レコードは、消費者が価値を作る?【“ココ吉”矢島店長に聞く、レコードの話 第2話】
ココナッツディスク吉祥寺店に飾られている、大瀧詠一の直筆サイン
Image by: FASHIONSNAP
ココナッツディスク吉祥寺店に飾られている、大瀧詠一の直筆サイン
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レコードは、消費者が価値を作る?【“ココ吉”矢島店長に聞く、レコードの話 第2話】
ココナッツディスク吉祥寺店に飾られている、大瀧詠一の直筆サイン
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再注目を集めているレコードについて、1999年からレコード盛衰を間近で見てきたココナッツディスク吉祥寺店(通称:ココ吉)の店長、矢島和義さんから学ぶ短期連載「“ココ吉”矢島店長に聞く、レコードの話」。
第2話となる今回はレコードにまつわる価値の源泉について根掘り葉掘り聞きました。
矢島和義
1976年生まれ。東京都出身。ココナッツディスク吉祥寺店店長。学生時代にアルバイトで働いていた中古レコード盤屋「ココナッツディスク」が吉祥寺店をオープンした1999年から現職。中古のアナログレコードを取り扱うと同時に、国内で活動するインディーズアーティストの自主音源や新譜をフックアップした先駆けとして知られており、同時多発的に盛り上がりを見せた2010年代日本のインディーシーンやレコードブームにおける重要参考人の一人である。
公式ツイッター
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レコードの値段は変わっていない?
ー日本レコード協会によると、2021年の間に生産されたアナログレコードは前年比約1.7倍の191万枚。生産数は伸びていますが、実際のところ売れていますか?
売れているっちゃ売れていると言う感じで「めちゃくちゃ儲かっているか?」と問われるとそうでもないんです。ただ、ひどい時よりは良いし、売上が下がらないだけマシだろうと思っています。
ー「ひどい時」というのは?
前回もお話ししたように「レコードが珍しいものではなくなった」2008年頃のことです。お客さんもほとんどお店にいませんでしたから。
実感としては「売れるようになったものが増えた」と言う感じです。例えば、いままでと同じように800円で販売していても、昔は買う人がいなかったけど、今はしっかりと売れる。
ー具体的にはどのようなレコードが売れるようになったのでしょうか?
ビートルズ(The Beatles)のレコードが一番わかりやすいかな。今まで、みんなが欲しがったのはリリースされた当時に製造された「オリジナル盤(初版)」と呼ばれているものや、帯付きの古いものだったんですけど、最近はどちらかというと「単純にビートルズをレコードで聞いてみたい」という人が多い。要するに、希少性を求めているわけではないので、普通の再発盤でも、出した分だけ売れるんです。昔は、そういったものはいくら出しても「もう持っているよ」と売れなかった。
ーレコードというメディアそのものが売れるようになった?
その通りですね。それこそ、2000年代はレコードで音楽を聞かない人ばかりだったので、レコード好きの僕としては嬉しい限りです。
話を戻すと、やっぱりみんなが一番欲しがるようなものってあるんですよ。最近だとそれが、ビートルズや、大瀧詠一の「ア・ロング・バケーション」、山下達郎、竹内まりやになった。昔は山ほど在庫があったんですけど、今は入荷するとすぐに売れてしまいます。
大瀧詠一や山下達郎はなぜ人気なのか
ー大瀧詠一や山下達郎はどうしてみんなが欲しがるのでしょうか?
海外での人気が大きな要因です。海外から日本にレコードを買い付けに来ている業者が数百円で買ったものを、海外では数千円で販売しているんですよ。昔だったらそういう情報は、知ろうと思わなかったし、知る術がなかったんですけど、最近はSNSの発達もあり、簡単に知ることができます。海外で人気を集めるとどのようなことが起きるかというと「海外で5000円で売れるなら」と日本の業者も5000円で販売をするようになる。何より、今の時代ならインターネット販売で海を越えることもできますからね。ここで重要になってくるのが、Discogsというサイトなんですけど、これは次回に詳しくお話ししますね。
ー数百円だと思っていたものが、倍の価値があるものになった、と。
最初は僕も半信半疑(笑)。自分のお店でも怖くて出せなかったですもん。例えば、竹内まりやのレコードは昔、300円くらいだったんです。「ヤフオク!で5000円で落札されていたけど、本当に売れるの?」と思って、半ばダメ元で出してみたんですけど、店頭に出した直後に売れちゃった。
ーレコードを買い始めた人は、昔は300円くらいで買えたということを知らないですもんね。
山下達郎の「フォー・ユー(FOR YOU)」は、本当にいつの間にか8000円くらいで取引されるものになってしまった。安かった頃を知らない人たちにとっては、最初から8000円の価値があるものだから。見つけたら「買おう」となるんでしょうね。
ー安く仕入れて、価値が上がるのを待ってからオークションなどに再出品するセカンダリーのような考え方はレコードにもあるのでしょうか?
あるんじゃないかな。業者が知っている販売価格は、一般のレコードコレクターも知れるのが今の世の中ですから。
ただ、レコードの面白いところはお店によって値付けが少しだけ違うところです。今は昔ほどお店ごとに差はないのですが、同じレコードがA店では1000円だったけど、B店では500円で売っている。「じゃあ、安いしお得な気がする方買っちゃおうかな」という気持ちが働きやすかった。
レコードの値段を釣り上げるのはお客さん?
ーココナッツディスクは買取専門で、買い付けは行っていません。レコードの価値を上げるのは、買い取る側のレコード屋ではないんでしょうか?
それが全然そんなことはないんです。お店は最終的に売れないと商売にならないので、値付けには弱気で(笑)。今はいろんな情報が溢れているので基本的には、その時の市場価格じゃないとお客さんに買ってもらえないんです。相場が1万円のものは2万円では買ってくれない。
ー具体的にはどのように買い取り、どのような値付けがなされているんですか?
例えば、1000円で買ったレコードが今、1万円の価値になったとします。それをうちに売りに来てくれても、僕は1万円でそのレコードを買い取ることができません。何故なら「そのレコードが1万円で売られているんだったら、うちも1万円で売らなければ利益が出ない」から。もちろん、2万円で店頭に出してもいいんですが、2万円をつけたところで買う人がいないだろうな、と。だから、1万円の価値があるものは大体半額の5000円〜7000円で買い取り、うちは1万円で売る。そうなるとやっぱり、レコード屋を起点にレコードの値段は上がっていかないですよね。
それこそ昔は「自分にとってこのレコードはとても価値があるから、1万円で買って、2万円でお店に出す」ということもあったと思うんですけど、いまはなかなかそういう商売をしているお店は少ないんじゃないかな。
ーレコードの価値はお店が決めると思っていましたが、消費者が作り上げているんですね。
不思議なシステムですよね。それこそ、山下達郎の「フォー・ユー」は、レコード屋がいきなり1万円で売り出したわけではなく、レコードを買い求める人が「その価値がある」と判断したという方がイメージとしては近い。
レコードの価格が釣り上がるのは、メルカリで2万円の値付けがされたレコードが売れてしまい、その事実を元に価格の相場が定着してしまったり、ヤフオク!でみんなが「1万円くらいだろう」と思っていたものが競り上がって3万円で落札されたことが価値の源泉になるんです。
【連載:“ココ吉”矢島店長に聞く、レコードの話】
(聞き手:古堅明日香)
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