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【連載ふくびと】第6話 N.ハリウッドと尾花大輔――苦手だったパリ、思いがけない出会い

Image by: FASHIONSNAP.COM

第5話からつづく――

 メジャーとは何か、篠山紀信の言葉に背中を押された尾花と「N.ハリウッド(N.HOOLYWOOD)」。先輩の高橋盾「アンダーカバー」や宮下貴裕「ナンバーナイン」は東京からパリに舞台を移し、世界を相手に成功を掴もうとしていた。一方で、尾花が古着バイヤー時代から縁が深いのはアメリカ。パリは何度訪れても苦手意識があった。――N.ハリ創業デザイナー尾花の半生を振り返る、連載「ふくびと」N.ハリウッドと尾花大輔・第6話

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・パリでどう戦うか

 元々、パリに対して拒絶反応のようなものがありました。リサーチで訪れたことはあっても、何故か気分が上がらなかったんです。「ブランド名もハリウッドだしな」と(笑)。2000年代中盤には、先輩に当たるブランドの「アンダーカバー(UNDERCOVER)」や「ナンバーナイン(NUMBER (N)INE)」がパリに進出してコレクションを発表していましたが、「自分にはパリはまだなんじゃないか」という意識もあったんだと思います。

 結局は、周りがあまりにもパリのことを言うので「食わず嫌いではなく行ってみるしかないな」と、チャレンジしてみることにしました。とはいえ、ショーは東京で毎シーズン行っていて、そのままパリに持っていくのは違う気がして。なのでメインとは別のフォーマルラインとして「コンパイル(COMPILE)」を2007年6月に立ち上げて、その名前でパリに出ることにしました。発表形式はミニマルな展示会でしたが、自分でもアートを作ったりしてコンセプチュアルな見せ方で。

パリでのエキシビションの風景。当時このショールームは合同のスペースで他ブランドの展示も行われていたが、N.ハリだけエクスクルーシブで別会場を借りて展示していた。

 

・カール・ラガーフェルドが着てくれた

 嬉しかったのが、カール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)さんがコンパイルのセットアップを着てくれていたことでした。卸先のイタリアのセレクトショップで購入してくれてたみたいで。エディ・スリマンが手掛けていた「ディオール・オム(DIOR HOMME)」のスーツを着ていることは有名でしたが、「カールの仕事」という生前の映像では半分以上のシーンでうちの服を着てくれているんです。

 ある時、カールさんが手掛けていた「フェンディ(FENDI)」の社長が、チームと一緒にアポなしでパリの展示会を尋ねてきました。聞くと、カールさんから「N.ハリウッドの服を見て、色々と感じてきたほうがいい」と言われたそうで。そしてその場で「ローマに来て欲しい」という話を頂いたんです。僕はそのお誘いが凄いことだと理解していなかったので「うーん、展示会中だしな」とためらっていると、周りのスタッフから「こんなチャンスはないから!」と促されて。ちょうどお尻のポケットにパスポートが入っていたので「すぐにいきなよ!」と、そのまま弾丸でローマに行くことになりました。

 ローマではフェンディのメゾン本部を見学させてもらったり、メンズコレクションについて意見を求められたり。その中でも、アトリエで目にしたカールさん直筆のデザイン画には衝撃を受けました。それから自分が描く絵のスタイルが変わってしまったほどです。あとよく覚えているのが、送迎してくれたマセラッティ(クアトロポルテ)の皮張りシートが、FFロゴをミリ間隔で手刺繍した特別仕様だったこと。僕も当時マセラッティ(3200GT)に乗っていたので、その仕上がりの凄さが伝わりました。

 なんだか嘘のような一泊二日でしたが、カールさんには会えませんでした。でも翌日、偶然にもパリの街角でバッタリ。カールさんがギャラリーに囲まれているところに駆け寄って、自己紹介をすることができたんです。「おお君か!」と、快く挨拶をしてくれました。すると「君のスーツはすごく可能性を感じるし、とても面白い。ただ一つ、言っておきたいことがある。君の考えた裏地は、私も20年前に考えたアイデアなんだよ」と笑顔で、冗談ともホントとも取れない茶目っ気を見せてくれて。僕のコンパイルのジャケットは、中の構造が透けて見えるようにオーガンジーを裏地に使用しているのが特徴なんです。そこまでちゃんと知ってくれていることに驚きました。

尾花とカール・ラガーフェルド、パリの街角で偶然が重なった瞬間。その前日まで、当時のフェンディ社長に招かれてローマに行っていたことも報告することができた。

 あまりにも世界が違ってかけ離れた存在だったので、当時の僕は嬉しいというよりも実感が全然沸かず、周りのスタッフの方が興奮していたくらいで。でも、そんな僕に欧州のメゾンがコンタクトしてくれるなんて、チャンスってあるんだなと実感することができた大切な思い出です。カールさんは生前のインタビューで「日本で好きなブランドはありますか?」と聞かれると「彼は今アメリカでやっているみたいだけど、N.ハリウッドですね」と答えてくれたこともあるようで、とても感謝しています。

パリの展示会場では、コンパイルの特徴的なディテールを見せるために、ジャケットを裏返しにして展示。テーマ「unifomal」期のシーチングでできたガーメントを使用したオリジナルオブジェも制作した。

 実はフェンディの本部に招かれた時、秘密のやりとりがあったのですが誰にも言わずにいました。帰国後の後日談で、どこからか嗅ぎつけたジャーナリストの麥田俊一さんから「尾花さん、フェンディと会いましたよね・・・何かありましたよね?」と聞かれた時は本当に焦りました。内緒にしていたのに嗅覚が半端じゃないというか。正直、「公安かよ」って思いました(笑)。――第7話につづく

文:小湊千恵美
企画・制作:FASHIONSNAP.COM

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