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作り手とユーザーの境界線を曖昧に⎯⎯トーク・ノンセンスが「編み物」の実践で目指すファッションの理想郷

有楽町が舞台の3ヶ月連続プロジェクトが開幕

Image by: FASHIONSNAP

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 ニット製品の開発やリサーチ、ワークショップなどを行う「トーク・ノンセンス(TALK NONSENSE)」が、1〜3月の3ヶ月間にわたって展開するリサーチベースのプロジェクト「都市を編み直す(Knitting the City Anew)」を東京・有楽町の街を舞台に開催している。

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 その第1弾として、歴史的な編み図を現代に紐解く展示「ニッツ・アンド・レビュー/コピールーム(Knits & Review / COPYROOM)」を三菱一号館美術館 Espace 1894でスタートした。会期は1月24日まで。1月24日には、YAU・建築家の森純平と京都服飾文化研究財団 アシスタント・キュレーターの五十棲亘、トーク・ノンセンス主宰の小梶真吾が登壇するトークイベントも実施される。

 ニットをはじめとした衣服へのアカデミックなまなざしとリサーチをベースに、「自らの手で解き、編み直す」といった実践的な取り組みを行うディレクターの小梶真吾に、そのユニークな活動の背景にある思いを聞いた。

Image by: TALK NONSENSE

固定化された「作り手」を解体し、ブランドの概念を拡張

 トーク・ノンセンスは、ディレクターの小梶真吾とニットデザイナーの沖裕希が2024年に始動。リサーチに基づいた製品開発やワークショップなどを通じて、衣服を「作ること」と「着ること」がもつ社会的側面を探求している。

 小梶は、京都芸術大学(旧 京都造形芸術大学)卒業後、複数のブランドやデザインスタジオでの経験を経て、2022年にKKJデザイン事務所を設立。現在は企画やデザインをはじめ、衣服にまつわる多様な仕事を手掛けている。一方、ニットデザイナーの沖は、文化服装学院のニットデザイン科を卒業後、複数のブランドでの勤務を経て独立。現在は2人ともフリーランスとしてさまざまなブランドに携わりながら、並行してトーク・ノンセンスの活動を行っているという。

 その活動を一言で形容するのは難しい。ニット製品の製作や販売も行っているが、「定期的にコレクションを製作して展示会を開催し、商品を店に卸して売る」という一般的な「ブランド」とは異なるアカデミックな側面も持つ。そのため、「本来であれば『ブランド』というものをもう少し拡張した概念として伝えたいのですが、その言葉の既存のイメージが強すぎてしまうのでもどかしく、毎回自分たちのことを何と表現したらいいか悩む」と小梶は話す。

「Tunica Sweater」

Image by: TALK NONSENSE

ワークショップの様子

Image by: TALK NONSENSE

 彼らが目指しているのは、ファッションにおける「作り手(デザイナー)」と「使い手(ユーザー)」の境界線を曖昧にし、その関係性をより流動的なものに変えていくことだ。小梶は「今のファッションは、デザイナーやインフルエンサーといった『作り手の主体』が固定されすぎていて、みんなが同じ位置から物事を見ているのではないか」と指摘する。そういった状況を変えていくべく、「衣服の生産過程の中に、どうやって作り手やユーザーの手を入れていくことができるか」との考えのもと、一般の人々が日常的に編み物を行っていた時代のリサーチや、ユーザーとともにセーターを解いて製品の素材を作ったり、編み物をしたりといったワークショップなどを実験的に行っている。

「僕らがデザインして作るものもあれば、誰かがデザインして誰かが作るものもある。それらがすべて横並びになる状況が、僕にとっての理想郷なんです」(小梶)。

「編み物」と都市論の意外な接点、100年前の編み図から今学ぶこと

 今回の3ヶ月連続プロジェクト「都市を編み直す」では、フランスの哲学者 ミシェル・ド・セルトー(Michel de Certeau)が著書「日常的実践のポイエティーク」で説いた都市論を引用。その「都市を設計するのは計画者だが、実際に都市を作っているのは、地表で人々が日々積み重ねているさまざまな実践である」という視点が、「ニット」を用いて実践を行うトーク・ノンセンスの理念や活動と深くリンクしている。

 現在、三菱一号館美術館 Espace 1894で開催中の展示「ニッツ・アンド・レビュー/コピールーム」の元になったのは、彼らがこれまでに行ってきた個人的なアーカイヴ・リサーチだ。「昔はユーザー自身が手を動かして服作りをしていた実践の例があるのではないか」との考えから、インターネット上のアーカイヴや戦争博物館などで戦時中の編み図の資料を探し、その実物をeBayなどを通して収集してきたという。

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 そうした資料を紐解き、実物に触れる中で見えてきたのは、当時のデザインが持つ「合理性」だった。多くの編み図は「誰でも始められるように」という意図のもと、まっすぐ編むだけのシンプルな構成がほとんど。これは製作時間を短縮し、効率的に作るという意味で現代の服作りにも通じる理にかなった形であり、トーク・ノンセンスの製品にも、直線的なパーツを組み合わせ、ダーツを入れることで現代的な衣服として成立させる手法が活かされている。

 また、実際に編んでみることで、当時の人々の「技術の高さ」も浮き彫りになったという。例えば「1×1リブ(1目ゴム編み)」という指示通りに現代の一般的な糸で編むと、目が詰まり分厚くなってしまう。このことから、かつては今よりも遥かに細い糸が日常的に使われていたことや、当時の人々には扱いの難しい細い糸を編み上げる高度な技術があったことなどが見えてきたという。

歴史をコピーし、未来を編む 「自分たちの場所」を作るための実践

 会場では、こうしたリサーチの過程で収集された1910年代以降の戦時下のアメリカ・イギリス・カナダで、一般市民が兵士や負傷者のために編んでいた衣服の図案を展示。それらは、現在の糸や道具で再現できるように再編集されている。

 全8種の編み図には、それぞれ原文と当時の写真、それが作られた背景にまつわるエピソードなども記されており、来場者は会場に設置されたパソコンとコピー機を使って、編み図をプリントし持ち帰ることができる。また会場には、リサーチの過程で手に入れた当時の資料の現物や、実際に沖が編んで再現したニットアイテムも並んでいる。

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 東京・有楽町を拠点とするアートを軸としたイノベーション創出プラットフォーム「YAU(ヤウ、有楽町アートアーバニズム)」の公募企画の一環として行われる今回のプロジェクト。リサーチをベースにした第1弾の展示を皮切りに、2月と3月にはそれぞれ異なるワークショップを開催する。第2弾では、YAUのスタジオを舞台にセーターを解く実演や体験のワークショップを、第3弾では1918年に戦時下のニューヨーク・セントラルパークで行われた「Knitting Bee」を現代に再現する、有楽町の街中の公共空間で「みんなで編む」ワークショップが計画されている。

 自ら企画した長期間のプロジェクトに、小梶は「少しやりすぎたかなと思っています」と笑いつつも、そこには明確な意図がある。「ファッションの世界では、どうしても『新しいもの』へと進みがちで、反復する機会はなかなかない。でも今回は、この2年くらい継続してきた活動をもう一度すべて復習し、確認しながら進めることができる良い機会」と捉えているのだ。

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 さらに、今回の一連のプロジェクトについて、「僕は『現状維持』があまり好きではなく、常に新しいことにチャレンジしていくことで人類は進歩すると思っています。そういった未来を考えるためにも、過去に何があったのか、昔の道具や物がどうやってできているのかを知ることは大切。この展示が、そういったことに気づくきっかけになったら嬉しいし、一方でまずは単純に『楽しいからみんなで手を動かそう』という思いもあります。洋服との出合い方の可能性が広がっていくことに繋がれば」と期待を寄せた。

 アカデミックな側面とファッション的であることのバランスを保ちながら、異なる領域を行き来する⎯⎯トーク・ノンセンスが目指すのはそんな存在だ。今後の活動について、小梶は「展示会を開催して卸売りをするという一般的なブランドの運営方法は、20代の頃に散々経験して疲れてしまったので、この先もあまり考えていません。将来的には自分たちの製品を置き、ワークショップや展示も自由にできるような『自分たちの場所』を作れたら」と目標を語った。

最終更新日:

「都市を編み直す(Knitting the City Anew)」 by TALK NONSENSE
1. Knits & Review ⁄ COPYROOM(歴史的な編み図の展示・コピー室)
日時:2026年1月23日(金)12:00〜20:00
                    1月24日(土)10:00〜18:00
場所:三菱一号館美術館 Espace 1894
所在地:東京都千代田区丸の内2-6-2 三菱一号館美術館 1F
入場料:無料

・関連トークイベント「日常的実践としてのファッション ⎯ セルトー、都市、編み物」
日時:2026年1月24日(土)14:00〜16:00
場所:三菱一号館美術館 Espace 1894
登壇者:森純平(YAU・建築家)、五十棲亘(京都服飾文化研究財団 アシスタント・キュレーター)、小梶 真吾(TALK NONSENSE 主宰)

2. WORKSHOP U-A-R-K ⁄ 解いて編んで(公開制作・Work in Progress)
日時:2026年2月11日(水・祝)〜2月13日(金)11:00〜18:00
                    2月14日(土)〜2月15日(日)13:00〜20:00
場所:YAU STUDIO
所在地:東京都中央区銀座一丁目3番先 東京高速道路北有楽ビル1階 16号室
入場料:無料

3. Public Knitting Day(有楽町・街なかワークショップ)
日時:2026年3月13日(金)〜3月15日(日)
場所:有楽町の街中
参加費:有料、要予約
※YAUオープンスタジオ期間内に数回開催予定。
※ワークショップ内容と場所は決定次第、TALK NONSENSEとYAUの公式インスタグラムまたはウェブサイトで告知。

■TALK NONSENSE:公式サイト公式インスタグラム

■YAU:公式サイト公式インスタグラム

FASHIONSNAP 編集記者

佐々木エリカ

Erika Sasaki

埼玉県出身。早稲田大学国際教養学部卒業後、国内大手アパレルメーカー、ケリング傘下ブランドのMDなどを経験した後、2023年にレコオーランドに入社。現在はウィメンズファッションをメインに担当。ファッションやカルチャーへの熱量と同様にジェンダーや社会問題にまつわるトピックにも関心があるため、その接点を見出し、思考や議論のきっかけとなるような発信をしていけたらと願っている。

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