ADVERTISING

ミュウミュウはブッククラブ、コーチはブックチャーム なぜファッションは文学とコラボするのか

編集平原麻菜実

Image by: FASHIONSNAP

Image by: FASHIONSNAP

Image by: FASHIONSNAP

 近年、ファッションと読書や文学のクロスオーバーを目にする機会が増えている。例えば「ミュウミュウ(Miu Miu)」は各地でブッククラブを開催し、「ディオール(Dior)」はアイコンバッグに世界的ベストセラーの文学作品を引用しヒットにつなげている。こうした施策の背景にあるのは、若い世代の価値観の変化だ。大量のデジタルコンテンツを日々受動的に摂取している彼らにとって、アルゴリズムから離れ自ら選んだ紙の本を読む行為が“クール”に映るようになっている。FASHIONSNAPでは、サマーリーディング*の季節に合わせてファッションと読書をめぐるさまざまな潮流を取材した。

ADVERTISING

*夏休みやバカンスの長期休暇を生かして読書に没頭しようという欧米の習慣。ビーチやプールサイドといったバケーション、涼しい室内といった幅広いシーンで楽しめるものとして提案されている。

ラグジュアリーブランドと文学の理にかなったつながり

 近年のラグジュアリー×文学の施策で最も勢いを感じるのはミュウミュウだ。2024年にスタートしたブッククラブ「ミュウミュウ リテラリークラブ(以下、リテラリークラブ)」では、ミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)のクリエイティブと呼応するように女性クリエイターたちの才能に焦点を当てている。課題図書にはシモーヌ・ド・ボーヴォワール(Simone de Beauvoir)「離れがたき二人」や、円地文子「女坂」、アニー・エルノー(Annie Ernaux)「女の子の記憶」などを選出し、各年のテーマは恋愛から性教育、ジェンダー、政治まで横断的だ。知的好奇心が自由な創造性を生み、ファッションもそうした知性に下支えされているというミウッチャの信念が色濃く反映されている。

ミラノで開催された2026年のブッククラブでのディスカッション風景。左から、ジャーナリストのナディア・ビアード、女優・小説家のフランチェスカ・マルチャーノ、作家ワエトゥ・ムーア、文化人類学者グロリア・ウェッカー

Image by: MIU MIU

 課題図書やテーマが、前後のシーズンのコレクションで掘り下げたトピックとさりげなく連動している点にも注目したい。2025年秋冬シーズンは「FEMININITIES」をテーマに、衣服を通して新しい時代の「女性らしさ」を考察し、続く2026年春夏シーズンでは「AT WORK(働くということ)」を掲げ、女性たちの労働とその尊さに光を当てたが、リテラリークラブで取り上げる作家たちが描いた社会的イシューとの関連性が見て取れる。連動して実施した各国でのポップアップでは、来場者に無料で特製ブックカバー付きの課題図書を配布。ものを売ることは一旦端に置き、ファンと思想によるつながりを生むことに重きを置いているように感じる。

これまでの開催概要
開催年・開催都市テーマ課題図書
2024年:ミラノWriting Life
書くこと、生きること
・シビッラ・アレラーモ
「一人の女」
・アルバ・デ・セスペデス
「禁じられたノート」
2025年:ミラノ、上海A Woman's Education
女性の教育
・シモーヌ・ド・ボーヴォワール
「第二の性」
・円地文子
「女坂」
・アイリーン・チャン
「ラスト、コーション」
など
2026年:ミラノPolitics of Desire
欲望の政治学
・アニー・エルノー
「ある女」
・アマ・アタ・アイドゥー
「チェンジズ:ア・ラブ・ストーリー」

ライブセッションも行われた(2026年・ミラノ会場)

Image by: MIU MIU

会場には熱心な参加者たちが集まる(2026年・ミラノ会場)

Image by: MIU MIU

 「ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)」は、過去にニューヨークの老舗書店「ストランドブックストア(Strand Bookstore)」との協業で選書イベントやコラボアイテムを発売。2025年には銀座にある独立系書店の名店「森岡書店」とタッグを組み、詩人 菅原敏の詩集「珈琲夜船」(雷鳥社)に焦点を当てた展示「La Libreria curated by 森岡書店 ―菅原敏『珈琲夜船』展」を、銀座の旗艦店で開催した。

 アイテム軸にもこのトレンドは見られる。ディオールはクリエイティブディレクターのジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)によるデビューショーとなった2026年サマーコレクションで、アイコンバッグ「ブック トート」に文学作品を引用。シャルル・ボードレール(Charles Baudelaire)の「悪の華」、トルーマン・カポーティ(Truman Capote)の「冷血」、ブラム・ストーカー(Bram Stoker)の「吸血鬼ドラキュラ」、ムッシュ ディオールの自叙伝「DIOR by Dior」などの本の装丁を、バッグのデザインに落とし込んだ。「本を持ち運ぶバッグ」に着想を得て誕生したブック トートをジョナサン流に再定義する手立てとして、古典作品をオマージュした。

「悪の華」を落とし込んだデザインのバッグ

Image by:  ©Launchmetrics Spotlight

名著のデザインを落とし込んだ「ブックトート」 Video by FASHIONSNAP

 近年若年層へのアプローチが成功している「コーチ」は、今年春のキャンペーンとして「Explore Your Story(あなたの物語を描こう)」を実施。ファッションを「人それぞれの物語を語る手段」として捉えたヴィジュアルやムービーを公開したほか、各国の人気小説を題材にした「ブックチャーム」(1万6500円)を発売した。日本では恩田陸「蜜蜂と遠雷」と宮下奈都「羊と鋼の森」の2作品が選ばれている。

恩田陸「蜜蜂と遠雷」のブックチャーム

宮下奈都「羊と鋼の森」のブックチャーム

 こうしたラグジュアリーブランドの施策が相次ぐ裏には、マーケティングトレンドの変遷がある。ここ十数年、ラグジュアリーブランドもInstagramやTikTokなどのソーシャルメディアを主戦場とし、インフルエンサーの拡散力によって新規顧客を獲得するというのが主流だった。その上で「スローな文学コンテンツ」の存在感が増しているのは、常に新さを求めるラグジュアリーマーケティングの転換期と言える。

 また、文学コンテンツが刺さる層は紙の本を楽しめる知的好奇心があり、ブランドの世界観や哲学に共感してコアなファンになる潜在層とも遠からずリンクする。こうした背景もあり、SNS向けのテンポのいいコンテンツとの差別化としてスローな時間軸で味わう文学と絡めた取り組みが浮上しているのだ。

若年層にじわり広がる読書 海外セレブのブッククラブ、韓国でDJイベントも

 ブランド側が仕掛けるマーケティング戦略を差し引いても、Z世代を中心にリーディングカルチャーは広がりを見せている。

 海外では特にセレブリティがムーブメントをけん引。カイア・ガーバー(Kaia Gerber)はコロナ禍で「人とつながるため」にブッククラブを立ち上げ、2024年にプラットフォーム化。ダコタ・ジョンソン(Dakota Johnson)やナタリー・ポートマン(Natalie Portman)らも主催しているが、デュア・リパ(Dua Lipa)やレイヴェイ(Laufey)といったZ世代から絶大な支持を集める著名人によるブッククラブの開設は、若者のリーディングカルチャーの変化を示唆するものだった。

 デュア・リパの「Service95 Book Club」は、自身のライフスタイルプラットフォーム「Service95」の一環として展開し、毎月の選書や作家へのインタビューなどを通じて読書の楽しさを発信。対談コンテンツでは、デュアから作家も驚くような深い質問が投げかけられることもしばしば。彼女がロールモデルとなり、読書が知的でクールな趣味として同世代の若者に受け入れられている。

 デジタルからの逃避が“読書返り”の1つの背景になっているものの、同時にSNSも読書の広がりを後押ししている。「#Booktok」はTikTok上で本の感想や紹介が飛び交うハッシュタグとして若年層の間に定着し、コミュニティ意識を育む場となっているほか、Instagramの「#Bookstagram」では読んでいる本だけでなく本棚そのものを見せる投稿も目立つ。何を読んでいるかを、ファッションや音楽と同じようにアイデンティティとして表現する文化が、デジタルネイティブ世代の間に静かに根付いているようだ。

 また、韓国のZ世代の間では「テキストヒップ(텍스트힙)」というワードが生まれ、読書が「ヒップ(かっこいい)」なものとして広がっている。韓国人作家のハン・ガンが、2024年のノーベル賞でアジア人女性として初めて同賞を受賞したことも読書人口の拡大に貢献。クラブでDJが音楽をかける中で読書するというイベントも注目を集めている。

クラブでDJを掛けながら読書するイベントの様子

日本でもゆるやかに変化の兆し

 日本でも、海外ほどではないが変化の兆しはある。クリエイターや企業によるファンコミュニティの運営をサポートするプラットフォームサービス「オシロ(OSIRO)」が同サービス利用者を対象に行ったリサーチでは、ブッククラブの開催は2021年が333回だったのに対し、2025年には約1.8倍の615回に増加したという(オシロ「『ブッククラブ(読書会)』開催数の推移」2025年12月)。大手書店や独立系書店、ブックカフェでも定期的にブッククラブが開催され、じわじわと盛り上がっている。

 著名人によるブッククラブの設立も活発だ。ポッドキャスト「奇奇怪怪」やメンバーシップメディア「品品団地」を手掛けるクリエイティブディレクターのタイタン(TaiTan)は、トヨタ自動車が仕掛ける実証実験都市「トヨタ・ウーブン・シティ(Toyota Woven City)」との取り組みで、「都市と人間」をテーマにしたブッククラブ「ウーブン ブックス(Woven βooks)」を始動。文芸評論家の三宅香帆も、自身が主宰するブッククラブ「Miyake Book Club」を今夏立ち上げた。

 活字離れが指摘される若者の間にも読書への興味関心は一定数あるようだ。SHIBUYA109 lab.がZ世代を対象に行った調査では、62.2%が「スマホ疲れを感じている」と回答し、そのうち79.3%がSNSを主な要因として挙げた。7割以上が「スマホから離れるためにすでに行動を起こしている」と答え、その具体的な行動として「散歩(20.2%)」と並んで「読書(20.2%)」が選択肢となることが明らかになった(SHIBUYA109 lab.「Z世代のアテンション・デトックスに関する調査」2026年2月)。

 読書によって得られる知性や教養への憧れはいつの時代にもあったはずだが、今起こっているリーディングカルチャーは少し様子が異なるように見える。自発的に本を読み込むことの価値が、単に情報を得るだけでなく、時間の使い方を能動的に選んだという「思考する主体でいられるという感覚」に紐づいているようだ。一冊の本は、アルゴリズムが最適化したレコメンドでは代替できない豊かな知性を与えてくれる。緩やかではあれど、若年層によるリーディングカルチャーは今後も定着していく可能性がある。

専門家はこの動きをどう見る?

森永真弓

博報堂 メディア環境研究所

通信会社を経て博報堂に入社。コンテンツやコミュニケーションの名脇役としてのデジタル活用を構想構築する。テクノロジー、ネットヘビーユーザー、オタク文化研究などをテーマにしたメディア出演や執筆活動も多数。著作に「欲望で捉えるデジタルマーケティング史」などがある。

 ラグジュアリーブランドによる文学を絡めた施策が目立つ現状は、SNSを主戦場とした新規顧客の獲得がある程度落ち着いたことによる、次の段階への動きと言える。ブランドイメージ向上に貢献してくれるコアなファンとの接点を強化し、そういったユーザーを囲い込めていることをマーケティングに活用する動きが一部のラグジュアリーブランドから見て取れる。まずは読書そのものが持つ「知的」イメージの獲得。さらに期待できるのは、読書を楽しめる人たちが、読み応えのある長文への抵抗感が低く、ブランドの歴史や思想をきちんと読み込み理解してくれる可能性が高い側面がある点。読書コミュニティ自体の規模は決して大きなものではないが、「規模より質」を狙った施策としてブッククラブや、ブランドの哲学や世界観とリンクするような書籍を扱うといった事例が目立つのだろう。

 一方で、海外のブッククラブを筆頭としたリーディングカルチャーの盛り上がりは、知的な高収入層の集まりの色も強く持つ。日本は少し異なり、世代も階級もなく広がる、趣味コミュニティの側面が高い。ハイブランドが期待するような方向で今すぐに急成長するものではないだろうが、独立系書店が先導する事例などを含めブッククラブの裾野は広がっている。

 読書は一人で没入するだけでなく、楽しみと感情を共有し、つながりを生むためのコミュニケーションツールとしても変容してきている。日本における企業活用の方向性としては、コミュニティそのものへのアプローチよりは、コンテンツタイアップなどの作品へのアプローチの方が、生活者との関係性を構築できるのではないだろうか。


Image by: FASHIONSNAP

最終更新日:

バッグ: エンパイア キャリーオール バッグ 34・ラブド レザー(8万8000円), キーホルダー: 恩田陸『蜜蜂と遠雷』ブック バッグ チャーム(1万6500円)/いずれもコーチ|問い合わせ先 コーチ・カスタマーサービス・ジャパン 0120-556-750, そのほか: 参考商品

photography: Kazuki Ono

編集・平原麻菜実

Manami Hirahara

FASHIONSNAP 編集記者

埼玉県出身。横浜国立大学教育人間科学部人間文化課程卒業後、レコオーランドに入社。国内若手ブランド、国内メーカー、百貨店などの担当を経て、2020年にビューティチームの立ち上げに携わる。ポッドキャストやシューティング、海外コスメレビュー、フレグランス、トップ取材など幅広い観点でファッションとビューティの親和性を探る企画を進行。2025年9月より再びファッションチームに所属。映画、お笑い、ドラマ、K-POP......エンタメ中毒で万年寝不足気味。ラジオはANN派。

ADVERTISING

現在の人気記事

NEWS LETTERニュースレター

人気のお買いモノ記事

公式SNSアカウント