新しい生活様式はもはや日常へと移行し、それに伴い企業の舵取りも大きく変化している。FASHIONSNAPは経営展望を聞く「トップに聞く 2022」を今年も敢行。第3回はベイクルーズの杉村茂取締役CEO。コロナ禍が継続した2021年は「強制的に変革させられた年」だったという。その中で実施したのは値引き販売やポイントアップによる販売促進の廃止。減収覚悟の決断の狙いとは。
■杉村茂
1962年生まれ。アパレルメーカーを経て1984年にベイクルーズに入社し、2003年に同社初の子会社ジョイントワークスの初代社長に就任。2012年にはルドーム社長に着任し、グループ傘下の数々のブランド事業を率いてきた。2014年9月から現職。
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強行突破の変革 値引き販売やポイントアップによる販売促進はやめた
―2021年はどんな年になりましたか?
業績が厳しかった。それが9割なんですけど、残りの1割は取り巻く環境の変化から“待ったなし”で強制的に変革させられた年だったと総括しています。
―変革という点では7つの子会社を本体に吸収合併し、組織体制を大きく変更しました。
組織を一本化することで、事業として弱い部分にもちゃんと力を入れられるようになった。連携してカバーし合う体制は形としてはでき始めてると思っています。
―2021年8月期の売上高は1212億円。前期から2.3%減収となりました。
要因はいくつかあります。ひとつは、外出が減ったことで服に対する需要が落ちたことですね。もうひとつは、頻繁に実施していた期中の値引き販売と、ポイント付与の倍率を上げるなどのインセンティブ販売を2020年9月に廃止した影響があります。このほか、利益が出にくい店舗を数店舗閉めたことも業績に反映されていると考えています。
―一方でECの売上高は545億円と、昨年から6.8%増収しています。
店舗に行けない状況が続いた影響もありますが、結局は商品力ですよね。ECで売れないモノは店頭でも売れないですから。各ブランドの商品提案が根幹にあり、それをECのチームがうまく利用できた結果だと思っています。
―どの事業が好調でしたか?
「プラージュ(Plage)」と「ノーブル(NOBLE)」は好調ですね。あと大きく数字を伸ばしたのは「ジャーナル スタンダード レリューム(JOURNAL STANDARD relume)」。これらのブランドは基本的に店舗もECも売上が取れています。
―好調なブランドの共通項は?
僕たちの客層は30代後半~40代、ブランドによっては60代ぐらいまでの人たちから支持されていますが、この年代の方々はやはり可処分所得が高く、時代観に合ったものを常に求めています。ブランド側も時代に合わせて変化していくことで信頼関係が生まれたことが強みになっているのではないかと思います。
―「強制的に変革させられた」とのことですが、現時点で手応えを感じている取り組みはありますか?
それこそさきほど話した値引き販売やインセンティブ販売の是正はやってよかったですね。業界柄かもしれませんが、みんな前年売上をすごく気にするんですよ。でもそれは値引き販売やインセンティブ販売で無理くり作り上げたもの。2022年からはプロパー(定価販売)でどれだけ売ることができたか比較ができるし、戦い方も見えてくる。何より「売れ残ったから」とセールをするのはお客さまに対してもバツが悪いじゃないですか。値引き販売やインセンティブ販売をやめれば当然売上は凹むんですけど、これっぽっちも後悔してません(笑)。
―セレクトショップ「ヌビアン(NUBIAN)」を運営するヴェイパース社に出資したことも大きな注目を集めました。改めて出資の経緯を教えてください。
(ヴェイパース社の)吉野誠代表からお声がけをいただき、実際にお会いしたことがはじまりです。ヌビアンは僕たちと同じ洋服屋でも全然違うマーケット。僕個人的としても勉強になるところが多くて、一緒にやることで相乗効果が生まれると感じたので出資しました。まだ数字には表れていませんが、成果はこれから出てくると思っています。
―昨年のFASHIONSNAPのインタビューでは「若年層のマーケットが課題」といった発言がありましたが、そこをカバーできるという考えも?
ヌビアンに関しては単純な若年層のマーケットとは異なる。僕らからしたら、まさに未知の領域なんですよ。マーケットというよりはブランディングのあり方や、セレクトという小さな括りでは収まりきらない経営を学ばせてもらっています。
中国での生産は難しくなる? サプライチェーンの実態
―足元の商況はいかがですか?
緊急事態宣言が解除されてから10、11月と回復はしてきていて、12月は予算比・前年比ともに上回ってきています。人が外に出歩くようになったのが大きいですが、まだコロナ前の状況には戻っていません。
―昨年は都心よりも郊外の方が活気がありましたが、現在はどうですか?
逆転しましたよね。出店先のルミネでは新宿を中心に都心の店舗の売上が戻ってきていますから。都心の店舗の方が売上規模はやはり大きいですし、インパクトはだいぶ変わります。
―プロパー消化率は?
常に意識している指標ではあります。改善はしている状態ですが、まだ伸ばしていく必要がありますね。
―今期(2022年8月期)の秋冬商戦では、ECでプレオーダーによるインセンティブ付与をスタートしています。
これまでのように単純に期中に商品を投入して販売するだけでは売上は伸びないんですよね。「欲しくなくてもセールで安いから買う」という方も、リアル店舗では年々減ってきています。
一方で、再入荷リクエストによる売上は伸びていて、数百億円規模にまで拡大している。プレオーダーは再入荷リクエストを前倒しするようなイメージで、期中の値引きキャンペーンを行わない代わりにプレオーダーでインセンティブ付与をすることにしました。プレオーダーで需要のある商品がわかれば、余計なものや量を作らなくていいし、仮に製品にならなかったものは生地を別の企画に充てるなど、いくらでも潰しが効きますから。その方がずっとサステナブルですし、お客さまにも先のことを考えてもらうサイクルの方が業界にとっても健全だと思っています。
―企業側のサステナビリティへの取り組みも各社さまざまな施策を打ち出しています。
余ったものをリメイクする取り組みを行う企業もありますが、在庫全てをリメイクで消化できるわけがないんですよ。僕たちが考えていかなくてはならないのは、余計な在庫を発生させないことではないかと。
―コロナ禍でサプライチェーンの混乱が大きな問題となっていますが、影響は?
ありますね。特にアジアで作っているものに関しては、いきなり運賃が高く上がったり、そもそも中国で生産してもらえなかったり。すべての企画が打撃を受けているわけではないので、なんとかやりくりしていますが。
―サプライチェーンで一番取引が多いのは中国ですか?
なんだかんだ中国ですね。でも中国と取引を行う生地屋さんに話を聞くと、内販(国内販売)が好調すぎて、日本の仕事を引き受けていられなくなりそうだという声がありました。今まで中国人同士の取引は少なかったわけですが、コロナによって国内の取引が増えてから信用も上がったらしく。工場側が金額を多少高く見積もっても通るそうです。中国の人口は10億人以上あるわけで、ローコストにこだわる日本企業より中国国内の企業からの発注内容の方が割に合うと。今後その動きは広まっていくんだろうなと感じています。
―サプライチェーンの確保が難しくなりそうですね。
バランスをとりながら、ケースバイケースでいろんなところと取引していくしか、やりようがないですね。
―製造拠点を国内にシフトするという考えは?
国内の工場はどんどん減少してしまっていて、もはやキャパが不足しつつあるので、完全シフトはできないと思います。発注側が原価率を低くするために工場にコストを押し付ける構造になっている。そこを見直していかないと日本の工場はますます厳しくなっていくんじゃないでしょうか。例えば工賃を1.5倍に引き上げるだけでも、工場の経営もずいぶん変わっていくかと。
―新疆綿をめぐる人権問題も表面化しました。
政治的な事柄でもありますし、人道的な問題が本当にあるのかどうか実態が見えていませんからコメントできないというのが正直なところです。
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