■演出 ダニエル・エズラロウの思い
自らもダンサーとして活躍してきた振付家のダニエル・エズラロウ。2014年にロシア・ソチで開催される冬季オリンピックのオープニングセレモニーの振付を担当することも決まっている。ISSEY MIYAKEとの関わりは深く、これまでもコレクションやダンスパフォーマンスの演出を担当してきたこともあり、今回の公演のクリエイション/ディレクション/コレオグラフィ として抜擢された。新体操の演出は初めてだが、これまでにない27人の部員全員参加の演目もあるという。ダニエルが思い描くヴィジョンや、インスピレーションとは。
―初めてオファーがあった時、何を感じましたか?
オファーを受けた当初から、これはハイレベルで面白いプロジェクトになると思いました。彼らの競技を初めて見た時、団結したチームのシンクロナイゼーションには本当に驚かされましたね。
―今回の公演のインスピレーションは?
3つのインスピレーションがあって、その1つは三宅一生さんとそのスタッフ。私にとって家族みたいな存在です。2つ目は青森大学新体操部。彼らの間にはチームならではの良いフィーリングが生まれていて、これは世界共通の感覚で素晴らしい。そして3つ目は、会場となる国立代々木競技場 第二体育館。1964年に建てられたというのに、現代でもなんて美しい建築なんだろうと感動しました。天井が光に向かってらせん形になっているのを見て、教会のように神聖な何かさえ感じたんです。
―全体のイメージは?
体育館のフロアが円形で、まるで大きな海のように見えました。その海を観客が上から見下ろせるようになっていて、新体操で使うマットは、海に浮かぶ島のよう。広い海に囲まれた「まさに東北、まさに日本だ」と、すぐにイメージが膨らんだんです。全体のイメージは水。人間が生きていくのに不可欠な存在で、そして水を表す青は青森を象徴する色だとも思っていますから。
―中田ヘッドコーチと選手との関係について
中田さんは才能があってユニークで、素晴らしい人ですね。彼の仕事に対する高い意識と造詣の深さは、チームを見ればわかります。選手たちの身体は厳しい練習に耐えて鍛えられているし、素晴しく調和がとれている。このチームの状態は中田さんの仕事の成果ですね。初めて青森を訪ねた時には、「6人のチームが2つあったけれど、合わせて12人のチームにしてみないか」と彼に提案をしたんです。その結果を1ヶ月後に見せてもらったんですが、実に素晴らしかった。単純に2つのチームを合わせただけではなく、12人のチームで新しい作品ができていて、それは求めていた以上のものでした。それで最終的には部員27人全員が参加する演技を考えています。彼は自分の仕事だけでなく、選手のことも理解しているし、僕の考えも理解してくれている。クリエイターにとって、様々な考えを早急に理解して、それ以上のものを創り上げる能力を持った人と仕事ができて、とても嬉しく思います。
―新体操という競技を、どう表現していくのでしょうか?
新体操選手はアスリートなので、普段は厳密な環境で競技をするでしょう。審判の合図に従って競って、審査員の点数で結果が決められる。でも、もし選手たちの鍛えられた肉体を使って違うことができたら面白いのではないか。彼らはまだ若いけれど観客にインスピレーションを与えることができる、と感じたんです。彼らの身体を、海で泳ぐ魚やイルカのように見せるのはどうだろう。そう考え出したら、このプロジェクトがすごく楽しみになりました。
ー舞台を創り上げるプロセスについて
今回は三宅一生さん、青森、新体操部、中田さん、日本、体育館、そういった全ての要素やプロセスからアイデアを得て、少しずつ創り上げながら完成に向かっています。今は集中して、毎日「さらに良くするにはどうすればいいのか?」と考えることがプロセスのひとつです。ただ完成がゴールではなく、今回の公演も最初のステップにすぎないかもしれません。
ーこの公演は何を意味するものになるか
私は今回、この公演をやることには、どこかで津波と関係している気がしているんです。直接大きなお金を寄付するプロジェクトではないけれど、この数年前に東北で悲惨な地震と津波があったことを忘れてはいない。自然現象が、人の命を奪っていきました。そんな東北の地に男子新体操があって、三宅さんがこのチームを起用したいと思って、僕にオファーがきた。東北の美しい自然、津波によって思い知らされた自然が持ちうる残酷さ、そして選手として表現する人間の存在には何かしらの抽象的なつながりがあると思っています。今回のプロジェクトにあたっては、ポジティブなエネルギーを感じました。それらに関わるチャンスを頂けたことは、とても光栄で嬉しいことです。