4月を迎え、「物流の2024年問題」が現実のものとなった。今月から働き方改革関連法によって自動車運転業務の年間時間外労働時間の上限が制限されることで、輸送力の低下や宅配便などの運賃値上げなどが予想され、配送と切っても切れない通販事業を展開する事業者にとって、物流への対策は間違いなく喫緊の課題となりそうだ。もちろん、”物流の滞り”が与える経済活動への悪影響は甚大であることから座視しているわけではなく、国や行政らも支援を強化して配送事業者、通販事業者らも同問題への対応にすでに注力し始めており、物流に変化の兆しも見え始めている。通販事業者の立場から変化の動きをみていく。
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【変化①置き配が一般化か】
「24年問題」への対策として、真っ先に挙げられるのは”再配達の抑制策”。「一度に配り切れず、さらに再び持ち帰らなければならないこと」が配送員の業務効率を著しく低下させる一因となるためだ。この再配達抑制に最も有効とされる対策が受け取り手の在宅・不在に関わらず、荷物の配送を行える「置き配」。すでにアマゾンが置き配を標準配送とするなどの措置を進めているが、4月以降はさらに配送事業者や仮想モール運営事業者、通販事業者らも消費者に同配送に誘導するような取り組みを進める模様で置き配は浸透していきそうだ。
置き配浸透の転機となりそうなのはヤマト運輸が6月10日から「宅急便」と小型の荷物を対象とした「宅急便コンパクト」について受け取り側が受け取り方法として置き配を選択できるようにすることだ。無料登録できる会員サービス「クロネコメンバーズ」の会員を対象に、専用サイトから事前に荷物の受け取り方法を選択できるメニューに新たに「置き配」を追加。置き配を選択した会員は玄関前ドアなどの置き配先を選ぶことができ、配達員は指定の場所に荷物を置いた様子を撮影し、当該画像とともに受け取り側へ「お届け完了通知」を送信する流れ。
ヤマト運輸はこれまでも置き配に対応してきたが、事前に受け取り方法として「置き配」を選択できるのはEC事業者向けの宅配サービス「EAZY」のみで、宅急便や宅急便コンパクトは原則、対面配送で置き配は配達時に受け取り側から指示があった場合のみ対応しており、不在時に置き配を行うことはできなかった。「『EAZY』は年間約5億個を取り扱っているが、受け取りに置き配を選ぶお客様は2023年度で37・3%と20年度の18・4%と比べると増加しており、置き配のニーズや認知が広がっており、このタイミングで宅急便と宅急便コンパクトでも(事前指定による)置き配に対応した」(ヤマト運輸の久保田亮サービス商品部長)とする。
宅急便の置き配事前指定は会員専用サービスとはいえ、無料で加入でき、かつすでに5600万人以上が登録していること。また、宅急便と宅急便コンパクトはヤマト運輸が運ぶ全宅配便のおよそ6割を占め、すでに置き配対応中の「EAZY」を含めヤマト運輸の宅配便の大半を多くの人々が「置き配」で受け取ることが可能になるようだ。
多くのネット販売事業者が出店している仮想モールでも荷物の受け取りを置き配へと促す取り組みが進んでいる。LINEヤフーは運営する「ヤフーショッピング」で1月22日から、配送方法の選択の際に置き配を指定した利用者にポイントを付与する取り組みを開始した。出店店舗のうち、置き配に対応する配送会社に配送を委託する事業者の店舗で1回で1000円以上の商品を注文する利用者が配送方法指定画面で「置き配」を選択した場合に10円相当のポイント「PayPayポイント」を付与するもの。期間限定の取り組みで3月末で終了したが、「置き配選択者へのポイント付与を行う対象店舗数を増やしてユーザーの行動変容を促していきたい」(同社)としており、今後も継続的に同取り組みを実施していく方針とみられる。
国土交通省は消費者がネット販売などで商品を注文する際に、置き配などを選択した場合にポイントを還元するような取り組みを行うEC事業者らに補助金を付与する支援策を実施。東京都も3月28日に24年問題対策の支援プロジェクト「東京物流ビズ」を打ち出し、空き配バッグの配布支援など再配達抑制のための取り組みや消費者への周知を進めている。こうした行政の支援も後押しし認知が一気に広がり、置き配こそ配送方法のスタンダードとなるかもしれない。通販各社は置き配を前提としたサービス設計を考える必要も出てきそうだ。
【変化②料金安い配送商品続々】
24年問題を前に大手配送事業者各社は宅配便の値上げに相次ぎ踏み切っている。人手不足や燃料高騰などは簡単に解決できるものではなく、今後も値上げは続きそう。そうした中でビジネスチャンスとばかりに新たな配送サービスが登場、配送コストを軽減したい通販事業者からも注目されている。
例えば、メルカリがSBS即配サポートと組んで、宅配便100サイズまで送料一律730円でローソンや駅などに設置している非対面発送サービス「スマリボックス」を利用して商品を集荷、置き配で配送を行うメルカリの利用者向け配送サービス「エコメルカリ便」の提供を3月28日から開始した。まずは東京都(島しょ部除く)・神奈川県・埼玉県・千葉県の1都3県で提供する。一律送料のため商品サイズを測ったり、送料を調べたりする手間が必要ないほか、置き配指定受け取りのため、安価な料金を実現したという。今後は対応地域とサイズ拡大を予定。自宅から発送できる「置き発送」や梱包の手間を軽減するサービスの提供なども検討する。CtoC向けだが注目すべき配送サービスだろう。
中小運送会社で組織して通販商品などの配達を大都市圏などで行うラストワンマイル協同組合は4月から、小型荷物用の配送サービス「宅配ミニ」の提供を開始した。既存の宅配便では荷物サイズの下限を縦横高さの長さの合計が60センチとなる「60サイズ」としていたが、「宅配ミニ」では下限を50サイズとして料金も安価にした。「大手配送事業者が展開している小型荷物用配送サービスよりも2割程度安い」(同社)という。なお、大手配送事業者が展開する小型荷物用宅配サービスでは専用の箱が必要となるが、「宅配ミニ」では専用箱は不要で箱のほか、袋など50サイズに対応するものであればよく荷主の利便性を高めた。化粧品や健康食品、電子機器などの配送ニーズを想定しているという。
大手配送事業者の値上げを受けて、物流費を下げたい通販企業ら荷主と作業負担が比較的軽く、その分料金を安価におさえることが可能となる小型荷物専用配送サービスで新たな荷主を獲得したい配送事業者のニーズが合致していることもあり、物流業界筋によると、小型商品用配送サービスは他の配送事業者らも展開を模索している模様で、続々と新たな配送サービスが登場することになりそう。注視しておく必要がありそうだ。
【変化③ゆっくり配送広がるか】
ZOZOは4月2日から、運営する通販サイト「ゾゾタウン」のユーザーが通常配送よりも余裕のある配送時期を選択した場合にゾゾポイントを受け取ることができる「ゆっくり配送」を試験導入した。商品注文時に「注文内容の確認」画面で「ゆっくり配送」を選択した顧客には商品注文日の5日後から10日後までに発送する。
通常配送よりも最大で6日長くなるが代わりに、利用者に「ゾゾタウン」での買い物に利用できるゾゾポイントを10ポイント(10円分)付与するもの。試験期間は4月22日まで。
アスクルでも運営する個人向け日用品通販サイト「LOHACO(ロハコ)」でセール実施日など対象日に合計3780円以上の商品の購入者に対して、注文画面上で配送日を通常よりも遅めに指定した顧客に10~30円分の「PayPayポイント」を付与する「おトク指定便」を展開している。半数以上の顧客に利用され、セール期間などの出荷・配送作業の負荷軽減に成果をあげているという。
また、LINEヤフーが運営する仮想モール「ヤフーショッピング」では昨年4月から出店者向けの新機能として注文時に商品の配送日を通常よりも遅く指定した顧客にポイントを付与できる機能を導入している。仮想モール最大手「楽天市場」でも「急がない便(仮称)」の導入を実現していく予定」とする。
「早く届けること」を至上命題とする風潮があったが物流の作業負担の軽減などを図るためにゆっくり配送を導入する通販事業者は今後、増えていきそう。配送のスピードへの考え方も変わっていきそうだ。
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