THE RERACS 2019AW COLLECTION
Image by: FASHIONSNAP.COM

Fashion

ファッションデザインのパクりを防ぐにはどうしたらいいか?

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(文:海老澤美幸)

 桜のつぼみがほころび始める3月下旬、都内で東京ファッションウィークが華々しく開催された。

 筆者は、かれこれ15年ほど、東京をはじめとする各国のファッションウィークに接しており、先週もいくつか気になるショーを見てきた。年を追うごとに実感するのは、ショーや展示会の拡散速度と拡散力がどんどん増し、エンターテインメント化していることだ。ショーの様子がリアルタイムで配信され、そのわずか数時間後には美しく編集され、解説・論評テキストやバックステージ取材のような周辺情報が付加されて、世界中に発信される。情報媒体もブランドのオリジナルチャネルからメディアチャネル、個人のチャネルまで幅広い。会場までわざわざ足を運ばなくとも、誰もがリアルタイムに、会場と同じ臨場感でさまざまな角度からじっくりとルックを眺めることができるのだ。

 こうした変化は、デザイナーやブランドが自分のコレクションを世界中に発信でき、誰もが気軽にコレクションに触れることができる点で大きなメリットがあるが、他方でデザインの模倣、いわゆる"パクり"を加速させる一要因となっていることは否めない。さらに、ファストファッションの台頭とテクノロジーの発達などにより、企画から生産、店頭までのサイクルが格段に短縮したことが、パクりに拍車をかけているとも言える。

 東京ファッションウィークのショーサーキットが一段落した今、ファッションデザインのパクりについて少し考えてみたい。

 

どこからがパクりか?

 パクり問題で記憶に新しいのが、東京ファッションウィークでも人気のブランド「ザ・リラクス(THE RERACS)」が、巨大ファストファッションブランド「ザラ(ZARA)」を訴えた事件だろう。ザ・リラクスは、フード付きブルゾンのデザインをザラが模倣したとして訴えを起こしたのである。

 ここで、ファッションデザインのパクりをめぐる法規制について少し説明しよう。ファッションデザインを法的に保護する手段はいくつかあるが、パクりのケースでしばしば使われるのが不正競争防止法2条1項3号だ。これは、新商品の外観デザインを保護するもので、他人の商品の外観デザインを模倣する行為、すなわち"パクり行為"を禁じている。

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 では、具体的にどのくらい似ていれば、不正競争防止法2条1項3号が禁じるパクり行為にあたるのだろうか? 実は、この点について、法律上は「模倣とは実質的に同一であること」と定められているだけで、具体的な基準は示されていない。裁判所が具体的な基準を示していればその基準によることになるが、実は裁判所も明確な基準は示していない。残念ながら、「パクりかどうか」を判断する明確な基準は存在しないのが実情だ。

 しかし、これまでの裁判例から、一定の判断傾向を読み解くことはできる。あくまで目安にとどまるものの、その商品を買う需要者の目を引く特徴的な部分が共通しており、需要者にとって同じ商品との印象を与える場合には、実質的に同一だと判断されやすい。逆に、需要者に別の商品との印象を与える場合には、実質的同一性は否定されることになる。色や柄が異なる場合にも、目を引く特徴的な部分が共通していて、需要者には色違いや柄違いにしか見えない場合には、実質的に同一だと判断されやすいようだ。

 全体として同じ商品の印象を与えるか、目を引く特徴的な部分が似ているか、その他に共通した部分があるか。これらが判断の視点になる場合が多い。

 ザ・リラクスとザラの事件に話を戻そう。問題の商品は、スポーティーなフード付きブルゾンで、シンプルかつカジュアルなデザインである。詳細は割愛するが、裁判所は表面から見たときのシルエットや形といった基本的な形を比較検討した後、比翼部分のステッチやポケットフラップの形状、袖のベルトの形やボタンの配置といった、特徴となりうる具体的なディテールについて細かく比較検討している。また両者の違いについても検討した上で、需要者がこれらの違いを直ちに認識することはできないと述べている。結論として「実質的に同一である」、つまり"ザラはザ・リラクスの商品をパクった"と判断したのである。

 そもそもファッションは、模倣し模倣されることで発展してきたとも言える。伝統的で普遍的なアイテムやディテールといった、誰かが生み出した基本形をベースに、新しさや自分らしさを加えることで新鮮なスタイルを創り出してきたのがファッションだ。クリエイティビティを付加する前提で模倣することはファッションの姿勢であり、それを禁じることはファッションの発展を阻害することになる。

 しかし、誰かが工夫して創り出したデザインをそのままパクるのは、前述の模倣とは全く別モノ。それは単なるフリーライドにすぎず、誰かのクリエイティビティを搾取することにほかならない。ザ・リラクスとザラの事件は、許される模倣と、決して許してはならないパクりの境界線について、現代の裁判所のスタンスを示したものといえそうだ。

 

パクりを防ぐには?

 最後に、パクり問題を防ぐにはどうしたらいいのだろうか? インターネットやSNSによって、最新のデザインが情報としてリアルタイムで世界を駆け巡り、また3Dプリンタなどの技術が発達した現代において、パクりを防ぐことは事実上困難だ。唯一、問題から身をかわす方法があるとすれば、それは追いつけない技術や真似することができないクリエイティブを確立することだろう。オリジナルの世界観に裏付けられた独創的で繊細なデザインは、真のブランドやデザイナーだけが創り出せるもの。そのレベルが高ければ高いほど、偽物が本家のクオリティを超えることはできないはずだ。

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 今シーズン初めてランウェイショーを開催したザ・リラクスは、スポーティーなスパイスが光る洗練されたシルエットと、上質な素材がマッチした完成度の高いコレクションを披露した。どこか自信と余裕を感じたのは、先の事件が少なからずとも影響しているのかもしれない。ショー形式で発表した理由は、世界観を打ち出すとともに、素材やディテールを間近に見てもらいたかったからだという。その思惑どおり、クオリティの高さがストレートに伝わってきた。本家の凄みを見せることこそが、パクりから身を守る近道。実は、ザ・リラクスがショー形式に転換したのはこれが本当の目的だったのではないか...?個人的にはそう感じている。

海老澤美幸
弁護士/ファッションエディター
自治省(現・総務省)、㈱宝島社を経て、ファッションエディターとして独立。「ELLE japon」「GINZA」等ファッション雑誌の編集・スタイリング・ディレクションを手掛ける。2017年に弁護士登録し、ファッション・ローを専門に活動。
fashionlaw.tokyo

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