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湿度の高い東京の夏に佇むシュープのエレガンス 24年春夏コレクション

Image by: FASHIONSNAP(Ippei Saito)

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湿度の高い東京の夏に佇むシュープのエレガンス 24年春夏コレクション

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 年々厳しさを増す酷暑の東京で、全く残暑の気配がない8月末から開幕した「Rakuten Fashion Week TOKYO 2024 S/S」。屋外の会場を選ぶブランドも多いが、モデルの体調を優先して服を着ずにリハーサルを行うブランドもあるほど、コレクションを発表する立場、観る立場それぞれにとっても、この夏が過酷すぎるのは間違いない。

 大木葉平とミリアン・サンスが手掛ける「シュープ(SHOOP)」は、今季から日本法人を立ち上げ、ブランド開始から約8年間拠点にしていたスペインから東京に本拠地を移した。東京とは色彩感覚も人の価値観全く違うマドリードでブランドを培った2人の認識と心象に広がる“東京”のイメージを落とし込んだという2024年春夏コレクションは、その自由度が高いテーマの下でストレートにブランドのアイデンティティを現す。ショーが始まるまでの集中力を削ぐような蒸し暑さも、ランウェイ全体を包む熱気も全て味方にして、これから新しく「東京」で生まれるシュープのエレガンスを提示していた。

 ショー会場である国立競技場の薄暗く長いアスリートスロープを降りていくと、地下では蝉が鳴いていた。ランウェイとなるスロープの脇に4脚ずつ島にされた椅子に着く。ショーの開始を待ちながら、日差しがなくとも蒸し暑い会場で、観客たちは汗をかき、まるで道路のような白線が引かれたスロープを眺める。蝉の声と山手線のホームアナウンスが交互に流れる客入れ音楽に耳を傾けていると、夏の駅のホームでベンチに座っているような、公園のベンチに座っているような気分になった。

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 東京へ引っ越したばかりの大木とミリアンに、いま気になることを聞いた際「スペインには蝉がいないので、蝉の声がうるさい」と言っていたのを思い出す。和辻哲郎の風土論になぞらえれば牧場からモンスーンへ移動するほど大きな変化。身の回りの風景と身近なリアリティ、あるいは文化への考察からクリエーションを拡張させるシュープのスタイルにとっては特に大きな出来事のように思う。シュープが得意とするテーラードスタイルは、特に環境や気候によってクリエイションもスタイリングのニュアンスが変化するのではと感じていた。

 ファーストルックから3体続くテーラードスタイルのルックの、洗練されたシルエット、しなやかで光沢感のある生地、絶妙なグレートーンは、シュープらしさを変わらずに提示しながらも完璧にその薄暗く湿度の高い空間に似合う。東京の空気を通して見たビル街の黒、グレー、ベージュ、白、豊かな緑の色彩は馴染み深く安心感を覚えるような美しさがある。

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 「色々なファッションをしている人がいるけれど全体的に見ると洗練された印象があるのが東京」と語るように、都市とそこで暮らす人々、人々の服装から抽出されたのは、最小限に削ぎ落とされたシンプル、ユーティリティとテック、あるいはクリーンといった要素。それらをテーラードやテックマテリアル、デニム、ニットなど今までブランドが展開してきたアイテムに展開した。

 「東京といえば」という理由で会場に選ばれた国立競技場。数百メートルはあるであろう長いスロープがショー会場に使用されたのは今回が初だという。インダストリアルな雰囲気が気に入ったという道路のようなランウェイを歩くモデルたちは、東京の街中を歩く人の姿に重なる。

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 2人にとって今一番関心が高く大切にしているものは、1月に生まれた愛娘。コレクションには、今最も身近な存在であるベビー服の要素取り入れられた。耳を覆うような、身を守るようなヘッドピースはベビードールから、さまざまなアイテムに使用されたドットボタンはロンパースから引用。身の回りのエッセンスを拾い上げエレガントな佇まいに落とし込むバランス感覚もシュープらしさそのもので、可愛らしさのあるアイテムも洗練さを作る一員として機能させた。

Image by: FASHIONSNAP

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 洗練され純粋化した意匠に共通して用いられたのは「空洞」。大きな穴の空いたニットや途中で溶けたように編み目が解け襟元のラインがずれたニットは、暑さで溶けてしまったようにも見えるが、どんな環境でも平静を保ち暮らす東京の人のようで佇まいに愛嬌がある。肩にスリットの入ったトラックジャケットやシースルーのニットなど、硬質さの中にも透け感や抜けがあり、軽やかさが加わる。

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 グラフィックは、坂本龍一の「undercooled」にトリビュート。ChatGPTが同曲を基にして生成したものをモチーフにした。歪んだ「Dreamer」には、「儚い夢を見るもの」、「儚い夢にならない様に」というダブルミーニングのステイトメントを載せたという。

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 ショーを終えての感想を尋ねると、コレクション製作と引っ越し、会社の立ち上げが重なりとにかく忙しかったと2人は笑う。その多忙の中ブランド史上最多の全36ルックを揃える姿勢には、新しい環境での服作りの楽しさや気合いのようなものを感じる。

 「日本のファッション界にSay Helloって感じだと思います」。先のインタビューで東京コレクション参加への心持ちを尋ねると、多くを語らず朗らかな雰囲気で笑っていた。些細な感覚を見逃さず、今のリアリティを明確に綴り出す感覚を備えるシュープからのSay Helloを、観衆は明確に受け取っただろう。

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