セントラル・セント・マーチンズ (Central Saint Martins)出身のウィルソン・カキ・イップ(Wilson Yip Ka Ki)が手掛ける香港発のブランド「ウィルソンカキ(Wilsonkaki)」が、「Rakuten Fashion Week TOKYO 2024 S/S」に初参加し、2024年春夏コレクションを発表した。
ウィルソンカキは、日常生活の些細な出来事から着想を得て、ユニークでありながらも日常着として着用できるアイテムを展開。“普通であること”への先入観に挑戦することを目指している。デザイナーのウィルソンは、香港理工大学でニットウェアデザインの学士号を取得した後、セントラル・セント・マーチンズで修士号を取得。2021年に自身のブランドを立ち上げた。設立からわずか1年で多くの話題を集め、2021年の「注目すべきアジアのデザイナー10人」にも選出された。
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2024年春夏コレクションの着想源になったのは、東京の通勤ラッシュアワーで目にしたという「衣服のシワ」。暗転したランウェイに耳馴染みのある電車の発車音が流れた後、力強いドラムビートに合わせてショーがスタートした。多くのルックに採用された、複数のデジタル時計が組み合わせられたネックレスは、「時間」に首を絞められているかのように見える。
日本の通勤ラッシュや、日本人の時間への強迫観念の異常さは、世界的に度々話題に挙げられながらも、当たり前のこととして受け入れられている。コロナ禍の収束とともに出社文化が復活した現在、通勤ラッシュも日本の朝の日常風景の一つとして戻ってきた。一般的に皮肉を込めた目線で語られがちなその風景を、ウィルソンカキは、鮮やかな色遣いやハリのある素材感でポジティブ且つ軽やかに捉え直す。
日常着をベースに「日常の痕跡」を表現したかった、という今回のコレクションでは、満員電車で強い力を加えられできたシワやヨレから着想した意匠を、日常的な身体の動きから生まれるものへと発展。人間の生活上での動きと衣服の関係性を探求し、Tシャツやジャケット、カーゴパンツなどの定番アイテムで再構築した。手を上げる、歩く、座るなどの日常動作で生まれるシワを定着させたアイテムを多く展開し、体の動きに呼応させるように、一部のアイテムにはアルミニウムベースの形状記憶生地を使用した。このほか、ブランドのシグネチャーであるマグネットをあしらったアイテムが多く登場した。
ウィルソンは「生活の中で遭遇するストレスは、服の上に座って押しつぶし、そこにシワを作るようなものだ」と語る。ランダムに配置された折り加工のディテールは、駅のホームに落ちている無造作に潰れたレシートを彷彿とさせながらも美しく仕立てられ、整然としている。「日常に存在する目に見えないプレッシャー」を表現したというシワや折り目のディテールは、プレッシャーやストレスに対峙しながらも逞しく健気に生きる現代人のようにも感じられた。
デジタル時計を使用したネックレスやベルト、3連時計などのアクセサリーは、1970〜1990年代のデジタルウォッチを収して制作。現代的な着想にリメイクアイテムを加え、ブランドのシグネチャーであるマグネットパンツや鮮やかなカラーリングや大胆なカッティングと組み合わせたコレクションは、「平凡な日常生活を探求し、人々の社会的行動を明らかにする」ことを目指すブランドの視点を、コレクション発表の場である日本や東京の日常に向けながらもブランドのオリジナリティを提示するショーとなった。
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