
Image by: 尾州ロリィタ
世界三大毛織物産地の一つである日本の「尾州(びしゅう)」。国内外のトップメゾンから支持される高い技術力を持ちながら、近年後継者不足などの要因から年々規模が縮小していることが問題視される尾州ですが、その中心地 愛知県・一宮市で、尾州の高級スーツ生地を使用したロリータブランド「尾州ロリィタ」が注目を集めています。
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尾州ロリィタのドレスは、スーツではデザインされないような大胆なギャザーやカーブによって、その生地の艶や豊かな風合いを表現。生地職人からは「かえってスーツよりも生地の良さが出ている」といった声もあがるほどです。ドレス1着につき高級スーツ2着分の生地が贅沢に使われているにもかかわらず、尾州ロリィタのドレスの価格は7万〜15万円程度。利益を削ってでも届けたい、「一度着て貰えばわかってもらえる」と自信を持つ“尾州生地 × ロリータ”の意外な親和性について伺いました。
愛知県一宮市出身・在住。2015年から一宮市でロリータ体験サロン「LOCOCO」を展開し、2020年から尾州生地を使用した国産ロリータブランド「尾州ロリィタ」を運営している。
💡尾州(びしゅう)とは?
イタリアのビエラ、イギリスのハダースフィールドに並び、世界三大毛織物産地の一つに数えられている日本の繊維産地。愛知県一宮市を中心に、津島市、稲沢市、江南市、岐阜県羽島市など、愛知県尾張西部エリアから岐阜県西濃エリアにあたる。木曽三川が流れる肥沃な土地や豊かな水が綿花栽培や染色に適していたことから織物の産地として発展し、その規模は国内生産量の約6割を占めるという。尾州産の生地はその品質の高さから長年国内外のトップメゾンに愛され続けているが、後継者不足やコスト削減、海外の安価な生地の流通量が増えたことを背景に、近年生産規模が減少している。
目次
ドレスにして初めてわかった尾州生地の魅力
⎯⎯ そもそも、ショコラさんのロリータとの出会いは?
中学2年生の頃に、雑誌「ケラ(KERA!)」でロリータモデルの深澤翠さんを知って、「このかわいい服は一体なんだろう」と衝撃を受けました。そして中学3年生の時に、母親に誕生日プレゼントとクリスマスプレゼントをまとめて前借りして初めてドレスを買ってもらって。それ以来、現在まで約18年間ロリータを続けています。
⎯⎯ 「尾州ロリィタ」を立ち上げた経緯について教えてください。
私が元々ロリータなので、「舞妓体験」のように気軽にロリータが体験できるサロンを作りたいと考え、2020年に「ロリィタ体験サロン」を立ち上げました。平日は会社員をしながら、週末に副業としてサロンを運営していたんですが、数万円するドレスを着て日々接客していると口紅などでよくドレスを汚してしまい、クリーニング代がかさむので、制服を作ろうと考えたんです。生まれ育った一宮市が「生地のまち」だということは知っていたので、その尾州生地をちょっと使おうかな? と何気なく考えたのがきっかけでした。
⎯⎯ もともと「尾州生地」にご縁が?
祖母が尾州生地の工場長の娘で。工場は戦争で焼けてしまったし、祖母も私が1歳の時に亡くなっているんですが、自宅でスーツを作っていたという話を聞いていました。それに、一宮の小学生は大体授業で繊維工場見学に行くので、尾州が「生地のまち」だということは子どもの頃から知っていました。ただ「尾州」といっても幅広く、婦人服の生地からスーツの生地まで色々なものがあるので、「何が尾州生地なのか」は正直よく知らずで。でもせっかく生地のまちに住んでいるんだし、普通のロリータ服を作っても面白くない。どうせなら一宮市を盛り上げたいという気持ちがありました。

Image by: 尾州ロリィタ
⎯⎯ 個人が工場から生地を買うのは難しいのでは?
基本的に商社さんを挟む場合が多いので、簡単には売っていただけませんでした。何軒も回って、20軒くらいは断られています。生地を探すのに2年を要したため、構想からブランドの立ち上げまで約3年間かかりました。
⎯⎯ 一宮市の老舗毛織物メーカーである葛󠄀利毛織工業の生地を使用しています。葛󠄀利毛織工業との出会いは?
私は一宮市が100周年だった時の「若者委員」に公募で選ばれたのですが、その委員に葛󠄀利毛織さんの代表取締役である葛󠄀谷さんがいらっしゃいました。最初は尾州のニット生地やツイード生地にも挑戦しましたが、縫製などでいろいろと問題があって。そうして試行錯誤しているうちに、尾州で最も代表的なのは尾州毛織物のスーツ生地だと知り、試してみようと考えていたところ葛󠄀谷さんに出会ったので、ご縁で生地を買わせていただくことができました。そしてその生地をロリータに仕立ててみたら、とても美しかったんです。

葛󠄀利毛織 代表取締役 葛󠄀谷聰さんとショコラさん
Image by: 尾州ロリィタ
💡葛󠄀利毛織工業とは?
1912年(大正元年)創業の老舗毛織物メーカー。1932年から約94年間稼働し続けている同社のションヘル式シャトル織機は、1950年頃に日本国内で普及した日本産の低速織機で、最新の高速織機が1日に数百メートルの生地を織りあげるのたいして、1反(50m)を織るのに約4日かかるほどゆっくりとしたスピードで生地を織りあげるため、空気を含んだ柔らかな風合いの生地を作ることができる。ションヘル織機で織りあげた生地は、糸が張り詰めず“リラックス”した状態で仕上がるので、服にして長年着ていくうちに身体に馴染んでいくという魅力を持つ。その独自の風合いが国内外のトップメゾンからも高い支持を集める。
Video by 尾州ロリィタ
⎯⎯ 実際にアイテムを拝見しましたが、生地の軽さと柔らかさに驚きました。
そうなんです。スーツにする際は裏に接着芯を貼ってハリ感を出すので硬い印象を持たれると思うんですが、薄くてもしっかりしている生地なので尾州ロリィタでは裏地をつけておらず、ウールの柔らかい風合いを活かしているのが特徴です。ウールの生地ってチクチクするイメージもあるかもしれませんが、肌触りもとても良く、この肌触りは尾州でしか出せません。
ロリータは装飾が華美で動きにくいし、生地の量も多いので普通は肩や首が凝るのですが、ションヘル生地の尾州ロリィタを着ると、まるで着ていないかのように着心地がとても軽くて感動します。写真でも美しいですが、まずは実際に着心地を体感いただきたいです。
⎯⎯ 改めて、尾州生地の魅力とは?
生地そのものが宝石のように美しくて、何度見てもその美しさに新鮮に感動します。スワッチで見るのと反物で見るのとでは感動がまた違うので、工場に足を運ぶことが多いんですが、すでに美しさは知っているはずなのに、毎回感動がある。工場に行くといつも色々なものを見たくなるし、どれもずっと触っていたいくらい触り心地が良くて、なかなか帰れなくなってしまいます(笑)。それだけ素晴らしいものが地元で作られているということが、改めて誇り高いなと感じています。

尾州ロリィタで使用している葛󠄀利毛織のスーツ生地
Image by: 尾州ロリィタ
利益を抑えてでも、まずは手に取ってほしい
⎯⎯ クラシカルなデザインが特徴的です。デザインにおいてこだわっているポイントを教えてください。
まず第一に生地が美しいので、“生地が死なないデザイン”を意識しています。細切れに切ってフリルを沢山つけても生地の美しさが見えないので構造は極力シンプルに。シルエットと生地が綺麗に見えるデザインを追求しています。
⎯⎯ 売れ筋は?
昨年は例年よりも売り上げが良くて、オリジナルで開発した桜色の生地を使ったドレスが過去一番の売れ行きでした。ロリータ界隈全体では、ピンクやブルーといった淡い色のデザインの人気が継続して高いのに対して、近年黒を基調としたゴシック系のロリータの人気が落ちている印象がありますが、尾州ロリィタは使用するスーツ生地が黒系のものが多いため黒系のドレスが定番で、黒もよく売れています。でも新規の方だと「どうせ高い買い物なら色物が欲しい」と色物を選ばれる方もいらっしゃいますね。

今年特に人気だったというピンクのドレス。スーツ生地の既存品番にない色物生地は葛󠄀利毛織と共同開発している。(2025年12月に日本橋高島屋で開催されたポップアップの様子)
Image by: 高島屋
⎯⎯ 近年日本ではロリータショップが減っているようですが、尾州ロリィタの売上の推移はいかがでしょうか?
尾州ロリィタは海外発送をしていないので、国内のお客さまと一部海外向けの代理購入のお客さまが中心なのですが、右肩上がりで購入数は増えており、昨年は特に売り上げを大きく伸ばしました。年々、着実にファンの方が増えており、ロリータさんたちから認めていただいている感覚もあります。ロリータ服はウエストゴムなどでサイズ調整がしやすいので、そもそも「試着して買う」という文化があまりないと思うので、みなさんオンラインショップでの購入が中心なのではないでしょうか。国内ではロリータの数は減りつつあっても、海外での人気は高まっていますし、一見衰退しているように見えて、他のブランドさんも売り上げは増えているんじゃないかなと思っています。
⎯⎯ 安価な製品も流通している中で、尾州ロリィタを選ぶお客さまの傾向は?
ものづくりを大切にしている方が多いです。ロリータ服は生地をたくさん使いますし、シルエットが可愛らしいので、生地がペラペラだとすごく安っぽく見えてしまいます。なのでそもそもの傾向としてロリータは生地を重視する方が多いのですが、中でもうちのお客さまには産地を大事にしたり日本のものづくりを応援したいという想いを持っている、優しい方が多いなと思います。
⎯⎯ 服作りはどういった体制で行っていますか?
デザインや運営は基本的に1人なんですが、制作は国内の縫製工場さんにお願いしていて、レースは福井や栃木の工場さんのものを使用しています。消費者さんには安心して綺麗な美しいものを手に取っていただきたいですし、ブランドでも「日本のモノづくり」を打ち出していきたいので、各工場に足を運んで制作風景を拝見し、信頼できる工場さんにお願いしています。

完成までには100人以上の職人の手が加わっている
⎯⎯ 尾州ロリィタは卸も行っているのでしょうか?
尾州ロリィタの洋服は原価率が高すぎるので委託販売するのがとても難しく。ただ小物だけにはなりますが、昨年の12月から新宿のマルイアネックスのロリータショップで取り扱いがスタートし、名古屋ではケラショップにも置いていただいています。あとは年に2回原宿で開催されている「ゴシックロリィタマーケット」というロリータたちが集まるイベントに毎回出店しています。オンラインで購入される東京のお客さまも、そういった機会に生地感を確かめにいらっしゃいますね。
⎯⎯ 原価率のお話がありましたが、確かに高級スーツ2着分の生地を使用していると思うと納得感のある価格帯(6万6000円〜)です。
オリジナルで開発した生地はもっと値段が上がりますが、工場の既存品番のスーツ生地でも、名古屋のテーラーさんでスーツにしようとすると大体15万円くらいになるような品質の生地を使っています。尾州ロリィタはスーツの倍量の生地を使っているのに、15万円のものを8万円で売っていると思っていただけたら……。かなり切り詰めて、手が届きやすい価格に、という思いで頑張っています。
⎯⎯ 赤字覚悟。
人件費を抜いた材料費が6〜7割ほど、私の人件費はこの5年間発生していません。アパレルとしてはあり得ない値段です。
ただ、なぜ安くしているかというと、まだ尾州生地のことを知らないお客さまが多いのと、ブランドが確立されていないからというのが大きな理由です。まずは色々な方に着ていただいて尾州生地の魅力を知っていただくことに意味があると思っているので、いずれブランドが広まったら、少し値段を上げていく予定です。実際に見て、着てもらうことができたら価値がわかってもらえる自信がありますが、1人で運営しているブランドだとなかなか簡単にポップアップを開催できるわけでもないので、まずは値段を下げてでも皆様に着ていただくことが一番の宣伝効果になると思っています。
ロリータは勉強熱心 尾州に詳しい顧客が増加
⎯⎯ 東海地方のキー局の報道番組に複数出演されたり、一宮市のふるさと納税の返礼品になったりと、東海地方を中心に知名度が高いそうですが、東京で開催したポップアップも盛況でした。
一宮市100周年の若者委員をきっかけに、市のイベントで市長に衣装提供をするなど、一宮市関連のお仕事も色々とさせていただいています。お客さまは東京の方が一番多くて。お客さまが積極的にSNSで拡散くださるおかげで、ロリータ界隈ではよく知っていただけていると思います。うちは本当にXが全てで、ウェブストアの流入元は98%がX(旧Twitter)。残りの2%はGoogle検索です。

12月に日本橋高島屋で開催したポップアップでは、初日に完売するアイテムも出た。
Image by: 高島屋
⎯⎯ ロリータの方々が情報収集をするのはInstagramではなくXなんですね。
あまり写真だけをみて判断するという文化がなくて、デザイナーの意図とか生産背景を知りたい方が多いようです。私もはじめはインスタグラムの方が向いているのではないかと思っていたんですが、Xの方が断然反応が良くて驚きました。
⎯⎯ ファッション愛が強くて、勉強熱心な方が多いんですね。
お客さまも産地に興味を持ってくださって、詳しくなってくださる方が多いです。尾州ロリィタでは普通のウール100%とウールシルク、ウールカシミヤの生地を使っているのですが、それぞれの違いがわかる方も多いですし、ポップアップやイベントに出店すると、お客さまから生地の原料の違いについてなど、かなり込み入った質問をされます。
⎯⎯ ものづくりを通して尾州を盛り上げるという役割をすでに担われていますね。今後の目標は?
まず第一には「尾州」を誰もが読めるようになること、そして「尾州生地って何」と聞かれた時に「すごく良いスーツ生地」だと皆さまが知っているという状況を作ることが私の目標です。ロリータは派手なので、高島屋に置いてあった時も目立ったと思うんです。だからこそ、ロリータを知らなくても通りかかった方に「尾州生地」に少しでも興味を持っていただけたら上出来かなと。尾州の衰退は本当に深刻な問題なので。

Image by: 尾州ロリィタ
⎯⎯ 工場とやり取りをされる中で「尾州の危機」は感じている?
ブランドをはじめてから作れなくなった生地は数知れずですし、知っているだけでもこの5年間で糸工場が3軒倒産しました。そのうち1軒はとても大きな会社で、その会社が作っている他にはない絶妙な糸の色味がすごく好きでした。でもそういう特殊なものを作っている唯一無二なところから逆に早く閉まっていくんですよね。そこでしか作れないものであったとしても、ニッチすぎて。日常的にスーツを着る人も減っている中で、ニッチな色味のスーツに15万円を出す時代でもないですから。
⎯⎯ ショコラさんの目線で、尾州の問題点はどこにあると考えますか?
工業の世界のように縦社会でもないですし、みんなライバルだったので横のつながりもない。実際に工場に出向いてやり取りをしますが、信頼関係を築くのは簡単ではありませんし、買い続けることも非常に難しいです。
過去に横の付き合いをしなくても儲かっていた歴史があるので、需要が減っている状況でのアピールや工夫の仕方が想像できていないというか。助け合いの精神も希薄なので、取引があった会社からも突然、「先月潰したんだ」と言われて驚きました。誰も頼らず、誰も助けようとせず、人知れずどんどん会社がなくなっています。派閥や暗黙の了解のような文化も根強いことをこの5年間で知りました。私は会社員時代に自動車部品系の会社にいたので、なおさらこの文化にカルチャーショックを受けています。
尾州ロリィタでは単に洋服を売っているつもりはなくて。工場との大変なやり取りすら全てひっくりめて“尾州”だと思っている。観光協会や地元の福祉施設ともお仕事もするなど、地域の方たちとのつながりも大切にしています。服作り以外のことで忙しい時間は多いですが、地域との関係性を含めて尾州ロリィタとして、これからも色々な視点から“やさしく温かく”尾州を盛り上げていきたいです。

Image by: 尾州ロリィタ
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