「オデュッセイア」に由来する安らぎの実
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2022年10月15日(土)〜11月19日(土)より、ロンドンを拠点に活動する作家、アンドリュー・サルガド(Andrew Salgado)による日本初の個展「The Lotus Eaters」がMAKI Gallery 表参道にて開催中。
アンドリュー・サルガドは1982年カナダ生まれのアーティスト。2009年にロンドンのチェルシー・カレッジ・オブ・アーツで美術学修士号を取得し、現在はロンドンを拠点に活動している。サルガドのペインティングはその多くが男性像を中心とし、様々なオブジェクトや形、生物を背景に、作家の特徴ともいえる溢れ出る鮮やかな色彩を組み合わせて描かれる。
展覧会タイトルになっている「The Lotus Eaters」は、サルガド自身が長年関心を寄せる、ギリシャ神話に基づく最古期のギリシャ文学ホメロスの「オデュッセイア」の一部に由来。「オデュッセイア」では小さな離島に住み、蓮の実(Lotus)を食べ続ける人々のストーリーが語られている。これを食べた者は心静かに眠りにつき、旅を続ける意志を失ってしまうという。この数年、1994年に世を去った映画監督で作家のデレク・ジャーマンの思想にも大きな影響を受け、これらをインスピレーションとしながら、身体と心に安らぎをもたらす“逃避”や“治癒”を探求している。
「Lotus Eaters」の作品を通してサルガドが試みているのは、常に生産性に追われストレスや不安を抱えながら生きる人々(鑑賞者や自身を含む)を癒す術を探し出し、そして希望を見出そうとしていること。いくつかの作品に描かれている、非現実的なバランスで積み重ねられたオブジェクトがまさに示すように、サルガドはどんな状況においてもバランスを保ちながら生きていくことは可能である、というメッセージを観る者に届けようとしているのだ。
サルガドが用いる多くのモチーフは、神話、文学、音楽、そして彼の個人的な物語だけに由来するものだけではない。アンリ・マティス、ポール・ゴーギャン、フランシス・ベーコンなど、ふんだんに盛り込まれた引用に加え、過去から現在にわたる具象絵画の伝統を作家自身の深い内省とユーモアのセンスが掛け合わされ、通常では見過ごされがちな感情や記憶を呼び起こすことを可能にしている。
何気なく過ごしている日常の尊さを忘れてしまいがちな昨今。急ぎ足で表参道を行くことも多い中、サルガドの幻想と神話、そして現実が交錯する展示に足を留めてみてはいかがだろうか。また、本展は日本のみならずアジアで初となる展覧会だ。今まさに飛躍するアンドリュー・サルガドの作品と表参道で出会える希少なチャンスをお見逃しなく。
■アンドリュー・サルガド「The Lotus Eaters」
会場:MAKI Gallery 表参道
住所:東京都渋谷区神宮前4丁目11−11
電話:03-6434-7705
開廊時間:11:30-19:30
定休日:月曜日
※お出かけの際はマスク着用の上、こまめな手洗い・手指消毒を行い、混雑する時間帯、日程を避けるなどコロナウィルス感染症対策を十分に行いましょう。
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MAKI Gallery 表参道から5分ほど歩けば、サルガドの展覧会のタイトルにも用いられた蓮の実に由来した名を持つカフェ、「Lotus(ロータス)」が。観賞後に寄って安らいぐのもいいですね。プラダ青山店ではサイモン・フジワラによる「Who the Bær」が開催中。コロナ禍以降の“自己の探求”をテーマに作品を展開しています。現代社会における自分を見つめ直すひとつのきっかけになるかもしれない、こちらも重要な展示。ポップな表現にも注目です。
■画像クレジット(掲載順)
Andrew Salgado, Lotus Eater, 2022, oil and oil pastel on linen, 152.0 x 152.0 cm
Andrew Salgado, Peach, 2022, oil and oil pastel on linen, 146.0 x 102.0 cm
Andrew Salgado, Dreaming of Kyoto, 2022, oil and oil pastel on linen, 111.0 x 92.0 cm
Andrew Salgado, Pharmakopeia (The Magpie's Warning), 2022, oil and oil pastel on linen, 186.0 x 197.0 cm
Photo:Damian Griffiths
Text:Tomohisa Mochizuki
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