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意匠のパワーが半端ない、70年代のヴィンテージリーバイス「609」【連載:sushiのB面コラム】

イエローパンツのイラスト
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意匠のパワーが半端ない、70年代のヴィンテージリーバイス「609」【連載:sushiのB面コラム】

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ファッションライターsushiが独自の視点で、定番アイテムの裏に隠れた“B面的名品”について語るコラム連載「sushiのB面コラム」。今月は1970年代のヴィンテージリーバイス「690」を紹介。普段モノトーンやアースカラーを好む筆者としては珍しい、目が覚めるようなイエロー一色のベルボトムパンツをわざわざチェコの古着屋から購入したというチャレンジングな買い物を振り返る。

 夏である! フェスのシーズンである! 音楽コンサートのイベントでもマスクの着用制限が解除になったり、声出しでのコールアンドレスポンスが解禁になったりと、2019年以前の本来の様相を取り戻してきており、喜ばしい限りである。今年は僕も5月末に横浜赤レンガ倉庫で開催された「グリーンルームフェスティバル2023」に友人と久しぶりに参加した。

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 実は(?)僕はフェスにはまだ疎く、過去に参加したことがあるのは上記のグリーンルームを除くと2回のみ。うち野外ステージを含むフェスは2019年の「サマーソニック」のみでこれが人生初めてのフェスだった。以降はコロナもあり機会に恵まれなかった。この年のサマソニは個人的に見ごたえがかなりあった年で、僕が参加した東京初日は日本人初のヘッドライナーを務めたB’zやYUKI、The Birthdayなどの大物日本人アーティストはもちろん、海外からもTwo Door Cinema ClubやFall Out Boy、後に2021年のヘッドライナーに抜擢されるThe1975などが出演し、タイムテーブルのやりくりに苦慮した記憶がある。その中でも特に僕が楽しみにしていたのがWeezerだった。メインであるマリンステージに16時30分ごろに壇上に現れた彼らは、人気曲を中心にカバー曲なども含む抜け目ない十数曲目を披露し、ZOZOマリンスタジアムを熱狂に陥れた。力強いバンドサウンドとシンプルなステージパフォーマンスは直後にステージに上がるThe1975の照明やスクリーンを駆使する圧倒的な視覚表現とは対照的で、ベテランバンドの貫録を感じる演奏だった。

* * *

 さて、洋服のコラムながらいきなり話が脱線したが、フェスの楽しみは音楽そのものに加え、もちろんどんな格好で行くか、というところもあるだろう。という訳で、今年のグリーンルームに着ていくために購入した目が覚める黄色の1970年代のヴィンテージリーバイス(Levi’s)の609を紹介したい。

 リーバイスの609は前太ももにあしらわれた大きなポケットとコーデュロイ生地が特徴的なブッシュパンツと呼ばれるデザインカテゴリーのパンツ。ブッシュパンツとはワークウェアの一種で、藪(bush)の中をかき分けていく際に枝木に引っかからないように、ポケットがサイドではなく前面に施され、生地には丈夫なデニムやコーデュロイが用いられている。

 僕が購入したリーバイス609の最大の特徴が、チカチカするほどのイエローカラーと強烈なベルボトムのシルエット。とにかく意匠のパワーが半端ではない。誇張されたシルエットにこれでもかという主張のカラーリング、立体感のあるコーデュロイ生地に大振りなポケットのアクセント、時代を感じるローライズ……まさに“全部乗せ”のデザインなのだが、不思議と全体のバランスはよく、これだけの濃い味付けながらアグリーな印象に留まらないのがこのモデルの魅力。同社のフレアパンツといえば684か646、もしくは517といったデニムパンツが王道と言えるだろうが、生地、色、ディテールなどシルエット以外のすべての要素で王道をはみ出し切った、球数の少ないモデルでありながら見ているだけでヒリヒリしてくるギリギリのデザインバランスの名作だと思う。正直、手持ちの服でこの一本に合わせることができるアイテムは想像がつかなかったし、サイズ感もギリギリ。だが、このパンツを履きこなせれば洒落者が集まるフェス会場でも多少は格好が付くのではと思い、思い切ってチェコの古着屋からオンラインで購入した。久々にかなりチャレンジングな購買であった。

* * *

 僕は過去に参加したフェスで、ファッションで失敗した苦い思い出がある。先述のサマソニに初めて参加した際、あまり考えずに適当なTシャツで出向き、「まあ物販で何か買えばいいか」程度の心持ちで臨んだところ、到着した頃には物販は既に長蛇の列。マイサイズのTシャツはすべて売り切れ、結果として残っていたXXXLのサイズを購入し着用した。今となってはいい思い出だが、ハーフパンツをすべて覆い隠し、さながら彼氏の大きいTシャツを借りた彼女のようなかわいらしい格好になってしまい、フェスの醍醐味の一つを棒に振ったのだった。

 そんな格好で先述のWeezerのステージを楽しんだのだが、印象的だったのが同バンドのギタリスト、ブライアン・ベルの衣装だった。同氏はこの日、2019年春夏でヴェルナー・パントンとコラボした「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」のイエロー×オレンジのジャケットにコーデュロイパンツという出で立ちで、“The Sass Master(セクシーの達人)”などと称されるにふさわしいお洒落さに目を奪われた。僕は基本的にモノトーンやアースカラーの服を着用することが多く、差し色によく使うのが発色のいい黄色とオレンジ。オレンジはエルメスがとても好きだという事もあるが、黄色に関してはこの日のブライアンの衣装からの影響が多大にある。そんな思い出深い日のブライアンのファッションを引用し、久々のフェスではお洒落に決めてやろうと意気込んでこのイエロー×コーデュロイのリーバイスを購入したのであった。

* * *

 5月に開催されたグリーンルームも幸いに天気に恵まれ盛況に終わった。もちろん僕は購入したリーバイスを着て参加する気満々だったのだが、2日間の両日に参加予定だったため初日は過ごしやすい格好で様子見をし、2日目にリーバイスを履いて臨むつもりだった。しかし当日は5月にも関わらず30℃を超す暑さで、まさにFeel Like Summer。Beach Boysが集まる横浜の海に晴天のMr. Blue Sky、フェスとしてはまさにPerfect Situationであることに間違いはなかったが、一日を太陽の下で過ごすにはコーデュロイの総丈パンツは暑すぎた。お洒落は我慢、とは言っていられない暑さに結局踏ん切り付かず、2日連続で短パンで参加をするという不甲斐ない判断を下す結果に終わった。

 後日、Weezerがフジロックのスペシャルアクトとして単独公演を行うことが発表され、グリーンルームに一緒に参加した友人と意気揚々チケットを申し込んだのだが、ブライアンにリスペクトを示せなかったことが響いたのか、敢え無く落選。Go Awayと言われている気がした。

>>次回は9月30日(土)に公開予定

15歳で不登校になるものの、ファッションとの出会いで人生が変貌し社会復帰。2018年に大学を卒業後、不動産デベロッパーに入社。商業施設の開発に携わる傍、副業制度を利用し2020年よりフリーランスのファッションライターとしても活動。noteマガジン「落ちていた寿司」でも執筆活動中。

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