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【連載ふくびと】第5話 N.ハリウッドと尾花大輔――篠山紀信から教わったアンダーグラウンド

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第4話からつづく――

 コンセプチュアルなテーマとショー演出から繰り出される「N.ハリウッド(N.HOOLYWOOD)」のコレクションの評判は右肩上がり。しかし、それでもまだ「自分のことをデザイナーだとは思えなかった」という尾花。メジャーへの階段を駆け上がることに躊躇するが、かといって「アングラなN.ハリ」と言われても違和感が燻る。そんな時、写真家の篠山紀信にかけられた言葉にハッとする。――N.ハリ創業デザイナー尾花の半生を振り返る、連載「ふくびと」N.ハリウッドと尾花大輔・第5話

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・もぬけの殻と重圧

 本来なら少し余裕が出てくるはずの20代後半。ブランドは順調でしたが日々が目まぐるしくて、遊ぶ時間なんてありませんでした。とにかく反響がすごくて、作ったものが全部売れると、もぬけの殻のような状態。「次は何を作ったらいいんだろう」と重圧がすごかった。だんだん精神的にまいりはじめて、過食症になってしまったりとギリギリの状態でした。

 なんとなく自分の中で吹っ切れたのが3回目のショー。2004年春夏コレクション「ACTIVIST」です。とにかく自分が好きなものを作ろうと思いました。時代はロック全盛期、でも自分はサンフランシスコにどっぷりだったのでUSハードコアをテーマにして。

 チャレンジングでしたが、結果は好評。セールスが良かったことよりも「ああ、これでいいんだ。流行りだとか周りの目とか気にしないで、やりたいことやらなきゃダメだ」と思えた方が大きかった。3度目の正直とか石の上に3年とか、「3という数字は何かのターニングポイントなのかもしれないな」と思います。

2004年春夏「ACTIVIST」のショー会場にて。尾花が自らマイクスタンドにテーピングを施した。

 その先は、あの手この手でやりたいことをやり尽くしました。僕は古着屋の店員からバイヤーになり、店を自分で作ってオープンしたりと常にお客さんと向き合ってきたので、視座は自分の経験が生かされているのだと思います。とにかく我流だったので少しづつ経験者をチームに迎えて、恥を忍んで教えて欲しいと頼むことも多くありました。

 忘れないようにしたいのが初心の感覚です。よく話すのが、初めてロフト付きワンルームで一人暮らしした時。東京に出たばかりで初めて自分の城を持った時の気持ちや、泣け無しの金で欲しいものを買っているときの心境とか。今でもたまに、その頃の感覚に戻って考えます。

 

・「尾花くん、それがアンダーグラウンドだよ」

 ある程度ブランドが知られるようになっても、それでもまだ自分のことをファッションデザイナーだとは思えませんでした。メジャーへの拒絶反応というか。かといって「アングラなN.ハリ」と言われてもしっくりこなくて。その頃に救われたのが、BRUTUSの「人間関係」という篠山さん(写真家 篠山紀信)の連載に出させてもらった時に言われたことです。

 会いたい人をリクエストできる企画なんですが、僕はカージャーナリストの徳大寺有恒さんと答えました。それが叶った当日、篠山さんと僕が現場で待つんですが徳大寺さんが2時間も遅刻してしまったんです。徳大寺さんはカーナビを使わない人だったので、道に迷ったと後から聞きました。スタッフも探しに行ったりで、待っている2時間は篠山さんと僕の二人きり。でも、何を話して良いかわからない。篠山さんは当然のように巨匠ですから。僕は当時、とにかくメジャーやミーハーなものが苦手で、それは自分に自信が無かったのかなとも思います。

 どうにか会話が途切れないように、カメラのことを聞き始めたりして。そんな僕にも篠山先生はとてもフランクに話してくれるので、当時の心境を相談しました。「先生はなぜか、アングラと呼ばれることがありますよね。僕もアングラと言われるんですが、すでにメジャーで巨匠の先生がアングラと言われていると、その定義がわからなくなるんです」。

 すると、カメラをいじりながら篠山さんが「いや尾花くんね、君はもうメジャーだから」と、はっきり言われました。「昔、荒木(アラーキー)も俺も同じグループにいて、そこにとある奴がいたんだよ。そいつも写真を撮っていたんだけど、全然見せてくれないの。あんまりにも見せてくれないから酔っ払って寝てるときにこっそり見たんだよね。それが、めちゃくちゃ良い写真を撮ってて。発表もしないし個展もやらない、仲間にも見せない。あんな奴はいないな。もう死んじゃっているんだけど。尾花くん、それがアンダーグラウンドだよ」。つまり、自分の店を開いて服を見せて色々な人に売っているのなら、それはすでにメジャーを目指す始まりなんだ、という意味です。

 なんだかスッキリしました。ああ、僕はとっくにメジャーだったんだ。ならメジャーを意識した仕事をしなきゃだめだな、と考えるようになりました。それからは、例えば好きなインディーズバンドだけではなく、メジャーのミュージシャンのライブを見に行くようにしたり。するとヒントがありました。大きい枠で考えるとどうなるか、不可抗力に対してどう対処するかとか。ポジティブになれたし、考え方が開けていくような感覚でした。ちなみに、その時に篠山先生に撮って頂いた徳大寺さんとの写真は、今も大切に飾ってあります。――第6話につづく

文:小湊千恵美
企画・制作:FASHIONSNAP.COM

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