ライフスタイルブランド「ケユカ(KEYUCA)」が近年勢いを増している。これまでは郊外出店が多かったが、今年2月にオープンしたマロニエゲート銀座店をはじめ都心出店を加速。この約2年9ヶ月で店舗数は約1.5倍に伸び、10月末までに67店舗に達する見通しだ。
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20周年を機に路線変更
最近になってケユカを知った人にとっては意外かもしれないが、実はケユカは20年以上の歴史を持つ。運営会社は店舗什器などを手掛ける河淳。当初は家具やカーテンといった大型インテリアを中心としていたが、20周年を迎えた2020年からは生活雑貨の展開に注力し、ライフスタイルブランドとしての打ち出しを強化している。
ケユカを率いる渡邉陽平事業部長によると、路線変更は年々加速する家具の価格競争が背景にあるという。生活雑貨はもともと扱っていたが、より日常生活に密接したMDに改革することが事業成長につながると判断し、全カテゴリーを見直した。生活雑貨を拡充してから、生活雑貨カテゴリーの売上構成比は15ポイント増の75%まで高まった。渡邉部長も「インテリアショップからライフスタイルショップに転換するんだという1つの目標を持って取り組んだ。お客様もMDが変わったという印象をお持ちになられたのではないか」と自信を覗かせる。
生活雑貨を拡大しても、家具のカテゴリーを捨てたわけではない。2020年を機にチェアなどの一部製品を除き国内生産に徹底し、サイズや素材などを自由に選択できるセミオーダー制に切り替えた。在庫を持たずに必要な分だけ生産し、端材は別の生活雑貨製品に充てるなどサステナビリティにもつなげている。
店舗増も相まって売上は好調に推移し、2021年度(2021年1月〜12月)は前年比28%伸長した。ECのみの売上高に関しては同136%増。EC化率は15%まで高まった。
ユーザー層はメインターゲットである30代〜50代が中心で、都心出店を拡大して以降は20代の若者の来店も多いという。女性が多いが、コーヒー用品やビジネス向けリュック「N撥水2ROOMリュック」などをきっかけに男性の顧客も増えている。
ニトリや無印良品に負けない「ケユカらしさ」が生まれるまで
インテリアから生活雑貨、アパレルまで提案するライフスタイルブランドと聞くと、やはり第一に「ニトリ(NITORI)」や「無印良品」などが想起されるだろう。ケユカもこの2ブランドをベンチマークに事業拡大を目指してきた。ニトリに関しては2015年に初めて百貨店に進出して以降、都心出店を加速したり、アパレルを始めるなどの新しい取り組みにケユカも注目していたという。
大型家具を除くと3ブランドともに価格帯はほぼ同程度。差異化のために追及したのは、ニトリや無印良品にはない「ケユカらしさ」だという。「ケユカらしさ」はどこから生まれるのか。それはコンセプトにも掲げた「『ちょうど良い。』を作る」という言葉にも隠れている。
「買ってよかったものというのは、とにかく安かったものではなく、“買って実際に使った時の満足感”が作る。この価値を我々は追求した」(渡邉部長)。
例えば、累計販売台数約53万台(今年7月時点)のダストボックス「アロッツ(arrots)」はキッチンカウンター下に収まるサイズ感で、観音開きを採用したほか、音が出ないようにゆっくり閉まるのが特長。ささやかな工夫だが、数年かけて開発したという。SNSでも評価が高い売れ筋商品だ。渡邉部長は、シンプルなデザインでも絶妙な色合いに工夫したり、使い勝手の良さを追求したり、何度も使いたくなるように競合他社以上にこだわるのが「ケユカらしさ」だとした。
男性デザイナーも在籍するが、主要顧客の女性目線に合わせたものづくりには女性デザイナーの存在が欠かせない。実体験をもとに課題解決につながる商品提案を行うことも「ケユカらしさ」を生む重要なひとつのファクターとなっているという。
「着替える」をなくしたい、ケユカ目線のアパレル
20周年を機に取り組んだチャレンジはもう一つある。アパレルへの参入だ。
「忙しい女性に寄り添った服を作りたい」という思いから始動したアパレルではターゲット層と同じデザイナーやスタッフが参加し、「着替える」という行動を省くことを目指した「ツーマイルウェア」を提案。アパレル業界ではコロナ禍で「ワンマイルウェア(=部屋着のほか自宅から約1.6キロ以内に着ていける服)」の提案が広まったが、同社は「ワンマイルは部屋着の延長という印象がある。仕事や家事を頑張る女性が家でも外でも着られる、エレガントさを残した服を提案したい」「部屋着と外着の境界線や概念をなくしたい」という考えから、ワンマイルではなく敢えてツーマイルにしたという。アイテムは基本的にフリーサイズ展開。妊娠や加齢によって体型が変わっても着られるシルエットに仕上げ、撥水やイージーケアといった機能性も備えている。
最初は11店舗と公式オンラインストアから取り扱いをスタートし、2年目には約30店舗に拡大。3年目となる今年は家具専門店を除く全店舗に導入した。アパレルカテゴリーとしても今秋冬シーズンから本腰を入れているという。撥水性のあるワンピースなどが売れ筋商品だ。
アパレルへの参入は以前から構想していた。「もともとバッグの展開はあったが、中心軸にアパレルがないとブランドの世界観を確立できないと思った」と渡邉部長。奇しくも新型コロナウイルス感染拡大が世界的に始まりつつあった2020年2月から展開を始めることになり、苦しい時期が続いたが、リピーターが着実に増えるなど手応えを感じているという。今上期末(6月末)時点でアパレルの売上構成比は4%弱だが、前年から倍近く伸長し、アパレルの売上は前年同期(1〜6月)から約2倍に増加した。今年中に売上構成比を5%に引き上げる計画で、現時点でほぼ計画通り推移しているという。将来的には家具やカーテンの売上構成比と同じ水準まで伸ばす考えだ。「インテリアショップがやっているアパレルでは終わらない、ケユカアパレルという1つの価値を提供していきたい」(渡邉部長)。
目標は早期100店舗体制
ケユカはさらに出店を加速させる方針で、2023年には15店舗がオープンし、期末には80店舗体制となる見通しだが、早期の100店舗体制実現も視野に入れる。オファーは国内だけではなく海外からも届いているが、まずは日本での認知度拡大を優先する考え。
店舗数を拡大するだけではなく、「もの作りを通して新しい価値を提案し、社会の役に立ちたい」という思いも強く持つ。その一例として、同社が扱う陶器はすべて日本製に統一し、さまざまな産地で作られた商品を手に取りやすい価格で販売している。以前は価格ありきの観点から海外製の商品を取り扱っていたが、「消費者が国産を意識しなくなっていることに問題を感じた」として、2019年から日本製に切り替えたという。
「商品を買った先にストーリー性を持たせたい」と繰り返し話した渡邉部長。ケユカのインテリアに囲まれながら、好みの色合いの食器やキッチンツールを使って、ケユカの服を着る──独自の世界観を武器に競合他社を凌駕できるのか期待がかかる。
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