Image by: FASHIONSNAP(Koji Hirano)
ファッションやライフスタイル、価値観の多様化が進み、あらゆるファッションスタイルが“自己表現”や“個人の選択”として受け入れられる時代になりつつある昨今。一方でこの社会では依然として、とりわけ女性の容姿や服装、振る舞いに対して、“こうあるべき”という価値観が根強く残っているのもまた事実だ。
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そのような中、舟山瑛美が手掛ける「フェティコ(FETICO)」は、デビュー以来一貫して「The Figure : Feminine(その姿、女性的)」をコンセプトに掲げ、女性の身体を美しく魅せるシルエットやディテールを追求した服づくりを通して女性性を肯定し、女性の自己愛を後押ししてきた。なかでも毎シーズン象徴的に登場するのが、“ランジェリールック”やボディコンシャスなシルエットだ。舟山はなぜそれらにこだわり、繰り返し提示し続けるのだろうか。「改めてブランドのアイデンティティを見つめ直し、より深く追求することを目指した」と語る2026年春夏コレクションを通して、その理由を紐解いてみたい。

同ブランドにとって設立5周年のアニバーサリーコレクションとなった今回、舟山がテーマに掲げたのは、「彼女の奥深さ(The Depth of Her)」。ドイツの現代美術家 レベッカ・ホルン(Rebecca Horn)と、ルーマニア系フランス人の写真家 イリナ・イオネスコ(Irina Ionesco)という2人の先駆的な女性アーティストの作品に着想を得て、表層的な美しさだけではない、女性の内なる強さと複雑さを繊細にコレクションに落とし込んだ。
病の療養中に得た孤独感や健全な身体への渇望を投影し、羽根や角をまとい身体を拡張する作品やパフォーマンスを通じて、女性の身体の新たな可能性を模索したレベッカ・ホルン。バロック様式やシュルレアリスムを写真に落とし込み、官能的で退廃的な独自の美学を構築したイリナ・イオネスコ。2人の作品スタイルや人物像は全く異なるが、両者に共通する「自身の内面を強く映し出す創作表現の在り方」や「自分が美しいと信じているものを形にする信念」に舟山が共感し、それらをヒントに、現代における女性の身体と自己表現を模索したという。
コレクションでは、レベッカ・ホルンの作品に登場する羽根や放射状のモチーフをフリンジやプリーツ、切り替えなどのデザインとして、イリナ・イオネスコの作品の退廃的な世界観を1920年代のランジェリーの要素やダマスク柄として随所に散りばめ、フェティコならではの女性の造形美を引き立てるシルエットと融合。ダマスク柄の編み地のノースリーブトップスに、胸元にレース、裾にプリーツをあしらったミニ丈のスリップドレスを重ね、顔と脚を格子状のマスクとタイツで覆ったスタイルのファーストルックにも、その要素が色濃く反映されている。





ショーの前半では、退廃的かつ官能的なムードの強い、緊張感のあるオールブラックのルックが続くものの、次第に鮮やかな朱赤やデニムの青が差し挟まれ、後半ではベージュやアイボリーといったナチュラルでやわらかな色味に変化。それは、女性が持つ強さやストイックさ、内に秘めた熱さ、思慮深さ、可憐さ、柔らかさなどの多様な側面を表現しているようでもあり、この社会の中で女性たちがより自然体で自由な姿や振る舞いができるようになる未来を願う、舟山の祈りやエールを込めたようにも感じられた。
多様な柄のレースや編み地、透け感のある素材などをレイヤードしたスタイリングも、今季は目を引いた。裾から美しい花柄のレースが覗くスカートと格子柄の編みタイツ、リバーレースのミニドレスとふんだんにギャザーが寄ったトップス、透かし編みのニットとジョーゼットなど、さまざまな柄や質感の布地や編地が身体の上で繊細に重なり合うさまにも、女性の持つ多面性や奥深さが表れている。



そして今回のショーでも印象的に登場した、アイコンでもある官能的でフェティッシュな“ランジェリールック”。ブラとショーツに、ウエストとヒップ部分に大きな穴が空いたデザインの網タイツとアームカバーを重ねた挑発的なスタイルから、繊細なレースとプリーツが特徴のミニ丈のスリップドレスまで、豊富なバリエーションを提案している。非常に美しく、フェティコの美意識や世界観を豊かに伝えるものではありつつも、街中や日常ではとても着られそうにないこれらのルックを、舟山はなぜ作り続けるのか。ショーを終えた彼女にその背景にある思いを尋ねてみたところ、こんな言葉が返ってきた。



「私自身はあまり周りの目は気にならない方なのですが、一方で周りの目をすごく気にするという声や、肌見せやボディコンシャスな服を着ることに対して『批判的なまなざしで見られた』という話も多く聞きます。だから、私は『自信を持って自分が好きなファッションをしている姿が一番かっこいい』という姿勢を打ち出すことで、そういったネガティブな視線を蹴散らしたいし、もっと女性に自信を持ってほしいんです」。
つまり、舟山が“ランジェリールック”を繰り返し提案し続ける大きな理由の一つは、この日本社会が今もまだ、女性の容姿や振る舞いに対してあまりにもとやかく言う環境だからなのだ。舟山にとって、ランジェリーとはもの自体として美しく、女性の身体に一番近いところで自信や美しさを与えてくれるものであり、決してそのまま外に出て、街を歩くわけではないだろう。けれども、“エロ”ではなく“ヘルシー”としての肌見せに世間が見慣れるまで、年齢や体型、容姿、性別を理由にした不躾な視線や“こうあるべき”を蹴散らすまで、おそらく舟山は“ランジェリールック”をはじめとした女性の身体や肌を美しく見せる服を、強い信念とともにこれからも提案し続けるのだろう。

フェティコの服は、目に見て美しく、身に纏って美しい。とりわけ、美術館のような白い壁に囲まれた緊張感の漂う空間を舞台にショーを行った今回は、まるで女性の身体を美しく縁取り装飾した、美術作品のようにも見える。それが他者の理想像や性的なまなざしが投影されて作られたり選ばれたりしたものである場合、そこには窮屈さや居心地の悪さ、暴力性を帯びる可能性もある。しかし、「自分が美しいと信じるものを着る」「私の身体は私のもの」という思いのもとで作られ主体的に選ばれた服は、着る人を内側から守り自信を与える、お守りのような存在になるのだ。
そして、過去のコレクションでも示していた通り、舟山が“美しい”と考える女性像は決して画一的ではない。その思いは起用するモデルにも反映されており、今季は2024年秋冬にも登場した小柄でグラマラスな体型の女性モデルをはじめ、人種や肌の色、年齢、髪型、体型、メイクのスタイルなど、これまで以上に人物像に多様性が感じられた。



個人的に、筆者は肌が大胆に見えたり透けたりするような服をあまり積極的には選ばない。それは単にデザイン的な好みの問題でもあるが、不躾な視線が入り込む隙を与えたくないという気持ちも少なからずある。しかし、仮に自分は肌を見せる服を着なかったとしても、他の女性がそれらを自らの意思で選び纏うことを誰にもとやかく言われない社会の方が、当然ながら誰にとっても居心地がよく、息がしやすいに違いない。人物像の多様性が示されていた今回、舟山がフェティコというブランドの服づくりに込める思いは、あらゆる女性たちが自分が良いと信じるものを選び取ることができるよう、後押ししてくれているように思えた。
「世の中には依然として“女性はこうあるべき”という規範が強く残っています。そうした固定観念に縛られず、自分が美しいと信じるものを選び取る女性がもっと増えてほしい。フェティコは、そんな女性たちに寄り添い、選ばれるブランドでありたい」
FETICO SPRING SUMMER 2026 "The Depth of Her” プレスリリースより
デビュー5周年を迎え、国内では既に多くの女性たちの支持を集めているフェティコ。チーム体制も強化されてきたからこそ、「今後はよりグローバルに頑張りたい」と意気込む。一方で、「自分が見えないところでフェティコの商品を手に取ってくださる、好きでいてくださるお客様がすごくたくさんいることを最近改めて実感した。だからこそ、ブランドのファンの方たちともっと親密に関われる場所も作っていけたら」とも話す。
ブランドのアイデンティティに改めて向き合い、そのあるべき姿を再確認した今季のショーからは、今後も日本の女性たちに心強く寄り添い先導しながら新たな章へと踏み出していく、舟山の信念と覚悟が感じられた。
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