2000年代に「マウジー(MOUSSY)」「スライ(SLY)」で平成“ギャル”ファッションをけん引し、2010年代は中国への多店舗出店をドライバーにしてきたバロックジャパンリミテッドが、次なる成長軸を模索している。虎の子だった中国事業は、コロナ禍以降の中国市場の冷え込み、ECの拡大、中国ローカルブランドの勢力増などで低迷し、2025年4月に現地子会社の全株式を売却。国内では、主力のショッピングセンター(SC)向けブランドで漸減が続く。この1月には、2026年2月期の業績予想も大幅に下方修正した。一方、語学堪能で中国ビジネスに精通した村井博之社長は、アパレル以外での中国での事業の種まきも進めている。次の一手を聞いた。
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村井博之/バロックジャパンリミテッド社長兼CEO

(むらい ひろゆき)1961年生まれ、東京都出身。立教大学卒業後、中国国立北京師範大学に留学。キヤノンを経て、1997年に日本エアシステム(現日本航空)でJAS香港 社長に就任。2006年にフェイクデリックホールディングスの会長兼社長に就任。2007年にフェイクデリックホールディングスなど3社を合併し、バロックジャパンリミテッドを設立。2008年から現職。
◾️バロックジャパンリミテッド とは
2000年にフェイクデリックとして設立。同年、渋谷109に出店した「マウジー」、2002年にラフォーレ原宿に出店した「スライ」を中心に、平成の“ギャル”“カリスマ店員”ブームをけん引。2008年にバロックジャパンリミテッドに商号変更。2010年に中国本土1号店を出店し、2013年に中国の靴小売大手ベル・インターナショナルとの合弁で中国子会社2社を設立。2016年に東証プライム上場。コロナ禍を経て、2025年に中国子会社2社の全株式をベル社に譲渡。同年、中国のEC大手JDドットコムと合弁会社を設立。 2025年2月期連結業績は、売上高が前期比3.5%減の581億円、営業利益は同58.4%減の8億円、純損益は25億円の赤字(前期は9億円の黒字)だった。

目次
「中国は、日本のアパレルにとって非常に厳しい環境になっている」

「マウジー」2026年春夏展示会から
Image by: FASHIONSNAP
──まずは2025年の振り返りからお願いします。旗艦ブランド「マウジー」の25周年という記念の年でもありました。
当社の前身であるフェイクデリックの創業からも丸25年でした。この間にアパレル業界の構造は大きく変化し、当社も若年層、いわゆるギャルゾーン向けのアパレルメーカーから、百貨店も含めた総合アパレルになった。外資ファストファッションが上陸してくることは当時から織り込み済みでしたが、例えば「ユニクロ」などの大手カジュアルチェーンが若い女の子のマーケットで競合になることは想定外でした。
25年の間に、マウジーは定期的にリブランディングを重ねて時代のニーズを汲み取ってきましたが、2025年は、次の25年間を見据えてリブランディングを行いました。2026年以降も刷新を継続し、改善を重ねていきます。リブランディング1年目として、順調に進んだという手応えがあります。
──具体的に、どういった点を評価していますか。
マウジーの立ち上げ初期のターゲットは、10代〜20代前半という非常に絞り込んだ客層でした。そのマウジー第1世代が、今は40〜50代になっています。お子さんも成長し、親子で来店するケースも増えている。第1世代から今の10代まで、皆さんに受け入れられるエイジレスな服を作ることができていることは、ブランドとして今後に続くいい流れです。ニューヨーク発のブランド「ヴァケラ(Vaquera)」とマウジーの2026年春夏物でのコラボレーションも、グローバル化を見据えたリブランディングの仕掛けの一環です。


「ヴァケラ」2026年春夏コレクションに登場した「マウジー」とのコラボ商品
Image by: Vaquera
──2025年は、中国子会社2社の全株式を現地パートナー企業のベル・インターナショナルに譲渡し、業界内に衝撃が走りました。
2024年2月期から2期連続で赤字となっていた中国事業については、現地子会社と話し合いを重ねました。全店舗閉店するという考え方もありましたが、子会社社員の強い希望もあって、それはやめました。当社の持分だった株式をベル・インターナショナルが全て買い取り、コロナ禍前の実店舗330店規模から、約150店に縮小して事業を続けています。彼らがラインセンスで生産する商品と、一部日本から輸出した商品を販売しています。
──日本のアパレルメーカーが中国で服を売っていくのは、かつてと比べて難しくなっていますか?
2000年代を通し、日本や欧米のSPAは生産基地のほとんどを中国に置いてきました。そうした状況下で、中国のOEM・ODM工場が企画のノウハウを蓄積していきました。その結果、彼ら自身がより安い価格で、日本を含む海外のSPAと近しい品質・デザインの商品を作るようになってしまった。さらに、コロナ禍以降は中国の経済不況が重なって、現地の消費者はみな買い物に関してかなりシビアになっています。
当社は2010年に上海に中国本土1号店を出店するなど、早い段階から中国で事業を進め、一時は非常に好調でした。その後、地獄も見て今に至ります。中国が、日本のアパレルブランドにとって非常に厳しい状況になっているのは間違いありません。当社としては、とりあえず向こう数年間は中国で事業をするなら服ではないという考えです。
JDドットコムと新会社、日本の優れた製品を中国市場へ
──2025年9月には、中国のEC大手の一角、JDドットコムとの合弁会社立ち上げも発表しました。
2025年は、長期的視点に立って、当社がどんな会社でありたいのかを改めてしっかり考えた1年でした。20年後には当然私ではなく今の若い世代が経営を担うわけですが、どうあれば会社として持続可能なのか。そのための新規事業をいくつかスタートしました。その1つが、JDドットコムと立ち上げた合弁会社です。
中国市場が厳しい状況にあるからといって、中国にはもうビジネスチャンスがないのかというと、それは違います。世界有数の市場の1つであることは変わりません。服は売れないとしても、どんな日本の製品なら中国の人に買ってもらえるのか。新会社では、中国で支持されるであろう日本製品を作る企業に投資していきます。金融投資は今まで当社が行ってこなかった領域です。
──JDドットコムとはもともとつながりがあったのでしょうか?
当社は長らく、バロックチャイナを通してJDドットコムの競合であるアリババグループのTモールと取引をしてきました。JDドットコムとはほぼ付き合いはなかったんですが、2年ほど前に来日中のJDグループ創業者リチャード・リウ(劉強東)氏と知り合って、以来、家族ぐるみの友人関係が続いています。日本の財界関係者に多くの知人がいるリチャードにとっても、日本の上場企業の社長で中国語が話せる人物は珍しかったんだと思います。通訳なしで普段からやり取りすることで、仲が深まりました。
日本の服は売れていなくても、JDドットコム上でよく売れている日本の製品は多数あります。お菓子やお酒、加工食品、趣味の雑貨、キッチン用品、伝統工芸品などです。岩手の伝統工芸品の南部鉄瓶も中国でいまブームですし、日本各地の地酒も人気。訪日客の興味が買い物から体験に移っており、日本に遊びに行って、例えば丁寧なドリップで入れたコーヒーや抹茶を楽しみたいといったニーズも大きくなっていますが、それと連動して、中国のECで売れる日本製品の顔触れも変わっている。
ただ、ブームになると、売れすぎて市場から商品が消えてしまうことがよく起きます。急に話題になったからといって、資本力の小さな中小企業では突然増産することはできませんし、伝統工芸品などはそもそも職人の数が限られています。今回、JDドットコムと立ち上げた合弁会社では、資本支援で生産規模の拡大をサポートしていきます。同時に、JDドットコムというプラットフォームを通じた営業支援・販売支援も行う。通常のファンドは投資をするだけですから、我々とはその点が異なる。JDドットコムは中国だけではなくグローバルなECプラットフォームを目指しており、これまで世界に対してものを売る発想がなかった日本の優れた企業が、グローバルで花開くチャンスが出てきます。
──JDドットコムとの新会社は、2027年2月期の業績にどれくらいのインパクトを見込んでいますか?
投資したらすぐに儲けが出るようなビジネスではありません。ある程度の育成期間が必要です。しかし、日本の優秀なものづくりの会社を支援し育てていくことで、将来的に当社の業績にも必ず貢献してくれます。いま、日本酒や食品、サプリ、化粧品など、日本のどのような製品や企業に投資すべきかの精査を進めていて、2026年中にいくつか投資事例が出せるはずです。

2023年3月に原宿にオープンしたバロックのグローバル旗艦店「The SHEL’TTER TOKYO」
──11月の高市早苗総理による台湾に関する発言以降、訪日中国人観光客が減っています。国内店舗の売上に変化はありますか?
東京・原宿のグローバル旗艦店「The SHEL’TTER TOKYO」の免税売上比率は約3割、多い月は4割です。中国のお客様の割合は減っていても、その分、欧米や東南アジア、中東のお客様が増えており、免税売上全体として伸びています。高市発言で急にインバウンド売上に逆風が吹いているといったように言われますが、実際は発言の影響はそこまで大きくはない。それよりも、訪日客の目的が買い物から体験に移行していることは注視すべき潮流です。
──海外展開の戦略エリアを、中国から東南アジアにシフトする日本のアパレル企業も多いです。バロックの東南アジア市場に対する考え方は?
数店レベルで出店しても利益は出せませんから、ちょっと慎重になっています。数十店舗、それ以上で出店できるマーケットはどこの国・地域なのかを模索中です。
アズールバイマウジーは、素材開発含め独自性を強化

「アズールバイマウジー」がこの1月のレディー・ガガ来日公演に合わせて発売したTシャツ(各6490円)
──国内事業に目を移すと、最も売上シェアの大きなSC向けの商売で苦戦が続いています。
SC向けブランドはコロナ禍前からの課題です。「ロデオクラウンズワイドボウル(RODEO CROWNS WIDE BOWL)」はスクラップ&ビルドが終わって、順調に利益回復基調にありますが、当社の最大ブランド「アズールバイマウジー(AZUL BY MOUSSY)」は、足踏みが続いています。会社としての問題点はアズール1つに絞られてきたので、ここに人と資金を集中させ、2027年2月期に向けて立て直していく。これが成功すれば、安定した利益ベースのバロックに戻すことができるはずです。
──具体的にアズールは何が問題ですか?
SC向けブランドのビジネスには、日本のアパレル業界の問題点が凝縮されているように感じます。モノを作り過ぎて、それゆえセール合戦に陥る。それでも売れないと最終的にアウトレットで売るか、焼却処分をする。バロックは適量生産を目指していますし、やはりものづくりや服が好きな人が集まった会社ということもあって、機動的な価格変更でどんどん在庫処分していくというショッピングセンターのビジネスに、なかなか対応できていません。
──どんな手を打っていきますか?
素材開発を含め、アズールにしかできないものづくりを強化していきます。素材開発は、当社は取り組みが遅れていた部分です。ファッション性があっても、今は着心地がよく、機能的にも優れていなければ支持されません。着やすさを求めるお客様の声に対応した商品をどんどん開発していきます。
他社と同じような商品を作っていたら、どうしてもセール競争に巻き込まれます。素材開発を含め商品価値を高めて、他社にないもの、代替品がないもの作っていくことが重要です。今後インフレがさらに進行する中で、服に対する支出額はさらに下がっていくでしょう。当社は長年トレンドファッションの領域でビジネスをしてきましたが、毎年新しいデザインに買い換えるというよりも、いいものを長く使ってもらうというように、発想を変えていくべきなのかもしれません。
──いいものを長く使ってもらう、といった文脈では、リユース事業を手掛ける子会社のバロックサステナブルも2025年に設立しました。
バロックサステナブルでは、古着やデッドストック(在庫)の販売を行う予定です。当社には古着愛好家の社員が多いですし、同時に、もったいないから作った服は最後まで売り切りたいという考えもある。そういう、さまざまな意見を集約して実験的に作ったのがバロックサステナブルです。
社内の新規事業として運営すると、どうしても利益体質になるまでに時間がかかります。別会社にすることで、チームには自身がオーナーになって古着屋を1軒経営していくくらいの気持ちで早期に事業化するよう促しています。自社古着のみを販売するのか、自社古着以外も扱うのか等、今アイデアを詰めており、ECだけではなくリアル出店も視野に入れています。
──サステナビリティ面では、CO2排出削減、在庫廃棄ゼロなどの取り組みも、設定した目標に向けて継続して進めています。
当社はサステナビリティ関連目標として、「2030年度までに最終残在庫廃棄ゼロ、焼却ゼロ」「スコープ1、2と呼ばれる本社や店舗でのCO2排出量を、2030年までに2023年比で50%削減、スコープ3と呼ばれる工場などサプライチェーンからのCO2排出量を、衣料品1点あたりで同20%削減」「環境配慮型素材を使用した衣料品の割合を、2030年度までに品番数で50%以上にする」を掲げ、粛々と進めています。
直近の2024年度の実績は、商品廃棄が47トン、スコープ1、2のCO2 排出量が2023年度比5.8%減、スコープ3が同4.2%減、環境配慮型素材を使用した衣料品の割合が全体の10.3%でした。全て公式サイトで公表しています。

「エムユーエス」が2025年12月に発売したディズニーとのコラボコレクション
──2025年3〜8月期は、ショッピングセンター向けブランドに加え、百貨店向けブランドも苦戦していました。こちらはどう分析していますか?
伊勢丹新宿本店などの取引のある百貨店が売り場改装を進めていて、仮店舗営業となったことで売上が下がりました。ただ、改装が終わった売り場は順次正常化しており、あまり問題視はしていません。
──2025年夏には、新規事業として「エムユーエス(MUS)」というキャラクターIPのブランドも立ち上げました。
元々、マウジーでディズニーとのコラボを長らく行ってきた経緯があります。キャラクターIPの力に当社のデザイン力を掛け合わせることで、一般的なキャラグッズとは異なる魅力ある商品を作ることができています。よりビジネスとして大きくしていくために、マウジー事業部の中ではなく、新規の事業部として切り出しました。ディズニーはもちろん、他社のIPとも取り組んでいきます。
キャラクターIPコラボは、訪日客はもちろん、国内の若いお客様からも支持が厚い。ロデオクラウンズワイドボウルが復調している要因の1つとしても、サンリオを中心としたIPコラボ商品があります。
「景気は簡単には上向かない」、マインドセットの変革がカギ
──2026年の展望を聞かせてください。
突然景気が良くなり、消費が上向くようなことはありえません。厳しい環境の中で、本当にいいものだけが売れていく傾向が強まる中、我々はビジネスの形を変えていかなければならない。大量生産、大量消費ではなく、どうやって必要な分だけを作り、お客様にお届けできるか。受注予測の精度も上げていきますし、グローバルでどういったトレンド傾向が出ているのかといったデータ予測もさらに活用していきます。会社として成長していくために、JDドットコムとの新会社やバロックサステナブルなど、新規事業も伸ばしていく。
──新規ブランドの立ち上げ予定は?
マウジー第1世代が50代に差し掛かっています。ブランドと共に年齢を重ねてきたお客様たちに、2026年9月以降になるとは思いますが、新しい提案をしたい。駅ビルやファッションビルなどへの出店を目指します。50代はスマホ世代ですから、実店舗だけでなくもちろんECにも注力します。

キヤノン出身ということもあり、村井社長の趣味はカメラ。取材に同行したカメラマンとも、毎回使用機材について話が弾む。
Image by: FASHIONSNAP
──復調に向けたカギはずばり何ですか?
ここ数年業績が伸び悩んでいるのを分析すると、拙速に進めて、結果が伴っていないというケースが多い。注力ブランドであるアズールバイマウジーで、大手カジュアルチェーンにも負けないような商品を作るためには、素材の研究開発や人材への投資が欠かせません。それは短期で結果が出るようなものではありません。創業25周年を迎えた当社が、今後30周年、40周年、50周年を迎えていくためには、息の長い絵を描かなければならない。私自身も年齢を重ねてきましたが、定年はありませんから、私がある程度のリスクをとった上で、若い人たちに経営のバトンを引き継いでいかなければいけないと思っています。
ここでいうリスクとは、アパレル企業としての構造改革やマインドセットの変革の部分です。当社は今まで、デザイナーの感性や、SNSに長けた販売員の発信力を強みとしてきました。でも、だんだんそれだけでは足りなくなっている。ファッションブランドとして、おしゃれなデザインはもちろん重要ですが、同時に軽くて着やすくて、ある程度の耐久性もないといけない。そういう風に、マインドを変えて、会社の体質を改善していきます。国内は人口減少社会で、たくさん作って売上高を伸ばしていくというのは無理な時代になっている。企業の形、経営の形を変えていかないと、時代に対応できなくなります。
最終更新日:
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