電通元専務で現顧問の高橋治之氏(はるゆき、78)がAOKIホールディングス(以下AOKI)の2021年東京五輪における公式服装製作会社決定をめぐる増収賄事件に関係しているとされ、家宅捜査を受けた。この他にもAOKIは高橋氏の個人企業であるコモンズに2億3000万円の顧問料を支払っていることも明らかになっている。問題は「みなし公務員」(公務員と同じとみなす)である高橋氏がその役職を利用して、公式服装制作会社決定に重大な役割を果たしたのかどうかである。
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高橋氏は電通専務時代はスポーツ分野で圧倒的な権勢を振るい「高橋天皇」の異名を取った実力者だ。今回の東京五輪組織委員会でも中心な存在でそのスポンサー企業の募集などに携っていたようだ。
AOKIは2018年2月平昌冬季五輪でも日本選手団の公式服装を担当するなどこうした五輪日本選手団の公式服装制作に尋常ならざる意欲を見せていた。紳士服チェーンでは最大手青山商事に次ぐ第2位企業であることから生じる一種のコンプレックス故の動きなのかどうかは定かではないが、今回の東京五輪でも一早くスポンサー企業に名乗りを上げるなど、意欲を見せていた。そのスポンサー企業契約についても、高橋氏からAOKI創業者の青木拡憲前会長(83)に「東京五輪のスポンサーをやったらどうですか?」という提案があり青木前会長は「やりましょう」と応じたという。高橋氏が代表の「コモンズ」は2017年秋にAOKIとコンサルティング契約を結び2021年夏まで月100万円を基本にしたコンサル料を支払いその総額は4500万円に及んでいた。加えてAOKIは2017年にスポンサー企業として日本馬術競技連盟と日本セーリング連盟に強化費として2億5000万を電通に支払った。このうち2億3000万円がコモンズに支払われたという。その後2億3000万がどのように使われたのかが現在の焦点になっているという。きちんと日本馬術連盟と日本セーリング連盟に強化費として支払われ、残りは高橋氏の顧問料になったとされているが、この辺りの賄賂性の検証も進められているようだ。高橋氏が白なのか黒なのかは、警察、検察の捜査・判断に委ねるしかないが、いずれにしても、「顧問料」や「手数料」という名の広告代理店の口キキ・中ヌキ体質がイヤというほど伝わってくる。今回の事件でも企業と企業の取引なら目をつぶることだが、これが国民の血税が注入された五輪事業となると話は別だ。当然巨額な事業になるだけに「政商」たちが群がって「口キキ」「中ヌキ」を画策すると言うことになる。「顧問料」と「便宣を図る」というのは言ってみれば紙一重という言い方もできる。
電通の第4代社長である吉田秀雄氏(1903.11.9〜1963.1.27)は電通を現在の巨大広告会社にする基礎を築いた人物だ。とくに「鬼十則」が有名だ。この仕事に臨む心構えを吉田氏が記した鬼十則はその第五則「取り組んだら離すな殺されても離すな、目的完遂までは…」が電通社内で続発する過労死や高橋まつりさんの過労自殺などの原因になったのではないかと、2017年からは社員手帳への記載がなくなった。この「鬼十則」には「社会のためにも尽くす仕事を心掛けよ」とか「人々に幸福を与える仕事を目指せ」とかの理想論は一切書かれていない。ただただ仕事=金儲けの仕方を精神論で激烈に語っているだけだ。理想論はともかく、遵法精神の大切さぐらい触れてもよさそうなものだが、それもない。そうした吉田鬼十則の悪しき優等生が高橋治之氏なのかもしれない。
懲りもせずに札幌冬季五輪招致が動き出しているという。では、どうしたら口キキ・中ヌキのない五輪ができるのか?という問いが生じる。「このスポンサー制度がある限り『口キキ』『中ヌキ』はなくならない」というのが識者の意見だ。国際大会である限り、「海外ネットワークのある電通以外に任せるのは無理」だという。傑出したアスリートが躍動する五輪や世界選手権を見たいのならばこうした「政商」たちのやりたい放題に目をつぶらなければらないのだろうか。
7月8日に安倍晋三元総理が凶弾に倒れたが、その国葬が9月27日に執り行われるが、その仕切りもこともあろうに電通が行うという。海外の国賓の来日があり、電通以外では無理なのだという。必要悪ということなのだろうか。全くやりきれない思いである。
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