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ディオールのピーター・フィリップス、東京の「今」を愉しむ

400年の歴史を誇る日本庭園の傍に佇む旧久原邸茶室「夢庵」の入り口にて

400年の歴史を誇る日本庭園の傍に佇む旧久原邸茶室「夢庵」の入り口にて

400年の歴史を誇る日本庭園の傍に佇む旧久原邸茶室「夢庵」の入り口にて

 「ディオール(DIOR)」のメイクアップ クリエイティブ&イメージ ディレクターをつとめるピーター・フィリップス(Peter Philips)が、「ディオール フォーエヴァー」の新作発表で来日した。数々のヒット作を生み出し今のトレンドを牽引するメイクアップアーティストの束の間のオフに、美容インフルエンサーのgrapeと密着。

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モーニングカフェ@神宮前

 始まりは原宿駅近くのカフェ「dotcom space Tokyo」。朝8時半集合で、朝食はここで。デカフェのアイスハンドドリップと米粉のバナナブレッドをいただきながら、さっそくヘルシーフードの話題に。


右/ピーター・フィリップス:ディオール メイクアップ クリエイティブ&イメージ ディレクター。2014年に就任以来、キャンペーンビジュアルやショーのメイクアップ、製品開発、スタッフトレーニングまで、メゾンのメイクアップイメージを牽引。

左/grape:スキンケアやメイクアップなどビューティを軸に発信するSNSが人気を集めているクリエイター。英語が堪能で国外のフォロワーも多数。

ピーター:実は、来週からダイエットを始めようと思ってるんです。

grape:えっ、ダイエットするんですか?

ピーター:そう。ディオールのメイクアップディレクターになってから12年になるんですが、毎年1kgずつ、就任してから13kg増えていて、さすがに止めなきゃと思って。体の感覚が全然違うんですよね。でも出張が多いから本当に難しい。だから管理栄養士にお願いしようと思っているんです。

台風一過、気持ちのいい早朝のdotcom space Tokyoにて

grape:苦手な食材とかあるんですか?

ピーター:何でも好きだから、それが問題で。甘いものも塩辛いものも好きだし、ベジタリアンじゃないから何でも食べる。でも牛乳はダメ。

grape:それはどういう理由なんですか? お腹を壊すとか?

ピーター:赤ちゃんの頃にお医者さんから「この子は牛乳アレルギーがあるから気をつけなさい」と言われていたらしいんですけど、18年くらい前に虫垂を摘出してからいろんな症状が出始めて。それで半年間いろんな検査をして、その間は水と紅茶、鶏肉、ニンジン、フェンネルなどの野菜だけを食べて腸内クレンジング。それから指導を受けながら少しずつ食べ物の種類を増やして、体の反応を見ていった結果、「豚肉はダメ、トマトなどの赤いものは控えめに」ということがわかったんです。

grape:それは本当に大変ですね。

ピーター:もう慣れですね。例えば山羊のチーズは食べられるし、ヨーグルトは発酵過程でラクトースが分解されるから大丈夫。ホイップクリームや普通の牛乳はダメ…そんなことがわかるまでに数年かかりました。

(左から)アイスハンドドリップ デカフェ(900円)、米粉のバナナブレッド(750円)、アイスアメリカーノ(700円)

立体シールを使ったデコ電にトライ

 食の話題が尽きない中、大人気の立体シールでスマホケースのデコレーションに挑戦。素材を使ったデコレーションは、まさにピーターの真骨頂。実は熱心なハンズユーザーでもあったピーターの仕上がりはいかに!?

実はハンズのヘビーユーザーでもあった

grape:これ、若い女の子たちにすごく人気なんですよ。小さな女の子からティーンエイジャー、そして大人まで。こういう3Dステッカーを集めて、スマホやケースにデコレーションして使ったり、ファイルに保管して友達と交換したりするんです。「シール交換」って名前で流行っていて。20年前にも同じ現象がありましたが、今またY2Kのトレンドで戻ってきたんだと思います。

ピーター:日本によく来ていた頃を思い出しました。東急ハンズに必ず行ってましたね。20年ほど前かな、ヨーロッパから来るといろんなものが揃っていて、こういうものをよく買っていました。クリスマスラッピングで使うとすごく人気者になれたんです。茶色の包装紙にカラフルなリボンを使って、シールをあちこちに貼り付けて。

grape:さすがプロのアーティストですね。

ピーター:その瞬間はただ楽しんでいるだけで、プロではないですよ(笑)。姪っ子たちはプレゼントをもらうと大切にコレクションしていましたね。ヨーロッパでは手に入らなかったので。今となってはコレクターズアイテムかもしれません。

grape:さて、何を作りましょうか?

ピーター:私は姪っ子のために作ろうと思います。6月1日が誕生日だったので。7月末にパートナーと一緒に彼女をロンドンに2日間連れて行くんです。セント・パンクラス駅のホテルに泊まって、ハリー・ポッター・エクスペリエンスに行く予定。今11歳で、ハリー・ポッターの本を全部読んでいるんですよ。大きなプレゼントは後になるので、今は私が作ったケースをプレゼントしようと思います。


ピーターは姪っ子のためにお花や動物を散りばめて愛らしく、grapeは歌舞伎シールにDIORの文字を組み合わせて

grape:すごく可愛いですね。

ピーター:構図にはあまりこだわらず、これから細部を修正していきます。実は20年前、これらのステッカーをヨーロッパに持って帰ってメイクアップに使っていたんですよ。みんなが「それは何?」と聞くので「日本から持ってきたんだ」と。顔に貼り付けてましたね。ラインストーンも含め、いろんなものを顔に貼るのが好きで。

◾️dotcom space Tokyo
所在地:東京都渋谷区神宮前1-19-19 エリンデール神宮前B1
営業時間:10:00~18:30(L.O.18:00)
Instagram:@dotcomspacetokyo

ディオール バンブー パビリオン@代官山

 ピーターもgrapeも初となる、2月に誕生した「ディオール バンブー パビリオン」へ。話題はgrapeの仕事の話から、ピーターが思うディオールの独自性について。

部屋ごとにテーマの異なる品揃えを楽しみながら談笑する2人

ピーター:ところで、あなたがコンテンツを投稿し始めた初期の頃からSNSを拝見していますが、こうして実際にお会いするようになって、本当に不思議な縁だなと感じています。

grape:本当にそうですね。今まさにそのすごさを実感しているところです。

ピーター:他のブランドとのお仕事はどういった仕組みになっているんですか? それぞれ進め方が違うんでしょうか?

grape:ええ、違いますね。特にK-Beautyは、より直接的なやり方を好みます。「この製品をフィーチャーしてこういう動画を作ってほしい」と、台本を用意してディレクションしてくる感じです。もちろん台本は自分好みに変えられますが。

 一方でディオールは、もっと親密な関係ですね。オフィスに招いて、製品の詳細やインスピレーション、背景にあるストーリーを丁寧に説明してくれる。みなさん本当に詳しく教えてくれます。ディオールというメゾンの歴史が深く、製品一つひとつに込められた思いがあるから、私たちはそれを学べる。K-Beautyはもう少しペースが早くて、そのスピード感が主流になってきているので、多くのラグジュアリーブランドもそのペースに合わせてしまい、自分たちが心を込めて作った製品について時間をかけて伝えることを忘れてしまっているように感じます。結局は、社内のPR担当がデザイナーやクリエイションの意図を大切にしたコミュニケーションを取ろうとしているかどうかにかかっていますね。

この日ピーターが持参したディオール ブックトートは、ジョナサン・アンダーソンによる「ブックカバーズ」シリーズコレクションから「時計じかけのオレンジ」

ピーター:よくわかります。それがディオールのようなラグジュアリーメゾンを他と違うものにしているのです。製品だけでなく、その背景にあるストーリーテリング。結局のところ、口紅は口紅ですから。ストーリーテリングこそが付加価値で、それを維持し続けなければならない。

 例えばですが、ヴェネツィアのショーで、その重要性を改めて実感しました。あるきっかけで気づいたんですが、ディオールのジュエリーショーなのに、顧客のメイクアップを他のブランドが担当していたんです。これはおかしいと思い、CEOと話し合ったんです。「なぜ私たちがやらないのか? 製品のストーリーを熟知するプロチームがいるのだから、これは絶好のチャンス。来場される顧客のホテルの部屋に伺って、メイクアップしながらフレグランスやスキンケアのストーリーを伝えれば、きっと喜んでもらえて、それを友達に話してくれる」と。ストーリーテリングとマーケティングの中間ですね。それで今シーズンからプロチームを集めてヴェネツィアに送り、計15人の顧客がその体験を楽しむことができたんです。

◾️ディオール バンブー パビリオン
所在地:東京都渋谷区猿楽町8-1
営業時間:11:00〜19:00
◾️公式サイト

抹茶体験@八芳園

 最後に訪れたのは、昨年本館がリニューアルしたばかりの八芳園の茶室「夢庵」。スタッフに手ほどきを受けながら、抹茶を体験。

この日「夢庵」でお点前を務めた渡辺さんの指導のもと

夢庵:お茶碗は両手で扱います。まず、左手の上に茶碗を乗せて、右手を軽く添えます。

ピーター:このお茶碗に対して手が大きすぎる気がします。

grape:大丈夫ですよ。

夢庵:軽く会釈をして、皆さんと本日ご一緒できることに感謝します。お茶碗の正面には美しい絵柄がありますので、そこに口をつけないよう時計回りに2回、回してください。

ピーター:面白いですね。

夢庵:まず一口だけお飲みください。

ピーター:一口だけ?

夢庵:はい。お服加減(お味)はいかがですか?

ピーター:おいしいです。

夢庵:では続けてお飲みください。最後の一口だけ、「すっ」と音を立ててすすってみてください。

ピーター:音を立てるんですか?

夢庵:はい。この音は「飲み干しました」「おいしかったです」という合図になります。茶道では音はマナー違反ではありません。むしろ茶筅がお茶碗に当たる音なども楽しみます。

ピーター:なるほど。

夢庵:飲み終わったら、お茶碗を反時計回りに回して正面をご自身のほうへ向けて置いてください。そして、皆さんにも実際に点てていただきましょう。

ピーター:ここで体験できるんですね。

夢庵:はい、お席のままで大丈夫です。茶筅を振る最後の工程だけ体験していただけます。

ピーター:全部台無しにしてしまいそう。

夢庵:こちらが抹茶が入っている棗(茶器)です。茶杓で抹茶を2杯すくってください。

ピーター:結構入れるんですね。

夢庵:こちらは京都・宇治産の抹茶で、茶葉を粉末状にしたものです。抹茶1杯を作るのに、およそ60枚の葉が必要なんです。

八芳園の茶室「夢庵」では、立礼席(椅子)もしくは広間(畳)のいずれかで茶道体験を楽しめる

ピーター:すごいですね。

夢庵:今日は抹茶2杯分使いますので、葉は120枚分ですね。

ピーター:120枚ですか。2杯飲んだら240枚だね。

夢庵:左手でお茶碗を支えて、右手で茶筅を持ちます。前後に動かしてください。円を描くのではなく、アルファベットのMを書くイメージです。

ピーター:Mですか?

夢庵:はい。手首を使ってください。あら、とてもお上手ですね。メイクアップアーティストだからでしょうか。泡もきれいに立っています。初めてとは思えないですね。最後にひらがなの「の」の字を書くようにして、真ん中から引き上げてください。泡が表面を覆うことで、香りと温度が保たれます。

茶筅を巧みに操る姿は、さすがメイクアップアーティスト

ピーター:なるほど。

夢庵:お菓子を先に召し上がってから、お抹茶をどうぞ。甘いものがお抹茶の味を引き立てますので。

grape:食べ方に決まりはありますか?

夢庵:こちらの和三盆のお菓子は、噛まずに口の中で溶かしてください。

grape:口の中に残ったままお茶を飲んでも良いですか?

夢庵:茶道は禅の思想に由来していますので、「同時に二つのことをしない」という考え方があります。お菓子を食べながらお茶を飲まず、まずお菓子をいただいてからお抹茶をいただきます。

grape:学びになりますね。

ピーター:ひとつずつ丁寧に味わうということですね。

夢庵:今まで私が見た体験者の中で1番お上手でした。2番目がミシュランのお店のシェフ。

ピーター:うれしいです。でもまた1kg太っちゃいますね(笑)

◾️八芳園
所在地:東京都港区白金台1丁目1−1
営業時間:施設による
◾️公式サイト

次の目的地へ

 東京巡りもあっという間に終了。実はピーターはこの後、ホテルに戻って荷造りを済ませ、成田空港からバンコクへ移動。主な目的はディオール メイクアップチームのトレーニングだという。


grape:バンコクではスタッフに直接トレーニングされると聞きました。ディオールのようなメゾンがメイクアップのトップを現地に派遣するなんて、知りませんでした。

ピーター:比較的新しい試みで、私が提案したんです。3、4年前にプレスのイベントで中国の上海と成都に行った時がきっかけでした。アジア全域のメイクアップアーティストたちのセミナーがあって、年に1、2回いろんな場所で顔を合わせているから彼らのことはよく知っています。みんないつも私に会いたがってくれていたので、「午後にQ&Aセッションをやろう」ということになったんです。マーケティングチームのフィルターを通さず、カウンターの現場から直接フィードバックを聞けるのは、私にとっても良いことでした。そのセッションがメンバーにも私にも素晴らしいエネルギーをもたらし、売り上げにもつながった。CEOが「中国で何をしたんだ? みんなものすごくモチベーションが上がっているぞ」と驚いたので、「これを定番にしましょう」と提案したんです。それが私が現地へ行く理由です。明日もQ&Aから始めます。私がステージに立って質問を受けながら、背景では私のこれまで創ってきたキャンペーンや撮影ヴィジュアルを映し出す。それぞれの撮影にまつわるエピソードや、製品がどう生まれたかというストーリーを話すことで、彼らに直接感じてもらうんです。

grape:それは本当に大切なことだと思います。

ピーター:ただ、この2日間の予定がとても複雑なんです。これからホテルに戻って1時間で着替えて最終的な荷造りをしてバンコク便の飛行機に乗ります。ホテルには今夜チェックイン。明日はディオールのチームとトレーニングで、夜は同じホテルに戻るんだけど、翌日は撮影があるから、朝のうちにメイクアップ道具や私物を持ってチェックアウトしなきゃいけない。だから昨日のうちに、使う衣装を全部用意しました(笑)。

grape:すごく計画的。

ピーター:そうせざるを得ないですね。飛行機は重量制限があるから、重さを分散させるためにメイク道具と服を一緒に詰めたり、工夫しています。

grape:楽しい話、ためになる話をいろいろと聞かせていただき、ありがとうございました。またお会いできることを楽しみにしています。

木津由美子

ビューティ・ジャーナリスト

大学卒業後、航空会社、化粧品会社AD/PR勤務を経て編集者に転身。VOGUE、marie claire、Harper’s BAZAARにてビューティを担当し、2023年独立。早稲田大学大学院商学研究科ビジネス専攻修了、経営管理修士(MBA)。専門職学位論文のテーマは「化粧品ビジネスにおけるラグジュアリーブランド戦略の考察—プロダクトにみるラグジュアリー構成因子—」。

photography: Hikaru Nagumo, SNS ediiting: Yuzuka Ota, editing: Akiko Fukuzaki, Hikaru Kimura(FASHIONSNAP)

最終更新日:

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