コレクションを解説してくれた藤原裕氏
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原宿の老舗古着屋「ベルベルジン(BerBerJin)」のディレクターであり、ヴィンテージブームの立役者として知られる藤原裕さんが、昨年10月に岡山県倉敷市・児島で開催されたデニムのアート展「SETO INLAND LINK」で自身のコレクションアイテムを披露しました。イベントでは、主催のデニム加工会社「癒toRi18」が、藤原さんのコレクションの実物を観察し、究極のヴィンテージデニムのディテールを再現することに挑戦。製造年代が古く希少なアイテムから、自然な色落ちが芸術的なアイテムまで、再現が難しいながらもヴィンテージならではの色落ちやリペア具合が魅力的なデニムアイテムが5点がセレクトされ、その再現と共に展示されました。
このほか会場では、藤原さんがコレクションするユニークなアイテムや、藤原さんの友人であり大のヴィンテージデニムコレクターである三代目 J Soul Brothers 今市隆二さんの私物コレクションも披露。今回は、展示アイテムを製造年代順に、各アイテムの希少性の理由や魅力について、藤原さんご自身に解説していただきました。
ベルベルジン藤原裕の私物
市場価値700万円超え T-Backの「ファースト」 Levis 506XXE size46 | splitback(T-Back)1942s
Levis 506XXE size46 | splitback(T-Back)1942s
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「リーバイス(Levi's®)」のType1。歴史あるリーバイスの中でも「ファースト」と呼ばれる形で、ひとつポケットが特徴です。ジーンズは、1800年代から形としては存在しているのですが、このモデルは、元々1870年代に「ブラウス」と言われていたアイテムから派生し、1890年代に「506」という品番で登場しました。中でもこのジャケットは第二次世界大戦直前の1942年に作られていた「1942年モデル」です。数多くのアイテムが発売されたので見分けるのは難しいですが、これは同時代の501XXと同じディテールを持つことから、年代を当てることができた珍しい1点です。16年ほど前に購入し、当時はもっと濃い紺色でしたが、15年間着続けたことでこんな風に色落ちしました。自分のコレクションの中で一番長く所有しているものだと思います。
リーバイスは、Gジャンブームが後押しし、市場認知も市場価格も上がっています。最近はオーバーサイズが人気ですが、大きなサイズのジャケットは特に生産数が少なく貴重です。当時のアメリカ人は、日本人と大して体格が変わらないんです。そして当時の人は、リーバイスをジャストサイズで着ていたので、36から40サイズぐらいのものが一般的で需要が高く、その分生産数が多いです。一方で、44から50くらいの所謂“エクストラサイズ”は特注品的な扱いで、生産数が少ない。デニムは生地幅が決まっているので、46サイズ以上の大きいGジャンは1枚の生地だと横幅が足りず、2枚の生地を使用して後ろ中心に縫い合わせたステッチが入っています。このステッチがT字形をしているので、「T-Back」と僕が名付けたのですが、それが今ではすっかりメジャーになってしまって(笑)。通常の36のサイズでこの色落ちなら、今だったら50万円くらいなんですが、T-Backは絶対数が少ない上に、近年オーバーサイズが流行したので、市場価格は700万円くらいになっています。色がもっと濃かったら1000万円くらい。基本的に、色が濃ければ濃いほど、程度が良ければ良いほど価値が高いですね。最近だと「サザビーズ(Sotheby's)」のオークションに藤原ヒロシさんが出品していましたが、落札価格は1100万円でした。ヒロシさんは30年前に数万円で買ったそうです。
「大戦モデル」の公式レプリカと比較すると・・・
実は今着ているのは、3年前に書籍を出版した際に、サンフランシスコにあるリーバイスの本社に作ってもらった「大戦モデル」の公式レプリカなんです。展示されている42年のものは大戦前なので、フラップが付いてボタンが5つだけど、このレプリカは戦時中で物資が足りないのでフラップがなくボタンが4つしかないんです。「506」なので世界で506着限定で生産して、うちのお店と書籍を一緒に作成したパートナーのお店で半分こして、価格は頑張って5万6000円+税で販売しました。今、50万円くらいで売買されてしまっています…(涙)。
近年判明した希少カテゴリー Levis 501XX Backle Back 1942s
Levis 501XX Backle Back 1942s
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リーバイスの「原点にして頂点」とも言われる「501XX」。先ほどのジャケットと同じ1942年、第二次世界大戦が始まる直前に作られた、大戦初期の荒々しい生地が使用されたジーンズです。一見すると1937年モデルから1942年モデルのアイテムだと思うのですが、ウエストの後ろにあるバックルがちょっと黒光りしているんです。僕が検証する限りこのディテールは1941年から1942年の間しか存在しない。加えてこのジーンズは新品の状態だと付いてくる紙に年代が刻印されていることが判明し、そこに書かれていた数字で年代が分りました。この判別方法は近年発見されたので、比較的新しいカテゴリーとして、希少性もかなり高いです。1つ目のファーストのジャケットは、このデニムとディテールが同じで、同時期に作られたセットアップだったことがわかっていたので芋蔓式に年代を確定することができました。ウエストにはサスペンダーボタンがついているのも特徴です。価格をつけるなら200万から250万円くらいになります。
25年で6着しか見たことがない Levis 507XXEE size52 | splitback(T-Back) 1950s
Levis 507XXE size52 | splitback(T-Back) 1950s
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最初のアイテムはポケットがひとつの「ファースト」というアイテムでしたが、こちらは1953年から製造がはじまるポケットがふたつタイプの「セカンド」と呼ばれるアイテムです。ファーストの頃から、ウエスト部分の背面にサイズ調整のためのバックルベルトが付いているのですが、セカンド以降それを邪魔に思って切る人が現れ始めます。そこで、アジャスターが背面ではなくサイドにつくようになりました。ファーストはスリーブやボディが筒状のボックスシルエットでしたが、1950年代に入るとGジャンもファッションアイテムとしてのディテールが追求されるようになり、シルエットに変化が出始めます。腕周りが細くなりシルエットが洗練された他、アームホールが調整され、腕が動かしやすくもたつきの少ないパターンになりました。こちらも同様にサイズが大きいものは生産数が少なく希少です。ファーストは46サイズ以上からT-Back仕様でしたが、セカンドは52サイズ以上しかありません。僕の書籍にも載せていますが、当時のカタログやプライスリストには、この「507XX」のセカンドは50サイズまでしか記載がありません。つまり、本当に特注でしか作られていなかったということです。ヴィンテージのGジャンは洗うと縮むものなので、このジャケットのパッチには54と書かれていますが、実寸を測ると52サイズ。セカンドのT-Backは日本では6着しか見たことがありません。そのため、価格は約500万円になります。
漁師の暮らしが生み出した芸術的色落ち Levis 501 BigE Stype | super hige 1967s
Levis 501 BigE Stype | super hige 1967s
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「501」というリーバイスの代表作の中で「501XX」モデルは1966年まで。この「Levis 501 BigE Stype | super hige 1967s」はその直後1967年ごろから作られるようになった「Big E」と呼ばれるものです。これを持ってきた理由は色落ちの芸術性です。この色落ちは加工ではなく当時の人がリアルな生活で履いてリペアをして着用していたものなんです。僕は「ヴィンテージデニムの最大の魅力は色落ち」だと思っているので、今回は古いものを飾るだけではなく色落ちという観点から僕のコレクションで一番だと思うものをセレクトしました。当時の人がただただ履きまくって擦れてこういった芸術的な色落ちになっている。これは僕が持っている中でも最も素晴らしいと思います。特に注目してほしいのは背面。膝裏から裾まで細かく強いシワが入ることは普通なかなかありません。おそらく、漁師さんがデニムの裾をブーツにインしたり、ウェーダーを着たりするなど、膝下から足元まで強くシワが入るような着方をして、そのまま船の上で塩水を浴びながら体を動かす作業をしていたのではないかなと思います。シワを見るだけでどんな生活の中で着用されていたのか想像することができるもの色落ちデニムの面白いポイントですね。
自分で育てたマイサイズ Levis 501 "66"model 1974s
Levis 501 "66"model 1974s
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これは「501」の、一般的に「66モデル」と呼ばれるものです。66年から作られたというわけではなくて「66モデル」は古着用語で、後ろに付いているフラッシャーに「1966」と書かれていたのを見た当時の古着屋のオーナーさんがこの型全てを「66モデル」と呼び、名前が定着しました。そのシリーズの中でもこれは1974年のもので、実は僕の完全なジャストサイズなんです。ヴィンテージのデニムは洗うとウエストが約1インチ、レングスが大体2インチから2.5インチ縮みます。1インチが2.54cmなので、縮むのは大体ウエストが2.5cm、レングスが5cmから7cmくらいですね。余談ですが、僕のマイサイズはパッチサイズで、ウエスト34とレングス33のものが、洗ってウエスト33、レングス31になった状態。そのサイズで、濃いジーンズを8年かけて探し求め、ようやくこれをデッドストックで購入しました。40歳の誕生日に裏返して洗ってからもう1度糊付けをして、カチカチにさせた状態から、週6日間ほぼ毎日(休みの日はヴィンテージを履かない主義なので)、アメリカの買い付けにも、タイの野外イベントにも着ていきました。 酔っぱらって酒もこぼすわ、自転車にも毎日乗るわ、で日常の中でひたすら使い込んで、1年7、8ヶ月でこの色になっています。先ほどのは漁師さんのものかもしれませんが、これは僕が育てました。ちなみに、40歳の記念に下ろそうと思っていたので、本当は生まれ年の1977年製を探していました。でもちょうど1977年ごろから、デニムの製造に硫化染料という素材が使われる様になり、色が少しのっぺりしてしまったんです。なので、1970年代の中でも、より美しい色落ちをする1977年以前のものとして1974年のものを選びました。これは僕のYouTubeでも紹介しているので、知っている人もいるかも知れません。
実は生地サンプル?バディ・リーシリーズ
Lee Buddy Lee Overalls 1930s
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こちらは一見キッズアイテムに見えますが、そうではなくセールスマンサンプルと呼ばれる生地の営業などに使われたものなんです。「リー(Lee)」が、1930年代から1960年代まで宣伝広告用に作っていた「バディ リー(Buddy Lee)」という人形の洋服です。中でも特に1930年代の古いものとして貴重なモデルを持ってきました。
三代目 J Soul Brothers 今市隆二の私物コレクション
本物より価値が上がった“廉価版” Levis 213 1930s
Levis 213 1930s
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今市さんから、以前ベルベルジンで買っていただいたものをお借りして紹介します。最初にお見せしたのがファースト「506XX」。このGジャンは、1900年代初頭から製造されている「廉価版」モデル。生地が少し薄く、穴が空いていて安価な「ドーナツボタン」を使用したり、内側についたパッチは通常レザー製ですがこれにはリネン製のものが使われています。ロット番号は「213」。1930年代のもので、戦争真っ只中の1943年に生産を終了してしまったので、廉価版は1943年までしか作られていません。一方で、先ほどのファーストは1900年代初頭から1953年まで作られていました。素材は安価なものを使用しているのですが、廉価版の方が圧倒的に生産数が少なく、実は現在はこちらの方がプレミアがついてます。このアイテムは後ろがT-Backではないですが、サイズが44と大きめなので市場価値は250万円くらい。サイズが小さいと少し価値が下がってしまいます。
ベルトループが付いた初めてのモデル Levis 501XX 1922model
Levis 501XX 1922model
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こちらも「501XX」です。2つ目に紹介したのは「1942年のモデル」でしたが、これは1922モデル。 この年からリーバイスのデニムにベルトループがついたと言われていて、「最初にベルトループがついた」このモデルは「22年モデル」と呼ばれています。約14年間作られていた22年モデルの中でも、これは特に1922年に近い年代に作られたものなので希少性が高いです。
終わりに
若い人たちにデニムに関心を持ってもらうために企画された「SETO INLAND LINK」ですが、僕も長い間ヴィンテージデニムを見てきて、現在の価格の高騰は若い人たちにとってハードルだろうなと感じています。今回の展示では、マニアックな歴史のあるアイテムから、一目見て芸術的な美しさを感じられるアイテム、元々の持ち主を想像すると面白いアイテムなど、ヴィンテージデニムの魅力を様々な視点で楽しめるものを揃えました。今後も、若い人たちも含め様々な人たちにヴィンテージデニムの面白さを伝えて、ヴィンテージデニム業界を盛り上げていくことができたらいいなと思っています。(藤原)
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