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ビューティ研究員「美をつくる人」 春高バレー出身、皮脂RNAモニタリング技術を開発した花王・井上高良の場合

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ビューティ研究員「美をつくる人」 春高バレー出身、皮脂RNAモニタリング技術を開発した花王・井上高良の場合

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 普段あまりスポットの当たることのない、化粧品開発の裏側で奮闘する研究員にフォーカスするインタビュー連載。第4回は、花王 研究開発部門 生物科学研究所 プロジェクトリーダー・井上高良氏。科学好きだった少年時代から、バレーボールに打ち込んだ高校時代、そして自身も悩んだというアトピー性皮膚炎治療の一助となる皮脂RNAモニタリング技術の開発までを追った。

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■井上高良(花王 研究開発部門 生物科学研究所 皮脂RNAプロジェクトリーダー)
奈良県出身。医学博士。
山梨大学工学部、奈良先端科学技術大学院大学 博士課程(前期)修了。2006年花王入社。2008~2013年東北大学医学部医学系研究科に留学、2013年に医学博士を取得。2021年から現職。「一人ひとりに寄り添い、一生涯笑顔で健やかに暮らせる社会の実現」をスローガンに研究に取り組んでいる。

「科学」が好きな目立たない子どもだった

ーとても背が高くすらっとされていますね。背が高い人を見ると勝手に「運動がんばっていたのかな?」と思ってしまうのですが、活発なお子さんだったのでしょうか?

 いえいえ、性格的にはおとなしい子どもで、兄の方が活発でした。どちらかと言うと引っ込み思案で、あまり目立つことが好きではないタイプでしたね。

ーそうなんですね。では幼少期はどんなことをするのが好きでしたか?

 学研が発行する「科学」の教材が大好きで、ワクワクしながら毎月何が届くのか心待ちにしていた記憶があります。学研の本には、実験道具のような付録が届くのですが、それを作るのが楽しくて。一番記憶にあるのが、顕微鏡。肉眼ではよく見えないものが大きく鮮明に見えることに感動したことを覚えています。

ーすでに今の仕事につながるものに興味をお持ちだったのですね。

 そう言われればそうですね。この時点で研究者になろうとはまったく思っていませんでしたけど。ただ、母が脳外科で看護師をしていて、医療的な話は日常会話の中でよく耳にしていたので医療関係の仕事に興味はありました。でも両親からは「お前は医者にはなれない」とことあるごとに言われてましたけど(笑)。人を助けられる仕事というものに漠然と憧れはありましたね。

高校時代はバレーボールに邁進

ー脳外科の看護師だなんて、お母さまかっこいいですね! 学生時代、部活には入っていましたか?

 中学の頃にバレーボールに打ち込み、それで高校も奈良県内の強豪校に進学しました。バレーボールが楽しかったからなんとなく流れで入ってしまったのですが想像以上に厳しくて。放課後は毎日20時、21時まで練習し、1年で休めるのは正月と数日ぐらいで、土日は合宿で全国を回っているような…。

ーもしやレギュラーだったのですか?

 そうですね。周りのメンバーにも恵まれて春高バレーも出ました。

ー強豪校でそれなりの活躍をされていたら、「バレーボール選手」という道もありそうですよね?

 腰を痛めてしまって…、選手は諦め進学することにしたんです。

ーなるほど。でも、それだけ部活どっぷりな3年間だったのに国立の山梨大学にストレートで進めるって、ちょっとつじつまが合わない気がします。もともと勉強ができるタイプだったのですか?

 それが全然。部活に打ち込んでいた頃は授業中ほとんど寝ていましたので。部活をするために学校に通っているようなものでまったく勉強していませんでした。インターハイが終わってからセンター試験まで時間がなかったので、予備校に缶詰になって朝から晩まで必死に勉強してどうにか合格できました。

大学では父親の言葉から生物学を専攻

ーすばらしいです! 山梨大学での専攻は理系ですか?

 はい。高校ではなぜか英語学科だったのですが、英語が全く合わないと感じていて、英語学科の中でも理系を選択できるコースを選択していました。物理とか化学とか生物とかひと通り習った中で、物理よりも化学や生物の方が自分に合っていると思い、進路を決める際に父に相談したら、「これからは遺伝子工学が注目を集める時代がくるから、やるならそっちの方向を目指したらどうだ」と助言をもらって。それで生物系の学科を専攻することにしたんです。

ーお父さま、先見の明がおありですね。山梨大学ではどんな研究をされていたのですか?

 山梨大学はワインの産地ということもあり、ワインの醸造や発酵に関する研究が進んでいるところだったので、微生物関係の研究を主に行なっていましたね。

ー微生物の研究とは?

 私が居た研究室では微生物を使って水を浄化する研究が行われていましたが、私は健康に有用な「鹿角霊芝」というきのこの菌糸を培養する技術を研究をしていました。

ーなんだか面白そうですね。

 シャーレに霊芝の菌を撒いて培養して、菌が生えてくるのを待って……と恐ろしく地味で地道な作業です(笑)。霊芝の菌がよく育つ最適な培養条件を探るため、当てる光の強度を変えたりしながら培養をひたすら繰り返す日々。仮説を立ててもその通りにいかないことも多く大変ではありましたが、誰もやったことのない最先端のことをやっている、新しい知見を作っていく、というところがエキサイティングではありました。

ー山梨大学を卒業されてからは、地元の奈良先端技術大学院大学に進まれたのですね。こちらでの思い出は?

 山梨大学でもそうだったのですが、研究室の先生や先輩方も素晴らしい方で、僕はつくづく人に恵まれているなあと思います。学問だけでなく、研究者としての在り方みたいなものまでしっかり学ばせていただきました。

研究は、謙虚であることが真実への近道

ー勝手な思い込みで恐縮ですが、理系のお仕事って、わりとひとりで黙々と作業しているようなイメージがあったのですが、人とのつながりみたいなものも重要だったりするのですか?

 僕の場合はかなり影響を受けているので、そう思います。学問に対する真摯な考え方とか、研究は基本的には最初に立てた仮説通りにすんなりと進むことはほとんどありません。生物や自然に対する謙虚さは、研究員として大切な資質だと思うんです。謙虚であることが真実への近道であり、その先に予想外の結果や発見が待っているものなので。

ー確かに、成功は数多くの失敗があっての上ですよね。博士号は大学院大学を出られてから取得されたのですか?

 花王に入社してからです。

ーではなぜ、就職先に花王を選んだのでしょうか?

 理由は2つあるのですが、ひとつはヘルスケアに関する研究や洗剤の酵素に関する研究などが進んでいること。僕はバイオしか学んできていなかったのですが、ここに入ったらいろんな研究者とさまざまなディスカッションができそうだと思ったことです。もうひとつは、僕自身、幼少期に肌が弱くてアトピーに悩まされたこともあって、皮膚に関する研究にも密かに興味があったんです。花王には敏感肌向けブランド「キュレル(Curel)」もありますし、アトピー等といった肌に悩む人に貢献できるような研究ができるかもしれないと。

ーなるほど。花王では最初から化粧品の研究員に?

 基盤研究所に配属され皮膚に関する研究をしていました。初めはセラミドに関連する研究をしていました。

ー研究内容って、どうやって決定されるのですか? 

 研究所の方針やトレンドなどによって方向性が決まるのですが、主となるミッションだけでなく、余力で自分の興味のある分野の研究を進めることも許されています。実は、僕が開発した「皮脂RNAモニタリング技術」も、この残ったパワーで進めた研究がきっかけだったんです。

キャリアの中でのヒントからRNA研究へ

ートップダウンではなく、ボトムアップの研究がクローズアップされたのですね。

 そうなんです。皮脂RNA解析技術はキャリアの中で気づいたヒントから生まれた研究だったんです。

ーと言うと?

 実は、入社して3年目に東北大学に留学することになったのですが、そのときに所属したのは病理診断の研究室。僕は皮膚専門だったので、さまざまな病態の特徴を捉えるのに、くる日もくる日も皮膚組織を顕微鏡で観察する毎日で、トータル1000枚以上ぐらいは見ていたかもしれません(笑)。そんな日々を送っている中で、ふと「皮脂腺」が持つ特異な構造が気になって仕方がなくなってきたんです。

ー皮脂腺の特異な構造…?

 はい。皮脂腺は皮脂を分泌する器官なのですが、皮脂を体表に分泌するときに、細胞が“自爆”するんです。汗や母乳も外分泌腺という液体を出す腺を持っていますが、“自爆”することなく分泌することができます。でもなぜか皮脂腺だけは、自分で自分の膜を崩壊させなければ中に溜め込んだ皮脂を出せない。こいつは一体なんなんだと、なんでこんなに儚い思いをしないと皮脂を出せないのかと不思議で不思議で(笑)。

ー額や小鼻のテカリはすべて皮脂腺の“自爆”によって生み出されていたとは…。

 不思議ですよね。留学を通じて触れた新たな視点を持って東北大学から花王に戻り、渡された研究テーマが「皮脂分泌抑制剤の探索」。化粧品に配合する皮脂によるテカリを抑えるような成分を開発せよ、といった内容でした。これはいい機会だと思って、メインの研究の傍らで気になっていた皮脂腺についても研究を深めていったんです。

ーなんだか運命的ですね。でもこれがどうやって「皮脂RNAモニタリング技術」の開発につながるのですか?

 すべての細胞は膜で覆われていて、その中にDNAとかRNAとか代謝物といったものがいろいろ詰まっているのですが、「細胞が“自爆”したら、皮脂だけでなくRNAも皮膚表面に残るのではないか」と仮説を立てて研究を進めていきました。これまでは、皮膚の表面にはRNAの分子を分解する酵素がたくさんあることが知られていたので「RNAは皮膚表面には存在しないだろう」と考えられていたのですが、調べてみると皮脂の中にはたくさんのRNAが存在することがわかったのです。この発見が「皮脂RNAモニタリング技術」の開発のきっかけとなりました。

ーそもそもRNAとは一体何をしてくれるもので、これが皮脂から抽出できるようになると、どんなメリットがあるのでしょうか。

 DNAは私たちの身体を作る設計図のようなものですが、RNAはDNAの情報をもとに複製されるコピーのようなもので、「これが足りないからこれを作れ」と、状況に応じて指示を出すような役割を果たしてくれます。RNAは生活習慣や環境などの変化によって変化していくので、皮脂からRNAの情報が解析できれば、肌の変化や特徴などもリアルタイムで捉えることができるようになります。これまでは皮膚からRNAを抽出するには外科的に皮膚をくり抜かなければいけなかったのですが、開発した技術を使えば、あぶら取りフィルムで採取した皮脂からRNAを解析できるため、肌を傷つけずに済みますし、よりスピーディに正確に肌の状態を診断できるようになります。

ーあぶら取りフィルムとは。画期的!

 はい、しかも特殊なものではなく、コンビニやドラッグストアでも手に入る市販の脂とりフィルムです(笑)。例えば、赤ちゃんって、顔にいろんな湿疹ができますよね。重篤なものから軽度なものまで色々ですが、正確にアトピーと把握することが難しいこともあり、経過観察しているうちに症状が悪化してアトピー性皮膚炎が進んでしまった…ということも珍しくありません。アトピー性皮膚炎が数ヶ月進行したらその期間の間に食物アレルギー発症のリスクも上がるということも知られており、乳幼児にとっての数ヶ月は重要。早期の正しい診断が鍵になるんです。それが、あぶら取りフィルムで皮脂を拭うだけでできれば、こんないいことはありませんよね。

約2ヶ月、土日も研究室にこもって実験

ー開発に成功するまで、最も苦労したことは?

 この仮説を立てて研究に入るとき、最初に仲のいいメンバーから皮脂を取らせてもらったのですが、そのときはRNAがはっきり確認できたんです。でもこれはビギナーズラックみたいなもので、その後、確認出来ていたRNAを検出できなくなってしまって…。最初にお願いした人はたまたま皮脂量が多く条件がよかったのかもしれないのですが、そこからは絶望の日々。数千万円もする最新の分析装置を導入してもらったのに「RNAを確認できませんでした」なんて上司に言えない…なんて思いながら、2ヶ月ぐらいずっと土日も研究室にこもってパラメータを振って色々試して…と実験に明け暮れました(笑)。この時は本当に辛かったですね。最後にある工程を入れて試してみたことで、解析に耐えうるRNAを回収できるようになり分析装置で安定的にデータを出力できるようになりました。

ーちなみに、「皮脂RNAモニタリング技術」は、美容目的でも活用されているのでしょうか?

 アイスタイル社と共同で、RNAの情報を使って肌タイプを分類して、その人の肌に最適な商品を提案することができないか検討しています。この取り組みでは、「@cosme」に投稿された膨大なクチコミ評価とRNA肌型をかけ合わせて、自分の肌に合う化粧品との出合いを効率化させる仕組みの開発を目指します。皮脂から得たRNAの情報を解析し、自分の肌に合うものを正しく選び取ることができれば、最短距離でいい商品に出合えるのはもちろん、肌に合わないものを選んでしまったがために廃棄されてしまう化粧品も減らすことができます。

ーサステナブルなアクションにも貢献できるのですね。

 そうですね。あとは、エストの「スキンアスリートジム」でも、この技術が活用されています。「皮脂RNAモニタリング技術」による肌解析と知見から、一人ひとりの肌にあった科学的根拠に基づくビューティプログラムを作成するというものです。RNAの情報から糖化や紫外線に対する感受性がどれくらいなのかを導き出し、一人ひとりの弱いところや強みになっているところをパーソナルにアドバイスして、食生活や運動習慣なども含めた“一生モノの美容習慣”で、理想の美しさへとサポートしていきます。

皮脂RNAモニタリング技術をもっと価値あるものへ

ー赤ちゃん肌のケアから大人のビューティサポートまで幅広く応用されていて、これからの展開も楽しみです! 最後に今後の目標をお聞かせください。

 「皮脂RNAモニタリング技術」はヒトの多様性を理解するためのツール。多様性を理解した上で、世の中に溢れかえっている商品の中からベストな選択をするための橋渡しになるような技術になれれば嬉しいです。あとは、深い疾患悩みを抱えている人に対しての解決手段として、もっともっと価値あるものに磨き上げていけたらと思っています。

(文:ライターSAKAI NAOMI、聞き手:福崎明子)

美容ライター

サカイナオミ

美容室勤務、美容ジャーナリスト齋藤薫氏のアシスタントを経て、美容ライターとして独立。25ans、VOGUEGIRLなどファッション誌のビューティ記事のライティングのほか、WWD JAPAN.comにて猫と美容を絡めたコラムも執筆中。

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