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Culture

レコード屋はつらいよ、ブームなのに薄利?【“ココ吉”矢島店長に聞く、レコードの話 第4話】

 再注目を集めているレコードについて、1999年からレコード盛衰を間近で見てきたココナッツディスク吉祥寺店(通称:ココ吉)の店長、矢島和義さんから学ぶ短期連載「“ココ吉”矢島店長に聞く、レコードの話」

 第4話となる今回は、レコード好き&界隈を密かにざわつかせた“あるツイート”から流通の裏側にフォーカス。レコードブームなのに、レコード屋は薄利を迫られている?その実態について聞きました。

矢島和義
 1976年生まれ。東京都出身。ココナッツディスク吉祥寺店店長。学生時代にアルバイトで働いていた中古レコード盤屋「ココナッツディスク」が吉祥寺店がオープンした1999年から現職。中古のアナログレコードを取り扱うと同時に、国内で活動するインディーズアーティストの自主音源や新譜を取り扱った先駆けとして知られており、同時多発的に盛り上がりを見せた2010年代日本のインディーシーンやレコードブームにおける重要参考人の一人である。
公式ツイッター

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弱小レコード屋の生き残り方

昨年の夏、山下達郎さんが1991年に発表したアルバムのリマスター盤をアナログで発売しました。その際に、原宿に位置するインディペンデントレコードショップ「BIG LOVE RECORDS」の仲真史さんのツイートは、レコード屋の薄利が明らかになる内容で、SNS上ではレコード好きを中心に賛否両論が巻き起こりました。

 このツイートの内容を理解するためには、レコードがどのように流通しているのかを知る必要があります。今回は山下達郎さんを例に出して説明しますね。

 山下さんは所謂「どメジャーアーティスト」です。当然ながら、山下さんほどになると、インディーズバンドのようにレコード屋に自ら足を運び「店頭に新譜レコードを置いてくれませんか?」と直談判することはなく、基本的には流通会社が、各レコード屋に卸します。ここで問題になってくるのは、流通会社が大口の取引しかしないこと。うちみたいな、小さなレコード屋は相手にしてもらえない。もっとわかりやすく言ってしまえば「月に数十万円の取引がないと口座を開設しません」というスタンス。なので、山下さんの新譜だけを買い取りたいというわがままなお願い事は聞き入れてもらえないんですよね。そこで、我々のような弱小レコード屋さんの強い味方になるのが、東洋化成ディストリビューションさんです。

どのように心強いのでしょうか?

 東洋化成ディストリビューションさんも流通会社であることには変わりがありません。ただ、うちみたいなお店ともお付き合いしてくれますし、彼らを通せばメジャーレコードも仕入れることができる。

 ここからは想像でしかないのですが、おそらく全国各地の小さなレコード屋からたくさんの「今回の達郎のレコードを仕入れてくださいよ」という要望が来たと思うんです。それで彼らも頑張ってくれて、無理して枚数を確保してくれたのかな、と。その大変さは計り知れないし、それで色々あって8掛けになっちゃったんじゃないか、というのが僕の予想です。おそらく、このツイートをした仲さんもその辺の事情はわかっているんじゃないかな。

なるほど。ちなみに通常は何掛けで仕入れているんですか?

 基本的には7掛けか7.5掛けですね。だから「8掛け」というのは確かに割高ではあるんです。本当は6掛け、7掛けにして欲しいし、それくらいにならないと商売にならない。それこそ「10枚とって8枚売っても儲け0円」です。

レコード屋の薄利は業界全体の問題意識として、まだ希薄なのでしょうか?

 もっと問題意識を持つべきですよね。もしくは買い取りではなく、返品できるようにして欲しい。

 レコードブームと言われているものの、儲かっているわけではないので「売れないかもしれないものは怖くてなかなか注文できない」という気持ちは働きます。でも、山下達郎なら売れると言う確証があるから、みんななんとかして手に入れたいし「まあ買い取りでもいいか」と納得している節があります。レコードを買う人はきっとそこまで考えてレコードは買わないと思うんですけど「こういう現実がある」ということはなんとなくわかってもらいたい(笑)。

街の個店と大手レコード屋の差別化が不可能な時代に

レコード屋の実情がわかった上で、買い手ができることって何かありますか?

 「欲しいレコードは予約をしよう!」これに限ります。例えば、山下達郎ほどメジャーではないアーティストのレコードを取り扱うと決めた時は、レコード屋は必ず予約を受け付けます。あれは要するに「売れないかもしれないものは怖くてなかなか注文できないので、何枚買ってもらえるかを事前に知りたいです!」と言い換えることもできる(笑)。つまり「10人予約してくれたから、10枚は売れるはず。じゃあ15枚くらい入荷してみるか」と考えるんです。だから、欲しい気持ちがあるなら予約をして欲しい。当たり前ですが、そしたら僕も全力でその分を確保します。

 一方で「予約受付数は3枚だったのに、発売日当日になって20人がそのレコードを買い求めて来店した」ということもよくあります。そういうことが起こり続けると、値付けのバランスが崩れてしまい、定価よりも値段が高くなるレコードも出てくる。

レコードを販売するインディペンデントレーベルも、どれくらいの枚数を用意するべきなのかが手探りなんですね。

 ギリギリ赤字にならない枚数をみんな知りたがっているんです。100枚売れるのか、200枚売れるのかは、インディーズバンドやレーベル側からしてみたら大きな問題です。「もっと枚数を確保しといてよ」という声もあるんですけど、枚数をたくさん確保できない事情があることも知って欲しい。

 先ほどのツイートの話に戻すと、実はこの短いツイートで記されている内容は結構ややこしくて。深読みをするならば「街の小さなレコード屋と大手CDショップの棲み分けができなくなってきた」という話に帰着するのかな、と。

以前は、街のレコード屋と大手CDショップはどのように差別化されていたんでしょうか?

 前提として、中古レコードを主に扱うココナッツディスクと、新譜CDを主に取り扱うタワーレコード(以下、タワレコ)やHMVは、仕入れの方法から売っているものまで異なっていて、業種が違うと言ってもいいくらい棲み分けができていましたが、それが最近になって曖昧になってきたんです。例えば、タワレコは「タワーヴァイナル」という新形態をスタートさせ、中古レコードを取り扱うようになりました。また、最初は中古レコードしか置いていなかったココナッツディスクも、インディーズバンドの新譜CDやレコードを置くようになり、今となってはメジャーデビューした彼らのCDはタワレコでもうちでも売られています。

大手CDショップが中古レコードを取り扱い始めたことに嫌悪感を抱くことはなかったんですか?

 僕の個人的な意見ですが、「こっちに歩み寄ってきてくれている!」と少し嬉しかったくらいですよ。大手も中古盤屋という形態にようやく魅力を感じてくれたんだな、と。やっぱりそれまではどちらかというと僕たちは日陰者だったから(笑)。極端だけど、大手は、ちゃんと買い取りで新品を仕入れて売っている。こっちはみんなが「もういらない」と言ったものを集めて「どうですか?」と聞いているようなもんだったので。新品と中古が対等な関係になってきたというのは嬉しいことなんですけど、お客さんからしてみたら、その違いはどんどん無くなっていて、街のレコード屋と大手ショップは「CDショップ」という大きい括りの中で同じものだと思っているんじゃないかな。だから「ココナッツディスクにはなんで山下達郎の新譜がないんだよ」と思われてしまう(笑)。でもそう単純なもんではないんだよ、と。その辺はきっと、ちゃんと説明しないとわかってもらえないことなんですよね。

メジャーアーティストがアナログ盤で復刻や新譜をリリースするようになったのも最近の事で、それ以前はCDでの発売が一般的だったように思います。

 その通りですね。2010年代は「レコードで作りたい!」と言っていたのは圧倒的にインディーズバンドだったから。それが段々と人気になってきて「アナログ版がまた人気らしいから、俺も作ってみようかな」という感覚でメジャーアーティストも第二次レコードブームに参入してきたというのが僕の実感です。2010年代に何が起きていたのかを知らない人たちからしてみれば、メジャーどころが昔からやっていたように見えるし、僕たちはいつまでたってもメジャーアーティストのレコードを仕入れることがままならない(笑)。

メジャーアーティストもレコードで新譜を発売するようになったことが、街のレコード屋と大手CDショップの棲み分けがしづらくなってきた要因?

 それも大きいと思いますよ。でも、昔ほどCDが売れなくなってきているから仕方ないといえば仕方ないことなんですよね。CDが売れなくなり、CDショップ自体が少なくなってきていますし。

 本当だったら、レコード会社が全ての空気感を汲み取って、小さいところも大きいところも関係なく、様々なお店に「どうですか、取り扱いませんか?」と営業をかければいんですけどね。いまだに、大手流通会社に卸してそれでおしまい。「あとは好きにやって」という昔のやり方をずっと続けている。せっかくみんなが音楽の聞き方に興味を持ってくれているのに「もったいないな」とは思いますよね。

レコードを一時的なブームで終わらせないために

レコード好き、そしてレコード屋の店主として、これからのレコード市場に期待していることはなんですか?

 一番は、せっかく興味を持ってもらったレコードを、少しでも長く、多くの人に聞き続けてもらいたい。そのためには、レコード屋の店主として、必要な知識は惜しむことなく伝えていかなくては、と思っています。

必要な情報とは?

 今はブームということもあり、間口が広く、たくさんの人がレコードや音楽に興味を持ってくれていると思うんですが、その後のフォローを誰もしてくれていない気がしていて。だからこそ、レコード好きの店主としては、きっかけとなるレコードを契機に「音楽の聞き方」みたいなものが伝えられれば、と。例えば「山下達郎の音楽がイケてるらしい」とお店に来てくれた人が、山下達郎だけを聞いて満足してしまわないように「山下達郎が好きなら、多分この音楽も好きだよ」「山下さんはこういうバンドに影響を受けたと言われているよ」と、音楽に対する興味が広がるよう助言をできたらいいですよね。そういう風に音楽そのものを深掘りして聞く人が増えれば、必然的に音楽好きも、レコード好きも増えるだろうな、と考えています。

番外編
150万円で落札された伝説のカセット

前回のお話をおさらい
第3話「レコードはどうやって値付けされているの?」

(聞き手:古堅明日香)

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