘いもあり、外資系の通信会社に転職しました。
― 再び人事に戻られて、いかがでしたか?
業界が先進的なテクノロジーの世界でだったので、1社目とはまったく違う人事の経験を積むことができました。さらに外資系企業で働くのは初めてだったので、日本企業とは違うカルチャーを知ることができ、良い経験になったと思います。
― そしてGE(ゼネラル・エレクトリック)に転職された、と。
ITバブルがはじけて、会社が日本市場から撤退することが決まったので、会社が売却される前に転職を決意しました。その時に知り合いのエージェントの方からGEを勧められて。GEはコングロマリットの会社で、どこの会社もGEの人事のプラクティスをお手本にしているところがあったので、いろいろな人事のプラクティスを学びたい、という気持ちで移ることにしました。
GEではいろいろな役割を担わせてもらったので、人事のグローバルスタンダードを各領域で学ばせてもらいました。タフな会社だったので、メンタルも相当強くなりましたね。多少のことではつらいとも思わなくなりました(笑)。
― なるほど。そこからまたファッション業界に戻られたのですね。
実はここでも会社が事業を売却することになったので、一年間は残ってトランジションのプロジェクトをリードしましたが、きりのよいタイミングで身を引きました。
この時にエージェントからフェンディの話をいただいて、ラグジュアリー業界は特殊な世界と思っていたので、一度その世界を覗いてみるのも面白いかなと(笑)。当時のイタリア人女性社長との面接に行ったとき、面接なのにいろいろな人事の相談を受けたんです。「それはこうした方がいいですよ、ああした方がいいですよ」と話をしているうちに気に入ってもらえて、「ぜひ来てほしい」と言っていただいて、それがご縁で入社しました。
カルチャー的に、ラグジュアリーの世界はギスギスしているのかと思っていました(笑)。でも、入ったら全然そんなことはなくて、皆さんいい人ばかりで仕事はやりやすかったです。GEとは企業カルチャーが真逆だったので、とまどいはありましたが、逆に言うとちょうどいいバランスがどこなのかを、改めて再確認できました。
ラグジュアリーやファッションの世界というのは、パッションだったりインスピレーションが優先されますが、ビジネスを行う以上は、しっかりとプロセスを組むところは組まないとうまく回っていかないところがあります。そこはGEで鍛えられたので、大いにその経験を活かせたのではないかと思っています。
― そして今の仕事に至る、と。
私は関西の出身なので「いずれ関西に戻って仕事をしたい」という思いがありました。また当時は「やれることはやった」感もあったので、さらに自分がステップアップできるキャリア環境が欲しかったんです。
その中でたまたま大阪に本社があるディーゼルジャパンを紹介していただきました。同じファッション企業ではあったけれど、カジュアルアパレルの会社だったので、ラグジュアリーブランドよりも客層が広く、会社の規模も大きかったので、新しいチャレンジがあるかなと。また、ディーゼルの接客レベルの高さに以前から興味を持っていたので、それも選んだひとつの理由でした。現在はディーゼルジャパンも所属しているOTBグループの、日本全体の人事を見させてもらう立場になっています。
― 複数社を見る立場になられたのですね。
はい。非常にやりがいがありますね。単社だけではできない人材の活かし方ができる環境にあるので、その優位性を活かして、同じグループの中で社員一人一人が長くキャリアを築いていけるような人事の仕組みを作っていけたらと思っています。
不確実な未来を憂うよりも、まずは足元を踏みしめて、安定した土台作りに注力する
― 草川さんが人事として、特に大切にしていることは何でしょうか?
従業員の目線で物事を考えることでしょうか。人事は経営のパートナーであると同時に従業員の代弁者としての立場も担っています。何をやるにも結局は人なので、従業員が何を求めているか、どうすれば生き生きと働けて、より高いパフォーマンスを発揮できるか、ということを会社の施策に反映させないと意味がありません。だから従業員の声を聞くことはとても大事だと思ってます。
― そういった「社員の声」に耳を傾けることの大切さに気付いたのは、どんな経験からでしょうか?
最初の繊維メーカーで、それこそ工場の現場で働く従業員を何より大切にすることを、当時の人事部長や先輩方に徹底的に叩き込まれました。第一線で働いている人たちが、どんな労働環境の中で、何を考えて働いていて、どんな生活をしてるのか、それを間近で見て感じることができたのは大きかったと思います。
― 草川さんはキャリアについて「5年後、10年後の目標を持つことは必ずしも必要ではない」と考えていらっしゃると伺いました。一般的には自分の目標を掲げることが大事、と言われますよね。なぜ「必ずしも必要ではない」と思われるのでしょうか?
私も若いころは「5年後のキャリアの目標は何ですか?」とよく聞かれましたし、一時期は“具体的なキャリア目標がないとダメなんだ”と思ったこともありましたが、どうやら私はそれができない人だったんです(笑)。だから今まで具体的な5年後、あるいは10年後のキャリアの目標を持ったことはないんです。
持っていたのは目標というより「目的」でしょうか。自分の場合は人事というフィールドで、「そこで働く人のために人事としての役割を果たす」ことが目的で、「人に信頼される人事である」ことを常に心に持ち続けてきました。そのために専門知識と経験を蓄積することを考えながら歩いてきた結果、今に至っています。なので私にとってキャリアとは今まで歩んできた道筋であり結果だと思っています。
もちろん人によって考え方は違うので、自分の考えがすべてとは思っていません。ただ、具体的なキャリア目標を持っていないやつはダメ、と考える風潮があるとしたら、そこに一石を投じたいですね。
今振り返って思うのは、目標を決めて、そこだけを見て直線的に築いた土台よりも、できることを1つ1つ足元を踏みしめながら積み上げていった土台の方がより安定する、ということです。そしてその結果、その後のキャリアの息は長くなると思っています。
― 採用面談の時に、そういったところを意識しながら応募者に質問することはありますか?
私も面接する時、「キャリアの目標は何ですか? 5年後はどうしていたいですか?」と聞くこともあります(笑)。もちろんあってもなくてもよくて、ただその人のキャリア観を知りたくて一応聞くのですが、それよりも、地力をつけるために地に足をつけて自分ができることをしっかりやってきているか、ということの方を見ますね。
― ただ、今はかつてのような右肩上がりの成長を続けていた時代と違い、若者にとって先が見えにくく不安を抱えやすい時代だと思います。そんな時期だからこそ、どんなことを大事にすればよいのでしょうか?
不確実な未来に対して明確な目標を掲げるのはとても難しいと思います。だからこそ、将来に備えた武器を作っていくしかないと思うんです。今、自分ができること、自分を成長させることが何なのかを考えて、それを実行していく。そういったものを積み上げていくと、5年前と比べたら、自分ができることの幅は断然広がっているはずなんです。そうすれば自ずと自分のチョイスも増えるので、その中で自分がやりたいことをチョイスすればよいのではないでしょうか。
― 草川さんのこれまでのキャリアを伺ってきて、常にご自分が成長できる環境を見極めて次のステップに進んで行かれたことが分かりました。そういった環境に出会うために、意識されたことはありますか?
その人それぞれのキャリア領域で何か意味のあるものを残していこうと思っても、自分の中に十分な引き出しがなければ成し得ないと思うんです。だからキャリアチェンジをした節目においても、自分の引き出しを増やしていくために何が最良かを考えて、その時々のキャリアの選択をしてきたと思います。
あとは、仕事をしていく上での自分の目的やモチベーションが何なのかをしっかり持っておくことが大事だと思います。そこさえブレなければ、その時には点にしか見えなかったものが、いつか線になって繋がるときが来ます。
ポテンシャルを秘めているグループだからこそ、未来への期待感も高まっている
― OTBグループではこれから新しい組織づくりをするために、いろいろなことにチャレンジされると伺っています。
OTBのジャパンリージョンが正式に立ち上がったのが2年前で、人事がグループ全体の組織体制に変わったのは、今年の4月からです。これまでとは違う組織のフレームワークを構築し、試行錯誤しながら組織運営を行っています。いいメンバーが揃っているので、組織効率とシナジーを最大化したクロスブランドの人事チームを作っていきたいたいですね。
― OTBグループで大切にしているのは、どんなことでしょうか?
勇敢であるというのがOTBのDNAです。だからグループの名前も「Only The Brave」のOTBなんです。そのDNAがあったうえで、勇気、進化、卓越、尊敬という4つのバリューがあります。あらゆることに対してリスペクトを忘れずに、既存の枠組みに捉われることなく、勇気をもって高いレベルで進化を遂げていく、というのがOTBグループのバリューになっています。そして最後に、何事にも”Enjoy”すること。
― OTBではどんな人材を求めているのでしょうか?
4つのバリューが言い表している通りです。ビジネス環境も、特にここ数年、コロナがありましたが、本当に大きな変化が起きています。デジタル化が加速し、世の中の価値観が変わっていく中で、その変化に敏感に、柔軟に対応していかないと進化はありません。良いところは維持しながらも、新しいことにトライしていく、そんな人がOTBグループには合うのだろうと思います。
― OTBグループの現状と今後についてもお伺いできますか?
おかげさまで、コロナ禍でもグループの各ブランドは良い結果を残せています。昨年は、特にマルジェラ、マルニが好調でした。バッグやスモールレザーグッズ、それにシューズが牽引して、コロナ禍にも関わらず、非常に大きな伸び率を達成することができました。またジル・サンダーは去年傘下に入ったばかりですが、ネームバリューに展開が追いついていないところもあり、非常に大きなポテンシャルを秘めています。
それからスタッフ インターナショナル ジャパンでは「アミリ」というブランドのディストリビューションを21年秋冬から手掛けています。アメリカのNBAプレイヤーやヒップホップミュージシャンなどに人気があるブランドで、米国では爆発的に売り上げが伸びています。今月7月には日本初の旗艦店を青山にオープンする予定になっているので、ここにも期待しているところです。
最もビジネス規模の大きいディーゼルは、アパレルが主力なために、他ブランドと比べるとコロナ禍は苦しい状況にありました。そんな中、クリエイティブディレクターがグレン・マーティンスに代わり、リブランディングに取り組んでいます。先月6月には日本でファッションショーを東京ビッグサイトで行い、大きな反響を得ています。
まだまだ大きくなっていくポテンシャルを秘めたグループなので、私自身もグループの今後が楽しみです。
OTBグループの各ブランドでは、現在積極的に人材募集をしております。
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取材:キャベトンコ
撮影:Takuma Funaba
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