バロックジャパンリミテッド代表取締役社長 村井博之氏
バロックジャパンリミテッド代表取締役社長 村井博之氏
Image by: FASHIONSNAP.COM

Business インタビュー・対談

「ファッションSPAであり続ける必要はない」バロック社長が見据える5年後、50年後の企業像

バロックジャパンリミテッド代表取締役社長 村井博之氏
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 「自分たちが着たい服を作ろう」――"ギャルファッションの聖地"と言われた渋谷109のカリスマ販売員らが自らの手でスタートしたブランド「マウジー(MOUSSY)」。シルエットが美しく見えるジーンズの大ヒットや、カリスマ販売員マーケティングにより、創業からわずか4年で売上100億円を突破。現在のバロックジャパンリミテッド(以下、バロック)にあたるその企業は、マウジーに加え「スライ(SLY)」や「エンフォルド(ENFÖLD)」など、女性向けアパレルブランドを中心に国内外に店舗網を拡大し、2016年には東証一部上場を果たした。創業ブランドのマウジーが20年目を迎えた今、バロックが向かう先とは?強化を続ける海外事業から新しいリテール構想、カリスマ販売員の未来など、代表取締役社長 村井博之氏に今後5年、さらにはその先の50年後にバロックが目指す姿を聞いた。

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日本はこれ以上の発展は望めない

―2月末で期末を迎えられましたが今期を振り返っていかがでしたか?

 今期は全てが平均して上手くいった年だと思います。主に「アズール バイ マウジー(AZUL BY MOUSSY)」や「ロデオクラウンズ(RODEO CROWNS)」を中心とするモールビジネスの不調が直近の国内の不安要因でしたが、今期は安定した売り上げまで回復させることができました。

 従来、弊社ブランドは極力最後までプロパー価格で売り切ることを前提としていましたが、最近は、モールでは他テナントがセールをしているならうちもしないと売れないよね、という考え方になっていた。そういう安売り競争が前期までの不振につながっていたのですが、今期は原点に立ち返り、自信をもってプロパー価格でとことん勝負した結果が吉と出ました。

―プロパー価格で服を売る秘訣は?

 今のファッションにおける消費は、購買モチベーションは必ずしも価格だけではなく、その商品に価値を感じられたら高くても買う、反対に安くてもどこにでもありそうなものは買わない、という流れになってきていると思います。きちんと買う価値を感じてもらえる物作りを徹底することで、競争力のある商品を送り出せていると考えています。

―好調なブランドは?

 全売り上げに占める比率は小さいながらも伸び率が大きいのは「エンフォルド」や「ナゴンスタンス(någonstans)」などの百貨店系ブランドです。百貨店業界が苦しいと言われている昨今、我々は新参者とも言えるのですが、これまでの婦人服とは違う特徴を持ったブランドとして支持を得ています。百貨店の主力購買層は若い富裕層やインバウンドに変わりつつあり、そのようなターゲットを捉える数少ないブランドとして受け入れられているようです。

―従来の百貨店ブランドとの違いは?

 服を作る人間が他社よりも若く、消費者の感性に近いことが挙げられると思います。百貨店ブランドだからと言ってその道のベテランが作るのではなく、中村真里が手掛ける「リムアーク(RIM.ARK)」のように、若手が百貨店に入れるブランドを作るという斬新な取り組みが強みとなっています。

―現在の海外売上比率は全体の約4分の1。5年後には3分の1まで海外売上を拡大することを目標にしています。

 商品構成やマーケティングはすでにそれぞれの国ごとで行っていますが、よりローカライズした戦略が必要だと考えています。商品企画はまだ日本が中心ではあるものの、中国チームと共同でアメリカのデザイナーを起用するなど、日本以外のマーケットトレンドを意識した取り組みにチャレンジしています。バロックの事業の回し方を現地チームに浸透させていくことは大事ですが、ギャルカルチャーから始まった"バロック文化"を海外に浸透させようという考えは全くなく、日本に捉われずグローバルに展開していこうという考え方が根本にあります。

―最終的に目指す、日本国内と海外の売上比率は?

 最終形としては日本2割、海外8割といった海外主力の形は正しい発展の姿であると考えています。日本はこれ以上の発展は望めないと思うので、海外をいかに伸ばしていくかが鍵です。

売り上げを増やすことよりも、売り切ること

―毎週新しい商品を投入するなど、創業当初から高い在庫回転率を維持されています。

 創業当初の在庫回転率の高さは、ギャルブーム、109ブームでとにかく商品がよく売れたことが要因でした。当時は作っても作っても服が売れる時代でしたが、消費の選択肢がたくさんある今は女性の服への関心や熱意が薄れていっているように思います。今は無駄のないものづくりをすることで在庫回転率を維持しており、昔とは取り組み方が大きく変わりました。

 社員が一堂に集まって経営方針をシェアするサミットキャンプを毎年行っているのですが、そこでもとにかく"引き算"をするように言っています。「この品番があってもいいんじゃないか」と足すことをみんな考えがちですが、「この品番はいらないんじゃないか」という引き算を浸透させることで、定価での販売量が徐々に増えました。

―全ブランドで品番数は減少傾向にあるのですか?

 大きく伸びているブランド、立ち上がり間もないブランドに関しては品番数が増えているものもありますが、既存ブランドや売り上げに変化のないブランドはどんどん絞り込んでいます。限られた人員で100のものを作るのよりも50のものを作った方が1つのものにかけられる時間は多く、完成度が高くなります。

―利益率の高さも特徴ですがその秘訣は?

 値引きをしないことに尽きます。多くのアパレルは値引きと大量生産による余剰在庫の評価額が利益を押し下げているのに対して、弊社はその評価損が少ないのが結果的に利益につながっています。もちろんセールも行ってはいますが、セールをスタートするタイミングやオフ率を調整し、セール期間は短くして、どの商品をどのタイミングで売るかを入念に計画しています。プロパーで買って下さるお客さまを裏切らないために、割引をせずプロパーで売り切ることがブランド価値の向上にもなります。

 また定価で売り切れるだけのものを作ることは、最もサステナブルなアパレル企業のあり方だとも考えています。日本には年々事業を拡大することがよしとされる風潮がありますが、売り上げを伸ばすために過剰生産され余ったものは廃棄物として燃やされます。人口減少が早くから進んでいるヨーロッパでは、売り上げを拡大させていくよりも、ものを売り切る環境に優しい企業の方が評価される傾向にあります。もっとものを作った方が弊社の売り上げは増えるかもしれませんが、確実に人口が減っている日本において、ものを売り切るということは他社よりも意識して取り組んでいるところかと思います。

"ファッション命"ではない社員が作るサービス

―中期経営計画の中で「ニューリテール構想」を掲げています。具体的な戦略は?

 アメリカや中国といった国土の広い国ではECでの購買率が半数近くなることもありますが、日本のような狭い国ではEC化率は30%程度が限界だと考えています。今年新たに計画しているのは、商品は並べつつも店頭では販売せず、店舗のタブレットやご自身のスマホで注文した商品が直接家に届くショールーム型の店舗です。

 ECのメリットとして利便性の高さが第一に挙げられますが、これからはECの環境保護的な観点にも着目していくことが必要だと考えています。ショールーム型店舗だと、大量の商品を搬入する通常の店舗に比べ商品搬入に伴うCO2の排出を削減できるという考え方があります。他方で、自宅に直接配送したとして何度も再配達を行ってしまうと結局CO2排出量は一緒かもしれません。こういったことは実際に実験しながら、妥協点を探ることが大事でしょう。弊社の指すニューリテールやイノベーション化は、単にECの比率を上げるという話ではなく、これまで人力でやってきたことや余分なことをいかに省いて便利にし、地球環境にも優しい仕組みを作るかということを意味しています。

―ショールーム型店舗を導入するきっかけは?

 EC専門ブランド「スタイルミキサー(STYLEMIXER)」で、商品を実際に見たいというお客様の声が多かったんです。そこでお客様を招待した展示会を行い、注文だけ受け付けて自宅に直送するシステムをとったところ非常に評判がよく、他ブランドの通常店舗よりもお客様満足度が高かった。ディレクターで元社員の松本恵奈をはじめ、従来の店舗で接客からキャリアを始めた社員が多いですが、今は消費の形がどんどん変わってきていることをみんなで実感しました。いつ行ってもある店舗よりも、その展示会でしか商品に触れることのできない、いわばコンサートのような限定された場というのはお客様の購買モチベーションにつながるのだと分かりました。

―今後取り組んでいくとしている「イノベーション事業」とは?

 「今ある技術を活用して新たなビジネスを見出す」という意味で幅広く捉えています。直近では弊社なりの新しいサブスクリプションサービスを考えているところです。アパレル企業以外にも様々な企業がサブスクリプションを始めていますが、弊社としてはより顧客利便性に重点を置いたサービスを開発しています。

 こういったイノベーション事業は、これまでのバロックの"ファッション命"世代ではない社員が中心となっています。ここ5年程は新卒採用を年間70名程度まで増やしており、海外の大学でビジネスを含め幅広い学問を身に付けてきた人たちや外国人を積極的に採用しています。彼ら彼女らは、創業当初からいる社員とはファッションに対する欲求が異なります。「そこそこいい格好はしたいけれど、服にお金はかけ過ぎたくない」という考え方は今の世の中の多数派の意見かと思います。数少ないファッションマニアのためだけに服を作るのではなく、多数派の気持ちが分かる人たちを会社に入れ、その人たちが思う便利なサービスを作っていこうと。

―新規事業の開発にあたってはM&Aや業務提携などもありえるとしていますが、どういった企業が視野に?

 弊社のヴィジョンに一致する良い企業があればファッションに限らず視野に入れています。もしかしたら50年後にはファッションは世の中的にはどうでもいいものになっている可能性もあり、バロックがこの先もファッションSPAであり続ける必要性はないと考えています。そうなった時に弊社は服だけにこだわらず、様々な人のライフスタイルに寄り添った企業でありたいです。

―バロックから生まれた概念と言っても過言ではない、いわば"ファッション命"の「カリスマ販売員」の今後の姿は?

 昔は店頭で会えるカリスマ販売員だったのが、今ではSNSで会える存在に変わりました。今後は弊社のものを紹介するだけではなく、幅広いライフスタイルを提案していく人が増えていくと思います。すでに弊社の社員インフルエンサーの中でも50万フォロワーを超える人は、自社商品以外の投稿の方が多いんです。服以外にも領域を広げ、例えば環境問題や政治など様々な分野の知識を持ち、みなさんによりよい生活の提案ができる人が将来のカリスマになっていくかと思います。

―扱うものは変わったとしても、人々のライフスタイルに関わるというのがバロックのアイデンティティですか?

 そうですね。人がより良く生きるために必要なものを提供することが我が社のアイデンティティだと考えています。

(聞き手:道川珠世)

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