
Image by: Runway: FASHIONSNAP(Koji Hirano), Backstage:FASHIONSNAP(Ippei Saito)

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心身を削り、美しさの極致を目指すバレエダンサー。スポットライトを浴び、喝采を浴びる「彼女」のつま先は圧迫され変色しながらも、細く、薄く、鍛え上げられた身体を支えている。「チカ キサダ(Chika Kisada)」の2026年春夏コレクションは、そんな美を追求する狂気的な熱意と、美しき成体へと移り変わる、流動的な瞬間が入り混じるショーだった。
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ここ数シーズン、ランウェイやインスタレーションの形式でショーを継続してきた幾左田千佳。「バイアール(by R)」を通じて披露した2023年秋冬コレクションは、 “チカ キサダ・バレエ団”さながらのダンスパフォーマンスやオーケストラの演奏を披露し、2024年秋冬コレクションはバレエ団の練習風景を切り取りながら、シルエットの美学をロマンティックに幾左田流に切り取った。前回2025年秋冬コレクションは、暗闇を切り裂くビートと共に力強く歩みを進めるモデルが印象的だった。
チカ キサダのショーでは、コレクション制作の指針となるコレクションノートが事後に配信される。今回のテーマは「Trace」。
“ Trace ”
輪郭が
跳ね起きる
重なり合う記憶が
肌の上で点火し
内側のリズムを走らせた
流線が静かに描かれる
街の呼吸に
触れるように
曲がった光が香りをなぞり
動きは
シルエットを連れて
立ち上がる
ショーの会場は、これまでのバレエカンパニーのような演出とは一転して、「アンダーグラウンド」な空気を漂わせた(会場は、代官山の建物の地下だった)。無機質でこじんまりとした空間の中央に、「ステージ」らしきスポットがあり、吊り下げられたむき出しの蛍光灯にぼんやりと照らされたモデルが、次々とやってくる。
最初こそ驚いたものの、幾左田が「パンク・バレエ」の革命児と称されるダンサー マイケル・クラーク(Michael Clark)を敬愛することを考えると、このムードもどこか腑に落ちた。

全てのルックを、たった4人のモデルの交代で見せたのも、一般的なバレエの豪勢な公演と対比的な空気を醸し出した。ヘアはセットの途中、あるいは「まだ外に出る予定ではなかった段階」で登場してしまったかのような、乱れた様子も。前髪は無造作なのに、その奥には、決して虚ではない意志のある瞳が光る。


ファーストルックを筆頭に頻出した、破れやひきつれを施したインナーやレッグウェアのレイヤードによる、皮膚が剥がれ落ちたようなディテールは、ボロボロに見えるが、実は生まれ変わるための「脱皮」の過程にも感じさせる。このクラッシュ&レイヤードのアイテムは、アーティストの林ひかりとのコラボレーションによるもの。そして、これらがエッジが効いたレイヤードスタイルとして完成されているのは、幾左田のショーで常連のスタイリスト小嶋智子だからなせる技だろう。


一方で、ヒップや下半身を歪にデフォルメしたようなシルエットのパファー素材を使ったスカートやワンピーススタイルも象徴的。今にもはち切れそうなボリューム感も相まって、内に蠢くものが解き放たれる、「メタモルフォーゼ」を予兆させる。

肌が透けるほど薄く解かれたTシャツは、インパクトのある見た目に反して、丁寧な処理によって作られていることが想像できる(このアイテムも林とのコラボピース)。そしてロックT調に描かれた「OPERAHOUSE(オペラハウス)」の上には、心身の特異性に対する攻撃を非難する強いメッセージがさりげなく記されている。

ブランドに色濃く反映されるバレエの要素や、そこに端を発した身体性の模索は、言うまでもなく幾左田のバッググラウンド(バレエダンサーとして舞台で活躍した経験を持つ)から得たものだ。古典にして総合芸術の完成形でもあるバレエは、厳格な規律による様式美を人の体の細やかな動き、そのための究極的な身体シルエットの管理によって成される。軽やかに跳ね、しなやかに見える身体は、2、3時間程度の公演のために日々研鑽し、むしろ常軌を逸した柔軟性と筋肉によって構成されている。可憐なプリンシパルの足はボロボロなのだが、無論その鍛錬が、比類なき美しさへと変貌を遂げる鍵だ。
幾左田といえば、この様式美的なエレガンスと、ダンサーたちの生命力へのオマージュとしてパンクな精神を組み合わせ、儚さと強さを巧みに融合させたコレクションを展開してきた。
しかしながら、今回は、確かにそのどちらも感じさせながら、いつになく「内側」に目を向けられていたように思う。分かりやすいバレエ的なコンセプトは息を潜め、むくむくと膨れ上がった「何か」が曖昧な輪郭を描きながら理想形へと変体する、美への一途を辿る変遷。言うなれば、ここ数シーズンで研鑽した、ブランドが持つ強いコンセプトとの距離感を見つめ直し、新たなフェーズへと向かうその流動的な瞬間だったのかもしれない。

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