ファッションに関する仕事というと、ショップの販売員など各ブランドで働くスタッフをイメージする人が多いと思いますが、世の中には様々なファッションに関わる仕事が存在します。そんな中から、イラストとストーリーでファッションの魅力を伝えることができる「漫画家」にインタビューをする企画をスタート。漫画家から見たファッションや「好きを仕事にすること」についてお話をうかがいます。
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第7回は、『アフターアワーズ』や『水野と茶山』などを代表作に持ち、2022年から月刊コミックビームで『下北沢バックヤードストーリー』の連載をスタート、2024年1月12日に最終巻を発売した西尾雄太先生にお話しいただきました。
――最終回を描き終えて、いかがですか。
ちょうど3日前に無事入稿を済ませました。入稿後はとにかくたくさん寝ました。本当は単行本のおまけページを描かないといけないんですが、だるだる~っと過ごしています(笑)。僕は漫画を描く時に、まず設計図を書くんですが、予定よりも登場人物たちが自由に動き回ってくれて、思い描いたよりも良いラストシーンに着地することができ、清々しい気持ちでいっぱいです。まだ発売されていませんが(取材時は2023年11月。最終巻は2024年1月12日発売)、最終巻は1・2巻よりも2話分くらい多く収録されていて、読み応えのあるものに仕上がったと思います。
――ファッションの目覚めは?
2つ上の姉の影響が大きかったですね。姉のファッションの目覚めが早く、高校卒業後に名古屋のモード学園に進み、高校時代からファッションにどっぷりでした。一緒にWOWWOWでランウェイの特集を見たり、当時は浜松にもセレクトショップがいくつかあったので、連れていってもらいました。そのうちガソリンスタンドで働いてバイト代を服につぎ込むようになりました。姉の影響が大きかったものですから、当時はメンズファッション誌よりウィメンズファッション誌を読むことが多かったです。今も本棚にあって、連載中の資料としてとても役立ちました。
実は全く古着について詳しくない状態で下北沢バックヤードストーリーを描き始めました。漫画において「古着」はまだまだブルーオーシャンだと思ったんです。漫画を描くために資料を集めたり取材をしたり、勉強していくうちに古着の世界に足を踏み入れていった感じですね。以前から古着はちょこちょこ買ってはいたんですが、今みたいに100年前のヴィンテージには関心がありませんでした。僕は1982年生まれで、ちょうど1990年代末のモードが盛んだった時代に10代を過ごしました。好きだった「Paul Harnden」なんかは、100年前のヨーロッパの服をデザインソースにしていたりしたので、古着への親和性が高かったこともあり、ズブズブとのめり込んでいきました。
――漫画を描き始めたきっかけは?
中学生の頃から漫画を読むのが好きで、いわゆるオタク話で盛り上がる友人はいたんですが、漫画を描いている人は周りにいませんでした。だから自分も到底漫画を描けるとは思っていなくて、でも漫画の近くで働ける仕事に就きたいなと思い、20代になりたての頃に書店で働き始めました。そこから店長になって、東京のお茶の水店に転勤に。お茶の水店は神保町の出版社と有名なレンタルCDショップが近くにありました。音楽好きの漫画家さんたちが、出版社に打ち合わせにいった帰りにCDショップに寄って帰るルートのちょうど真ん中に店舗があって、漫画家さんがふらっと遊びにきてくれることもありました。
当時、趣味でイラストを描いて投稿サイトに載せていたのですが、ある時、漫画家の西山ツチカさんが、ラッパーのオノマトペ大臣さんと遊びに来てくれて、イラストの話を通してお二人と仲良くなりました。後日、西山ツチカさんとオノマトペ大臣さんが同人誌即売会でZINEを出すことになり、「店長も何か描きませんか?」とお誘いを受けて。ZINEに参加される方全員が漫画を描かれる中で、僕だけがイラストなのもなあと思って、つたないものでしたがボールペンで初めて漫画を描きました。そうして何度か即売会で発表していくうちに小学館の漫画編集者さんから「うちで漫画を描きませんか」と声をかけてもらったのが漫画家デビューのきっかけです。
――漫画関係以外になりたい職業はなかったですか?
僕は静岡県出身なんですが、静岡県の中でも割と栄えていた浜松市の駅ビルに大型書店が入っていたんです。そこが自分の考え得る一番カルチャーに近い場所で、第一の選択肢がそこだったんですよね。僕は高卒で何も資格は持っていなかったので専門職は選択肢になかった。アルバイトで販売の仕事はいくつかやったことがあったので、販売員だなと。東京に出た後もお店のことが忙しすぎて、お茶の水店の半径数キロくらいでしか生きてなかったです。そんななかで、村上隆さんプロデュースのグループ展に参加する機会をいただいて、3メートルくらいの大きな絵を描いたりしたこともありました。なので、もっと他の職種があるんじゃないか、とはなりませんでしたね。
――多忙な中で創作する側にまわるというのは、時間の捻出がかなり厳しかったのではないですか。
そうですね。全然寝てなかったですし、休日らしい休日も作れていなかったですね。ただ幸い、当時は僕も若かったので体力があったんですよね。今は絶対できません(笑)。とにかく楽しかったんですよ。やっぱり思ってもいなかったところに飛び込んでいくのはワクワクします。ぼんやりと、なれるとは思っていないが憧れだけはある。みたいな気持ちが漫画家に対してあったんですよね。昔の自分が聞いても信じてくれないだろうなと思うようなことばかり経験させてもらったので、もし自分の青春のピークを決めるなら、学生時代よりもはるかにこの頃だったと思います。
――書店店長時代も相当大変だったと思いますが、漫画家としての大変さとはやはり違いますか?
漫画家は守らなければならない〆切があります。僕はあまりロジックやメソッドで漫画を描く技術がないので、ネームがすんなり思い浮かばないこともあるんです。それが辛いですね。もちろんそれがクリアになった時の達成感もありますが。例えば店長として書店のレイアウトを変えるというのは、手を動かしてさえいれば、時間がかかったとしてもいつかは完成するもの。でも漫画のストーリーは必ずしもそういうわけではありません。ドツボにハマってしまった時はもう寝るしかないよねと…。でも不思議と、寝て起きたら思いがけない自分の引き出しからアイディアがでてきてストーリーが繋がったり、袋小路に入る前の分岐点に戻れたりすることがあるんです。僕はお酒を飲んだり煙草を吸ったりしないのですが、そういう嗜好品をたしなんでいればまた違ったブレイクスルーの方法もあったのかもしれませんが。単純に考えるのにも体力がいるので、年齢的な問題で寝るしかないのかもしれませんね(笑)。
――好きなことを仕事にして良かったなと実感することはありますか?
もちろん、読者の方から感想をいただけると嬉しいです。作中で「これはきっと伝わらないだろうけど、自己満足で描いちゃお」みたいな部分が思いがけず伝わったり、僕の作品は何ヵ国かで翻訳出版もさせていただいているんですが、海外の方からのリアクションも、ものすごく嬉しいです。あとは、絵は描いたら描いただけ上達するので、先月の自分を今月の自分が超えてきたな、という達成感を比較的短いスパンで得られることですかね。
――他人と比べるよりも、過去の自分と比べることが大切なんですね。
上を見たら青天井ですから。もちろんめちゃめちゃガッツのある人は、上を目指していけばいいと思うんですが、それで心が折れてしまっては元も子もないなと。我々がゆく「道」というのは長く長く先に続いているので、自分よりずっと上手な人が目の前にいたとしても、時間をかけて一歩一歩前進していったら、そこには必ず辿り着く。進む歩幅によっては並ぶどころか追い越すことだって可能です。歩みを止めないということが大事だと思いますね。あと、「私はここでこういうことをやっています」という発信を続けていると、いつか必ずチャンスが巡ってくるんです。その姿を見てくれている人が必ずいて、その人が「何か仕事を頼みたい」となった時に、手を挙げていないと絶対フックアップしてもらえない。ずっとやり続けるというのは忍耐のいることですが、やっぱり大切ですよね。
――好きなことを仕事にし続けるために意識していることは?
ひとつは、後退しないことです。今の自分が作るものより、良くないものを作るとがっかりされてしまうし、どんどん新しい作家さんが生まれている中で、「西尾くんに仕事頼みたいよね」と思ってもらうためには、前進し続けてフレッシュさを保ちつつ、裏切らないこと、作品作りに真摯に向き合うことですね。
そしてもうひとつは、できない量の仕事を受けないこと。一気に注目を受けて、沢山お仕事のお話がきたりして、あれもこれもやりたい!で受けていると、さばききれなくて最終的に全員に迷惑をかけてしまいますから。実際にそれで仕事を失ってしまう人もいるので…。「いつまで待ってほしい」という、そういう交渉も大切になってきますよね。
――今後の展望を教えてください。
前作が完結した時に、ギャラリーで原画展を開催させていただくお話があったんですが、コロナのタイミングと被ってしまって結局オンラインでの開催に変更になった経緯がありまして。今回、愛知と東京で念願の原画展を開催することになりました!ぜひお気軽に遊びにきてください。
愛知と東京で原画展開催決定!
『下北沢バックヤードストーリー』(西尾雄太 / KADOKAWA)完結記念原画展
開催中~2024年1月25日(木) TOUTEN BOOKSORE(愛知・金山)
https://www.touten-bookstore.net/s/stories/1f2024112-125-kadokawa-3
2024年2月8日(木)~18日(日)VOID(東京・高円寺)
https://voidtokyo.com/
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