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「ファーフェッチ」攻めの経営から描く成長戦略とは?ジョゼ・ネヴェスCEOが語る、買収とその先

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 上場、参入、買収......常にニュースが絶えないデジタルマーケットプレイスの「ファーフェッチ(Farfetch)」。ラグジュアリーファッションの分野でグローバルなプラットフォームを確立し、人気ブランドを有するニューガーズグループを傘下に入れたことも記憶に新しい。舵を握るのは、創業者でCEOのジョゼ・ネヴェス(José Neves)。業界に新風を吹き込み続けて10年、突き動かしているのはファッションへの愛だというネヴェス氏が抱く、ミッションとヴィジョンについて。

What is Farfetch?
ポルトガル出身で現CEOのジョゼ・ネヴェス(José Neves)によって2008年に創業。ラグジュアリーブランドや世界中のブティックとカスタマーを繋げるデジタルマーケットプレイスを提供する。ロンドンに本社を構え、グループ全体で約3,700人の従業員を抱える。利用客は年間130万人以上、ビジネスパートナーは1,000以上、取り扱いブランド数は3,200を超え、日本を含む190ヶ国にサービスを提供している。

―2008年の立ち上げから10年が経ちました。ファーフェッチはどのようにして誕生したのでしょうか。

 私が生まれ育ったポルトガルのポルトは、日本の神戸のように靴の生産で有名な地域で、祖父は靴の工場を経営していたんです。私は大学で工学を学びプログラミングを専門としていて、19歳でビジネスを始めたんですが、最初は靴の工場のためのソフトウェアを作っていました。思い返せば、それがファッションとの出会いですね。出来上がるまでの過程やデザインプロセスに魅せられて、22歳の時にロンドンで立ち上げたのがシューズブランドの「スウェア(SWEAR)」です。

現在もファーフェッチで展開するシューズブランド「SWEAR」

 1996年から2007年の間は、ブランドと並行してITの仕事も掛け持ちしていました。その間に、デザイナーにとってブランドビジネスがいかに大変かということを身に染みて感じて、一方では常に進化するテクノロジーへの対応がこれからのビジネスにおける鍵だと確信した。その2つを掛け合わせ、ファーフェッチの基盤の「デジタルマーケットプレイス」をグローバルで展開するというビジネスが始まったのです。

―ブランドビジネスの大変さとは?

 グローバルな時代だからこそ、もの作りだけではなく卸し先との取り引きやロジスティクスの確保など、従来のデザイナーに求められてきた役割以上のスキルが必要で、仕事も複雑化していますよね。デザイナーが抱える問題に対して何かソリューションを提示することはできないかと考えた時に、デザイナーやブティック、そして顧客を繋げるプラットフォームの存在が必要で、それがビジネスとして成り立つのではと思ったのです。

―今でこそファッションECが広まりましたが、10年以上前は状況が違いましたよね。

 まだアマゾンや‎eBayが一般的ではない頃でした。でもスウェアで初めてECサイトを立ち上げてから、間も無くして入ったオーダーは日本からだったんですよ。ポルトガルとロンドンが拠点の名前もさほど知られていないブランドの靴を、遠く離れた日本から買ってくれたなんて!と、とても驚いて感動したことを鮮明に覚えています。ネット販売によって世界中にビジネスの可能性が生まれたことは、私たちのような小さなブランドにとって革命的でした。その後のファーフェッチの立ち上げにも大きく影響しているんです。なので日本がきっかけでファーフェッチが生まれたといっても過言ではないですね(笑)。

―ユニコーン企業とも呼ばれていましたが、昨年にはニューヨーク証券取引所に上場しました。成長の要因は?

 どんなスタートアップにも言えることですが、ビジネスは時代の流れやあらゆる変化に対応しなければなりません。トライアンドエラーを繰り返しながらあっという間の10年でしたが、我々の提案する「プラットフォーム」という考えが受け入れられたことが、成長の理由の一つに挙げられると思います。そして我々のユニークな点は、ファッションの世界におけるクリエイティブな視点と消費者の視点を繋げたこと。それらを支えるロジスティクスやローカリゼーションも戦略的に構築し、強化してきました。

―成功するという予想はしていましたか?

 立ち上げ当初から、全てがうまく機能したら大きなビジネスになるという確信はありましたね。ファッションへの愛を持ち続け、当時から現在に至るまで、「業界に革新を起こしたい」という一心で突き進んだ結果だと思っています。

直近ではニューガーズグループ(以下、NGG)の買収が話題を集めました。なぜパートナーにNGGを選んだのでしょうか。

 彼らもまたプラットフォームとしての役割を担っているからです。「ヘロン プレストン」や「オフ-ホワイト」、最近だとペギー・グーの「キリン」など、NGGは幾つもの個性的なブランドを抱えていますよね。そして我々と同じような考え方と哲学を持っていた。なのでパートナーとして、またタイミング的にもベストだったのです。新進気鋭のブランドを我々のグローバルなプラットフォームで紹介できるということは、とても喜ばしいことですから。

―NGGとはどのような関わりになっていきますか?

 私はブランドビジネスがいかに難しいことであるかを身を持って経験しています。デザインスタジオや工場、ショールーム、Eコマースと、ありとあらゆる設備や資金が必要です。これまではEコマースという一部分でしかサポートできていなかったのですが、今回の取り組みにより我々はNGG所属のブランドにファッションビジネスにまつわる様々なインフラのサポート、そしてクリエイションに集中できる環境をデザイナーたちに提供することが可能になったのです。

―ファーフェッチにとっての買収によるメリットは?

 新しいクリエイティブコンセプトを打ち出したり、オリジナルコンテンツを提供することが可能になります。将来的には、ファーフェッチでのみ展開するブランドやアイテムが出てくることもあるでしょう。これまでの買収でも「ブラウンズ」ではブティックという実店舗のノウハウを、「スタジアムグッズ」ではプレミアムスポーツウェアのカテゴリーとリセールのノウハウを取り込むという意味をそれぞれ持っていました。今回の買収においては、従来のプラットフォームに加え、ブランドプラットフォームという新たなレイヤーを獲得したということが我々にとってのメリットです。2つのプラットフォームを持つことにより、若いデザイナーやブランドをサポートし、その先のグローバルの顧客と繋げることができると考えています。

 よく例として挙げるのが「ネットフリックス」です。彼らが成し遂げたのは、コンテンツを統合させ、ローカルのオリジナルコンテンツを全世界に配信すること。我々が目指しているのも同様で、クリエイティビティーを爆発させるようなプラットフォームを創出していくことなのです。

―オリジナルコンテンツということは、自社のプライベートブランドなども視野に入れているのでしょうか。

 現状では考えていません。今は既存のブランドやデザイナーに、より良い環境を提供し、新たなクリイションを作る後押しすることに注力していくつもりです。

―例えば、オフ-ホワイトのカプセルコレクションを今後ファーフェッチが独占的に展開するというような取り組みは?

 既存のブランドに関しては、これまでの販路や売り方をさほど変えることはしない予定です。新規ブランドに関しては、新たなディストリビューションの戦略を立てることになるかと思います。ブランドと顧客にとって何がベストなのか、それが一番重要ですから。

―M&Aは引き続き行っていくのでしょうか?

 グループが一気に拡大したので、しばらくはその成果を最大限に引き出すことに注力します。でも、将来的に日本のブランドやデザイナーと、同様のパートナーシップを組むことも可能性としては大いにあるでしょう。NGGと組むことによって、ブランド運営やクリエイティブのノウハウをファーフェッチの中に蓄積していくという点もメリットの一つなので。今後ファーフェッチが、どのようにノウハウをアウトプットしていくかについても考えているところです。

―買収と同時に発表された第2四半期の決算は、先行きを不安視する声もあり株価が下落しました。専門家や投資家からもシビアな反応でしたが、これは想定していましたか?

 私から言えるのは、革新的なアイデアやイノベーションを起こす時というのは、必ずしも周りから理解されるとは限らないということです。ファーフェッチを立ち上げた時も、周りの人はほとんどビジネスの成功を信じてくれませんでした。残念ながら今も信じてくれていない人が多いようですが(笑)。今は種を蒔いている段階ということでしょうか。

―投資という種まきをしたら、芽が出て実になるのは先になると。

 そうですね。我々は現時点でプラットフォームの構築に注力し、それにまつわる投資も積極的に行っている段階です。グローバルのインフラを整備し、そのインフラ通じてデザイナーやブティックをサポートする。これがきちんと整備され、円滑に進めば利益は伴ってくるものと考えています。

―長く経営者として優れた経営手腕を発揮していますが、その哲学や理念を教えてください。

 上場時のファウンダーズレターに「For the Love of Fashion」というメッセージを書き留めたのですが、この思いが常に我々のビジネスの根幹にあります。ファーフェッチのビジネスは、コミュニティービジネスです。デザイナーやブティック、ファッションに携わっている人は、「ファッションへの愛」を原動力に活動している人が多いのです。我々もその一人であり、そういった人たちを繋げていく。これはどんなに会社が大きく成長しても持ち続けていたい理念ですね。

―自身にとってファッションとは。

 非常にパワフルでエモーショナルな意味を持ちます。人間は個人でありながら、どこかに属していたいという欲がありますよね。ファッションというのは、トレンドや集団などに属しながらも自分らしさを表現させてくれるツールであると思います。それが自分自身や見る人にとって想像力を掻き立てるのです。少なくとも私にとって、ファッションとはそういうものですね。

―今後のビジネスの展望を聞かせてください。

 短期的には、人材育成を重要な課題に掲げています。会社の成長を語る上で、人を育てていくことは私たちの将来の資産になりますから。また長期的なゴールとしては、業界にとって常にポジティブな存在であり続け、革新をもたらし、新しいクリエイティブを生み出すグローバルプラットフォームであり続けるということ。

10年という時間をかけて第1章を駆け抜けてきました。これが何章まで続くかは私にもわからないのですが、我々は今、第2章のスタートを切ったばかりなのです。

(聞き手:今井 祐衣)

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