
Image by: FASHIONSNAP
コンパクトに持ち運べる日本の工芸品でもある扇子が現在、海外の人々や国内の若い世代から注目を集めている。6月のパリファッションウィークでも、多くのメゾンのショー会場で熱波対策として扇子が配布され、屋外の席でゲストたちが並んで扇ぐ姿があちこちで見られた。本記事では、東京の「伊場仙」と京都の「白竹堂」、2つの老舗扇子店に扇子市場の動向についてインタビューを行い、扇子の種類や選び方についても教えてもらった。
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◾️伊場仙
「伊場仙」は1590年(天正18年)に創業。初代・伊場屋勘左衛門(いばやかんざえもん)が、家康の江戸入府に伴って江戸へ移り住み、日本橋で商いを始めた。1700年頃からは江戸団扇と扇子も扱うようになり、江戸後期には歌川国芳や歌川広重といった人気絵師の版元として浮世絵団扇が人気を博した。現在は江戸扇子や京扇子、浮世絵団扇のほか、和小物も取り扱っている。
◾️白竹堂
京都の老舗扇子専門店「白竹堂」は1718年(享保3年)、江戸幕府八代将軍・徳川吉宗の時代に寺院用扇子の店として開業。のちに一般用や贈答用の京扇子を製造・販売するようになり、近代日本画壇の巨匠である富岡鉄斎より「白竹堂」の屋号を授かった。現在は、伝統的な京扇子から現代のライフスタイルに合うデザイン扇子まで、幅広く取り揃えている。
目次
海外客と若年層の注目で広がる、扇子市場の「今」
伊場仙ではインバウンドの需要が増加 パリでも好感触
伊場仙では、扇子の売り上げが近年好調に推移。今年は6月まで気温が上がらず前年並みの水準だったが、7月は前年同月比で売上増を記録するなど、気温の上昇とともに売り上げは順調に伸びている。外国人観光客による購入も多く、全体の売上の約半分をインバウンド需要が占めているという。
国内のインバウンド需要の好調を受け、伊場仙は約2年前から海外販路を開拓。パリのインテリア・デザイン見本市「メゾン・エ・オブジェ(Maison & Objet)」には東京都の共同出展のブースに出展し、大きな反響を得たという。フランスのファッションブランドやアーティストとの協業も進み、フランス人デザイナーとのコラボでは干支をポップに描いた扇子を販売。吉田社長は「売れるか半信半疑だったが、国内外で多くの方に興味を持っていただけている」と手応えを語った。

Jacques Averna 1 干支 子(鼠)(7150円)
現地の顧客に直接手に取ってもらえるよう、パリではこの2年間でポップアップを3回開催。今年6月の開催時は熱波の到来が重なり、想像以上の売上を記録したという。吉田社長は「現地ではプラスチック製の扇子を使っている方が多い印象だったが、ポップアップではシックなデザインの扇子が好評だった。ファッションに合わせて扇子を取り入れたいというニーズがあるように感じた」と話した。
デニム扇子も好調 ファッション感覚で楽しめる白竹堂
白竹堂でも全体の売り上げがコロナ禍以降順調に推移している。常務取締役の山岡氏は「昨年は大阪万博による関西でのインバウンド増加の影響もあり、外国人観光客の購入割合が通常の2〜3割から3〜4割に増えた」と振り返る。これまで年配層が中心だった客層にも変化が見られ、首都圏の百貨店を中心に30代など若い世代の購入が増加。また、サカナクションやXGなど、アーティストとのコラボも積極的に行っており、「他のカルチャーをきっかけに白竹堂を知ってもらえる機会が増えた」と話す。昨年は、「より多くの方に扇子を手に取っていただく機会を作りたい」との思いから祇園に新店舗をオープン。百貨店の販路が減少傾向にある中、直営店での販売も強化し始めている。
白竹堂は創業以来、紙の扇子を主流としてきたが、約10年前からファッション要素を取り入れたファブリック製扇子の開発をスタート。まず初めに取り組んだ「岡山デニム」の扇子が成功し、店頭に並ぶとすぐに完売するほどの人気ぶりとなった。ダメージ加工を施すなど、年々デザインもアップデートしている。このような「珍しい素材を用いた扇子」が次第に同店の大きな特徴となり、客層の若年化にも効果を及ぼしている。これを転機に、レザーやレースを用いた扇子を開発するなど、現代的のライフスタイルに合わせたデザインの扇子づくりに挑戦し続けており、今年も約30種類もの新作を発売したという。

岡山デニムを用いた扇子
ファッションブランドとのコラボにも注力し、「ミーンズワイル(meanswhile)」の高性能素材「ダイニーマコンポジットファブリック(DCF)」を使用した扇子や、「クラウディ(CLOUDY)」の色鮮やかなアフリカンファブリックを用いた扇子など、他社ブランドで展開されるオリジナル扇子の開発・製作も行っている。ファッション用のファブリックにとどまらず、白竹堂ではSDGSの一環として廃棄素材を用いた製品開発にも取り組んでいる。JR東海とのコラボでは、東海道新幹線の廃材アルミを親骨(扇子の両端にある太い骨)に用いた扇子や、窓のシェードやヘッドレストカバーの生地をリサイクルして扇面(紙や布などが貼られている部分)に用いた扇子を販売。過去には、廃棄予定だった自動車のエアバッグを扇面に活用した扇子なども手掛けている。



ミーンズワイルとのコラボ扇子
Image by: 白竹堂
老舗に聞いた、こだわりの1本探し
涼をとるだけでなく、ファッションアイテムとしても楽しめる扇子。長く愛用できる「こだわりの1本」に出会うための選び方を、両店舗の代表的なアイテムとともに聞いた。
扇子は大きく分けて京扇子と江戸扇子の2種類
日常使い用の扇子は、大きく分けて京扇子と江戸扇子の2種類に分けられる。まず京扇子は、国産の材料を用いて、滋賀県や京都を中心とした地域で生産される扇子を指し、京都扇子団扇商工協同組合の組合員のみがその名を使用できる。骨が細くて数が多く、見た目の繊細さや、扇いだときに優雅にしなるのが特徴だ。花鳥風月などの風流な柄が多く、全体として「雅」な印象を与える。製造は分業制で、竹の切り出し、骨の成形、扇面の絵付け、組み立てなど、全部で88もあるといわれる工程をそれぞれの専門の職人が担うことで、高いクオリティを保ちながら多くの数を生産することができる。

白竹堂の京扇子
一方で江戸扇子は、骨の数が少なく親骨が太いのが特徴だ。江戸時代に市民へ広く普及させるため、骨の数を減らして安価に製造できるよう設計されたのが起源とされる。より軽く、風量のある実用性な形に進化したという。骨数が少ないので扇子がしならず、扇ぐとパリッと力強い風を感じることができる。また、骨の数が少ない分フラットな面が広いため、浮世絵のような大胆なデザインや、縁起を担いだメッセージ性のあるユニークな柄が映え、「粋」な印象だ。親骨が太く、閉じた際に「パチッ」と音が鳴るのも粋なポイント。分業制の京扇子とは異なり、一人の職人が全工程を担うため、手仕事としての工芸品的な価値も高い。

1本ずつ手作りされている、江戸川区の扇子職人が手掛ける扇子
実用性や大胆な柄が魅力。伊場仙に聞く、江戸扇子の選び方
⎯⎯しっかり扇ぎたいので、特に風量があるものが欲しいです

伊場仙の吉田社長
大きめのサイズなら、力強い風量を出せますよ。一般的に男性向けが7.5寸(約22.5cm)、女性向けが6.5寸(約19.5cm)と大きさが違うのですが、最近は女性でも7.5寸を選ぶ方が増えています。さらに大きなサイズもご用意しており、人気傾向にあります。特に8.5寸(約25.5cm)の「柿渋扇子」(9900円)は無地でシックなカラー展開で、フランスでも好評でした。柿渋とは日本古来の天然塗料で、紙をコーティングすることで虫除けや紙の強度を高める役割があり、伝統的な扇子の一つです。


柿渋扇子(9900円)
⎯⎯見た目からも涼を感じたいです。涼しげなデザインのものはありますか?

伊場仙の吉田社長
夏の着物などに用いられる絹織物「絽(ろ)」の扇子はいかがでしょうか。通気性に優れた繊細な織り模様が美しく、透け感があるので見た目からも涼しさを感じられますよ。


特選 絽の絹扇子(1万6500円)
⎯⎯高級素材を使用していたり、工芸にこだわったラグジュアリーな扇子はありますか?

伊場仙の吉田社長
スペインの扇子老舗・カルボネル社とのコラボ扇子(10万4500円)を用意しています。親骨には、日本人の職人が象嵌(ぞうがん)細工を施しており、香木を使っているので香りも楽しめます。
また、漆を使用した「しけ引き扇子」(4万4000円)も上品です。「しけ引き」とは、扇面に専用の刷毛で細い線や縞柄を手描きで重ねる伝統技法。良質な竹材の骨には本漆を施しており、滑らかな肌触りが魅力です。


スペインの扇子老舗・カルボネル社とのコラボ扇子 VALEDO(10万4500円)
⎯⎯伊場仙ならではのデザインはありますか?

伊場仙の吉田社長
伊場仙は、江戸時代に版元として浮世絵を出版していた背景があるため、浮世絵師・歌川国芳の作品「猫飼好五十三疋(みょうかいこうごじゅうさんびき)」を描いた扇子などは、当店ならではのアイテムです。東海道五十三次に登場する宿場町が、駄洒落で猫の仕草に例えられており、ユニークな絵柄を楽しんでいただけます。

江戸扇子 浮世絵 猫飼好五十三疋 下 国芳(6600円)
⎯⎯ギフトとして選ぶなら?

伊場仙の吉田社長
扇子自体が「末広がり」の形で縁起が良いと言われていますが、さらに縁起の良い柄のアイテムは贈り物としておすすめです。特に馬が9頭描かれた、「馬九行く(うまくいく)」は全商品の中でも一番人気。ほかにも、無病息災にかけた6個の瓢箪柄「六瓢箪(むびょう)」や、「勝ち虫」と呼ばれるトンボ柄など、メッセージ性のある贈り物が喜ばれると思います。



江戸扇子 馬九行く(うまくいく)(9350円)
⎯⎯手頃なものから扇子を使いたいと思った際のおすすめは?

伊場仙の吉田社長
伝統的な江戸柄をプリントした、「江戸柄扇子」(2200円)はリーズナブルで柄も豊富です。ポリエステル生地ですが、動物や夏らしいモチーフを気軽にお楽しみいただけると思います。

江戸柄扇子(2200円)

伊場仙 日本橋本店
所在地:東京都中央区日本橋小舟町4-1
営業時間:4月~9月 10:00〜19:00(土曜は18:00まで)、10月~3月 10:00〜18:00
定休日:日曜・祝日・年末年始
レザー素材など革新的なアイテムも。白竹堂に聞く、京扇子の選び方
⎯⎯どんな洋服にもあわせやすいシンプルなデザインの扇子を教えてください

白竹堂の山岡氏
扇面に柿渋を塗り重ねた、昔ながらの「渋扇」がおすすめです。オンラインショップでは一番人気で、今シーズンだけで700本以上売れています。古典的なアイテムですが、柄が控えめですっきりとして見えるため、洋服にもよく馴染みます。ファッション誌やドラマへの貸し出しなどにも選んでいただくことも多いですよ。


紗綾形渋扇 扇子セット(7150円)
⎯⎯京都らしい伝統工芸を取り入れた扇子はありますか?

白竹堂の山岡氏
最近は日本の職人さんと多くコラボし、日本のものづくりの技術を「扇子」に乗せて発信しています。京都府無形文化財に指定されている「黒谷和紙」の扇子はいかがでしょうか。完全手漉きでつくられており、繊維が長いため破れにくく耐久性に優れています。
徳島県産の「本藍染」を用いたブルーの扇子は見た目も爽やかで人気。今年は約800本を販売しました。また、個人的にお気に入りなのは、「臈纈(ろうけつ)染」の扇子です。蝋を置いた部分だけが染まらず、独特の模様が生まれる染色の技法です。




黒谷和紙を用いた扇子
⎯⎯ファッション性の高い珍しい素材のものが欲しいです

白竹堂の山岡氏
ファッションがお好きな方には、本革の扇子を手に取っていただくことが多いです。完全国産で生産しており、牛革以外にも鹿や馬革などを使用しています。本革を扇子に仕立てるには高度な技術が必要ですが、日本の高い職人技術によって実現しました。革に箔を押したり、絞り染めや型押しなどの加工を施したりと、バリエーションも豊富に揃えています。


本革を用いた扇子
⎯⎯ヨーロッパ風のデザインの扇子はありますか?

白竹堂の山岡氏
レースを扇面に施した洋風の京扇子がございます。チュールと薄手のシルクレース生地を貼り合わせ、繊細な京都刺繍をあしらいました。レースの扇子は閉じた時に分厚くなりがちですが、立体的な刺繍がなるべく重ならないよう、綺麗に畳めるデザインを調整しています。親骨にはアシンメトリーなナイフ型を取り入れ、ヨーロッパ風のエレガントな仕上がりになっています。

ベール 扇子セット(2万4200円)
⎯⎯着物や浴衣に合わせたいのですがおすすめはありますか?

白竹堂の山岡氏
白や生成りの扇面に、手描きで和柄を施したものはいかがでしょうか。京都にお住まいの方や、普段からお着物を着る方からの支持が非常に高いシリーズです。

日本の風物詩を扇面に描いた京扇子
⎯⎯自分だけのオリジナルの扇子が欲しいです

白竹堂の山岡氏
一番手軽なものだと、扇子裏面の左端の親骨にレーザー彫刻でお名前を刻印するサービス(料金は550円)がございます。また、オーダーメイドも承っており、10本という小ロットからお作りできます。扇子に使いたいデザインデータや、生地のお持ち込みも可能です。

白竹堂 京都本店
所在地:京都市中京区麩屋町通六角上ル白壁町448
営業時間:10:00〜18:00
定休日:水曜(5月~8月は無休)
COLUMN 長く綺麗に使える、扇子の扱い方
扇子は主に竹と紙、または薄手の生地などで作られているため、強度はそれほど高くありません。美しい形を保ち、お気に入りの1本を長く使用するために気をつけたい、5つのポイントをご紹介します。
Tips 1 横に引っ張らず、スライドさせて開く
扇子を開くときは、両手で横に引っ張るのではなく、親骨を右側にスライドさせるように優しく開きましょう。
※左利き用の扇子の場合は、逆向きの開き方になります。
Tips 2 「セメ」をつけて型崩れを防止
すぐに使わないときや持ち歩く際は、「セメ」と呼ばれる、扇子の先を留めるゴムや紙の帯をつけておきましょう。型崩れを防ぎ、本来の美しい形や開きやすさを保つことができます。
Tips 3 あおぐ時は「親骨」に指を添える
中央の細い骨の部分を持って扇ぐと、圧力がかかって骨が折れてしまうことがあります。しっかりと風を送りたいときは、より丈夫な両端の「親骨」部分にしっかりと指を添えてあおぐのがおすすめです。
Tips 4 水気や湿気は厳禁
使われている素材に関わらず、扇子は基本的に水や湿気に弱いアイテムです。雨の日に濡らしてしまったり、湿度の高い場所に放置したりしないよう注意しましょう。
Tips 5 オフシーズンは箱に入れて保管
長期間使わないシーズンは、購入時に付属していた桐箱や紙箱などに入れて保管しましょう。湿気や傷から守り、次の年も綺麗な状態で使うことができます。

最終更新日:
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