コレクションを独自のスケジュールで発表していく方針を打ち出したサンローラン(2020年2月のショー)
コレクションを独自のスケジュールで発表していく方針を打ち出したサンローラン(2020年2月のショー)
Image by: FASHIONSNAP.COM

Fashion フォーカス

変わるファッションカレンダー ショッピングや着こなしも「スロー」に

コレクションを独自のスケジュールで発表していく方針を打ち出したサンローラン(2020年2月のショー)
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 ファッションのカレンダーが書き換えられつつあります。パリコレなどで知られている新作コレクションの発表スケジュールや、販売時期とセールの期間など以前から問題点の指摘がありましたが、コロナ・ショックをきっかけに見直しが本格化。全体的にスローダウンしたり、適切なシステムにリセットする方向です。そもそも消費者からは分かりにくいところのあったスケジュールの仕組みを、この機会に整理してみましょう。(文・ファッションジャーナリスト 宮田理江)

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シーズンの基本「春夏」「秋冬」

 世界4大コレクションに代表されるモード界のカレンダーは、大きく分けて「春夏」と「秋冬」の2シーズンが柱になっています。春夏は「Spring/Summer」の頭文字を取って、「SS」と略されます。今の2020年春夏シーズンは「2020SS」とか「20SS」と書くのが普通です。秋冬のほうは「Autumn/Winter」を略して「AW」、または「Fall/Winter」の略で「FW」と書きます。

 業界で共通の規程はないので、ブランド・企業ごとに書き方はまちまちです。「Summer」を省いて「2020Spring」とだけ書くケースもあります。年をまたぐ秋冬の場合、主なメディアは「2020-21年秋冬」と書きますが、ブランド側は「2020Fall」とだけ書くこともあり、それぞれで独自のシーズンを設定している場合もあります。

2019年12月に開催された「DIOR」メンズ フォール2020コレクションのショー。ディオールのメンズコレクションは独自のシーズン設定で、スプリングサマーフォールウィンターと、年4シーズンに区切って新作を発表している。 Image by FASHIONSNAP.COM(Koji Hirano)

 

新たなコレクション「プレ」「リゾート」とは?

 さらに近年は、基本の春夏と秋冬以外に、新たな「シーズン」が増えてきました。それが「プレスプリング」と「プレフォール」。どちらも、季節をまたいで着やすい服が提案されていることが多くなっています。一般的に、冬のセールが終わって1月中旬頃から徐々に春夏物が店頭で展開されますが、冬のセールが始まる前あたりから、早く次シーズンの商品を紹介するのが「プレスプリング」。早くて11月頃から入荷するところもあります。買う側にとっては、春物を先物買いできるメリットがあります。

 一般的にはプレスプリング物は春夏コレクション物よりも、比較的コーディネートしやすい服が多く、値段も少し抑えめ。春夏コレクションで発表される前から新トレンドのエッセンスを取り入れられるのに加え、シーズンレスなテイストが多いのも魅力です。一方、「プレフォール」は早くて5月頃から販売されます。夏のセール前からセール中、あるいは秋冬物が店頭に並ぶ前のタイミングです。

主なコレクションブランドによるシーズン別の販売時期の現状 Image by FASHIONSNAP.COM
※ブランドや状況によって時期の変動があります。

 「リゾートコレクション」や「ホリデーコレクション」というコレクションもあります。リゾートコレクションは、プレスプリングと同様に春夏コレクションの手前の時期に売り出されるのが一般的です。寒い冬の時期をリゾート地で過ごす富裕層などのために作られたのが名前の由来。涼やかでリラクシングなテイストが多く、同じようなニュアンスで「クルーズ(航海)コレクション」とも呼ばれます。

 「リゾート」「クルーズ」という響きのせいで、海辺向き、トロピカル柄のイメージを抱かれるかもしれませんが、そうとばかりは限りません。「リゾートで過ごす時間にふさわしい」といったニュアンスはありますが、街中で着やすい服が大半です。また「ホリデーコレクション」の多くはクリスマス前などの限定的なコレクションというイメージで、オケージョンに対応していたり、ギフト向けの小物や華やかなアクセサリーが多いようです。

 これらの春夏・秋冬以外のコレクションに共通しているのは、シーズンを越えて重宝する、気負わない雰囲気です。レイヤードをうまく使えば、ほぼ通年で着られる服ともいえるでしょう。着る側からすれば、真夏・真冬仕様の服よりも着回しやすいというメリットがあります。

 

シーズン増加のメリットとデメリット

 本来は春夏と秋冬の2シーズンで済むはずなのに、「その他」のシーズン設定はなぜ必要なのでしょうか。それは着る側と売る側それぞれの理由があります。着る側の都合は、微妙な温度感にマッチした服が欲しいという事情です。まだ残暑がきつい秋の手前から、分厚いコートを手に取る気にはなりにくいものです。年間を通して、気温が不安定になってきたこともあるでしょう。

 売る側の都合はセールと関係があります。本来の価格よりも割り引いて売るセールは、利幅の面で、販売側にはメリットが少ない売り方。少しでも長い間、本来の値段(プロパー価格)で売りたいのがブランド・企業側の本音です。

 夏と冬の年2回のセール時期は大まかに決まっていますが、新作であればセール中でも「セール除外品」としてプロパー価格で投入できます。プレコレクションを次のシーズンへの橋渡しとして消費者を導くことができれば、売る側にメリットがあるわけです。また、実験的なデザインを試したり、プレで戦略的に新トレンドの種をまくようなケースも見られます。

 プレの人気が高まった結果、多くのブランドが参入するようになり、デザイナーにも期待がかかるようになってきました。オートクチュールを手がけるブランドでは、さらに年2回のオートクチュールコレクションの発表がプラスされます。

 大手メゾンの売れっ子デザイナーであれば、そのほかにコラボレーション企画やカプセルコレクション(単発プロジェクト)などの依頼も舞い込むので、ますますスケジュールはタイトになりがちです。ほとんど毎月のように何らかのコレクションを発表するような事態に至り、デザイナーの心身への負担が問題視されるようになっていました。

 

コロナ・ショックと新しいファッションカレンダーの提案

 そんな中、コロナ・ショックが起きました。外出が規制され通常通りの仕事や店舗での販売が難しくなったこともあって、一度立ち止まったデザイナーや業界団体などが、現状のシステムやスケジュールの見直しを相次いで提案しています。

 たとえば、ドリス・ヴァン・ノッテン(Dries Van Noten)をはじめとする大勢のデザイナーやファッション業界人が名を連ねた公開書簡と、その後にBOFがファシリテーターとなって立ち上がった「rewiringfashion」では、コレクションの発表から店頭販売期間までのスケジュールを変更する提案を打ち出しました(下図参照)。具体的には、これまで時期が分かれていたメンズとウィメンズのファッションウィークを統合して1〜2月(秋冬)と6月(春夏)の年2回に集約し、販売期間を9月~1月(秋冬)と2月~7月(春夏)に遅らせること。そして、ファッションショーを販売時期の直前に開催することを提案しています。

rewiringfashion が掲げた新しいファッションカレンダーの提案 Image by https://www.rewiringfashion.org/

上図の記号説明の日本語訳
▲=Creation(コレクション制作)、●=Buying(バイイング、買い付け)、□=Buying trip(買い付けのための移動や渡航)、★=Presentation(コレクション発表)、■=Delivery(コレクション販売開始)、⬇︎=Discounting(割引セール)

 この変更の狙いの一つは、価値を下げることなく多くの商品をプロパー価格で販売することです。実際の季節感と、商品が店頭に並ぶ時期を近づけることによって、「きょうは寒いから、コートを買いに行こう」といった具合に、購買意欲を刺激することを目指しています。今は実際の天候よりも商品の投入タイミングが早いせいで、消費者は先々の必要性を予想して、買うか買わないかを判断することを求められます。天候やニーズが予測しにくいと、「今は買わないでおこう」「セールを待とう」と、判断を先送りしてしまいがちです。

 rewiringfashionは、セール期間を1月と7月に統一することも提案しています。シーズンの終わりに、売れ残った商品だけをセールに回すことによって、プロパー価格での販売量を保つ考えです。セールでの販売が増えると、ブランド側の利益率が下がり、その穴埋めを狙ってプレやカプセルコレクションなどの企画が必要になってしまいます。プロパー価格での売り切りは、デザイナーの負担を軽減する効果もあるわけです。

 

増えすぎたコレクション 統合とペースダウンの動き

 英国ファッション協議会(The British Fashion Council、BFC)と米国ファッション協議会(Council of Fashion Designers of America、CFDA)も、コレクションスケジュールの見直しに関する共同声明を発表しました。デザイナーがメインコレクションに集中しやすい日程を打ち出し、プレコレクションはショーを開かずにショールームで発表することを求めているのは、存在が大きくなりすぎた「春夏・秋冬以外のコレクション」の弊害を認めた格好です。

 こうした「増えすぎたコレクション」に対しては、コロナ・ショックの前から、メンズとウィメンズを統合する動きが相次いでいました。単に商品を売り出すだけではなく、ランウェイショーを開催すれば、その準備は大がかりになり、負担はもっと重くなります。数年前からデザイナーがコレクションウィークから離脱するケースが相次いだ背景にも、こうした「過剰コレクション」の影響が取り沙汰されてきました。

 有力デザイナーの間からは、早くもペースダウンに舵を切る動きが出始めています。「グッチ(GUCCI)」のクリエイティブディレクター、アレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)氏は、年5回発表していたコレクションを年2回に減らすと発表しました。

 ランウェイショーをデジタルショーに変更する流れは、コロナ・ショックの影響で一気に加速しつつあります。ロンドンとミラノのウィメンズ、パリ・メンズの各ファッションウィークはデジタル化することを発表済み。「サンローラン(SAINT LAURENT)」は独自スケジュールでのコレクション発表に切り替える方針です。

 

カレンダー刷新でサステナビリティの実現へ

 全体の動きに共通しているのは、これまでのファッションシステムを変革しようという意識です。大量生産と廃棄、大がかりな演出、大勢の移動・密集といった慣行を見直し、サステナビリティを重んじたビジネス様式に変えていこうというのが基本的な姿勢と見えます。

 コレクションが適切な時期に発表され、時代に沿った形で販売されれば、消費者にとってはじっくりおしゃれとつきあう余裕が生まれると期待できます。あえて新作を買わず、手持ちアイテムをアレンジする着方を組み立てるのも、選択肢の一つ。トレンドやセールにせき立てられることもなく、自分らしいファッションを選びやすくなる可能性も高まりそうです。負担の軽くなったデザイナーたちが思う存分、実力を発揮できるのは、誰にとっても歓迎できるスローファッションのメリットではないでしょうか。

文・宮田理江
ファッションジャーナリスト・ファッションディレクター。多彩なメディアでコレクショントレンド情報、着こなし解説、映画×ファッションなどを幅広く発信。バイヤー、プレスなど業界での豊富な経験を生かし、自らのTV通版ブランドもプロデュース。著書に「おしゃれの近道」(学研パブリッシング)ほかがある。https://riemiyata.com/

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