2021年春夏コレクション
2021年春夏コレクション
Image by: Ermenegildo Zegna XXX

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本拠地の伊トリベロをランウェイに――自然と人間と機械が一体となった「エルメネジルド ゼニア」

2021年春夏コレクション Image by Ermenegildo Zegna XXX
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 ミラノ・デジタル・ファッションウィークにおいて、千両役者の多くはフィジカル(リアル)ショーをライブで配信した。そんなフィジカル勢の中で、もっとも凝りに凝った映像を配信したのが「エルメネジルド ゼニア(Ermenegildo Zegna)」だ。ゼニアの世界観をブランドの背景を含めて堪能できる14分27秒の作品は、ファンならずとも必見である。

(文:ファッションジャーナリスト 増田海治郎

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 アルプス丘陵地帯に位置する北イタリアの小さな町、トリベロ。「エルメネジルド ゼニア」は1910年、この地にウールの服地工場を建設した。古くから牧羊が盛んで、天然の軟水が豊富なこの地は、ウールの洗浄には最高の場所だったからだ。やがて高級服地メーカーとして世界的に名を知られるようになったゼニアは、事業の拡大とともにトリベロの環境整備にも取り組み、住宅、学校、プール、スポーツセンター、図書館、病院などを次々に建設。1930年代には、町から上の山々を買い取り、大規模な森林再生プログラムに着手した。約100平方キロメートルにわたって広がる自然公園は、後継者達によって「Oasi Zegna(オアジ ゼニア)」と名付けられ、現在もこの町のオアシスとして親しまれている。トリベロという町はすなわち、ゼニアの町なのだ。

 エルメネジルド ゼニアのデジタルショーは、このオアジ ゼニアから始まる。自然と人の手が最高のバランスで共存した"緑のランウェイ"に最初に登場したのは、オーバーサイズの黒のジャケットを羽織ったモデル。インナーがベージュのサファリシャツだから、黒とはいっても自然と調和している。その後はブラウン、グリーン、黄土色などのナチュラルカラーのテーラードの行進が続く。全体的にゆったりしたシルエットで、とくにパンツのシルエットはかなりワイド気味だ。

公開された動画のスクリーンショット

 場面は工場の内部へと切り替わる。緑のランウェイの次は、コンクリートの灰色のランウェイの時間。今年でゼニアは創業110周年を迎えるが、モデルたちはゼニアの歴史が詰まった生地帳が保管された棚の間をすり抜けるように歩く。歴史と今が交差するデジタルならではの上手い演出だ。次のランウェイは織機の小道。ゼニアの生地を織る最新の織機の機能美はさながら現代アートのようで、機械好きならずともその美しさに見とれてしまう。

 3つのランウェイをはしごしたモデルたちは、最後に工場の屋上に整列する。ドローンによる空撮で、トリベロの全景が映し出される。自然と人間の手による人造物が最高のバランスで調和していて、これまで以上にこの地に恋い焦がれてしまった。ゼニアの服はこの町そのもので、トリベロが"擬服化"したのがゼニアなのだ。コロナ禍が落ち着いたら、ぜひ足を運んでこの目でこの小さな町とゼニアの全てを感じてみたい、と改めて思った。

 細部に目を向けてみよう。ダブルとシングルの中間的なジャケットは、アーティスティック ディレクターのアレッサンドロ・サルトリ(Alessandro Sartori)が"ワンポイントファイブ"と呼ぶ新しいジャケットのかたち。ジャケットは肩パッドなしのナチュラルショルダーが中心で、文字通り自然な雰囲気だ。Vゾーンに合わせるのは、モックネックのタートルネック。前面にポケットが6つも付いたジャケットや、半袖のハンティング風のレザージャケットなど、ワークやハンティングを連想させるアイテムも目立つ。

 テーマは「ネイチャー/マン/マシン」。サルトリは「機械を最大限に活用するのは、感性と創造性に卓越した人間の資質。人間は自然と調和しながら、常にその中心にいると僕は信じている」とプレスリリースで説明している。

 ゼニアの服は尖ったところと守るべきところのバランスに優れている、と以前から感じていた。この映像を見て、その理由が分かった気がする。自然と人間と機械が最高のバランスで共存する町で作られた服が、心地良くないわけがないのだ。

文・増田海治郎
雑誌編集者、繊維業界紙の記者を経て、フリーランスのファッションジャーナリスト/クリエイティブディレクターとして独立。自他ともに認める"デフィレ中毒"で、年間のファッションショーの取材本数は約250本。初の書籍「渋カジが、わたしを作った。」(講談社)が好評発売中。>>増田海治郎の記事一覧

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