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再注目を集めているレコードについて、1999年からレコード盛衰を間近で見てきたココナッツディスク吉祥寺店(通称:ココ吉)の店長、矢島和義さんから学ぶ短期連載「“ココ吉”矢島店長に聞く、レコードの話」。
第3話となる今回は、レコードにまつわる値付けの話。海外レコードショップからの買い付けではなく、お客さんから持ち込まれたレコードを買い取る「中古レコード屋」の形態を取るココ吉の矢島店長は、レコードのどこを見て値段をつけているのでしょうか?
矢島和義
1976年生まれ。東京都出身。ココナッツディスク吉祥寺店店長。学生時代にアルバイトで働いていた中古レコード盤屋「ココナッツディスク」が吉祥寺店をオープンした1999年から現職。中古のアナログレコードを取り扱うと同時に、国内で活動するインディーズアーティストの自主音源や新譜を取り扱った先駆けとして知られており、同時多発的に盛り上がりを見せた2010年代日本のインディーシーンやレコードブームにおける重要参考人の一人である。
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レコードの値付け、何を見ている?
ーココナッツディスクは、お客さんから持ち込まれたレコードを買い取り形式で商品を補充しています。具体的にはどのような観点で、商品の値付けを行っているのでしょうか?
大きく2つあります。一つは昔ながらの「経験則」。もう一つは現在の主流でもある「インターネット上の情報を元にした値付け」です。
ー「インターネット上の情報を元にした値付け」ではヤフオク!やメルカリを参考に?
メルカリは出品者が値段を決めてしまうのであまり参考にはならないのですが、オークションの場合は、みんなで価格を釣り上げるので「大体これくらいの値段なら、みんなが欲しがるのか」と参考にはなります。あとは「Discogs」というサイトができて値付けの方法は大きく変わりました。きっとレコード屋さんはみんな見ている(笑)。
ーどのようなサイトなのでしょうか?
海外のサイトなんですけど、世界中のレコード好きが、この世に存在するありとあらゆるレコード情報を登録して成り立っているサイトです。例えば、検索バーでビートルズの「Please Please Me」を調べると、この楽曲だけでも603種類のレコードが存在することがわかります。
また、Discogs上でレコードの売買も行われており、そのレコードが大体どれくらいの値段で売れたのかなどの「販売実績」も確認することができます。この情報だけを鵜呑みにするわけではないのですが、指針にはなりますよね。
Discogsが業界にもたらした影響は他にもあります。それは、お店だけではなく、顧客であるレコード好きも市場相場を確認することができる点です。レコードの価値や大体の価格が共有されているので、昔みたいに、お店の経験則で値段を決めづらくなりました。よくも悪くも面白みが薄れましたね。
ー面白みとは?
昔はお店ごとの個性がそのまま値付けや置いてある商品に反映されていたんです。例えば、ジャズが強いお店だったら、人によっては5000円でも欲しいと思うようなレコードでも、ジャズ好きの店主がそれほど興味のないジャンルだと500円で売られたりする。そういう「レコードとの出会い」を面白がって、みんな全国のレコード屋さんに足を運んでいたんですよね。
今は、レコードを売りに来る人の中には、事前にネットで調べて「大体これくらいの値段が付くだろうな」とわかって持ち込んでくる方もいます。なので、ちゃんと市場相場を加味した査定をしないと「じゃあ売りません」と言われてしまうし、買い取ったら、買い取ったなりの値段で売らないと商売として回らなくなってしまう。そうやって段々と、レコードの値段は均一化されたんだと思います。今は、どこのレコード屋に売りに行っても同じような値付けがされるから、どのお店も置いてあるものが一緒。僕個人としては、お店の個性が感じられないのは寂しいことだなと思うので、ココ吉では「わざわざ店頭に足を運ぶ」という面白さを提供できたらな、と考えています。
あると思うと買わないし、ないと思うと買いたくなる
ー現在は、新曲をリリースしたタイミングでレコードでも新譜を発売するアーティストも多いですが、完売後、新品であるにもかかわらず定価よりも高く取引されることはあるのでしょうか?
悲しいことに転売目的で購入されて、それをその日のうちに倍の値段でメルカリで出すみたいなことはあると思います。
前回もお話しした通り、レコードカルチャーの再注目は元々、インディーズバンドの「憧れ」という感覚で新曲をレコードで発表し始めたことに起因しています。当時は、そもそも売れるとも思っていなかったので、そんなに枚数も作っていなかった。例えばミツメのファースト、セカンドアルバムは各100枚ぐらいしか世の中に出回っていないんですよ。それくらい内輪なものだったんです。それを転売目的で買われてしまうと、やっぱり値段は釣り上がってしまいますよね。
ー世の中に出回っていない「レア」を求めて、倍の値段を出してでも購入する人がいる?
飢餓感で値段が上がってしまっているアーティストは多いと思います。
ー飢餓感というと?
欲しい人が多いのに、ものが少ないとやはり値段は上がります。レコードにおいて、「古さ」は値上がりにはさほど関係がなく、人々の「欲しい」という欲求が価格の上がる理由になったりします。
本当に不思議なもので、お店をやっているとその人間の性を実感しますよ(笑)。購入者はそこまで意識をしていないと思うんですが、やっぱり無くなったら問い合わせは多くなるし、店頭にあったら買わない。次の日、店頭から無くなったのをみて「あれってもう売り切れちゃったんですか?」と聞かれる。
ー飢餓感を薄めるために、レコードを作り続けるという選択肢は業界には無いのでしょうか?
もちろんそういう意見もあります。ただ、余ってしまうとやっぱり「まだあるじゃん」と売れなくなってしまうので難しいところではあるんですよね。買いたい人が買って、ちょうど売り切れるのが一番良いんですけど、それこそ欲しくもないのに儲けようとする人が入ってきちゃうとそのバランスは崩れてしまう。
ーレコードブームに乗って販売枚数を増やすアーティストもいるのでしょうか?
そうですね、1000枚くらい作っている人もいると思いますよ。カネコアヤノさんとかは、すごく人気だし、すぐ売り切れてしまう。完売が続くので「そんなに枚数を作っていないんじゃないか」と思っている人もいるかもしれないんですけど、そんなことない。これは彼女の名誉のためにも声を大して言いたい(笑)。うちのお店に入ってきては、すぐ売り切れてしまうだけなんです。
カネコさんを例にお話をすると、彼女は来年アナログ盤を発売するんですが、予約がバーっと入っているものの、オフィシャルサイト上ではまだ在庫があるんです。それを見たお客さんが「なんだ、まだあるのか」と思ったのか、パタッと予約が止まっています。多分、オフィシャルサイトがソールドアウトしたら、またうちに問い合わせの電話が増えるんじゃないかな。
ーレコード業界は需要と供給の均衡を保つことがとても難しいんですね。
重複するけど、無くなると思うから予約するし、予約しないでも買えるだろうと思ったら、やっぱりみんな予約をしない。だから、「無くなるかもしれない」というギリギリのラインを生産し続けて、市場に出回らせ、余ることなく売り切れて、価格が少しずつ上がっていくのがアナログレコードにおける理想の形態なんですよね。
【連載:“ココ吉”矢島店長に聞く、レコードの話】
(聞き手:古堅明日香)
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