「エチュード」コレクション動画より
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パリ・メンズファッションウィークがデジタルで開幕 "Yes Future"をテーマに希望を描いた「エチュード」

「エチュード」コレクション動画より
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 7月9日、パリ・メンズ・ファッションウィークが開幕した。参加ブランドは、日本勢11ブランドを含む全67ブランド。といってもフィジカル(リアル)のショーはひとつもなく、デジタルで映像を発信するパリの歴史上初の"デジタル・ファッションウィーク"だ。初陣を飾ったのは、パリを拠点とする「Etudes(エチュード)」。コロナ禍の混沌としたパリをランウェイに見立てた等身大の映像は、未来への希望を静かに訴えた。

(文:ファッションジャーナリスト 増田海治郎

 映像の舞台はパリ・リュクサンブール公園の裏手の20区。エチュードのクルーの多くが生活し、仕事をする場所で、18区、19区ほど治安は悪くないものの、かなり荒廃したエリアだ。そんな街を、ストリートなのにどこか品があるエチュードの最新コレクションを着たモデルが急ぎ足で歩き、その様子を1台のカメラがドキュメンタリータッチで撮影する。これが11分の映像の骨子だ。不意にカメラと遭遇した通行人が驚いたような表情を見せているから、きっとゲリラ撮影なのだろう。交差点や新しい道に差し掛かると、対面から歩いてきた別のモデルに映像は切り替わり、ランウェイは無限に延びていく。エチュードは自分たちが暮らす街=パリをランウェイに見立てたのだ。

 落書きだらけの路地は、今のパリ北東部のリアルだ。ロックダウン解除後に撮影した映像は、人もまばらでコロナ以前のような活気はないけれど、どこか生命力のような生々しさも感じる。モデルの脇を電動キックボードやスケートボーダーが駆け抜ける。これも今、というかコロナ以前のパリの日常風景だ。終盤に差し掛かり、信号待ちしていたボロボロの初代ルノー・トゥインゴが威勢良く発進した時に、胸がキュンとした。(嗚呼パリよ、早くまた行きたいよ)

 2021年春夏コレクションのテーマは「Yes Future」。このタイトルには伏線があり、コロナウィルスを研究する機関「All United Against Coronavirus」の資金調達のために、エチュードは4月に同タイトルのチャリティ企画を実施している。138人の写真家のプリント作品を1枚100ユーロで販売し、集まった金額を寄付するというもので、なんと13万ユーロ(!)を集めたという。エチュードは9年前の設立当初から出版やギャラリー部門も抱えており、デザインの対象はファッションだけに留まらない。この記事を書くにあたって知った事実なのだが、改めてこのデザイン集団の行動力と発想の豊かさに驚かされた。

 そんな素敵なプロジェクトのファッション版が今回のコレクションだ。全体的なイメージは、アメリカのワークとモードの融合。コロナ禍を連想させる顔を覆うマスクやトレイルランニングシューズなど、ユーティリティ(機能性)を追求したアイテムも目立つ。印象的なプリントは、ルック撮影を担当したアメリカの写真家、ロー・エスリッジの作品。コラボレーションも豊作で、フランスのシューズブランド「アデュー(ADIEU)」、トレイルランニングシューズの「サロモン(SALOMON)」、サングラスの「オークリー(Oakley)」の他、キース・ヘリング(Keith Haring)との第3弾のコラボレーションを用意している。リサイクル素材の採用や環境に優しい染色など、サステナブルにも配慮した。

 世界中の人々が先の見えない未来にもがいている。パンクならずとも「No Future!」と叫びたくなるのに、エチュードは「Yes Future!」と静かに叫んだ。とても知的で素敵なメッセージだと思う。

文・増田海治郎
雑誌編集者、繊維業界紙の記者を経て、フリーランスのファッションジャーナリスト/クリエイティブディレクターとして独立。自他ともに認める"デフィレ中毒"で、年間のファッションショーの取材本数は約250本。初の書籍「渋カジが、わたしを作った。」(講談社)が好評発売中。>>増田海治郎の記事一覧

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