パーソナライズ体験が必須の米国流通視察、求められる構造転換

当社の流通DXワークショップ研修の様子。参加者が1台のアイパッド画面を共有し、米国最先端のアプリUIやパーソナライゼーションの仕組みを学んでいる。現在の米国小売業の「本体」を理解するためには、このような少人数制でのリアルなデジタル体験が欠かせない。

当社の流通DXワークショップ研修の様子。参加者が1台のアイパッド画面を共有し、米国最先端のアプリUIやパーソナライゼーションの仕組みを学んでいる。現在の米国小売業の「本体」を理解するためには、このような少人数制でのリアルなデジタル体験が欠かせない。

当社の流通DXワークショップ研修の様子。参加者が1台のアイパッド画面を共有し、米国最先端のアプリUIやパーソナライゼーションの仕組みを学んでいる。現在の米国小売業の「本体」を理解するためには、このような少人数制でのリアルなデジタル体験が欠かせない。

崩壊しつつある米国流通視察のビジネスモデル
日本の流通業界において、旅行社やコンサルタント、業界団体が主催してきた米国流通視察のビジネスモデルが、いま大きな過渡期を迎えている。
長年、米国流通ツアーは彼らにとって確実に儲かる「ドル箱」であった。しかし、アメリカ小売業のデジタルトランスフォーメーション(DX)が劇的に進む中、これまでの視察スタイルでは現場の最前線を全く学べなくなっているのだ。
現在のアメリカにおける小売市場の成長は、そのほぼすべてをデジタルが牽引している。
ネットスーパー市場は年率11.57%という驚異的なスピードで成長を続けており、2028年にはオンライン食品販売が4520億ドル(約67兆8000億円)に達し、シェアは25.5%まで拡大すると予測されている。
この不可逆の成長軌道の中で、もはや実店舗の売場を歩き回るだけの視察は完全に時代遅れとなっている。
デジタル体験に不可欠な「少人数制」とコストの壁
ウォルマートなど米国の大手チェーンストアの視察において、現代の最重要テーマであるパーソナライゼーションを研究するためには、モバイルアプリの利用が絶対に欠かせない。
アプリを通じた購買体験こそが、リアルとデジタルが融合した未来の小売の姿そのものだからだ。
しかし、このアプリを利用した研修を実施するには、小さな画面でユーザーインターフェース(UI)やユーザーエクスペリエンス(UX)を確認するためにスマートフォンの共有が必須となる。
つまり、視察を10名以下の少人数制に絞り込まざるを得ないのだ。
一方で、少人数制の研修を旅行社やコンサルタント、業界団体が主催しようとすると、一人当たりの負担コストが急激に跳ね上がる。
航空運賃の高騰や記録的な円安、現地の物価高も重なり、参加費を大幅に値上げしなければ利益が出ない構造になっている。
しかし、高額な参加費では人が集まらない。
その結果、主催者側は採算を合わせるために大人数を集めて売場を見るだけの基本コースに逃げ込み、いつまで経ってもスマートフォンを利用した本質的な研修が実現できないという悪循環に陥っているのだ。
プライバシーの壁を越えられない端末共有問題
さらに、少人数制をクリアしたとしても、「誰のスマートフォンを使うのか」という極めて厄介なプライバシーの問題が立ちはだかる。
スマートフォンには、写真やメッセージのやり取り、普段の購買履歴など、個人のプライベートな情報がぎっしりと詰まっている。
仮に現地在住のコーディネーターやガイドが研修に参加したとして、個人情報の塊である自身の端末を赤の他人にシェアすることを快く思うはずがない。
自分のスマートフォンを家族にすら気軽に見せられるだろうかと自問すれば、端末の共有がいかに心理的ハードルの高い行為であるかは容易に理解できるはずだ。
現地ガイドに端末を貸してもらうためには、相応のリスクに見合うだけのギャラを上乗せして支払う必要がある。
しかも、ただ貸してもらうだけでは意味がない。すでに日常的に買い物をしてアプリがパーソナライズされている状態を作り出さなければならないからだ。
現地在住のガイド自身が日常的にアプリを使いこなし、進化を続ける機能に精通した専門家でなければならない。
アプリをパーソナライズするためにかかる日々の手間や労力、実費、そして専門的な知識や知見を得るまでのプロセスを考えれば、必然的にコストは桁違いに跳ね上がることになる。
私が自身のスマホとパスコードをシェアする理由
一方で、当社の流通DXワークショップ研修では、筆者である後藤自身のスマートフォンを参加者に共有するだけでなく、筆者がその場にいない状態でも自由に使えるように6桁のパスコードまで完全にシェアしている。
取引先の社員10名前後に、自分のスマートフォン本体だけでなくパスコードまで教え、自分の目の届かない場所で自由に触らせる状況を想像してみてほしい。
不正なアプリを勝手にインストールされるリスクや、クラウド経由でプライベートな情報を覗き見られる危険性を考えれば、常識的に考えて絶対にシェアなどできないはずだ。
それでも筆者が流通DXワークショップでこのリスクを冒してまで端末を開放しているのには明確な理由がある。
アメリカの流通視察で現在の買い物の仕方を本当に学ぶには、スマートフォンアプリの利用が絶対に必要だからだ。
たとえばウォルマートのアプリは、買い物客の心理を徹底的に研究し尽くした世界でも最高のUIを誇り、まさに最先端のバーチャル売り場として機能している。
顧客の日常生活の動線に完全に最適化されたこのアプリの仕組みを学ばない手はないのだ。
デジタル不在の視察は無意味である
正直に言えば、自身の端末をシェアすることには大きなリスクが伴う。しかし、デジタルを体験しない、スマートフォンに触れない視察は全くの「無意味」である。
成長の最前線であり、業界の本体とも言えるデジタル領域を体験せずに、実店舗の棚や陳列だけを見て回るのは、飛行機を見学して操縦を学んだつもりになっているのと同じことだ。
だからこそ、筆者はクライアントを信じるしかない。
端末を開放しても悪用されることのない、真剣で真面目、そして心から信用のおける企業からの依頼しか仕事として受けないのはそのためである。
これまで流通研修を手軽に儲かるビジネスと考えていた旅行社やコンサルタント、業界団体は、いま大きな岐路に立たされている。
古いやり方に固執して無意味な売場観察ツアーを続けるのか、それとも痛みを伴ってでもデジタル体験を中心とした未来の視察へと構造を転換するのか。
これからの米国視察は、極めて厳しい選択に迫られることになるのだ。
私のコンサルティングフィーをお話しすると、よく「破格ですね」と驚かれます。
店舗を見る前にワンポイント話すガイドさんみたいなコンサルタントや現地在住コーディネーターを想像しているから、「桁違いだ」と考えてしまうのでしょう。
そこで私はこう尋ねます。
「XXさんのスマートフォンを1日お借りするとしたら、いくらなら『貸してもいい』と思われますか?」
「では次にXXさん、『XXさんのスマートフォンとそのパスコードもシェアさせてください』となったらどうでしょう?」
「さらにXXさん、『XXさんのスマホとパスコードを、私の同僚10人ほどと一緒に丸1日共有するとしたら』、いくらなら許容できそうでしょうか?」
すると皆さん、急に黙り込んでしまいます。
チャットGPTにプライベートなことを相談するようなAIの時代には、買い物もパーソナリゼーションが必須です。
それにはプライバシーのリスク等を考慮しなければアメリカで今の買い物を学ぶことはできません。安全な外堀を眺めるだけで城を落とした気になっているのが従来の視察です。
だからこそ、私は絶対に安売りはしません。デジタル費用を高いという企業は、ランサムウェアによる大規模なサイバー攻撃を受けるような”都合の良い標的”になります。
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