
(左から)長谷川剛 マルチョウ代表取締役、中城大祐 「GGG」クリエイティブディレクター
Image by: FASHIONSNAP

(左から)長谷川剛 マルチョウ代表取締役、中城大祐 「GGG」クリエイティブディレクター
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日本国内の縫製工場が減少の一途をたどる中、奮闘を続けているのが1954年創業のOEMメーカー、マルチョウ(MARUCHO Inc)だ。同社は日本の縫製技術を発信するため、2023年秋冬シーズンに自社ブランド「グッド ピープル グッド ステッチング グッド プロダクト(GOOD PEOPLE GOOD STITCHING GOOD PRODUCT /以下、GGG)」を立ち上げた。
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国内縫製工場の未来のためにGGGへの舵を切ったのはマルチョウの3代目、長谷川剛社長。クリエイティブディレクションは、トゥモローランドでバイヤーやブランドディレクターを歴任した中城大祐が手掛けている。技術力と世界観の作り込みをバランス良く融合したプロダクトは、「袖を通せば分かる」と口コミで広がり、目の肥えたバイヤーから一般の服好きまで幅広い層の支持を獲得。今年は「TOKYO FASHION AWARD 2027」を受賞し、一段とその存在感を増している。新たなフェーズを迎えるブランドの使命と行く先、「クラフツマンメゾン」という独自の立ち位置などを、長谷川社長と中城ディレクターに聞いた。
長谷川剛:1972年東京都生まれ。武蔵工業大学(現東京都市大学)工学部卒業後、1996年にマルチョウに入社。2014年に同社3代目の代表取締役に就任した。マルチョウワークスの社長を兼任し、栃木・岩手・秋田・島根・福島の5ヶ所に自社の縫製工場を運営。多品種小ロットカスタムオーダーに対応する「SMART FACTORY」も整備している。
中城大祐:1971年大阪府生まれ。トゥモローランド社に入社し、販売員としてキャリアをスタート。店舗マネージャーからバイヤー、ディレクター、事業部長、執行役員まで経験した後、2016年に独立し、コンサルティング事業などを行うムーヴァーズ・アンド・シェイカーズを設立した。2021年からGGGのクリエイティブディレクターとして参画している。
──長谷川社長は3代目として家業を継いでいますが、元々はアパレル志望ではなかったと伺いました。
長谷川剛(以下、長谷川):そうですね。厳しかった父親への反動で、常に真逆を歩こうとしていたんです。新卒ではアパレルと無縁の企業に就職しました。ですがバブル崩壊後に自分も家業に協力することになった。父とは、国内縫製工場を守るという大きな命題は同じもののアプローチが全く違うんです。当時の私は父を1日でも早く越えたいという気持ちもあり、社長を任せてもらうまで、長い間衝突しましたね。
──その葛藤が、今のブランド事業にもつながっている?
長谷川:結果的には、そうかもしれません。父は主に百貨店アパレルなど既存の顧客さまとの取り組みを大切にしていて、安定した“王道”の事業を重視していましたが、私はトレンド性や新しい感性を持つセレクトショップや、小ロットで“難しい仕様”が多いデザイナーズブランドとの取引を開拓したかった。後者は比較すると効率も利益率も悪い。それでも私の考えでは、デザイナーの突飛なアイデアや困難な要求に応えていくことで技術が磨かれ、将来的にそうした高い技術力が生命線になると信じていました。当時から持ち続けている「ファッション性が高い縫製を鍛える」という考えは、GGGのクリエイションの土台にあると思います。

──当時の国内の縫製工場の状況はいかがでしたか。
長谷川:1990年代前半、国内の衣料品自給率がまだ50%ほどあった時代に、円高を背景にアパレル産業は海外生産へとシフトしていきました。国内の比率は急激に落ち込み、気がつけば周りの仲間もほとんどが海外に工場を持つようになっていた。コストだけを考えると海外に行った方がいいのですが、うちは国内の技術を守り抜くことの方が価値になると信じて、価格競争ではなく、他社に真似できない企画提案力と、それを実現する技術力を武器にしようと国内にこだわりました。やがて時代は巡り、国内回帰の潮目が訪れた時、海外にシフトしたメーカーの多くは、熟練の技術者が流出し、日本製を作る受け皿がごくわずかになってしまったんです。そうした移り変わりを目にしてきたからこそ、「メイドインジャパン」を守ることが使命だと考えるようになりました。
「困ったときはマルチョウ」から始まった出会い
──お二人が出会ったきっかけを教えてください。
中城大祐(以下、中城):お取引としては前職時代からになるのですが、長谷川さんと直接話したのは、少し後のことですね。前職でオリジナルを作る時、複雑なデザインのサンプルをいくつかの工場さんに依頼すると、社内で選ばれるのはマルチョウさんのものが多く、デザイナーからの信頼も厚かった。どんな難しい仕様でも最終的に形にしてくれる工場という認識で、「困ったときのマルチョウ」が合言葉でした(笑)。
長谷川:私たちとしてはそれが一番嬉しいお言葉です。実際にお話ししたのは、「Jクオリティー・ファクトリーブランドプロジェクト」*の時でしたね。
*日本ファッション産業協議会による「Jクオリティー」認証企業が参加。縫製をはじめとした各分野の工場が集まり、ディレクターの元でメンズブランドを立ち上げるというプロジェクト。
中城:僕がディレクターとして携わっていて、マルチョウさんも参加企業として、一緒にものづくりをさせていただきました。当時から長谷川社長は国内縫製工場の未来を見据えていたのを覚えています。僕が培ってきたアパレル視点で何かできないかと相談を受けたのが始まりでしょうか。その時は今みたいにブランドを作るとは思ってもみなかった。

──当初の計画はどんなものだったのでしょうか。
中城:従来のOEMとは違い、工場側がデザインから企画までを提案するODM事業を拡大しようという話でした。単独での展示会開催を計画しているということで、そのディレクションを任されました。そこでまずブランドネームを作ったんです。
長谷川:OEMしかやってこなかったものづくりの現場からすると「なぜ最初にそんなことを?」という感覚で、社内がざわついていたのを覚えています。
中城:僕は前職からの経験もあり、マルチョウさんの技術、製品は素晴らしいものばかりだと知っていましたが、バイヤーは1日に何件も展示会を回るので、企業や工場の名前でラックに並べて展示するだけだとスルーされてしまう。何か“匂い”を感じてもらわないと、立ち止まってくれないんです。ですから、第一印象のフックとして「グッド ピープル グッド ステッチング グッド プロダクト」という、工場の哲学をそのまま言語化したブランドネームをタグにしました。
──ブランド名としては「長いな」という印象を受けました。
中城:「長いし、覚えられない」と社内からも散々言われました(笑)。でも僕はそもそも名前を覚えてもらおうとは思っていなくて。四角い枠の中に文字がびっしり詰まった一つのグラフィックとして、視覚的なインパクトで認識してもらえればいい。まずは「なんだこのロゴは?」と興味を持ってもらい、よく見たらこんな言葉が書いてあると段階的にリーチできれば良いなと。
長谷川:お客さんから「あの長いブランド名のですよね」と言われることが増えるにつれて、中城さんの話がようやく理解できました。同時に、基盤となるものづくりだけでなく、ブランディングの観点も非常に重要なのだと気付かされました。

GGGのロゴ。正方形に収まるデザインを試行錯誤したどり着いたという
──まずはODM事業の名前のような形でスタートしましたが、ブランドとして運営するまでの流れは?
中城:ODMの展示会を4回開催したところで、取引先の方々から「このネームのまま販売したい」という要望が目立つようになりました。でも、僕としてはB to BのODM用に設定したものだったので、一般向けに販売する場合とブランディングの設計が違うため、ブランドにしようとは全く考えていませんでした。
長谷川:それでもリクエストが増え続けていたため、「思い切って、ブランドを作ってみよう」と中城さんと議論し、方針を転換することにしました。
中城:世界観やコンセプト、商品企画、構成をゼロから見直しましたし、ブランド運営のための社内体制も早急に整備していきました。ファクトリーブランドが陥りがちなのが、to B、to Cのビジネススケジュールの違いに対応できないこと。特に工場の稼働時期や生産ラインに関して、長期的なブランドにするなら抜本的に体制を見直す必要があった。そうした準備も経て、2023年の秋冬シーズンにブランドとして再スタートしました。

「クラフツマンメゾン」という独自の立ち位置
──改めて設定したGGGのコンセプトとは?
中城:根幹となるコンセプトは「フューチャークラフツ・イン・メゾン」です。未来を見据えた技術革新(フューチャークラフツ)と、メゾンのような工芸的な思想を融合させるという意味で、単なる技術力だけでなく、そこに宿る感性や美意識、職人としての矜持を重んじるということ。この独自の立ち位置を、僕らは「クラフツマンメゾン」と定義しています。
長谷川:縫製工場や生地メーカーの独自ブランドは「ファクトリーブランド」と言われますが、そことも少し違うところを見据えています。
中城:技術を前面に出すのでもなく、デザイン性を打ち出すのでもない、第三のカテゴリーだと考えています。GGGのすべてのデザインには、厳格な2つのルールを設けています。ひとつは「ミニマリズム」。これは単に見た目がシンプルだという意味ではなく、構造的に余計な縫い代や部材が一切ない、究極に削ぎ落とされた状態を指します。もうひとつが「フューチャークラフツ」。つまり、マルチョウが持つ革新的な技術と、職人の手仕事が掛け合わさって生まれた、まだ誰も見たことのない新しい技術です。この2つの要素をクリアしない服は、GGGとして世に出すことはできない。この哲学から生まれるものこそが、私たちが考える「新しい心地よさ」なのです。
──具体的なものづくりのこだわりは?
中城:具体例を挙げると、コットン100%のカットソーはかなり薄手で透け感がある。普通は裾を折り返して二本針のステッチで縫いますが、GGGでは縫い代を極限まで抑えて肌あたりのストレスを減らすとともに、とろみ感を邪魔しないんです。これはマルチョウさんが商標登録をしている改造ミシン「エムロック(MLock®)」だからできることで、1ミリの縫い代をカラロックで始末しています。
長谷川:弊社独自の改造ミシンはエムロックのほかにも、「エムカバー(Mcover®)」や、「エムシーマー(Mseamer®)」、「エムフラット(Mflat®)」といったものがあります。マルチョウの技術の特徴のひとつは、素材の風合いの魅力を最大限に活かせる縫製であることだと自負しています。

GGG定番のコットン100%シアー天竺のカットソーは毛羽立ちが少なくドライタッチ。この素材にも特別な加工を施し、快適なストレッチ性を持たせている
中城:本当にシンプルなTシャツでも、縫い代が5ミリあればそれだけ生地を使っているわけですが、1ミリで縫っていれば4ミリ分軽くなる。微々たるものに感じますが、ジャケットやコートなど重衣料になればなるほど体感に差が出ますから、そういう細やかな心地よさが僕らの売りだと思っています。
これもとてもユニークなアイテムで、一見するとハイゲージニットのようですが、実は日本独自の数台しかない希少な編み機で仕上げられたジャージー素材なんです。ニット特有の縫製「リンキング」のように見えるから、皆さん結構ニットと勘違いするんですよ。この縫製は開発まで2年かかりました。着心地はジャージーなのに見た目はハイゲージの上質なニットという意外性がうちらしいアイテムです。




ニットのように見える、エムカバーを用いて縫製したジャージトップス。縫い代を包み込んで縫製したミニマムなたたずまいが特徴
長谷川:実はジャージーで肌触りが良いアイテムが多いのですが、新作は逆転の発想で布帛をジャージーの縫製技術で仕立てたものもあります。布帛のスーツやジャケットの多くは、パイピングやインターロックという太いロックを用いていて、縫い目を隠すために裏地を被せるのがオーソドックスな作り方です。GGGではエムロック「0ワイド」という特殊な縫い方で、裏地なしで成立する方法を開発しました。



パターンは長年テーラードに携わってきた担当者に依頼し、クラシックなシルエットに仕上げている
中城:一つお伝えしておきたいのは、軽いから良い、重いからダメだとかそういうことではありません。僕らの命題は、あくまでもGGGの技術ありきで叶えられる、どこにもない服を具現化するということ。ブランドが“挑戦”することで職人たちの技術も育ちます。当初は工場の方達と僕の専門領域が全く違うので、何度も衝突しました(笑)。でも、今では職人の皆さんから「こんなことができますよ」と言ってくれるようになり、企業としても良い循環が生まれているのではないかと感じます。
長谷川:ブランドを立ち上げてからスタッフの意識は確実に向上しています。お客さんの反応に触れる機会が増えたことで、作り手としての誇りと喜びを感じられるようになったのは嬉しい誤算でした。
中城:シーズンを追うごとに反響が大きくなり、自分たちが作っているものがお客さんに届いているという実感が得られたことで、工場の方々も、さらに高いレベルでものづくりに向き合ってくれていると感じます。

1シーズンで国内外の卸先は20以上増加
──現在の卸先の状況を教えてください。
長谷川:2026年秋冬シーズンで、取引先は国内外合わせて38アカウント(国内31、海外7)になり、次の2027年春夏シーズンでは、最終的に約60アカウント(国内40、海外20)まで拡大する見込みです。国内はセレクトショップを中心に、百貨店や駅ビルなどではポップアップを実施しています。
──海外展開はどのように広がっていったのでしょうか。
中城:実は国内でのポップアップでは、売り上げの約4割がインバウンド客なんです。ネームバリューではなく、高品質なメイドインジャパンを体感し購入してくださる方が多いと聞いています。
海外市場の足がかりとなったのは、Jクオリティーの合同展示会への出展です。今年はパリファッションウィーク期間に現地で開催された「tokyo sense」に参加し、「ピッティ・イマージネ・ウオモ(Pitti Immagine Uomo)」に単独ブースを出すなど積極的に現地で発表しています。tokyo senseを見に来てくれたドイツのショールームが、ドイツ、スイス、オーストリア市場を担ってくれることが決まったほか、北米エリアに向けての拡大も準備しています。
中城:海外は特に客層が広いのも特徴です。伝統的なテーラーリングを重んじるクラシックなお店から、ストリート色の強いエッジの効いたセレクトショップ、そして前衛的なデザイナーズブランドを扱うお店まで、卸先のテイストが幅広い。このジャンルレスな反響が、GGGが目指す普遍的な価値の証明ではないかと手応えを感じています。


「メイドインジャパン」の価値を世界に轟かせたい
──GGGを続けていく意義を教えてください。
長谷川:私たちが自社ブランドとしてGGGをやる最大の目的は国内の産地と工場を守り抜くことです。この国が誇るべきものづくりの技術を、次の世代に必ず継承していきたい。そして、失われつつある「メイドインジャパン」の価値を、もう一度世界に轟かせたい。その思いが、私の原動力です。国内の衣料品自給率は、今や1.1%にまで落ち込んでいます。この絶望的な数字を、たとえ0.001%でもいいから自分たちの手で押し上げていきたいと思っています。
──GGGとOEM・ODM事業の理想の比率は?
長谷川:ブランド事業と、OEM・ODM事業の両輪で成長していくことが大前提で、将来的には半々を目指しています。ブランド事業は利益率も高いですが、それ以上の技術やものづくりに対する哲学を直接発信できるという価値があります。OEM・ODM事業は安定した収益の屋台骨であり、メイドインジャパンを次世代に繋いでいくための根幹なので縮小することはあり得ません。
それから、どんなに海外での売り上げが伸びても、国内の売上比率を70パーセント以下には下げないという基準を設けています。海外に注力するなら、その分、GGGを含めた国内事業も成長させるという考え。日本のものづくりを軸に、国内外の市場で成長していくという、私たちの覚悟のようなものですね。
──9月に「TOKYO FASHION AWARD 2027」を受賞し、国内外での販促機会が得られたのではないでしょうか。まず着手することは何でしょうか。
中城:今まで、「知る人ぞ知る」という形でバイヤーさんに広がり、口コミでお客さまが増えて行きました。これからはブランドの思想や背景、プロダクトについて積極的に発信するフェーズ。アワードの副賞である国内外のポップアップを活用するほか、プレゼンテーションやイベントを含めて自分たちに合った方法で新作を発表することも視野に入れています。海外向けには既にサイズの拡充に着手していて、よりデザイン性を追求したアイテムも増やす予定です。

──最後に、今後の目標を教えてください。
中城:僕らが「GGGはクラフツマンメゾンです」と、何の注釈もなく伝えられるようになったときが、このブランドが本当に確立された瞬間だと思っています。今は道半ばで、ブランドとしても企業としても整えるべき課題は山積みです。そうした課題と向き合う一方で、日本の伝統技術の継承という使命も忘れずに発展させなければいけないと考えています。
長谷川:毎シーズンのコレクションで、ろうけつ染めやニードルパンチといった、失われつつある日本の伝統的な加工技術を最低限ひとつ取り入れるという試みを続けています。貴重な技術をGGGという現代の服の中に新たな形で息づかせるのも私たちの役割。この業界にいると、素晴らしい工場や職人の方々が、気が付いた時には廃業していることが多々あります。そうなる前に、少しでもそれを食い止める可能性としてGGGを育て、国内縫製工場の存続と向き合って行きたいと思っています。
photographer: SANO
最終更新日:
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